天と地と空間と海

モモん

文字の大きさ
上 下
2 / 51
第一章

第2話 監視衛星を追尾するドラゴン

しおりを挟む



 魔人が襲撃してくる目標が巫女だった場合と、獣人達だった場合では対処が全然変わってくることになる。

「只人のはるひ様が襲われたと言うことは……っ今すぐこの村人の避難をさせなさい。戻れないことも念頭に、すみやかに!」

 さっと後ろに控える護衛兵士達に叫ぶスティオンに、慌てて首を振ってみせた。

「あのっ待ってください! 違う かも、なんです……もしかしたらですけど…………」

 スティオンを遮ったオレに、かすが兄さんは困惑した瞳を向けてから首を振る。

「スティオン、指示は他に任せて先にはるひの治療を」
「わかりました。どうぞ中に、道具を持ってきますのでその間に浄化をお願いします」

 さっと宿に駆け込んでいったのを見ると、この宿がかすが兄さん達の拠点なんだろう。

「とにもかくにも、傷の手当だ、怖かったろう? すぐに浄化してあげるから……」

 オレの右手に手をかざそうとしたのを遮って首を振ると、かすが兄さんは困ったように柳眉をほんの少し寄せてどうした? と言う表情を作ってみせる。

「その黒いシミを消してしまうだけだから、痛かったり苦しかったりするものじゃないよ? いつも浄化の光を当てているだろう? あれと一緒だ、だから安心して……」

 にこにこと再び手を伸ばそうとしてくるのを止め、オレは右手を胸の前まで持ち上げた。

 右手は小さな子供が黒いマジックで落書きしたかのような黒いシミの筋が、幾本も幾本も絡まるように肘近くまで這っている。
 それが、あの魔人の這った後なのだと思うと……

 本能が引き起こす嫌悪からくる吐き気に、ぐっと喉が鳴った。

「怪我が痛むんだろう? 早く治療しよう!」
「見ててください。きっと、魔人がオレを襲った原因だと思うんです」
「な に  」

 神の寵愛が厚いと言われるかすが兄さんの前で力を使うことに抵抗がなかったわけじゃない。
 なんでオレが? とか、只人なのに? とかいろいろな葛藤が胸をチクチクと刺激したけれど、魔人が巫女以外を襲うのか襲わないのかの判断を誤ってしまうのはまずいと思った。

「  ──── 」

 すぅっと息を吸い込む瞬間、いつもより清浄な空気が肺に入った気がした。
 明確なこれだと説明できることはなかったのだけれど、それでもオレは自分の体内にかすが兄さんとよく似たものがあるんだってことがどうしてだか感じ取ることができて……

 それをすくい上げるように気持ちを込めてやれば、クラドに見せた時のように銀色の雫をころころと掌で躍らせてみせる。

 美しい銀色の球は水のようにぐにぐにと形を変えながらかすが兄さんの顔を映し込んだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...