スコップは多分武器ではない……

モモん

文字の大きさ
上 下
40 / 41
第二章

第40話 自我のめばえ

しおりを挟む
 妖精たちによるスカウト……というか勧誘?は凄まじく効果的だった。
 それだけ世界に不幸な子供たちが溢れている証拠でもある。

 俺は毎日のように宿舎を増設し、メイドさんを増やしていく。
 アンズさんには、各国で寝具や寝巻などもそろえてもらっているので、子供たちに不自由な思いはさせてないとおもう。

 連れてきた子供たちは、まず健康状態をチェックし、療養の必要があれば専用の施設で保護する。
 健康な子供達は、体を清潔にして服と食事を与え、住居を提供する。
 子供たちの世話は、メイドさんにお任せなのだが、みんな子供たちに優しく接してくれている。
 子供たちの髪を整え、眠れない子供には添い寝をしたりしてコミュニケーションをとってもらう。
 精神的に不安定な子供のカウンセリングを行ったり、健康状態に気を配るなど、本当に負担をかけていると思う。

 集まった子供たちは30人単位で一つのクラスとし、そのクラスで集団生活を覚えてもらい2年かけて教育を施すのだ。
 最初はこの国の言葉を教え、読み書きと簡単な計算。それと生活魔法。
 年長者には小さい子の世話をしてもらったり、リーダー的な役割も担ってもらう。
 特筆する能力があれば、ここで専門課程にいく子を選別することもある。
 将来的には、職業を選択してコースの専門知識を学んでもらいたいが、今は準備不足だ。

 2年目は布づくりと加工だ。
 綿花から糸を繰り出し、糸から布を織る。
 ほとんどは魔道具により自動化されているが、布の出来上がる仕組みを理解してもらうのだ。
 そして最後の三か月で、ミシンを使って服を作ってもらう。
 この服は、受け入れた子供たちの服だったり、自分の服だったりする。

 卒業後は、自分の国に帰るか、この国に留まるか選択してもらう。
 これは強制できないので、あくまでも自由意志だ。

 国に留まる場合、選択肢は3つ。
 エルフの工房か、ドワーフの工房か、鬼娘の工房だ。
 授業の中で特徴は説明してあるし、特別講師として呼んでいるから、イメージはわくだろう。


「ススムさん。」
「はい。」
「こんな素敵な仕事を与えてもらって感謝いたします。」
「いや、助かっているのはこちらですよ。」
「童話の中で不幸な子供を導くのは、女神だったり天使だったり、魔法使いだったりするんですけどね。」
「はい。妖精の場合もありますけどね。」
「そうなんです。これこそが妖精の本質なんだって、みんな気づいてしまったんです。」
「妖精の……本質?」
「はい。私たちには親とか兄弟はいません。」
「そうですね。生命の樹から誕生するんですよね。」
「ですから、仲間に対する家族意識が強いんですよ。」
「はい。」
「今回のように、誰かが病気の孤児を見つけて転送するとみんなで喜ぶんですよ。」
「みんなで?」
「はい。誰が助けたとかいう意識は私たちにありません。一人の子供を助けられたという意識だけが残って、手遅れになる前に見つけられて良かったと皆が幸せになれるんです。」
「へえ、皆さん優しいんですね。」
「……ススムさんは、優しさと憎しみは伝染するのをご存じですか?」
「伝染……ですか?」
「はい。憎しみは憎しみを生んで連鎖します。」
「ああ、それはわかります。」
「同じように、優しい人がいると、周りの人も優しくなるんですよ。」
「へえ、知らなかったです。」
「例えば、子供を受け入れるメイドさんの笑顔は優しく、慈愛にあふれています。」
「そうですね。とっても優しい笑顔だなって、いつも感謝しています。」
「でもね、それってススムさんが子供を見る目なんですよ。」
「えっ、僕の?」
「ススムさんの笑顔がメイドさんにうつって、それが私たちにもうつってきたんです。だから、最初はススムさんの優しさなんですよ。」
「僕なんか……。」
「意識を共有している私だから分かるんです。」

「そうか、メイドさんや妖精の皆さんの笑顔って優しくていいなって思っていたけど……。」
「そのメイドさんなんですけどね。」
「はい。」
「彼女たちにも自我が生まれているんですよ。」
「えっ?」
「彼女たちとも意識を共有しているから分かるんです。」
「ゴーレムに……自我ですか……。」
「ニホンのシントウの考え方では、万物に神が宿ると言いますよね。」
「た、確かに。」
「神とまでいかなくても、物に意思が宿るという考えは妖精の中でも信じられています。私たち自身が植物から発生していながら、こうして意識を持っていますからね。」
「……そうですね。俺自身も彼女たちをモノとはおもっていないし、意識して接するようにしてみます。」
「メイドさんは、私たちに近い存在だと思いますよ。」

 妖精は、人さらいの汚名を受けている場合がある。
 妖精が現れたという目撃証言と、浮浪児が消えたという情報が重なるからである。
 そこで俺はアンズさんを使って噂を流すことにした。
 姿の見えなくなった子供たちは、妖精の国で幸せに暮らしているというもので、あわせて童話作家に妖精と子供たちの話をいくつか書いてもらい、絵本を出版した。
 2年後になれば、何人かの子供たちが国に帰り真実を伝えてくれるだろう。


 妖精が得意とする魔法は、主に自然の中に同化するものらしい。
 そして俺は、かくれんぼの鬼にさせられていた。
 指定した区画の中に、妖精やメイドさん、エルフたちが100人隠れていて、それを1時間以内に見つけられれば俺の勝ち。
 負けたら見つけられなかった全員にアイスクリームを奢るという、俺にはまったくメリットのないゲームに付き合わされていた。
 30分で60人を見つけたのだが、ここから難易度があがった。
 主に妖精たちがまったく見つけられないのだ。
 同化されていても、意識を集中すれば呼吸や微かな胸の隆起を感じることができるはずなのだが、気配を完全に断つことなど可能なのだろうか……。

「そこだー!」
「キャッ!」

 見つけた証に、相手にタッチしなければならない。
 俺にはハードルの高いゲームだ。

「見つけた!」
「くっ!」

 例えば草や木の葉の不自然な動き。小枝の揺れ。
 あらゆるものに意識を集中して参加者を探していく。

 残り10分で95人まで捕まえた。
 あと5人。

「そこだ!」 「そこだ!」 「そこだ!」

 だが、最後まで2人見つけられなかった。

「完敗だよ。どこにいるんだ?」
「へへっ、ここでした。」 「残念でした。」
「ふふっ、二人見つけた。」
「えっ?」

 その時、ビーッという終了のブザーが鳴った。

「ずるい!」
「これだから人間は信用できない。」

 一人は俺の影に同化し、もう一人は落ち葉の裏に隠れていた。
 まあ、全員分のアイスは作ってやるか。

 アイスクリームの材料は、牛乳、卵黄、生クリーム、砂糖の4つだ。
 結構簡単にできる。

「美味しいです!」
「冷たーい!」
「甘いです!」

 甘いもの好きな妖精にも大人気だ。

「何でもっと量産しないのですか?」
「砂糖がまだ高価だからね。」
「もっと作れないんですか?」
「サトウキビは南の……あっ、そういえば……」

 俺はさとう大根と甜菜でサーチしてみたがヒットしなかった。
 そのため、種を掘り出し、翌日には「甜菜の栽培と製糖」という本を掘り出した。
 日本では北海道で作っていたはずなので、北海道に該当する位置の島と、アルトの北部で栽培を試みることにした。
 

【あとがき】
 日本でとれる砂糖は、沖縄のサトウキビと北海道の甜菜。一部四国などで栽培される在来種のサトウキビを使った糖類もあるようです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

防御に全振りの異世界ゲーム

arice
ファンタジー
突如として降り注いだ隕石により、主人公、涼宮 凛の日常は非日常へと変わった。 妹・沙羅と逃げようとするが頭上から隕石が降り注ぐ、死を覚悟した凛だったが衝撃が襲って来ないことに疑問を感じ周りを見渡すと時間が止まっていた。 不思議そうにしている凛の前に天使・サリエルが舞い降り凛に異世界ゲームに参加しないかと言う提案をする。 凛は、妹を救う為この命がけのゲーム異世界ゲームに参戦する事を決意するのだった。 *なんか寂しいので表紙付けときます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

処理中です...