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第二章
第19話 地中海沿岸
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夕方になり、ヤマトへの移住希望者が戻ってきた。
イライザの方でも5人の若者を連れてきている。
「ライラ、一緒に行って誘導してあげてください。」
「わかった。アパートでいいんだよね。」
「ああ、それで頼む。」
15人の移住者は、ライラと一緒に転移で消えていった。
「じゃあ、こっちはヒヨコさんだ。」
正確に言えば、もうヒヨコさんではなかった。
全部白い羽に生え変わり、鳴き声もピヨピヨからコッコッに変わっている。
「オス同士は喧嘩するから、そろそろ間引かないといけないな。」
「やっぱり、そういうのがあるんだ。」
「まあ、喧嘩が始まってから弱いのをはじけばいいんだけどね。」
「それで、どれを転送すればいいの?」
「半分だから、こっからこっちを送ってよ。」
「了解。メイドさん、向こうは大丈夫?」
「はい。準備はできています。」
「じゃあ、送ってください。」
「それで、ススムはこの後どうするの?」
「一通り用事は片付いたから、少しこの世界を見ておこうかな。」
「へえ、面白そうね。私もつきあうわ。」
「でも、その前rに宰相と打合せだ。」
「あの後どうなりました?」
「大臣は罷免のうえ資産の80%を没収。爵位および領地は剥奪して放免となります。」
「十分ですね。」
「王子の処遇は議論しているところですが、位の剥奪、資産没収のうえ国外追放あたりで落ち着きそうです。兵士も同様です。」
「そんなところでしょうね。」
「国王の責任についてですが、まあ賠償金の支払いになると思います。」
「いきなり王位返上は無理でしょうから、力を削いでいきましょう。賠償は国庫ではなく個人の資産でいただくよう要望しますね。」
「国としては助かります。」
「私の方に実害はありませんでしたが、賠償額は金貨5万枚といったところでしょうか。」
「その程度なら負担可能だと思います。」
「ところで、ガラエさんの身辺警護と情報共有のために、メイドさんを一人お貸ししてもいいと思っているのですが、使いますか?」
「こちらのメイドさんをですか?」
「この子の姿は皆が見ているので、外見を少し変えさせているんですが……。」
「準備はできております。」
メイドさんが教えてくれた。
「じゃあ、呼んでよ。」
転移でやってきたのは黒のパンツとベスト。白のブラウスにセミロングの茶髪を後ろでまとめ髪と同色の眼鏡フレームが印象的な、社長秘書のいでたちをしたメイドさんだった。
「僕のイメージで秘書官のスタイルにしました。魔法全般を使えますし、食事も睡眠も不要です。」
「ほ、本当に彼女を?」
「嫌でなければ。」
「これまでメイドさんを拝見していて、これほど有能なサポートがあったらどれだけ仕事がはかどるだろうかと夢想していたんですよ。まさか、夢がかなうとは。」
「ですが、彼女の知った情報は私に筒抜けになります。ただ、宰相が情報の公開を拒否した場合は、彼女が自分で判断するように言ってあります。」
「十分すぎる配慮に感謝します。それで、何と呼べば?」
「ご自身で名前をつけてあげてください。」
「……では、亡くなった妻の名ですがアイリスと。」
「それ、娘さんに”キモイ”とかいわれませんかね……。」
「そんな娘に育ててはおりませんぞ。」
「ああ、ススムが私の前に現れてから三か月か。」
「早いのか遅いのか分からないけど。」
「人生の中で一番あわただしい時間だったよ。」
「でも、楽しんでるだろ。」
「確かに……。これほど世界に楽しめる知識が溢れているとは思わなかったよ。」
「いいよなぁ、魔法が使える奴は。」
「メイドさんがついていれば、何も困らないだろ。」
「そうなんだけどね。魔法って世界を変えてるってイメージあるじゃん。」
「なあ、私の考えを言ってもいいかな。」
「なに?」
「これまで、重力という当たり前の現象にだれも気づいていなかった。」
「うん、意識しなくても物は落ちるからね。」
「お前が重力という言葉を持ち込んだ瞬間、それは制御可能な現象となり、魔法が生まれた。」
「まあ、そうなるのかな。」
「つまり、世界を変えたのは魔法じゃなくてお前の言葉だ。」
「言葉……が……。」
「空間なんて誰も意識していなかった。」
「そうだろうね。」
「だが、何もない空間を認識することで、空間を入れ替えるという発想が生まれ、転移が可能となった。」
「ああ、凄いことだね。」
「凄いのは魔法なのか?」
「えっ?」
「そうじゃないだろう。本当に凄いのは、魔法で変えられるかもしれない可能性を生み出した言葉と認識だ。」
「それは……。」
「魔法は、その事象を改変するツールにすぎない。」
「……。」
「自分がこの世界にもたらしたものを、もっと自覚するんだな。おやすみ。」
「……。」
やっぱり、イライザは頭がいい。物事の本質を理解しているから、ああいう言葉が出てくるのだろう。
魔法が使えないなんて大した問題じゃない。そのために魔道具があるのだから、魔法の使えない人間は魔道具を使えばいい。
「また本を掘り出してきたのか。」
「ああ。これから学ぶことが増えてくるからな、世界の動物図鑑、鳥類図鑑、魔物図鑑、昆虫図鑑、魚類図鑑その他大全集だ。」
「ふむ。確かに有用な本になりそうだな……。だが”人工ダンジョンの作り方”とか”オークの増やし方”とか”食肉モンスター専用ダンジョン運営”とか、何に使うんだよ!」
「だって、そういうダンジョンも必要だろ。オニ族の産業にもできるしさ。」
「考え方は、確かに理解できるさ。だがな、誰がその本を作ったんだよ!
イライザの叫びがシェルターに響き渡った。
「地中海みたいな海だけど、閉鎖的な海じゃなくてインド側に抜けているんだ。」
「インドとはなんだ?だが、この辺りは、温暖で穏やかな気候みたいだな。」
「フルーツの種類も多そうだから、町があったら降りてみようか。」
通訳はメイドさんがいるから問題ないだろう。というか、メイドさんを量産して、世界中に派遣しておけばいいのか。そうすれば、穀物とかの買い付けも恒常的にできるし、世界中の情勢を把握できる。
そういえば、海産物を専門に採取するアマさんやアリエルさんも魅力的だ。当然、トップレスで……。
「おい、エロおやじの顔になってるぞ。そんなに溜まっているのなら相手をしてやろうか?」
「い、いえ。お義姉さん相手にできませんって……。」
お義姉さんという言葉にも、卑猥な響きを感じてしまう。危ない、無心・無心。
「この国は、アッセルというそうです。」
地中海でいえば東側にあたる。
地球でいえばレバノン・トルコ・イラクあたりになるのだろうか。金属の加工が産業みたいで、そのためか森林が広い範囲で伐採されているようだ。
「なんで金属の加工が盛んだと森林が伐採されんだ?」
「高い温度で熱して金属を溶かすんだよ。溶かした金属を型に流し込んで必要な形にするのさ。」
「魔法を使えばいいのに。」
「結構高い温度が必要だからね。魔法の細かい制御が得意ではないのだろう。」
「ふうん、なんだかもったいないわね。」
「そうだね。森林が減るというのは砂漠化が進んだり、潮風が内陸部を吹き抜けたりと色々な問題があると思うんだけど、他国が介入する問題でもないしね。」
アッセルにはあまり興味をひく産品は見当たらなかった。
少し先のナイルは地球でいうエジプトにあたるのだろう。
南にあたるアフリカの方角から北に延びる大きな川沿いに町が展開している。
住民に確認すると、国名のナイルは川の名前でもあるという。
「面白そうな町だね。少し時間をかけて見ていこうか。」
【あとがき】
エジプト編ですね。歴史もあるし、多神教であったりといろいろな楽しみのある国です。
イライザの方でも5人の若者を連れてきている。
「ライラ、一緒に行って誘導してあげてください。」
「わかった。アパートでいいんだよね。」
「ああ、それで頼む。」
15人の移住者は、ライラと一緒に転移で消えていった。
「じゃあ、こっちはヒヨコさんだ。」
正確に言えば、もうヒヨコさんではなかった。
全部白い羽に生え変わり、鳴き声もピヨピヨからコッコッに変わっている。
「オス同士は喧嘩するから、そろそろ間引かないといけないな。」
「やっぱり、そういうのがあるんだ。」
「まあ、喧嘩が始まってから弱いのをはじけばいいんだけどね。」
「それで、どれを転送すればいいの?」
「半分だから、こっからこっちを送ってよ。」
「了解。メイドさん、向こうは大丈夫?」
「はい。準備はできています。」
「じゃあ、送ってください。」
「それで、ススムはこの後どうするの?」
「一通り用事は片付いたから、少しこの世界を見ておこうかな。」
「へえ、面白そうね。私もつきあうわ。」
「でも、その前rに宰相と打合せだ。」
「あの後どうなりました?」
「大臣は罷免のうえ資産の80%を没収。爵位および領地は剥奪して放免となります。」
「十分ですね。」
「王子の処遇は議論しているところですが、位の剥奪、資産没収のうえ国外追放あたりで落ち着きそうです。兵士も同様です。」
「そんなところでしょうね。」
「国王の責任についてですが、まあ賠償金の支払いになると思います。」
「いきなり王位返上は無理でしょうから、力を削いでいきましょう。賠償は国庫ではなく個人の資産でいただくよう要望しますね。」
「国としては助かります。」
「私の方に実害はありませんでしたが、賠償額は金貨5万枚といったところでしょうか。」
「その程度なら負担可能だと思います。」
「ところで、ガラエさんの身辺警護と情報共有のために、メイドさんを一人お貸ししてもいいと思っているのですが、使いますか?」
「こちらのメイドさんをですか?」
「この子の姿は皆が見ているので、外見を少し変えさせているんですが……。」
「準備はできております。」
メイドさんが教えてくれた。
「じゃあ、呼んでよ。」
転移でやってきたのは黒のパンツとベスト。白のブラウスにセミロングの茶髪を後ろでまとめ髪と同色の眼鏡フレームが印象的な、社長秘書のいでたちをしたメイドさんだった。
「僕のイメージで秘書官のスタイルにしました。魔法全般を使えますし、食事も睡眠も不要です。」
「ほ、本当に彼女を?」
「嫌でなければ。」
「これまでメイドさんを拝見していて、これほど有能なサポートがあったらどれだけ仕事がはかどるだろうかと夢想していたんですよ。まさか、夢がかなうとは。」
「ですが、彼女の知った情報は私に筒抜けになります。ただ、宰相が情報の公開を拒否した場合は、彼女が自分で判断するように言ってあります。」
「十分すぎる配慮に感謝します。それで、何と呼べば?」
「ご自身で名前をつけてあげてください。」
「……では、亡くなった妻の名ですがアイリスと。」
「それ、娘さんに”キモイ”とかいわれませんかね……。」
「そんな娘に育ててはおりませんぞ。」
「ああ、ススムが私の前に現れてから三か月か。」
「早いのか遅いのか分からないけど。」
「人生の中で一番あわただしい時間だったよ。」
「でも、楽しんでるだろ。」
「確かに……。これほど世界に楽しめる知識が溢れているとは思わなかったよ。」
「いいよなぁ、魔法が使える奴は。」
「メイドさんがついていれば、何も困らないだろ。」
「そうなんだけどね。魔法って世界を変えてるってイメージあるじゃん。」
「なあ、私の考えを言ってもいいかな。」
「なに?」
「これまで、重力という当たり前の現象にだれも気づいていなかった。」
「うん、意識しなくても物は落ちるからね。」
「お前が重力という言葉を持ち込んだ瞬間、それは制御可能な現象となり、魔法が生まれた。」
「まあ、そうなるのかな。」
「つまり、世界を変えたのは魔法じゃなくてお前の言葉だ。」
「言葉……が……。」
「空間なんて誰も意識していなかった。」
「そうだろうね。」
「だが、何もない空間を認識することで、空間を入れ替えるという発想が生まれ、転移が可能となった。」
「ああ、凄いことだね。」
「凄いのは魔法なのか?」
「えっ?」
「そうじゃないだろう。本当に凄いのは、魔法で変えられるかもしれない可能性を生み出した言葉と認識だ。」
「それは……。」
「魔法は、その事象を改変するツールにすぎない。」
「……。」
「自分がこの世界にもたらしたものを、もっと自覚するんだな。おやすみ。」
「……。」
やっぱり、イライザは頭がいい。物事の本質を理解しているから、ああいう言葉が出てくるのだろう。
魔法が使えないなんて大した問題じゃない。そのために魔道具があるのだから、魔法の使えない人間は魔道具を使えばいい。
「また本を掘り出してきたのか。」
「ああ。これから学ぶことが増えてくるからな、世界の動物図鑑、鳥類図鑑、魔物図鑑、昆虫図鑑、魚類図鑑その他大全集だ。」
「ふむ。確かに有用な本になりそうだな……。だが”人工ダンジョンの作り方”とか”オークの増やし方”とか”食肉モンスター専用ダンジョン運営”とか、何に使うんだよ!」
「だって、そういうダンジョンも必要だろ。オニ族の産業にもできるしさ。」
「考え方は、確かに理解できるさ。だがな、誰がその本を作ったんだよ!
イライザの叫びがシェルターに響き渡った。
「地中海みたいな海だけど、閉鎖的な海じゃなくてインド側に抜けているんだ。」
「インドとはなんだ?だが、この辺りは、温暖で穏やかな気候みたいだな。」
「フルーツの種類も多そうだから、町があったら降りてみようか。」
通訳はメイドさんがいるから問題ないだろう。というか、メイドさんを量産して、世界中に派遣しておけばいいのか。そうすれば、穀物とかの買い付けも恒常的にできるし、世界中の情勢を把握できる。
そういえば、海産物を専門に採取するアマさんやアリエルさんも魅力的だ。当然、トップレスで……。
「おい、エロおやじの顔になってるぞ。そんなに溜まっているのなら相手をしてやろうか?」
「い、いえ。お義姉さん相手にできませんって……。」
お義姉さんという言葉にも、卑猥な響きを感じてしまう。危ない、無心・無心。
「この国は、アッセルというそうです。」
地中海でいえば東側にあたる。
地球でいえばレバノン・トルコ・イラクあたりになるのだろうか。金属の加工が産業みたいで、そのためか森林が広い範囲で伐採されているようだ。
「なんで金属の加工が盛んだと森林が伐採されんだ?」
「高い温度で熱して金属を溶かすんだよ。溶かした金属を型に流し込んで必要な形にするのさ。」
「魔法を使えばいいのに。」
「結構高い温度が必要だからね。魔法の細かい制御が得意ではないのだろう。」
「ふうん、なんだかもったいないわね。」
「そうだね。森林が減るというのは砂漠化が進んだり、潮風が内陸部を吹き抜けたりと色々な問題があると思うんだけど、他国が介入する問題でもないしね。」
アッセルにはあまり興味をひく産品は見当たらなかった。
少し先のナイルは地球でいうエジプトにあたるのだろう。
南にあたるアフリカの方角から北に延びる大きな川沿いに町が展開している。
住民に確認すると、国名のナイルは川の名前でもあるという。
「面白そうな町だね。少し時間をかけて見ていこうか。」
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