天と地と空間と海

モモん

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第四章

第41話 パパと呼ばないで……

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 アラブから受けた白ゴジ討伐依頼については、結局30億円で決着したようだ。
 サウリに渡した2体の死骸については、1体をロバイに引き渡すことで納得したらしい。

 この30億については、マンボウのクルーに半分支給され、残りは乗務員を派遣した3国で分配されるという。
 つまり、俺たちクルーには一人当たり1億円が臨時ボーナスとして支給されたわけだ。
 
 琉球本島に出かけたサヤカとハイジは、ついでにハイジ名義の銀行口座を作ってクレジットカードの発行手続きも行ってきていた。
 正式にはまだ大和国民でないハイジだったが、サヤカがごり押ししたらしい。
 というか、交換条件としてカード会社とアンバサダー契約を結んだようだ。
 
 俺はともかく、サヤカは軍属なのだが、チーム発足時にメンバー全員に特例を設定してもらっている。
 本来、副業は禁止されているのだが、うちのメンバーだけは業務に支障のない範囲で個人契約が認められているのだ。
 もちろん、軍の許可を受けたうえでの事だが……。

 サヤカの契約したカード会社は、アメリア系の会社で、契約料は年間10億だという……。
 
 そういえば、大臣から言われたのだが、ヨーゼフたちに映画の出演依頼やCM契約の申し込みが殺到しているらしい。
 そんな面倒な調整はしたくないので、海軍本部の広報部に丸投げした。
 まあ、自分たちの喰いぶちを稼いでもらうのであれば文句を言う筋合いはない。

 1週間後、頼んであった掃海艇”オトヒメ”の改修が終わった。
 退役の近い掃海艇に、冷蔵設備を搭載してもらったのだ。
 100匹の豚を収容できるため、3日程度の遠征が可能となった。
 南西諸島の南端まで約400km。明るいうちに泳ぎ続けても1日かかってしまう。
 週に1度、ピクニック気分で遠征すればいいだろう。

 そんな中、アメリアとシンで共同開発中の飛行艇が最終調整に入るとの連絡が入り、俺は一人で名古屋まで飛んだ。
 地震と津波の直撃を受けた名古屋だったが、瓦礫の撤去も終わり順調に復興が進んでいた。
 比較的被害の少なかったオブロンの工場を利用して飛空艇の製造が行われている。

「ボス!お久しぶりなのだ。」
「ステラさんも元気そうだね。」
「あっしはいつでも元気だよ。」

 出迎えてくれたのはブラジル系ダブルの吉川ステラさん。
 最初のころハーフなのって聞いたら、”あっしは半分じゃない”と怒られたことがある。
 ハーフというのは、両親から0.5づつ受けて1という自分を形成しているという考え方だが、どうなんだろう。

「あっしの国籍は大和で、間違いなく大和人なんだけど、、ブラジル人としてのあっしも確かに存在してるんだ。この気持ちは決して半分半分じゃないんだよ。」

 大和では二重国籍は認められていない。
 成人したときに、どちらかの国籍を選ばなければいけないのだ。
 アメリアをはじめ、世界の主要国は二重国籍を認めている。
 だからステラさんのダブルアイデンティティーという自己主張はよくわかる。

「髪の色を変えたんだね。」
「うん、今は青よりもオレンジの気分なんだ。なんたってボイルは最高にハイテンションになれるヤツだからね。」
「ボイル?」
「ボイルは飛行艇のあだ名だよ。」
「ボイルって……煮る?」
「見れば分かるよ。」

 俺はステラさんに連れられて格納庫に入った。

「うん。確かにこれはボイルドエッグだね。」
「エンジンとか要らないからね。お尻がとってもセクスィでしょ。あっしのお尻みたいにさ。」
「あのねえ、俺は未成年の中坊だよ。」
「へえ。まだサヤカとエッチしてないんだ。」
「……いや、それは……。」
「だよねぇ。事実婚してんだもんね。」
「コホン。……結構大きいんだね。」
「ケルトなんかで開発した飛行艇の幅を倍にした感じだよ。その分ボスの要望を反映して酸素発生器も搭載してるんだ。」
「まさか、海中も行けるの!」
「想像してみてよ。白ゴジ3匹を引き連れてこのボイルが潜っていくところをさ。」
「震えそうだね。」

「それからアメリアの技術でソニックブームを低減できているはずです。」
「それって……。」
「時速2000kmでも3000kmでも、好きな速度で飛んでください。宇宙へも行けると思いますよ。」
「いやいや、スタ-ウォーズの予定はないっしょ。」
「ちょっと月まで行って、鉱石をいっぱい取ってきてくださいよ。」
「40万キロだっけ?」
「384,400キロですね。」
「時速4000キロで飛んでも100時間かかるでしょ。それに放射線に対する備えは考えてないでしょうよ。」
「えへへ。実はシールドで放射線も防げるんですよ。」
「それでも怖いよ。」

「夜間飛行を考えて、スポットライトの他に、船全体が発光するようにしてあります。」
「水上で推力を切ったらどうなるの?」
「シールドが水を弾いてくれるので浮かぶだけですよ。」
「シールドが切れたら沈む?」
「気密性はそこまで高くないので沈みますね。」

 中に入ってみると、前面を覆う曲面の窓が大きく、視界が広いことに驚く。
 生活区画も充実しており、冷蔵倉庫も十分な容量が確保されている。

「それと、この小型機を3機収容しています。」
「えっ、これって乗れるの?」
「ええ。二人乗りの小型機で、レーダーとかないので最小限の機能しかないのですが、バッテリーで24時間稼働して、液体酸素で10時間まで潜行もできます。」
「使い切ったら補給はできるの?」
「ボイルで発電も液体酸素の製造もできるので、戻って充填するだけです。」

 小型機クエルは”ウズラ”のことだ。
 母船と同じたまご型の形状で、ウズラの玉子のような茶色の柄が施されている。

 このボイルの開発にはオブロンとトライスター社も関わっており、説明を聞いている間に必要なアプリのダウンロードと設定が完了していた。
 試験飛行も問題なく、俺はステラさんと5人のスタッフを乗せて竜宮に向かった。

 今回は3機を同時に作っており、アメリアとシンのスタッフも同時に自国へ飛び立っていった。
 ちなみに、災害対策チームのスタッフが不足するんじゃないかと思ったが、魔法士が30人増員されたらしい。
 隊長の俺が不在なのは申し訳ないが、代行者も選任されており、順調に運営されているようだ。

 約1時間で竜宮に着いた俺たちは、大和のスタッフ半分をボイルに移してゲルマンのスタッフを乗せたマンボウは本部に移ってもらった。
 クエルがあれば内地への移動も簡単に行えるため、竜宮に2台も必要ないのだ。
 しかも、俺とサヤカとハイジのAIでクエルの遠隔操作もできるため、必要な場所でクエルから降りて、必要な時に迎えに来させることもできる。

 翌日は南西諸島遠征の日だった。
 早朝に十分な食事をさせて、オトヒメに乗り込んで出発する。
 天気も良いのでピクニック日和だ。

「ハイジ、日焼けしそうだから麦わら帽子をかぶってね。」
「うん。」

 俺たちはオトヒメの甲板でハイジを見守る。
 ハイジはヒマワリ色の半袖ワンピースに麦わら帽子の姿でヨーゼフの頭に乗っている。

「ハイジと君の年齢が16才違いか。姉妹というには無理があるな。」
「まだ、ハイジが幼いからよ。5年もすれば姉妹に見えると思うわ。」
「その頃には俺も成人してるから、籍も入れられるね。」
「問題は……ハイジに何と呼ばせるかよね。」
「パパとママか……。」
「あら、私はお姉ちゃんって呼ばせるわよ。」
「えっ?」
「当然でしょ。」

 なんで当然なのか……。


【あとがき】
 青い海に白い怪獣と黄色のワンピース。うん、CMで使えるな。
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