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第三章
第29話 火口を冷却して塞ぎます -世界初のライブ配信-
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「ジン君、白ゴジに備えて、琉球のうるま基地で待機してくれないか。」
「ですが、チームが心配です。」
「安心してくれ、陸軍の押山は謹慎処分にした。」
「それだけじゃ安心できませんよ。」
「大丈夫だよ。君も知っている、海軍の高山君を暫定で災対チームを統括させることにした。まもなくやってくるだろう。」
「高山さんを?でもあの人、魔法研究所の所長さんになって忙しいんじゃないですか?」
「いや、ここで最新の情報を集めた方が、よほど効果的だと喜んでいたよ。」
こうして俺は琉球本島のうるま基地に飛んだ。
琉球での待機中に災対本部は火口凍結の決定を下した。
俺が戻ろうとしたのだが、サヤカが立候補してくれた。
東京から富士まで100km程度。
フライトなら10分程度で到着する。
これは防衛庁のサイトで、リルタイム配信されていた。
何故かサヤカは俺と同じコスチュームを着用している。
カメラマン兼インタビュアーとしてチームの磯崎さんが同行している。
磯崎さんも白ゴジを任せられるレベルの魔法士だ。
「サヤカさん、いよいよですね。緊張してないですか。」
「大丈夫でーす。」
「火口まで行くのは初めてですよね?」
「当然でしょ。」
「では、ご主人に向けて一言。」
「えっ!……えーっと、こっちは私たちに任せて、白ゴジの方に集中しててください。愛してまーす。キャッ、言っちゃいました。」
おいおい、防衛庁のサイトで何言ってんだよ……。
そして飛行中。
右手を前に突き出してヒーロー姿勢で飛んでいる。
ボディスーツが体のラインを際立たせている。
「あっ、メッセージ……旦那さんからでーす。」
「何て?」
「えーっと、危険な任務なんだから、ふざけてないで集中しろって……怒られちゃいました。グスン。」
「あらあら、こんなに頑張っているのに。」
「でも、配信見てるからがんばれって。エヘヘ。」
「おーっと、これは惚気なのかぁ、独身の僕に対する当てつけとしか思えません。」
「10分で火口上空に到着しました。これから火口を凍結。マグマを冷やして固めます。」
「お願いします。大和国民が見ていますよ。」
「ふう”ロック”そして”フリーズ”!」
「おお!ご覧ください。凍結魔法により、一瞬でマグマが冷えて固まりました。成功です。」
「ここで質問です。」
「はい。」
「もっと早く対処できたと思うのですが、ここまで時間がかかったのは何故ですか?」
「今回、水蒸気による爆発は噴火当日、4日目、6日目の3回発生しています。つまり、まだ水蒸気が抜けきっていなかったんです。」
「はい。」
「ですから、噴火直後に火口を塞いでいたら、時間をおいて2回目の噴火、3回目の噴火という可能性があった訳です。」
「まあ、1週間前だと、私たちも今回使った魔法の開発・訓練中だったから、対応できなかったんですけどね。」
「そうですね。こんな風に噴火をおさめたのって、多分世界で初めてのことですからね。」
「まったく、こんな非常識なことを考えるなんて、頭が飛んでるんじゃないですかね?」
「……ごめんなさい。うちの旦那さんです。」
「それでは、今回の動画は富士山の火口から、私、神宮寺紗香と。」
「僕、磯崎修二がお送りしました。ご視聴ありがとうございました。」
ここで、噴火口を魔法士が冷やして塞ぐという異例の中継が終わった。
まあ、被災者がいる以上、不謹慎だとか批判されることもあるだろう。
だが、一歩間違えれば確実な死が待っていたはずだ。
そこを評価してほしいものである。
俺はサヤカに労いのメッセージを送った。
この動画は世界中に拡散され、概ね効果的に受け取られたようだ。
24時間経っても、再生数は止まる気配がない。
そして翌日、白ゴジは同じルートを辿って3回目の北上を始めた。
ということは、このラインを逆に辿ればヤツの巣があるのかもしれない。
琉球海溝あたりだろうか。
俺は洋上で待機する護衛艦「ときね」に移動した。
衛星画像で見る限り、餌場の海域にいるのは、フリゲート艦4隻と駆逐艦8隻。
シン国側に気づいた様子はない。
距離30kmで哨戒機がヤツを発見したようだ。
一斉に放たれたミサイルだったが、2・3発着弾した時点で、ヤツは潜った。
それほど深くはない。衛星画像でも白い影が見えている。
だが、ミサイルは水面で爆発していく。
ヤツはそのまま一番近いフリゲート艦の後部を破壊し、そしておそらく船底を傷つけて次の艦へ矛先を向けた。
水中の敵を攻撃する手段としては、魚雷や爆雷が考えられる。
シンの司令部もそう考えたのだろう。
だが、ヤツは魚雷を避けたようだ。
射線上にいた船の底部が爆発を起こした。
スクリューを破壊され、おそらく底部を切り裂かれた船が二隻・三隻と増えていく。
航空機とヘリには為す術がなかった。
4隻目が航行不能になった時点で、他の船は逃げるべきだったと思う。
だがシンは近接攻撃を選択したようだ。
白ゴジとの距離を詰め、砲塔から白煙が立ち上り、爆雷による水柱が何本も出現した。
そして、30分足らずで12隻は沈黙した。
浸水による動力系統の不具合だろうか。
「ジン君、シン国からの応援要請が入った。出動してくれ!」
「はい。」
臨戦態勢にあった護衛艦「ときね」は、戦闘海域に向けて進攻を開始。
だが距離は200kmある。
全速力でも2時間かかってしまう。
俺はヘリに乗り込んだ。
ヤツは戦闘機やヘリを相手にしながら食事を始めていた。
ヘリで約20分。
俺はカメラに向かって宣言した。
「白ゴジ討伐開始します。」
本当は必要ないのだが、ヘルメットのゴーグルを下ろし、俺は空へ飛び出した。
二日連続の防衛庁生配信だ。
だが、主役の二人が事実婚の夫婦というのはどうなんだろう。視聴率が心配だ。
コスチュームは昨日と同じ。あとは適当にテロップで補足するとか言ってたけど、若干不安は残る。
ヘルメットにもマイクとカメラが装着されており、指令室で順次画像を切り替えているはずだ。
ヤツとの距離は10mに縮まった。
流石に迫力がある。
「口と目と鼻の穴は魔法の照準が可能ですね。では、ヤツの気を引いて船から引き離しましょう。」
俺は目の表面を1000度に加熱した。
「うーん、1000度は効果ないですね。では3000度。」
魔力量を抑えているので、威力は低い。
だが、効果はあった。
一度焼けただれた目の表面に白い泡がでて再生していく。
「はい。やっと僕を認識してくれたみたいですね。睨まれてます。怖いですね。」
直後に前足で薙ぎ払ってきた。
無意識に左腕でブロックする。
まあ、衝撃もないのだが。
続けて噛みついてくるが、これは桜が制御して避けてくれた。
もう一度目に攻撃。
少し距離をとっていく。
「完全に注意を引き付けました。船から離れて向かってきます。おっと、ブレスです。高温でマントが燃えています。」
カメラは俺の視線にあっているはずなので、見ている人にも伝わるだろう。
「マントのデザインは気に入らなかったのでちょうど良かったです。今時”大和魂”は、流行らないですよね。」
俺はマントの留め具を外して投げ捨てた。
「すみません、不法投棄ですが緊急事態なのでご容赦ください。でも、ブレスはちょっと臭いです。もう受けたくないですね。」
【あとがき】
公開討伐開始です。
「ですが、チームが心配です。」
「安心してくれ、陸軍の押山は謹慎処分にした。」
「それだけじゃ安心できませんよ。」
「大丈夫だよ。君も知っている、海軍の高山君を暫定で災対チームを統括させることにした。まもなくやってくるだろう。」
「高山さんを?でもあの人、魔法研究所の所長さんになって忙しいんじゃないですか?」
「いや、ここで最新の情報を集めた方が、よほど効果的だと喜んでいたよ。」
こうして俺は琉球本島のうるま基地に飛んだ。
琉球での待機中に災対本部は火口凍結の決定を下した。
俺が戻ろうとしたのだが、サヤカが立候補してくれた。
東京から富士まで100km程度。
フライトなら10分程度で到着する。
これは防衛庁のサイトで、リルタイム配信されていた。
何故かサヤカは俺と同じコスチュームを着用している。
カメラマン兼インタビュアーとしてチームの磯崎さんが同行している。
磯崎さんも白ゴジを任せられるレベルの魔法士だ。
「サヤカさん、いよいよですね。緊張してないですか。」
「大丈夫でーす。」
「火口まで行くのは初めてですよね?」
「当然でしょ。」
「では、ご主人に向けて一言。」
「えっ!……えーっと、こっちは私たちに任せて、白ゴジの方に集中しててください。愛してまーす。キャッ、言っちゃいました。」
おいおい、防衛庁のサイトで何言ってんだよ……。
そして飛行中。
右手を前に突き出してヒーロー姿勢で飛んでいる。
ボディスーツが体のラインを際立たせている。
「あっ、メッセージ……旦那さんからでーす。」
「何て?」
「えーっと、危険な任務なんだから、ふざけてないで集中しろって……怒られちゃいました。グスン。」
「あらあら、こんなに頑張っているのに。」
「でも、配信見てるからがんばれって。エヘヘ。」
「おーっと、これは惚気なのかぁ、独身の僕に対する当てつけとしか思えません。」
「10分で火口上空に到着しました。これから火口を凍結。マグマを冷やして固めます。」
「お願いします。大和国民が見ていますよ。」
「ふう”ロック”そして”フリーズ”!」
「おお!ご覧ください。凍結魔法により、一瞬でマグマが冷えて固まりました。成功です。」
「ここで質問です。」
「はい。」
「もっと早く対処できたと思うのですが、ここまで時間がかかったのは何故ですか?」
「今回、水蒸気による爆発は噴火当日、4日目、6日目の3回発生しています。つまり、まだ水蒸気が抜けきっていなかったんです。」
「はい。」
「ですから、噴火直後に火口を塞いでいたら、時間をおいて2回目の噴火、3回目の噴火という可能性があった訳です。」
「まあ、1週間前だと、私たちも今回使った魔法の開発・訓練中だったから、対応できなかったんですけどね。」
「そうですね。こんな風に噴火をおさめたのって、多分世界で初めてのことですからね。」
「まったく、こんな非常識なことを考えるなんて、頭が飛んでるんじゃないですかね?」
「……ごめんなさい。うちの旦那さんです。」
「それでは、今回の動画は富士山の火口から、私、神宮寺紗香と。」
「僕、磯崎修二がお送りしました。ご視聴ありがとうございました。」
ここで、噴火口を魔法士が冷やして塞ぐという異例の中継が終わった。
まあ、被災者がいる以上、不謹慎だとか批判されることもあるだろう。
だが、一歩間違えれば確実な死が待っていたはずだ。
そこを評価してほしいものである。
俺はサヤカに労いのメッセージを送った。
この動画は世界中に拡散され、概ね効果的に受け取られたようだ。
24時間経っても、再生数は止まる気配がない。
そして翌日、白ゴジは同じルートを辿って3回目の北上を始めた。
ということは、このラインを逆に辿ればヤツの巣があるのかもしれない。
琉球海溝あたりだろうか。
俺は洋上で待機する護衛艦「ときね」に移動した。
衛星画像で見る限り、餌場の海域にいるのは、フリゲート艦4隻と駆逐艦8隻。
シン国側に気づいた様子はない。
距離30kmで哨戒機がヤツを発見したようだ。
一斉に放たれたミサイルだったが、2・3発着弾した時点で、ヤツは潜った。
それほど深くはない。衛星画像でも白い影が見えている。
だが、ミサイルは水面で爆発していく。
ヤツはそのまま一番近いフリゲート艦の後部を破壊し、そしておそらく船底を傷つけて次の艦へ矛先を向けた。
水中の敵を攻撃する手段としては、魚雷や爆雷が考えられる。
シンの司令部もそう考えたのだろう。
だが、ヤツは魚雷を避けたようだ。
射線上にいた船の底部が爆発を起こした。
スクリューを破壊され、おそらく底部を切り裂かれた船が二隻・三隻と増えていく。
航空機とヘリには為す術がなかった。
4隻目が航行不能になった時点で、他の船は逃げるべきだったと思う。
だがシンは近接攻撃を選択したようだ。
白ゴジとの距離を詰め、砲塔から白煙が立ち上り、爆雷による水柱が何本も出現した。
そして、30分足らずで12隻は沈黙した。
浸水による動力系統の不具合だろうか。
「ジン君、シン国からの応援要請が入った。出動してくれ!」
「はい。」
臨戦態勢にあった護衛艦「ときね」は、戦闘海域に向けて進攻を開始。
だが距離は200kmある。
全速力でも2時間かかってしまう。
俺はヘリに乗り込んだ。
ヤツは戦闘機やヘリを相手にしながら食事を始めていた。
ヘリで約20分。
俺はカメラに向かって宣言した。
「白ゴジ討伐開始します。」
本当は必要ないのだが、ヘルメットのゴーグルを下ろし、俺は空へ飛び出した。
二日連続の防衛庁生配信だ。
だが、主役の二人が事実婚の夫婦というのはどうなんだろう。視聴率が心配だ。
コスチュームは昨日と同じ。あとは適当にテロップで補足するとか言ってたけど、若干不安は残る。
ヘルメットにもマイクとカメラが装着されており、指令室で順次画像を切り替えているはずだ。
ヤツとの距離は10mに縮まった。
流石に迫力がある。
「口と目と鼻の穴は魔法の照準が可能ですね。では、ヤツの気を引いて船から引き離しましょう。」
俺は目の表面を1000度に加熱した。
「うーん、1000度は効果ないですね。では3000度。」
魔力量を抑えているので、威力は低い。
だが、効果はあった。
一度焼けただれた目の表面に白い泡がでて再生していく。
「はい。やっと僕を認識してくれたみたいですね。睨まれてます。怖いですね。」
直後に前足で薙ぎ払ってきた。
無意識に左腕でブロックする。
まあ、衝撃もないのだが。
続けて噛みついてくるが、これは桜が制御して避けてくれた。
もう一度目に攻撃。
少し距離をとっていく。
「完全に注意を引き付けました。船から離れて向かってきます。おっと、ブレスです。高温でマントが燃えています。」
カメラは俺の視線にあっているはずなので、見ている人にも伝わるだろう。
「マントのデザインは気に入らなかったのでちょうど良かったです。今時”大和魂”は、流行らないですよね。」
俺はマントの留め具を外して投げ捨てた。
「すみません、不法投棄ですが緊急事態なのでご容赦ください。でも、ブレスはちょっと臭いです。もう受けたくないですね。」
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