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序章 転生
不自由な身体
しおりを挟む租借も満足にできない体だったが、先生は毎食のように粥を炊いてくれた。
「ほら、私の調合した薬膳粥だ。味は保証できないが、とにかく食え」
左手しか使えず、プルプルと震える手でなんとかサジを操り、粥を口まで運ぶのだが、左の唇は思うように開かない。
ポタポタと半分ほどは零れてしまうが、それでも必死になって粥を食った。
「まあ、お前を拾ったのも何かの縁だ。私の知っている医術と薬の知識をお前に教えてやる。
今の私には、お前をこれ以上治してやることはできない。
だから、お前は自分で自分を治す方法を見つけろ」
「おえあ……」
俺がと言ったつもりだが、口が動かない。
「私がお前を医者にしてやる。
そのかわり、私は厳しいぞ」
「あああおう……うう」
俺は泣いていたようだ。
左目がかすみ、何も見えなくなった。
「今は、食って寝て、体力をつけろ。全ては、そのあとだ」
横になっていても、左手は握って開いてを繰り返し、少しでも握力をつける。
右手はまったく感覚がないものの、手首まではかろうじて動く。動くといってもプラプラさせる程度だが、それでも動く。
右足は股関節はかろうじて前後に動くが、足首やひざはびくともしない。
どれくらい経ったのだろうか、やっと一人で起き上がれるようになった俺だが、先生は歩けという。
ベッドに手をつき立ち上がるが、右足に力が入らない。
それでも、周囲の物を支えにして立ち上がる。
体を左に傾けて右足を浮かせ、ほんの僅か動く股関節を頼りに少しだけ前に出る。
ふいに、膝がカクンと曲がり態勢を崩すと左手一本では体を支えきれず周りの物にぶつかりながら派手に転倒する。
右ほほに物が当たったようだが、痛覚はほとんどない。
相当派手な音を立ててしまったが、先生が来る様子はなかった。
厳しいという言葉の意味が分かった気がする。
床に転倒する状態から立ち上がるのは、ベッドから立ち上がるのとは違い大きな労力を必要とする。
腹筋と左手を頼りに、なんとか上半身を起こし、ベッドにしがみついて立とうとするができなかった。
左ひざを曲げることができても、そのまま力を入れれば右に倒れるだけだった。
仕方なく一度寝転がり、今度はうつぶせになる。
その姿勢で左ひざを曲げ右側をベッドに寄せて上半身を起こし、何とかベッドまで這い上がった。
そこまでが限界だった。
もう、左手に力が入らない……
翌日からは、腹筋と背筋を鍛えることにした。
起き上がるにも、腹筋と背筋は重要な役割をしていると思い知らされたからだ。
歌の文句ではないが、一日かけて半歩進んで倒れる。
三日でやっと一歩進むことができた。
トイレだけは、合図をすると先生が手を貸してくれる。
こいつは、中身35歳の俺には抵抗があった。
だが、やむを得ない……
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