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第二章

第30話 アリエルさん

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 国王の名前はアルベルト・フォン・ギルダーといった。
 35才の若い国王で、濃い茶のくせ毛は短髪ながらきれいなウエーブを描いている。
 ラインハルト副隊長とは従兄弟同士の間柄で、年齢の近い二人は遠慮のない関係を築いていた。
 子供のころからの呼び方で、アルベルトはアル、ラインハルトはハルと呼び合っており、俺もそのように呼べと強要された。

「それで、ヤマト国の技術や知識を与えてもらうことは可能なのか?」
「若い人を留学生として受け入れることは可能ですよ。」
「ススム、兵士の留学も受けてくれるのか?」
「ハル、兵士としての留学はありませんけど、魔法師や魔道具師としてなら受け入れますよ。」
「なあススム。この国は東西が広くて、端の町まで馬車で2日かかるんだ。」
「ブランドン王国で、空を飛ぶ馬車の運用を検討中です。それを使えば、500kmを3時間で移動できます。」
「それは、是非我が国にも導入してもらいたい。」
「一番簡単な方法があるんですけど……。」
「どんな方法だ?」
「そのプロジェクトを任せているのが、ブランドン王国の次期王女で、31才独身です。気立てのよい優しい娘なんですが、目つきが悪いんですよ。」
「アル、国民のためだ。その王女を嫁に迎えろ!」
「ハル、お前だって独身じゃないか!」
「実は、もう一人とっておきがいるんですよね。」
「「どんな娘だ?」」
「俺の義姉になるんですけど、エルフで220才です。」
「220だとぉ!」
「ヤマト国の魔法学等の中心になっている人で、すごい美人なんですよ。見た目は30才くらいです。」
「それって、とんでもない掘り出し物ってことだよな。」
「ええ、だから国からは出しませんけどね。」
「アル、おまえしかいないな。時々帰ってきて知識を伝授してくれればいいから。」

 夜更けまで話し込んだ俺たちだったが、そのまま朝を迎え、自動小銃を試射して見せた。

「ススム、これ一丁で戦が変わっちまう……。」
「でも、魔法防御の障壁で無効化できちゃうんですよ。だから、魔物の暴走や大型種用ですね。」
「だが、相手がそのシールドを使えなけりゃ問題ないだろう。」
「その場合は、強力な殺戮兵器になってしまいますね。」
「こんなものを人に向けて撃ったら眠れなくなるな。やるなら、船体や帆の破壊だ。」
「じゃあ、二人に一丁づつ貸しておきますよ。それとマジックバッグの小型版も一緒にね。ああ、キックボードもおまけしておきます。」
「い、いいのか?」

 ハルにはケブラー繊維のボディースーツも渡しておく。これで、戦死の確率はぐっと下がるはずだ。

「じゃあ、俺は帰ります。何かあったらこのアンズに連絡してください。」
「おいおい、ヤマトの人間が住んでいたのかよ……。」
「ええ。世界中の国に手配していますからね。」
「こんな国に喧嘩を売ろうとした大臣をどうにかしないとな。」
「まあ、留学の話をすれば何も言えなくなるさ。じゃあ、10日後までに対象者を決めておくからな。」

 こうして俺は帰国した。
 アルト王国とは、いい関係を築いていけそうだ。

 帰国した俺は、夕べ考えておいたレアアイテムを掘り出した。
 これぞ、男のロマンといってもいいだろう。
 紺のケブラー繊維が眩しい。

 俺は早速ライラに手渡して着用を勧めた。

「なにコレ?」
「ケブラー繊維で編んだ最高級の防具なんだ。物理と魔法の障壁を備え、身体強化もプラス10。スリムな体にこそフィットする”スク水アーマー”だ。」
「?前にもらったケブラー素材のボディースーツとどこが違うの?」
「えっ……。」

 いけない、すっかり忘れていた……。
 それなら、ボディースーツを渡していない子にターゲットを変更だ。

「えっ、私戦闘とか好きじゃないので要りません。」
「そうですよ、私たちは飛行馬車の開発で忙しいんですから、邪魔しないでください。」

 だったら、普通の冒険者で我慢するか。
 前にダンジョン攻略で顔見知りになったパーティーもあるし……。

「えっ、いいんですか。この胸当てボロボロだったので助かります。」
「あはは、防御力は最高級だから役に立つと思うよ。」

 冒険者の女性は喜んでくれた。
 その場で着替えてくると宿に戻っていった。
 ああ、ついに……。

「あれっ?スク水アーマーは?」
「ちゃんと内側に着てますよ。インナーが防御力バッチリなので、上から普通の服を着るだけなんて画期的ですよね。軽いし、動きやすいので最高ですよ。」
「ちょっと胸が窮屈だけど、ススムのお勧めなら安心だもんね。」

 こうして俺の夢は潰えてしまった。

「ススム様、よろしければわたくしが。」
「いや、いい。」

 スク水姿のメイドさんは違うと思う。
 それを連れて歩く自分を想像して断念したのだった。


「どうしたの、ここ数日元気ないじゃない。」
「い、いや、そんなことはない……ぞ。」
「そうそう、ヒヨコがどんどん産まれているみたいよ。エサが足りないって連絡がきたみたい。」
「ああ、明日用意するよ。」

 ヒヨコもカイコも産業として順調に回っている。世界各地から仕入れてきた農作物も順調に育ち、トウモロコシを食べられる日も近いだろう。
 食肉ダンジョンの運用も始まり、アルト王国留学生の面接と受け入れも終わって、今のところやることはない。
 今の俺は、やり切った感満載で、目標を失った中途半端な状態なのだ。

「ふうっ……。」
 
 何度目の溜息だろうか。
 明日掘り出すアイテムのことさえ考えたくない。
 突発性横着病なのだろうか……。

 不意に柔らかく抱きかかえられた。
 ライラ……

「知ってる? エルフには愛する人を癒す特殊能力があるのよ」

 いや、聞いたこともないぞ……

「何も考えなくていい
 もう頑張らなくていいから」

 涙があふれてきた……

「だって とか
 でも とか
 考えないで」

 ライラに連れられてベッドに横たわる
 子供のように手足を抱え込む俺を 優しく包んでくれるライラ
 そのまま俺は 何も考えずに深い眠りに落ちていった
 落ちていくという表現は正しくない 吸い込まれていくのだ



 何時間眠ったのだろうか。
 目覚めたのは昼だった。
 24時間?
 ライラに聞くと、丸二日寝ていたそうだ。
 考えていなかったのだから、大地を掘っても土しか出てこない。

 もったいないとかいう感覚もなかった。
 これは、再生のために必要なこと。
 俺はライラを抱きしめ、感謝を言葉にした。
 ライラは優しく微笑むだけだった。


「一週間後のブランドン国王就任式に向けて準備をお願いします。」

 俺からのプレゼントは、場内すべてのトイレを、温水洗浄便座に取り替えること。
 もちろん、国王の自宅を含めてである。

 自分の再生後、最初に掘り出したのは、マーメイド型深海作業用ゴーレムだ。
 主目的は魚介類の捕獲で、主に深海域に生息するカニである。
 最大種のタカアシガニは、たしか水深500メートルを超える深海にいるらしい。
 ほかにもタラバガニやイセエビ、セミエビなど、美味しいものが多いし、貝類も捨てがたい。
 漁が始まったら醤油蔵や味噌蔵も掘り出そう。できればワサビも探したい。
 
 俺は海岸に移動し、マーメイド型深海作業用ゴーレム・アリエルさんを起動して指示を出した。

「君たちはタカアシガニやタラバガニなどをお願いします。」
「かしこまりました。」
 
 指示を受けたアリエルさん達がチャポンと水音を立てて海へ飛び込んでいく。
 栗色の髪は胸まで垂れ、ややくせのある髪が身体にまとわりついて艶めかしい。
 肩ひものないビキニタイプの黒いブラだけが衣装といえるが、実は下半身の鱗の切れ目にそってマジックバッグの切れ込みが入っている。
 カニの他にもエビを担当とするチームや貝を担当するチームもある。
 久しぶりにワクワクがとまらない。

【あとがき】
 アリエルさんは、24時間体制で漁をするのでしょうか……。
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