天と地と空間と海

モモん

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第三章

第30話 連日の防衛庁ライブ配信をやってみた

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 アギャー!

「煩い鳴き声です。近所迷惑ですよねって、周りに家はないですけど。」

 俺は白ゴジを挑発しながら船との距離を稼いでいく。
 爪による薙ぎ払いを掻い潜り、ブレスもかわしていくのだ。
 炎を吐くわけではないが、陽炎のように空気が歪む。

「これだけ離れれば船に影響は出ないと思います。では、本格的に白ゴジ討伐を開始します。」

 俺は攻撃方法を説明する。

「皮膚は魔法の耐性がありますので、耐性のない口の中を5000度に加熱します。」

 画像がグロいと思うので、カメラを遠景に切り替えるよう頼んだ。

「”ロック”そして”ファイヤー”!」

 俺の視界の中では白ゴジの舌が赤く輝き、沸騰して蒸発していく。

「この態度だと泡が出て再生が始まっています。なので、再生できないレベルまで焼き尽くしていきます。」

 ”ロック”と”ファイヤー”を3回繰り返して首から上を消し去り、泡が出ないことを確認する。

「この、再生の秘密が解明できれば、医療にも役立つと思いますので、これを凍結して持ち帰りたいと思います。」

 俺は40m四方を凍らせて、レビテーションで白ゴジを浮かせた。
 肉片の一部を切り取って、シンの船にも残しておく。

「では、白ゴジの討伐ライブを終わります。」

 ヘリに向かって手を振った。
 これで、中継は終わらせてくれるだろう。

 俺は無重力状態で宙に浮く白ゴジを押しながら、九州に向かう。
 琉球には、この塊を保管できる冷凍倉庫がないからだ。

 戦闘海域から熊本まで約900km。
 1時間以上かけて氷の塊を持ち帰る。
 白ゴジを冷凍倉庫に納めて俺の任務は終わった。

 この1時間の間に、シン国政府は大和に対して感謝の意を表した。
 シン国が他国に救助を求め、そして素直に感謝することは、異例といえるらしい。

 そして俺は家に戻った。

「おかえりなさい、ジン君。」
「ただいま。うーっ、久しぶりの我が家だ。」

 俺はゆっくりと風呂につかった。
 緊張していた体が溶けていく。

 ああ、体は疲れていても、性欲が高ぶるのはなぜだろう。

「明日は二人とも特別休暇だって。」
「じゃあ、夜更かししても大丈夫なんだ。」
「そうね、ウフフッ……。」

「……って、何で一回だけで熟睡しちゃうのよ!」


 シールドに水分という項目を付け足すと、雨も防いでくれると見つけたのはメンバーのステラさんだった。
 特別休暇の昨日から雨が振り出している。
 降灰の多かった山間部での土石流発生が心配だ。

 雨の中基地に行くと案の定土石流発生のニュースが入っていた。
 火山灰の影響をモロに受けている酒匂川の小田急線より上流は、急激に川幅が狭くなり傾斜も厳しくなっている。
 山に降り積もった火山灰が、ちょっとしたタイミングで滑り落ち、連鎖を起こせば容易に土石流へと成長する。
 かといって、山中の火山灰を除去する方法など、存在しない。
 酒匂川は途中で、御殿場へと続く鮎沢川と丹沢湖に至る河内川に分岐する。
 河内川流域にはおよそ1mの灰が降り注ぎ、鮎沢川にいたっては最大で2m50cmの灰が積もっている。
 その両方で、小規模の土石流が発生していた。
 
 幸いなことに、どちらの流域も住民の非難は終わっている。
 しかし、山から流れ落ちた土石流は、木々を押し倒し、その木々が電線を切断して電柱をなぎ倒していく。
 これが、住民の避難先の停電につながり、通信が途絶えることで孤立していく。
 
「でも、携帯電話やスマホで連絡できるじゃないですか。」
「馬鹿だな鈴木は。携帯やスマホの通信距離なんてせいぜい数百メートルなんだよ。余程見通しのきくエリアで数キロ。衛星携帯があれば別だけどな。」
「えっ、だって、どこでも使えるじゃないですか。」
「俺たちの生活圏には、無数の基地局っていうのがあるんだよ。電柱の上についてたり主要施設についているんだけどな。で、基地局には電源が必要だし、基地局から電話の交換局までは有線で繋がってるんだよ。」
「そうよね。今でこそどこに行っても使えるようになったけど、少し前まではアンテナが1本しか出ないとか、大騒ぎしていたものね。」

 そうだったのか、知らなかった……。
 鈴木さんのおかげで恥をかかずにすんだよ。

「D班は厚木で待機してくれてりけど、緊急対応に備えてB班も厚木に向かってください。」
「了解!」

「ジン君。」
「あっ、高山さん、留守中ありがとうございました。」
「いや、これも任務だからね。それよりも指令室に来てくれ。また出たようだ。」
「またですか……。やっぱりこれって、フィリピンプレートの影響なんでしょうかね。」
「そうだな。これまで白ゴジが人前に姿を見せるのは、10年おきくらいだった。それが3匹連続だからな。」

 指令室はざわついていた。

「どうしたんですか?」
「それが、アメリアの西海岸とアラビア海で目撃情報が入ってるんだ。」
「誤報じゃなければ別個体ですか。」
「そういうことになるな。アメリアは、海軍を中心にパトロールを強化している。今のところ、自力で何とかするみたいだな。」
「アメリアも魔法開発は進んでいますからね。」
「問題はアラビア海の方なんだよ。」
「何かあったんですか?」
「目撃情報の中に、日本のタンカーからのものが含まれていたんだ。」
「タンカーですか。」
「サウリで原油を積んで、ペルシャ湾からオマール湾を抜けてアラビア海に出たあたりで目撃したらしい。」
「でも、日本は関係ないですよね。」

「一応は、沿岸の国が巡視を強めて監視しているんだが、日本も対応しろと通達があった。サウリとUARの両国からな。」
「そんな無茶な……。」
「両国とも、原油の契約で便宜をはかってくれているしな、無下に断れんのだよ。」
「いやいやいや、流石に中東まで出張は勘弁してくださいよ。」
「サウリの国王と、UARの大統領が、君との懇談を希望しているんだ。何とか頼めないだろうか?」
「無理ですよ。僕、未成年だし新婚なんですよ。入籍もしてないのに、彼女を未亡人にするわけにはいかないですよ。」
「そうだ!二人で新婚旅行にいってくるといい。」
「新婚旅行ですか……、国がこんな時なのに……。」
「それに、各国からでる討伐褒賞はサウリが取りまとめてくれるそうだ。合計で約20億。」
「そんな金額が出てくるわけないでしょ。」
「今回のシン国の被害額がいくらか知っているかね?」
「そんなの、想像できないですよ。」
「戦闘機が1機40億くらいで、巡視艇の建造費が1隻200億円。フリゲート艦は楽に1000億を超えるんだ。まあ、合計で5000億といったところか。討伐褒賞20億が高いと思うかね?」
「それにしては、僕の今回の褒賞はその1%でしたよね。」
「そうだね。国民性といってしまえばそれまでなんだが、我が国は清貧が美徳とされているからね。諦めてもらうしかないかな。」
「はあ、ちょっと相談してきますよ。」

 新婚旅行は別としてサヤカさんは了承してくれた。
 護衛艦「しらん」の派遣が決定したが、サウリまで海路で13000kmほどになる。
 巡航速度で航海すると半月以上かかるため、「しらん」は先行して出港し、数日後俺たち夫婦は哨戒機でサウリに向かった。

 サウリでの出迎えは、異様なほど盛り上がっていた。
 先方からのリクエストで、俺とサヤカは例のコスチュームで空港に降り立った。


【あとがき】
 白ゴジはいったい何頭いるのでしょうか。
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