天と地と空間と海

モモん

文字の大きさ
上 下
44 / 51
第四章

第44話 宣戦布告を受けて2分後には対策本部が立ち上がっていた

しおりを挟む
 偵察衛星からデータの発信先である基地へは簡単に辿る事ができた。

『問題は、この基地に存在する様々なシステムを解析して、例えばミサイルの発射装置を特定したうえで内容を把握しなければなりません。』
「それは、桜のCPUだけじゃ手が足りないというわけだね。」
『はい。特にシベリアで南下中の船団も特定してシステムに入りたいですし、そこは傍目に把握したいですからね。』

 俺は防衛大臣に連絡をして、魁の使用許可を急ぐようお願いした。

「シベリアの偵察衛星にアクセスができて、そこから各基地のシステムへ侵入することができました。」
「本当か!本当にそんなことまでできたのか!」
「衛星一機のシステムを解析して基地へアクセスするだけでも、僕の腕では限界ギリギリなんです。これ以上のことをやらせたらオーバーヒートしてしまう。」
「わかった。これから首相のところに行って急ぐように頼んでくる。くれぐれも無理をしないでくれ。」

 それから2時間で魁の使用許可が降りた。
 俺は16時に魁の設置してある京都に出向いて、桜と有線で魁に接続して担当のSEと一緒に魁を起動した。

 魁の中に桜のAIをコピーして拡張領域として認識させ、俺はその部屋で横になりシベリアのウラジオ基地にアクセスした。
 ショートカットから辿ったのでそれほど時間はかからない。
 そもそもが、この部屋は電波を遮断する壁で囲われているにもかかわらず、俺の能力には影響がなかった。

『やっぱり魁はすごいですね。処理が早すぎて私の指示が追いつかないくらいです。』
「それで、船は?」
『艦隊の構成どころか、今回の作戦内容も完璧に把握できました。』
「ホントかよ。」
『ウラジオで太平洋艦隊とコークリの艦隊と合流したら、大和に宣戦布告して戦闘行為が始まります。』
「マジか!」
『予定日は18日の現地時間15時となっていますね。それと同時に、コークリから3発の戦術核ミサイルが発射されます。標的は琉球と蝦夷、それから大阪です。』
「猶予は5日かよ。」
『今、コークリの基地にもアクセスして、どのミサイルが予定されているのか調査中です。』
「それが分かれば、ミサイルの制御システムにハッキングできるんだな?」
『当然です。それから、これがシベリアの第一艦隊旗艦へのゲートです。この先に進んでください。』
「よし。……ここか?」
『いえ、ここはシベリアの通信衛星ですね。ここもショートカットを作っておきます。このゲートの先ですね。』
「うん。……こいつか?」
『はい。第一艦隊旗艦であるミサイル巡洋艦ヴォルグで間違いありません。これも魁に解析させます。』
 
 こうして、俺は南下中の第一艦隊46隻全てにアクセスすることができた。

『潜行前の潜水艦を捉えられたのは大きいですね。空母も1隻入っていますから完璧ですよ。』
「次は太平洋艦隊とコークリの艦隊だね。」
『休憩された方が良いのではないですか?』
「大丈夫だよ。どんどんやっていこう。」
『コークリのプサン基地を解析していたのですが、ここから統合本部と大統領官邸にアクセスできそうです。』
「それって、国として丸裸になっちゃわない?」
『丸裸にしてる本人がそれ言っちゃいます?』

 俺はコークリ統合本部と大統領官邸のシステムも掌握してしまった。

「コークリ、シベリア連合軍の作戦が判明しました。」

 防衛大臣に基地から集めた情報を報告した。

「魁の成果ということか。」
「はい。やっぱり、処理速度が段違いです。」
「君の能力で潜り込んで、スパコンにより制御下においてしまう。これで、君からスパコンを引き剝がすことができなくなった訳だな。」
「まあ、そうなりますね。」
「歯切れが悪いな。」
「……もし、僕の能力で世界中のスパコンをハッキングできるとしたら、どうなると思います?」
「なに!」
「いや、可能性の話なんてしても仕方ないですね。忘れてください。」

 そう、魁の手を借りて、すでに世界中に桜のコピーがばらまかれており、それは巧妙に隠蔽されている。
 完全に乗っ取るようなことはしないで、能力の一部だけを借りているイメージだ。
 桜のAIはフォーマットの皮を被っていて、ちょっと見には空きメモリーにしか見えない。
 OSにはそこを使わないように誘導してあるが、表面化することはないだろう。
 なぜなら、OSが嘘をついているのだから……。

 宣戦布告の予定日まで、俺は魁の部屋で過ごした。
 それは、俺が敵基地にアクセスしていないと解析も進まないからだ。

 そして18日の15時、大和での14時、予定通り宣戦布告が実施され、艦隊の進軍が開始された。
 
「ただいま、シベリアとコークリからの宣戦布告を受けました。大和は全軍をあげて応戦いたします。
 これに伴い、大和は緊急事態を宣言いたします。
 国民の皆様には、ご不便をおかけいたしますが、指示あるまで外出を控えていただくようお願いいたします。」

 首相は14時05分、全国民に向けてこのような声明を発表した。
 
「災害支援特別部隊については、所定の作戦行動を実施せよ。」
「了解です。災害支援特別部隊特務班は作戦A-01を実施せよ。」

 首相官邸には14時02分に対シベリア・コークリ作戦本部が設置され、14時03分には防衛軍各部隊が所定の態勢についている。
 命令系統としては、首相から防衛大臣に指示が出され、その後統合幕僚長経由で各軍に指示が出される。
 特務班は、俺と災害支援特別部隊からサポート要員2名で構成されている。

 俺は、作戦A-01により、コークリから発射される戦術核ミサイルの目標を書き換えた。
 ターゲットはシベリアの主要都市、モスクアとカサソ、それとウラジロだ。
 発射されたあとの制御は一切受けないようにしてある。

「A-01完了しました。」
「続いてA-02からA-04を実施せよ。」

 A-02は、スクア・カサソ・ウラジロに存在する基地のミサイル防衛システムの無力化だ。
 無力化といっても、システム上は作動しているように見せかけて、ミサイルへの命令系統で座標および追尾機能を無効化してあるので、事態の掌握には時間がかかるだろう。
 
「A-02完了しました。続いてA-03を実施します。」

 A-03は、出港したコークリ艦隊の制御系統を全て奪い取り、全艦でシベリアの艦隊を攻撃するというものだ。

「A-03実施中。並行してA-04を実施します。」
「コークリの3基地より、ミサイルの発射を確認!」

 コークリの発射した3発のうち1発は極超音速滑空兵器(HGV)で、この攻撃座標はモスクアにセットしてある。
 残りの2発は中距離弾道ミサイルだ。

『コークリから琉球へ、50発の中距離弾道ミサイル発射準備中です。』
「座標は?」
『琉球からウラジオに変更済みです。』

「監視衛星の画像により、コークリ艦隊からシベリアの艦隊に向けて攻撃が確認されました。」
「コークリから発射された核ミサイルですが、落下地点はモスクア・カサソ・ウラジオと推測されました!」

 A-04は、コークリとシベリアの監視衛星への制御を無効にし、レーダー基地をシャットダウンすることだった。
 これにより、各基地は盲目状態になる。

「A-04完了。」
「よし、特務班はそのまま待機。」
「特務班、了解!」

 まだやることはあったのだが、待機命令が出た。


【あとがき】
 開戦です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...