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第二章
第20話 ナイル
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母なるナイル川に沿って発展している国ナイル。
さすがにブランドン王国の貨幣は使えないので、メイドさんに魔法石を売ってもらおうと思ったのだが、値はつかなかった。
それよりも金のほうが流通しているとのことで、俺たちは持っていた金を売りさばいてナイル国の貨幣を手に入れた。
そして今、そのお金をもって市場を見学している。
「フルーツや宝石類だけじゃなく、布……これはコットンかな、それとパンもふっくらしているね。」
「とても暑いんだけど、ここでは魔法で涼しくしようとか考えないのかしら。」
「魔法石も流通していないようだし、魔法自体が研究されていないんじゃなうかな。」
俺たちは数種類のフルーツと野菜を買い込んで、市外から少し離れた場所にシェルターを設置し涼むことにした。
「ああ、やっぱりシェルターは快適ね。」
すると、乱暴にドアをたたく音が響いた。メイドさんが対応する。
「この建物は何だと聞いていますが、正直にお応えしてもよろしいですか。」
「ああ、任せるよ。適当に答えていいからさ。」
数分やりとりが続いたあとで騒ぎが大きくなった。人が増えたみたいである。
「この国の王女様がおみえになったようですが、どうしましょう。」
「王女か、無下にするのも悪いから、シェルターに入ってもらってよ。お供は、二人まで許可するからさ。」
王女と次女二人を招き入れて紅茶を提供する。
三人ともに、ノースリーブの白いワンピースみたいな服装で、そこから小麦色の肌が覗いている。
王女と思われる少女は、結い上げたうなじからほつれ毛が出ている。まだ中学生くらいだろうか。
「わらわは、ナイル国第9王女のネタリじゃ。そなたたちはどこからやってきた。」
通訳のメイドさんを介しているのだが、それほどの不自由はない。
「俺たちは、東のあるヤマトという国からやってきた。俺は国の代表ススム・ホリスギという。まあ、どんな国なのか立ち寄っただけで、他意はない。」
「この国はどうじゃ。」
「暑い。」
「それは仕方あるまい。太陽神であるラーの恵みじゃ。だが、なぜこの中は涼しいのじゃ。」
「魔法で涼しくしている。この国には、こういう魔法はないのか?」
「この国にも魔法使いはいるのだが、それは魔物との戦闘や治療に使うもので、こういう生活に直結した魔法はない。」
「そうか、ならばこういうのはどうだ。」
俺はメイドさんに氷の入ったジュースを出してもらった。
「これは果汁なのか?」
「ああ、オレンジの果汁を飲みやすく薄めたもので、冷やして飲むとうまいだろ。」
「おいしい!」
「腹は減ってないか?良かったら何か食っていくか?」
「お前たちの国の食事なのか?」
「まあ、そんなことろだ。」
おれはメイドさんに言って、焼肉バーガーを作ってもらった。
ハンバーガータイプのパンに、醤油で甘辛く炒めた焼肉を挟んだものだ。レタスと薄切りトマトが見た目的にも鮮やかな一品である。
いただきますと元気よくパクついた王女だったが、やがて租借を終えて飲み込むと、目に大粒の涙を浮かべて言った。
「こんな美味しいものを食べていたら、お前たちが、いつか神の怒りに触れてしまう。」
「?」
「じゃから、ススムが神の怒りに触れぬよう、わらわが神の怒りを一手に引き受けてやろうと思う。」
「姫様、それは……。」
「ススムよ、おまえにわらわの夫となることを許そう。」
「「まあ!」」
俺は三人にチョップを叩き込んだ。
「まあ!じゃねえよ。」
「いたっ!何をする、花嫁に向かって!」
「俺にはもう妻がいる!」
「それが何だというのじゃ。」
「へっ?」
「ならば、わらわは第二夫人となるのじゃな。よいではないか。早速父上に……。」
「何が”父上に!”だよ。」
「そうですわ。私が第二夫人……。」
「お前も違うよ!」
俺はイライザのボケに突っ込んだ。
「そういえば、その指はどうしたんだ?」
ネタリの左手は、小指と薬指が掌の一部ごとなかった。
「これか、小さいころワニに齧られたんじゃ。小さいワニじゃったからこれで済んだが、大きかったら腕ごと食われていただろうな。」
「不便なら治してやろうか?」
「あはは、馬鹿をいうな。人の体は、失ったものが再生することはない。」
「私のこの足も、三か月前までは膝から下がなかったのよ。」
「笑わせるな。そんな与太話を信じるほど愚かではないわ。」
「まあ、お前が望むかどうかだからな。一生今のままでいいならそれでいいだろう。」
「……もしも、お前のいうことが本当なら……。」
「なら?」
「目の見えない者や、耳の聞こえない者を治すことも可能なのか?」
「やったことはないし、状況によっても効果は違うだろうが、試してみる価値はあるかな。」
「そうね、人体修復の範囲に入るかどうかね。」
「すまぬが、屋敷まで来てくれないだろうか。」
「ここに連れてこれないのか?」
「ここじゃあ狭いだろうが!」
ネタリの案内で、彼女の住む屋敷に出向いたところ、失明していると言っていたのはネタリの母親で、耳が聞こえないのはネタリの弟だった。
「母は3年ほど前から視力が衰え、今年に入ってから完全に見えなくなってしまわれた。」
「医者の知識はないから、なんとも言えないな。」
「エルフの間でも、稀に失明するものはいるぞ。原因はわかっていないが……。」
「弟のダリは、生まれた時から聞こえていないらしい。言葉が話せないというか、覚えられないみたいで、医者がいろいろ調べて耳が聞こえないのだろうと判断したみたいなのだ。」
「確かにそうでしょうね。生まれつきだと気づくのも難しいでしょうし。」
「まあ、試してみればいいさ。」
母親のネリーさんには言葉で説明して適当な大きさにカットした”人体修復シート”を瞼の上から貼り付けた。
弟のダリには身振りで納得させて理解させた。
そしてネタリの左手にも貼り付けて包帯で覆い、それぞれ一日様子を見ることにしたのだ。
翌朝、俺は砂漠から大きな木箱を掘り出した。
汎用人型ゴーレムの新作”アンズ”である。
容姿は、ブランドン王国宰相のところにいるアイリスに近く、標準仕様で濃い茶のポニテとニットのワンピース。茶の短いブーツとポシェット装備で100人だ。
ひと区画60cm四方の仕切りに収まっており、これが100人なので木箱も6メートル四方と巨大になってしまった。
これをメイドさんの収納に入れて、自宅で開梱し起動させる。
彼女は、各地に常駐させる予定だ。
30分もすれば、この国にもやってくるだろう。
自分の判断でその国の貨幣を入手し、標準的な服を手に入れたうえで、住居を確保させる。
これで俺はどこにいっても拠点があることになる。
主な任務は、町の有力者とのパイプ作りや産品の仕入れ・販売などで、状況にあわせて活動することになるだろう。
昼になって、俺はメイドさんに指示しておいたものを、容器に入れて皆に差し出した。
「これはなんだ?」
「ソフトクリームというスイーツだ。」
実は先日掘り出した百科事典には、スイーツ百科も含まれており、その記載内容についてはすでにメイドさんの間で共有可能な情報となっている。
「ホフトフィーム?」
「おっ、ダリ。俺の声が聞こえるんだな。」
ダリはキョトンとしている。
「これから言葉と意味を覚えていけばいいんだ。慌てずにね。」
俺の笑顔を見て、ダリも嬉しそうに笑っている。
「本当に、聞こえるようになったの?」
「声に反応しているから、大丈夫だと思うよ。」
ワーっと、ネタリが泣きながらダリに抱きついた。
「感動の場面に水をさして悪いが……、これは何なのだ。」
「牛乳とグラニュー糖で作ったスイーツで、ソフトクリームというんだ。」
「だから、なんでこんなものが突然出てくるんだ。」
「スイーツ百科に出てる……から?」
「なんだそれは、本……なのか?いったい、いつ……。いや、鑑定メガネで表示されているってことは……、そうなのか。」
「うん。ちょっとした魔法が使えれば簡単に作れるし、魔法なしでも大丈夫だよ。」
同席している全員でソフトクリームを堪能した。
侍女の女性もだ。
【あとがき】
添加物なしのソフトクリームは、少しシャリつく感じだそうです。作ったことはありませんけど。
さすがにブランドン王国の貨幣は使えないので、メイドさんに魔法石を売ってもらおうと思ったのだが、値はつかなかった。
それよりも金のほうが流通しているとのことで、俺たちは持っていた金を売りさばいてナイル国の貨幣を手に入れた。
そして今、そのお金をもって市場を見学している。
「フルーツや宝石類だけじゃなく、布……これはコットンかな、それとパンもふっくらしているね。」
「とても暑いんだけど、ここでは魔法で涼しくしようとか考えないのかしら。」
「魔法石も流通していないようだし、魔法自体が研究されていないんじゃなうかな。」
俺たちは数種類のフルーツと野菜を買い込んで、市外から少し離れた場所にシェルターを設置し涼むことにした。
「ああ、やっぱりシェルターは快適ね。」
すると、乱暴にドアをたたく音が響いた。メイドさんが対応する。
「この建物は何だと聞いていますが、正直にお応えしてもよろしいですか。」
「ああ、任せるよ。適当に答えていいからさ。」
数分やりとりが続いたあとで騒ぎが大きくなった。人が増えたみたいである。
「この国の王女様がおみえになったようですが、どうしましょう。」
「王女か、無下にするのも悪いから、シェルターに入ってもらってよ。お供は、二人まで許可するからさ。」
王女と次女二人を招き入れて紅茶を提供する。
三人ともに、ノースリーブの白いワンピースみたいな服装で、そこから小麦色の肌が覗いている。
王女と思われる少女は、結い上げたうなじからほつれ毛が出ている。まだ中学生くらいだろうか。
「わらわは、ナイル国第9王女のネタリじゃ。そなたたちはどこからやってきた。」
通訳のメイドさんを介しているのだが、それほどの不自由はない。
「俺たちは、東のあるヤマトという国からやってきた。俺は国の代表ススム・ホリスギという。まあ、どんな国なのか立ち寄っただけで、他意はない。」
「この国はどうじゃ。」
「暑い。」
「それは仕方あるまい。太陽神であるラーの恵みじゃ。だが、なぜこの中は涼しいのじゃ。」
「魔法で涼しくしている。この国には、こういう魔法はないのか?」
「この国にも魔法使いはいるのだが、それは魔物との戦闘や治療に使うもので、こういう生活に直結した魔法はない。」
「そうか、ならばこういうのはどうだ。」
俺はメイドさんに氷の入ったジュースを出してもらった。
「これは果汁なのか?」
「ああ、オレンジの果汁を飲みやすく薄めたもので、冷やして飲むとうまいだろ。」
「おいしい!」
「腹は減ってないか?良かったら何か食っていくか?」
「お前たちの国の食事なのか?」
「まあ、そんなことろだ。」
おれはメイドさんに言って、焼肉バーガーを作ってもらった。
ハンバーガータイプのパンに、醤油で甘辛く炒めた焼肉を挟んだものだ。レタスと薄切りトマトが見た目的にも鮮やかな一品である。
いただきますと元気よくパクついた王女だったが、やがて租借を終えて飲み込むと、目に大粒の涙を浮かべて言った。
「こんな美味しいものを食べていたら、お前たちが、いつか神の怒りに触れてしまう。」
「?」
「じゃから、ススムが神の怒りに触れぬよう、わらわが神の怒りを一手に引き受けてやろうと思う。」
「姫様、それは……。」
「ススムよ、おまえにわらわの夫となることを許そう。」
「「まあ!」」
俺は三人にチョップを叩き込んだ。
「まあ!じゃねえよ。」
「いたっ!何をする、花嫁に向かって!」
「俺にはもう妻がいる!」
「それが何だというのじゃ。」
「へっ?」
「ならば、わらわは第二夫人となるのじゃな。よいではないか。早速父上に……。」
「何が”父上に!”だよ。」
「そうですわ。私が第二夫人……。」
「お前も違うよ!」
俺はイライザのボケに突っ込んだ。
「そういえば、その指はどうしたんだ?」
ネタリの左手は、小指と薬指が掌の一部ごとなかった。
「これか、小さいころワニに齧られたんじゃ。小さいワニじゃったからこれで済んだが、大きかったら腕ごと食われていただろうな。」
「不便なら治してやろうか?」
「あはは、馬鹿をいうな。人の体は、失ったものが再生することはない。」
「私のこの足も、三か月前までは膝から下がなかったのよ。」
「笑わせるな。そんな与太話を信じるほど愚かではないわ。」
「まあ、お前が望むかどうかだからな。一生今のままでいいならそれでいいだろう。」
「……もしも、お前のいうことが本当なら……。」
「なら?」
「目の見えない者や、耳の聞こえない者を治すことも可能なのか?」
「やったことはないし、状況によっても効果は違うだろうが、試してみる価値はあるかな。」
「そうね、人体修復の範囲に入るかどうかね。」
「すまぬが、屋敷まで来てくれないだろうか。」
「ここに連れてこれないのか?」
「ここじゃあ狭いだろうが!」
ネタリの案内で、彼女の住む屋敷に出向いたところ、失明していると言っていたのはネタリの母親で、耳が聞こえないのはネタリの弟だった。
「母は3年ほど前から視力が衰え、今年に入ってから完全に見えなくなってしまわれた。」
「医者の知識はないから、なんとも言えないな。」
「エルフの間でも、稀に失明するものはいるぞ。原因はわかっていないが……。」
「弟のダリは、生まれた時から聞こえていないらしい。言葉が話せないというか、覚えられないみたいで、医者がいろいろ調べて耳が聞こえないのだろうと判断したみたいなのだ。」
「確かにそうでしょうね。生まれつきだと気づくのも難しいでしょうし。」
「まあ、試してみればいいさ。」
母親のネリーさんには言葉で説明して適当な大きさにカットした”人体修復シート”を瞼の上から貼り付けた。
弟のダリには身振りで納得させて理解させた。
そしてネタリの左手にも貼り付けて包帯で覆い、それぞれ一日様子を見ることにしたのだ。
翌朝、俺は砂漠から大きな木箱を掘り出した。
汎用人型ゴーレムの新作”アンズ”である。
容姿は、ブランドン王国宰相のところにいるアイリスに近く、標準仕様で濃い茶のポニテとニットのワンピース。茶の短いブーツとポシェット装備で100人だ。
ひと区画60cm四方の仕切りに収まっており、これが100人なので木箱も6メートル四方と巨大になってしまった。
これをメイドさんの収納に入れて、自宅で開梱し起動させる。
彼女は、各地に常駐させる予定だ。
30分もすれば、この国にもやってくるだろう。
自分の判断でその国の貨幣を入手し、標準的な服を手に入れたうえで、住居を確保させる。
これで俺はどこにいっても拠点があることになる。
主な任務は、町の有力者とのパイプ作りや産品の仕入れ・販売などで、状況にあわせて活動することになるだろう。
昼になって、俺はメイドさんに指示しておいたものを、容器に入れて皆に差し出した。
「これはなんだ?」
「ソフトクリームというスイーツだ。」
実は先日掘り出した百科事典には、スイーツ百科も含まれており、その記載内容についてはすでにメイドさんの間で共有可能な情報となっている。
「ホフトフィーム?」
「おっ、ダリ。俺の声が聞こえるんだな。」
ダリはキョトンとしている。
「これから言葉と意味を覚えていけばいいんだ。慌てずにね。」
俺の笑顔を見て、ダリも嬉しそうに笑っている。
「本当に、聞こえるようになったの?」
「声に反応しているから、大丈夫だと思うよ。」
ワーっと、ネタリが泣きながらダリに抱きついた。
「感動の場面に水をさして悪いが……、これは何なのだ。」
「牛乳とグラニュー糖で作ったスイーツで、ソフトクリームというんだ。」
「だから、なんでこんなものが突然出てくるんだ。」
「スイーツ百科に出てる……から?」
「なんだそれは、本……なのか?いったい、いつ……。いや、鑑定メガネで表示されているってことは……、そうなのか。」
「うん。ちょっとした魔法が使えれば簡単に作れるし、魔法なしでも大丈夫だよ。」
同席している全員でソフトクリームを堪能した。
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