天と地と空間と海

モモん

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第三章

第25話 地震・津波・噴火をテーマにしています フラッシュバックなどが懸念される方は読まないでください

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 その日、12時51分。静岡県沿岸部から三重県にかけて震度7強の地震が発生した。
 気象庁の発表によれば、震源域は東海道沖から南海道おきまでの広範囲で、プレートの沈み込みによるものではないかとの見解を示していた。
 そして、直後に緊急で津波警報が出されたが、範囲は伊豆半島西側から四国全域にわたる広範囲なものであった。
 津波の到達予測は、3分から30分とされ、沿岸居住者は高台へ避難するよう繰り返しアナウンスされた。

 だが、津波の到達はあまりにも早く、そして想定外の破壊力を伴っていた。
 津波の高さは、最大で30m以上と推定され、死者は30万人を超えるとみられている。
 今回の津波では、手ぶらで非難した人はほとんどおらず、多くは家の中で被災したものと見られていた。

 この地震は関東から九州にかけて震度4以上の揺れを観測しており、範囲としても観測史上最大規模と報道された。

 俺たち災害支援特別部隊は、指示待ちの状態でスタンバイしている。
 こうした広域災害の場合、各自治体が初期応動にあたり、自治体からの支援要請を受けて活動する。
 こちらから勝手に出かけるようなことはありえない。
 怪獣退治ではないのだ。
 うちのチームは3名1班となり、全4班で活動する。
 本部は、特に被害の激しいエリアに俺たちを配置するだろう。

 政府は首相官邸に災害対策本部を設置し、各地の情報収集にあたっていた。
 災害発生の翌日になって、災害支援特別部隊からは静岡・愛知・三重に各1班が配置され、サヤカも愛知に出向いている。
 俺の率いるA班はまだ待機状態で、俺は災害対策本部に呼び出され、時折意見を求められている。

 三日目、四日目と経過するにつれて、やっと津波の被災エリアに車両が入っていけるようになり、陸軍の特殊車両がテレビで映されるようになってきた。
 この時期になると、津波に飲み込まれた人が生存している可能性は低く、魔法士としての活動はほとんどなくなってくる。
 7日目には、一旦全員が基地に戻ってきた。

「お帰り。」
「ただいま。」
「愛知はどうだった?」
「太平洋に面したエリアはひどかったけど、駿河湾の内側はそこまで酷くなかったみたい。でも、名古屋は海抜の低い地域が多いし、地震による建物の倒壊は深刻な状態ね。」
「静岡は酷かったぜ。海からいきなり山になっている伊豆半島は、まだマシだったんだけど、富士から浜名湖までは全滅だよ。」
「三重も沿岸地域は全滅だったよ。ひどいもんだったな。」

 その時だった。
 ドーンという大きな音と共に窓ガラスがビリビリと震えた。

「くそっ!来やがったか……。」
「何、今の?」
「多分、富士山の噴火だと思う。今のは空震って言って、噴火の爆発が空気を震わせて伝わってきたんだと思う。」
「嘘だろ!富士からここまでどんだけ離れてると……」
「えっと、富士山の方、西の窓はあっちだな。」
「うそっ、なにアレ。」
「あれだけ噴煙が上がっているってことは水蒸気爆発だろうな。」
「水蒸気爆発って、噴火じゃないんですか?」
「噴火には三つの種類があるんだ。水蒸気爆発は、マグマで熱された水分やガスが山の中に溜まっていき、一気に噴き出した時の爆発だよ。」
「じゃあ、溶岩は流れないんですか?」
「それはまだ分からない。ちょと集まってください。打合せします。」

 俺は全チームを集めて説明を行う。

「水蒸気爆発型の噴火で注意しなくてはいけないことを説明します。」
「はい。」
「今見たところでは、山頂付近での爆発なので、噴煙はおそらく8000から10000メートルまで吹きあがっています。」
「なんで分かるんですか?」
「馬鹿ね。富士山の高さが3776mなんだから、大体分かるでしょ。」
「うっ……。」
「日本のほとんどのエリアでは、海抜5000m上空に偏西風といって常に西から東に向かう強い風が吹いているんです。およそですが、時速50kmから100kmです。」
「それって……。」
「あの噴煙に含まれている火山灰が、風に乗ってこちらに飛んでくるんですよ。300年前の噴火では、大体2時間後に東京で火山灰が降り始めました。」
「マジっすか。」

「では、火山灰の注意点ですが、火山灰の主な成分はガラスの欠片です。」
「えっ?」
「灰って、燃えカスじゃないんですか!」
「岩に含まれていたカラス成分がマグマの中で溶けて、噴火で冷え固まったイメージですかね。なので、注意してほしいのは、目と口・鼻です。」
「それは?」
「ガラスの欠片が目に入ったところでこすったらどうなるか。コンタクトの人は要注意です。もしメガネをもっているならコンタクトは外したほうがいい。」
「ガ、ガラスが目にって、怖すぎですよ。」
「次に注意するのは呼吸器です。」
「まさか……。」
「吸い込んだガラスが肺に突き刺さって、呼吸器系の疾患を引き起こします。」
「じゃあ、どうすれば……。」
「外に出るときは、ゴーグルとマスクが必須です。多分、うちへの出動要請が多発しますから、タイベックの防護服を用意してもらいます。耐放射線の訓練で着ましたよね。」

「なんで、うちの出動要請が増えるんですか?」
「あの感じだと、東京では1cmくらい火山灰が積もります。神奈川だと1mから2cm。ガラスは絶縁体なので電車は動けません。」
「道路は火山灰で事故が多発……。」
「影響なく動けそうな乗り物は?」
「……エアボ。」
「正解です。問題は、噴火がおさまってくれるかどうかですね。最悪の場合は、僕が火口まで行ってマグマを冷やして止めてきますけどね。」
「マジっすか!」
「暑くて近づけないですよ!」
「シールドがあるので大丈夫ですよ。僕が首相なら、この時点で火口に行かせますよ。」

「電車が止まるって言ってましたけど、電気も停電するんですか?」
「前に聞いたことがあるんですけど、発電所は吸気系統があるかた停めるかもしれないって言ってました。神奈川の横浜火力、川崎火力・東扇島火力・南横浜火力あたりですね。横須賀火力は大丈夫かもしれない。」
「同じ神奈川にあるのに、なぜですか?」
「さっき言ったように、偏西風は強い風です。だから、そこまで横には広がらないんですよ。300年前の記録では、箱根には灰が降っていませんし、小田原の半分も量が少なかったみたいですね。」
「ジン君、よく調べてあるんだな。」
「災害支援の部隊ですからね。引き受けたときに勉強したんですよ。あっ、それと、変電所は灰で埋もれてしまっても大丈夫じゃないかって言ってましたよ。」
「じゃあ、ほかのライフラインはどうなんですか?」
「ガスは大丈夫だと思うんですけどね。水道は水源にもよりますが、しばらくは大丈夫だと思います。東京の水源には降灰も少ないでしょうし、神奈川の西側は、地下水を水源にしているところも多いですからね。」
「トイレは大丈夫ってことですね。」
「問題は、排水処理施設が動いているかどうかですけどね。」

 俺の宣言通り、電車はすぐに運航を停止した。
 降灰エリアが拡大するにつれて、特に坂道での自動車事故が多発し道路はマヒ状態になっていった。
 高速道路は緊急車両専用となり一般車は締め出された。
 これにより、神奈川在住の多くの県民が帰宅不可能となっている。
 当然、神奈川方面の物流は止まり、自治体による非常食の提供が始まっている。

 俺は、災対本部で首相に問われた。

「ジン君、噴火を止められないだろうか。」
「多分可能だと思いますが、3日程はガス抜きしておかないと、再噴火が懸念されませんか?」
「私も同感ですね。宝永噴火の時は、3回の爆発があったそうです。できるなら1週間ほど吐き出させたいいかもしれません。」

 地震の専門家が後押ししてくれた。


【あとがき】
 会社勤めしていた時に、宝永噴火について調べたことがあります。結構マジな考察になっていると思います。
 南海トラフ地震による津波の到達予測時間は、和歌山で最短3分後とされています。
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