天と地と空間と海

モモん

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第四章

第46話 オホーツク海にも白ゴジが現れた

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 開戦から3日目には、大和はカヤの外状態だったため、俺は求めに応じてボイルでサハリンに飛んだ。
 サハリンに駐留していたシベリア軍は、サハリン州知事が掌握しており、抵抗もなかった。
 というか、彼らも白ゴジの脅威を知っており、下手に関わりたくないというのが本音だろう。

 俺は、旨い肉をイメージしながらオホーツクの海上を飛び回り、3日めにして白ゴジとの遭遇を果たした。
 まだ、ハイジほどの意思疎通は無理だったが、イメージを伝えることはできる。
 俺は興味津々な白ゴジの前に浮かんだ。

「旨い肉を喰いたいか?」

 ギャオン!
 伝わってきたイメージは、”腹減った”と”旨い肉が喰いたい”だった。
 桜の遠隔操作でボイルを呼び寄せ、俺は冷蔵倉庫から豚を取り出して60度に過熱し、白ゴジに食わせてやった。

 60度に過熱した豚は、白ゴジを歓喜させるのに十分だった。
 人間の邪魔をしなければ、毎日豚を食べさせると約束して、白ゴジは服従した。
 
「さて、こいつをどうするか……。」

 白ゴジの頭に乗ってサハリンの港に入りサハリンスク在住の知事を呼び出した。

「大和防衛軍のシンドウです。リクエストにお応えして白ゴジを捕まえてきましたがどうしましょうか?」
「いや、どうするかと聞かれても……。」
「防衛大臣の指示は、こいつを捕まえて首長に引き渡すということなので、僕はこのまま国に帰るつもりなんですよ。何しろ、戦争中の国ですからね。」
「我々には、大和と戦争をする意思はないのだ。あれは、モスクアの軍部が勝手に行動した結果なのだ。」
「エサは2日分ありますから、その間にどうするか決めてください。」

 サハリン州知事は、大和の防衛大臣と密談して、シベリアからの独立と、その後の大和併合という道を選んだ。
 この頃になると、竜宮で働く魔法士の中で、白ゴジと同調できる者も何人か現れていた。
 竜宮から何人かのスタッフを呼び寄せ、他の魔法士や駐留する部隊も合流して白ゴジを世話する態勢が出来上がった。
 
「こいつの名前はどうしますか?」
「好きな名前をつけていいよ。」
「うーん……、そう言われると難しいですね。」
「村上君の好きなようにつけて大丈夫だからさ。」
「オスなのかメスなのかも分からないし……、じゃ、イワンにしときます。」

 サハリン州に属する千島列島については、オマケみたいなものだった。

 開戦から12日目には、大勢が決まっていた。というか、戦力的にコークリに勝ち目はなかったのである。
 コークリは航空勢力の50%を失い、艦船は80%。兵士に至っては80%を失っていた。
 そして13日目に、コークリは全面降伏した。
 
 戦争の途中でとばっちりを受けたのはシン国であった。
 コークリとシベリアの直接的な接点は、ウラジオ南部の30km程度しかなく、国の北部を挟まれる形となったシン国へはミサイルによる誤爆や航空機の墜落などにより、数十万人の被害が出ている。
 そして、宣戦布告を受けた大和である。
 実害はほとんどなかったものの、当然ながら戦後補償を求める権利があった。

 一か月に及ぶ交渉の末、サハリンの南半分と北方4島、およびチェジュ島が日本に帰属することで合意した。
 また、シン国については、コークリの実効支配と引き換えに北部の領地をシベリアに委譲することで合意した。
 こうしてコークリは地図上から消滅した。
 どちらかといえば全世界から嫌われており、経済的にも破綻寸前のコークリであったため、同情する国すらなかった。

 俺は、数日前から、システムを改変した痕跡を消していった。
 疑われる事があっても、尻尾を出すわけにはいかない。

 当然だが、宣戦布告を受けた大和が無傷で、コークリとシベリアが同士討ちで終わることなどあり得ない事なのだ。
 というか、コークリの艦隊がシベリア艦隊を攻撃する理由がないのだ。
 ましてや、モスクアとウラジオに対する核攻撃など考えられない。
 本気で実行するなら、3箇所ではなく、もっと多くの基地を攻撃するはずなのだ。
 だが、3発の核ミサイルというのは大和を無力化するためという理由を知っているシベリアは、そこに踏み込むわけにはいかない。
 核の使用を容認していた事実を世界に知られる訳にはいかないからだ。
 作戦書にもそこは明記されており、コークリの独断で行ったという筋書きが用意されていたのだ。

 この戦争で、シベリアも100万人規模の死者を出し、戦力的には40%を失っている。
 特に前線となったウラジオは核の直撃を受けたこともあって壊滅状態だった。
 これらを復旧するだけの余力もなく、八方ふさがりであった。
 そのため、大和やシンからの要求を飲まざるを得なかったのだ。
 シンの要求については、朝鮮半島を復興するだけの余力がなく、復興の必要がないシンの領地が魅力的だったからに他ならない。
 なにしろ朝鮮半島には資源と呼べるものがなく、メリットは不凍港と南の漁場だけなのだ。
 そして大和からの要求については、凍結されたサハリン2プロジェクトの再開という条件が提示されている。
 自国での再開が期待できない以上、これは渡りに船の提案であった。

 まあ、俺には政治的思惑は関係ない。
 今必要なのは、白ゴジをどうやって育てていくかという事であって、正直なところこれ以上増やせない状況にある。
 そんな中、環境大臣から連絡が入った。

「環境庁の折笠と申します。突然で申し訳ない、折り入ってお願いがあるのですが。」
「環境大臣から連絡いただくのは珍しいですね。ご用件は何でしょう。」
「実は、環境庁で預かっていた白ゴジの卵が、孵化しそうな様子を見せているんです。」
「えっ?卵は環境庁で見ていたんですか?」
「はい。動物園とか水族館は環境庁の所管になっており、種の保存なども環境庁の管轄になります。」
「そうだったんですか。卵って二つあるんですよね。」
「はい。三重の研究施設で育成中なんですが、昨日から中の幼体の動きが活発になってきているんですよ。」

 俺とサヤカとハイジの3人は名古屋のオブロン工場までボイルで送ってもらった。
 名古屋に来たのは、ボイルの2号機を受け取るためだ。
 出迎えてくれたのは、開発責任者になっている吉川ステラさんだ。

「へへっ、ボスもいよいよ子連れが様になってきたにゃ。」
「なんですか、その”ニャ”ってのは。」
「いや、子供受けを狙ってるにゃ。」
「まあいいですよ。2号機はどんな感じですか?」
「基本は変わってないにゃ。ああ、ボスの椅子だけリクライニングできるにゃ。」

「これ……。」
「これ、カワイイ!」
「ハイジ向けのカラーリングってこと?」
「まあ、そんな感じにゃ。」

 2号機は、薄い黄色地に原色の直線や丸と三角が落書きのように書かれたカラフルな機体だった。

「軍用の機体なのに、よくこんなデザインが通ったね。」
「デザインは私に一任されたから、上は知らないにゃ。」
「まあ、ハイジが喜んでいるからいいか。」
「2号機の愛称はシェルにゃ。」
「シェルって貝殻?」
「シェルにはタマゴの殻って意味もあるにゃ。」

 俺たちは鳥羽までシェルで移動した。
 研究所のタマゴの様子を見た。
 薄い灰色のタマゴは薄暗い部屋で干し草の上に並んでおかれている。

「まだみたいだな。」
「うん。二匹とも寝てる。」

 俺たちは隣接された水族館で時間をつぶすことにした。


【あとがき】
 増えていく白ゴジにどう対応していくのか……。
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