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第二章

第37話 非常用脱出ボート

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 開戦当日。ヤード王国側の軍艦は、計画通り日の出と共に砲撃を開始し、フラン帝国とネグダの私兵も同時に砲撃を始めた。
 アルト王国側は、前夜よりシールドを展開しており、砲撃の開始される時刻には全員が持ち場で待機している。

「着弾を確認しました。反撃をお願いいたします。」

 分隊長からメイドさんが要請を受ける。

「承知いたしました。」

 メイドさんのマジックバッグから一万匹のイナゴさんが飛び立っていく。
 3箇所の様子を、俺とアルは会議室の壁に投影された画像で確認している。
 当然、音声付きだ。

 敵に向かって飛んでいくイナゴさんの大群は、黒い靄のように見える。
 徐々に剥がれていく外装。倒れる帆柱。
 陸上では、徐々に小さくなっていく砲身や盾・鎧。分解していく馬車。
 噛り付いたイナゴさんを引きはがそうとする兵士も見える。

 やがて四つ目の動画が投影される。
 ハルの率いる小隊が、ネグダの領主邸に突入するシーンだ。
 メイドさんの姿も見える。

「なあ、ヤードの船内や、フランの内部が映されているってことは、スライム君が中に入り込んでいるってことだよな。」
「ああ。なんだったら、ヤード国王の寝顔も映せるぞ。」
「ああ、ヤードはまだ夜明け前なんだな……。」

 数時間後、金属を食べつくしたイナゴさんが帰ってくる。
 各分隊は、捕虜を捕えるための行動に移行する。
 船の曳航にはアリエルさんが協力した。

 そして更に数時間後、下着姿の総司令官を連れて、半蔵君が国王の元に転移した。
 もちろん、俺たちは会議室でモニターしている。

「な、何者だ!」
「初めてお目にかかります。私、ヤマト国参謀の半蔵と申します。」
「ヤマト国だと!そんな国は知らん!それに、ヤーブル、なぜこんなところにいる!」
「ヤード王国の艦隊30隻は壊滅しました。それをご理解いただくためにヤーブルさんに同行していただきました。」
「壊滅だとぉ、本当かヤーブル!」

 ヤーブルさんは力なく首肯します。
 
「許可を出すまで、発言は禁止しています。はい。では、本日お邪魔した用件ですが、こちらの賠償に関する通達です。」
「通達だと!」
「はい。合意がなくても、当方で回収していきますのでご心配は無用です。」
「ふざけるな!」
「本気でございます。フランと結託しての暴挙。アルト王国としても許容できませんので、人質3万人の返還金としていただいてまいります。」
「兵士は……無事なのか?」
「事故で亡くなった方がいるかもしれませんが、こちらは攻撃しておりませんので殆どの方は無事だと思います。」
「兵士の返還は……」
「ああ、今、国の金庫から金貨……300万枚をいただきましたので、まだ足りませんが、順次転送いたしましょう。」

 メイドさん二人で、順次城の中庭に兵士が転送されていく。
 ざわめきに気づいた国王が窓から確認したようだ。

「なぜ、皆下着なのだ……。このような辱めを……。」
「誤解ですよ。鎧や兜をなくしてしまっただけですが、その辺りは後でヤーブルさんに確認してください。」
「鎧をなくしただと……。」
「あっ、陛下の私財から金貨90万枚を回収したそうです。残りの110万枚は品物でいただきましょう。」

 その時、偉そうな高齢の男が駆け込んできた。

「陛下、大変で……何者だ!……ヤーブル?」
「どうした?」
「地下の金庫から、金貨が消えてしまいました!」
「なに!」
「申し上げたではないですか。金貨300万枚はいただきましたよ。」
「ど、どうやって……。」
「ほら、人質の皆さんを送っているのと同じ方法ですよ。」
「馬鹿な……。」
「あっ、金貨の代わりに、港に停泊中の軍艦20隻をいただくみたいですね。」
「それを取られたら……。」
「それから、大砲100門と砲弾が5000発。最後に、食糧庫の小麦500袋だそうです。」
「本当に持っていくのか……。」
「それから、その通達に書いてありますが、陛下の退位を求めます。猶予は72時間、三日ですね。」
「わしに退位しろと……。」
「実施されない場合、追加の制裁が実施されますので、ご承知おきください。では、これで失礼いたします。」

 中継画像から半蔵の姿が消えた。

「次はフランだね。」

 画像はフランの会議室らしい場面に切り替わっている。
 突然現れた半蔵と下着姿の総司令官に驚いている。

 フランでも同じように金貨を回収し、人質を送還していく。
 今回は、人質の中にフランドル家の家人とネグダ領主の家人が含まれている。
 フランドル子爵とネグダ領主は処刑される予定なので城の牢に拘留されている。

「じゃあ、うちは金貨450万枚と小麦を貰っていくからな。」
「船と大砲は要らないのか?」
「大砲は要らないな。船は……先に鹵獲したやつを5隻もらっていこうか。」
「何に使うんだ?」
「そうだな、推力を魔道具に変えて、マストを撤去するだろ。」
「鉄の装甲はつけないのか?」
「ああ。シールドを展開すれば同じだからな。大砲の代わりに氷の槍を打ち出す魔道具をつけて……。」
「なあ、残りの15隻も同じように改造してくれよ。」
「しょうがねえな。色はどうする?」
「お前んとこはどうするんだ?」
「そうだな、白地で青の縁取りをしようかな。」
「……、じゃあうちは白地に赤の縁取りだ。ああ、5隻は白地に緑の縁取りで頼む。」
「了解だ。」

 船の改修は、留学生たちに任せることにした。
 サポートにダイクさんとメイドさんをつけてある。
 魔道具は単に水流を発生させるだけだし、特に難しいことはないだろう。
 それに、小麦を入手できたので、ピザを焼いたり、たこ焼きを作ったりと、みんなで楽しむことができた。

 20日後、一隻目が完成した。

「じゃあ、試験航海で竜島をまわろうか。」
「「「はい!」」」

 航行速度は約時速40km。

「まあまあだな。港があれば、浜でバーベキューでもできたんだが。」
「ススム様、上陸用の小舟……いえ、多人数用のキックボードがあれば、こういう場所でも上陸できますよね。」
「君はたしか……。」
「アルト王国から来ました、キリスです。」
「そうか、キリス、それを作るとしたら、どんなイメージだ?」
「キックボードのハンドルだけのイメージで、それを丸太の穴に差し込んで臨時の乗り物にしたらどうでしょうか。」
「丸太か、それなら外装に付け加えても違和感はないな。」
「はい。あくまでも一時的な利用なので、ステップはつけないで、丸太に跨るだけです。一本に8人くらい乗れるようにすれば、13本あれば100人用の脱出装置が作れます。」
「面白そうだな。追加装備として次の船用に考えてみてくれ。」
「はい!」

 次の船に試作品を搭載したのだが、やはり丸太に跨るのはお尻が痛いと苦情が殺到した。
 3隻目には、乗る部分を少し削って、平らにしたものを採用。

「よーし、全員脱出艇に乗って浜に上陸する。」
「「「はい!」」」

 全員で中型のドラゴンを一頭狩って、その場で解体。
 バーベキューを開始した。

「やっぱり、自然の中で食べるお肉っておいしいです。」
「不思議なんだよな。野菜ってあんまり喰わないんだけど、こういうところだと美味いんだよな。」
「お前!なんで一人だけ貝を焼いてんだよ!」
「だって、ちょっと掘ったら出てきたんだもの。口が開いたらお醤油を……。」
「ずりいぞ!俺も探してみる。」

 こうして、3隻目も無事就航した。


【あとがき】
 まあ、船なんて使わないんですけどね。
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