天と地と空間と海

モモん

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第一章

第11話 ロングレンジサーチを照準システムと連動させたらとんでもなかった

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 俺と御代先生は会議室で待機だった。
 一時間ほど待機していたら、御代先生のスマホが鳴った。

「皆は、駆逐艦で洋上にいると連絡が入った。現在停泊中だが20mほど離れて5mほどのゴムボートを浮かべているので、それを最大火力で破壊しろと言ってきた。」
「無茶ですよ。最大で魔法なんか撃ったら、駆逐艦にも被害が出ちゃいますから。」
「構わんさ。防衛大臣もテレビ会議で観戦中らしい。よっぽど暇なんだな。」

 そういいながら御代先生は何か所かに連絡をしている。
 航行計画とか、型とか聞いているので、場所を特定しようとしているのだろう。
 俺もLRSを起動して待機しておいた。

「そうだ。1時間前に特殊学校を出発した駆逐艦だ。多分南に向かったと思う。」
「ああ、それで間違いないと思う。うん、房総半島……勝山沖の7km付近だな。ありがとう。」
「真藤、この辺だ。LRSで捉えられるか?」
「やっています。あっ、それらしいのを発見しました。うーん、先生、衛星画像とか表示できませんか。万一間違えてしまうと……。」
「ちょっと待ってろ!」
「これだな。」
「画面の半分にLRSの画像を出しますから確認してください。」
「うん?おお、それだ間違いない。」
「この小さいのがターゲットですね、ロックしました。ファイヤでいいんですか?1000度で直径5m高さ10mでセットしました。」
「それでいい。いけ!」
「”ファイヤ”!」


「すまなかった!俺の指示ミスで、駆逐艦一隻を沈めるところだった。」
「まったくです。真藤が自重してくれなかったら、総員134名が蒸発してたかもしれないんですよ!」
「本庁は苦情の嵐みたいですね。大臣は喜んでいるみたいですが。」
「情報統制が早かったおかげで、マスコミは抑えられたそうです。一安心ですね。」
「蒸発した水蒸気と熱波はシールドが効かないんですね。勉強になりました。」
「いやいや、戦艦だろうが空母だろうが、潜水艦だろうが一撃ですね。」
「超音速ミサイルの迎撃も考えないといけませんな。」

 帰ってきたあとも、みんな異常にハイテンションだった。

「それにしても、特定まで8分35秒かよ……。」
「御代先生の情報収集力も侮れませんね。」


 そして5日後、俺は御代先生に引率されて、首相官邸までヘリで移動し、”防衛大臣付き特別秘書官”という委嘱状を受け取った。
 拒否は許されなかった。
 専用の端末を与えられ、常時監視対象となったほか、公用以外での海外渡航禁止を誓う誓約書にサインさせられた。
 特殊バトルスーツ一式の支給と首相名で発行された無制限通行許可証も貸与されている。
 なぜか、議員宿舎も割り当てられた。
 在学中は使うこともないだろう。

 そして、特別手当という名目で、完全非課税の年間2000万円が支給されるという。
 使う予定はないのだが、くれるというものは貰っておく。


 俺の生活が一変してしまった。
 週の半分は、本庁のスタッフや軍の隊長クラスと打合せが入り、サークルに顔を出すのも半分になった。
 今や、授業免除の特待生扱いなのだ。
 その分、各基地へも出向いて有事の打ち合わせを行う。
 
 そうそう、2年の山岸君は国家機密漏洩の犯罪者となり、どこかの拘置所で幽閉されているらしい。
 例えば生徒が家族に話してしまったというレベルではなく、会社に連絡して詳細まで伝えてしまったのだ。
 一番問題になったのが、対価を要求したことで、それが例え高性能ナビという物品であったとしても、この情報の価値を知っていたと判断されてしまった。
 副社長である父親は、この情報の重要性を弁えており、すぐに防衛庁に連絡をして事件が発覚した。


 ここまでの俺は、とんでもない勘違い野郎だった。
 何でもできるスーパーマンになったような感覚だったのだ。
 大人にチヤホヤされ、金をもら特別待遇を与えられてしまった俺は、完全に自分を失ってしまっていた。
 それに気づいたのは、薄暗い部屋の仲だった。
 意識が戻った時、俺の右手は失われていた。
 そう、義手が外されていたのだ。

「気が付いたかね。」
「……あなたは、山岸君の……。」
「山岸君?ああそうか、あれは偽装用に養子として育てていただけだから、欲に気にする必要はないよ。」
「偽装用?」
「ああ、失言だった。余計な情報を与える必要はなかったね。さあ、ロック解除のパスコードを教えてもらおうかね。」
「なんのことだ?」
「義手のプロテクトを解除するための解除コードだよ。」
「そんなものは知らない。」
「それは困ったね。せっかく確立した三ツ星の地位を捨ててまで君の確保を優先したんだ。私にもメリットがないと不公平じゃないか。」

 そうか、こいつ山岸の父親は、どこかのスパイということか。
 オブロン技術の塊である義手を手に入れて、その情報を探り出せればどの国であっても優位に立てるだろう。
 特に視覚照準システムと、非公開情報であるシールド魔法の時間制御、そして今回開発したLRSと視覚照準システムを組み合わせた遠隔攻撃。
 これを手に入れられれば、防衛はもちろんだが、侵略行為でも圧倒的な優勢に立てる。
 戦艦クラスでも、艦橋を一撃で破壊されれば終わってしまうのだ。
 仮に、魔法シールドで防御していたとしても、周辺の海を凍らせれば航行不能に陥ってしまうし、海を沸騰させれば蒸し焼きにできるだろう。
 シールドで覆われている箇所は、LRSで表示されないので、いくらでも穴を見つけることができる。
 何より、この魔法の恐ろしいところは、砲弾やミサイルのように表面を攻撃するのではなく、内側を攻撃できるところだ。
 制御系統でなくても、燃料・発電機・機関部など、致命傷となる部分はいくらでもあるし、艦底から甲板まで3000度の熱を発生させれば、一瞬で溶解する。

「本国へ帰れば、いくらでも聞き出す手段はあるんだよ。薬を使うとかね。」
「だから、知らないんだって。」
「この義手も、今はシリコンをはがしてフタを開けるところまでしかできないけど、バラシて全部のデータを吸いだせばいくらでも解析できるんだよ。」
「だったら、とっととやればいいだろう。」
「残念だが、船の設備では機能が不足していてね。万一、全データ消去とメモリの上書きとか自爆なんてされたらせっかくの手柄が消えてしまうからね。」
「本国。コークリまでは、南ルートで遠回りする必要があるから1週間程度か。それまで、防衛庁が黙っているとは思えないけどね。」
「そうだね。ニュースでも三ツ星が強制捜索を受けたって報道されているよ。私も国際指名手配の身になってしまったからね。」
「それが落ち着いているということは、この船はコークリ国の船籍ではなく、中南米あたりの国籍ってことか……。」
「ほう。これだけの情報でそう推理するかね。まあ、時間はタップリあるんだ、ゆっくり楽しもうじゃないか。」

 山岸は義手を持って部屋から出て行った。
 部屋には簡易トイレが置かれているだけで、ほかに何もない。
 義手のない俺には、何もできなかった。

 
 今回の発端は、シールド装置のことで確認したいことがあると三ツ星から防衛庁に問い合わせがあり、本来であれば防衛庁内部で対応するところを、息子の件で直接詫びたいという副社長のごり押しを聞き入れてしまったことにある。
 当然、防衛庁のスタッフも同行したのだが、副社長との懇談にセットされた1時間で俺は眠らされ、誘拐されたわけだ。
 時間を確認できるものはないが、体感からは3から4時間程度。
 貨物船であれば、自転車と同じくらいの速度と聞いたことがあるので、まだ100kmは移動していないだろう。

 だが、今の俺にできることはない。 


【あとがき】
 第一章終わりです。
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