15 / 41
第一章
第15話 こんなこと、できたらいいな……
しおりを挟む
その夜。俺は具体的な仕様を考えていた。
思い付きを具体的な形にするのは、楽しいことなのだが結構大変なのである。
「えっと、虹彩認証で、音声による制御を使って……。」
虹彩とは、目の色を決める部分で、そのパターンは指紋以上の個人特定に使われている。
翌朝、それを掘り出した俺は、二人にそれを差し出した。
「メガネ?」
「私、目は悪くないわよ。」
「まあまあ、とりあえず掛けてから”登録”って声に出してよ。」
「と、登録って……、えっ、チカチカ光って、登録完了って文字が出た。」
「これで、自分以外は使えなくなったんだ。」
「どういう仕組みなのか知らないけど、多分常識の範疇ね。」
「メインの機能は、情報の表示で、目の焦点をあわせて”鑑定”っていえばその情報が表示されるんだ。」
「えっと、焦点をあわせて”鑑定”……、わっ、出た!ススム・ホリスギ、年齢16才で迷い人、本籍地は……。これって……。」
「どれどれ、”鑑定”。えっと、木製フォークで、材質はオーク。作成者はノートン・ゴウリキ。制昨年は……。まあ、情報源は分からないけど、理解できるツールだわ。年齢の詐称や鉱物の真贋にも効果的ね。」
「ちょっと待ってよ。年齢が出ちゃうって……女性の敵よね!」
「誰かさんの詐欺被害対策にもなるわね。」
「それから、本からの情報を検索することもできるんだ。例えば”検索”ファイヤーボール射出の魔法式。っていえばその情報が表示されるよ。」
「大丈夫。まだ常識の範囲内よ。周りにある情報だもの。」
「それから、探査にも使えるんだ”サーチ”って言って、そのあとに材料なんかの名前をいえば、矢印が表示されてどの方向にそれがあるか示してくれる。」
「すごーい。便利な機能ね!」
「”サーチ:トリコリの実”……確かに矢印が出たけど、この情報はどこから来てるのよ!」
「それからね、”オート”って指示すると、焦点を合わせた名称が表示されて、そのまま集中すると詳細情報が出るんだ。煩わしかったら”オフ”っていえば消えるから。」
「便利よ。確かに便利だけど……。」
「そうそう、オートにしておくと、知らない言語でも翻訳して表示してくれるんだ。」
「こっちの言葉は伝わるの?」
「その機能はないんだ。」
「なーんだ。」
「なーんだ……じゃないわよ。これだって、悪用されたら大変なことになるわよ。」
「うん。だから個人の識別は厳重にしたんだ。」
「これが、いくつあるのよ。」
「今回は少なくしておいた。残り97個だよ。」
「ま、まあ許容範囲だわね。これで、エリクサーも作れそうな気が……。ダメよ!そんなものが出来たら、病気だって根絶されちゃうし……。」
「悪いことじゃないよね。」
「くっ、確かにそうだけど……。」
「これで、カレーのスパイスを集めることも可能だぜ。」
「何よそれ。」
「俺の世界の料理だよ。何十種類ものスパイスを混ぜて作るんだ。」
「まさか、その料理のために……。」
森を抜けて東に進むと大きな都市があった。
「町に寄らないの。ローラン王国って表示されているけど。」
「まあ、いつでも来られるからね。今日のところは先に目的地まで直行するよ。」
「了解。」
やがて広い平原を抜けて、海に出た。
「あっ、島よ。でも、少し小さいか。」
大き目の半島を超えて進んだ先に、本州らしい場所が見えてきた。
「この島だと思う。」
「島っていうより、国として通用しそうな大きさね。」
悩んだ末に、神奈川のあたりを拠点にすることにした。何より土地勘があったからだ。
富士山も存在しており、精神的に落ち着いた。
「あれ、綺麗な山だね。」
「ああ、富士山っていうんだ。」
「ススムはここを知っているのか?」
「知ってる……というか、俺の生まれ育った国と瓜二つだな。」
「厳密には、ススムの生まれ育った国じゃないってことね。」
「ああ。ここを新しい国にするんだから頑張らないとな。」
とりあえず、小田原付近に着陸してシェルターを展開した。
イライザの家と畑もバッグから出して馴染ませる。
「こんなことになるなら、家を買って持ってくればよかったね。」
「まあ、そんなものいくらでも作れるよ。」
「だって、大工さんとかいないよ。」
「いないなら作ればいいのさ。」
「ちょっと待った!いくらなんでも、大工さんは作れないわよ……ねぇ。」
「ああ、試したことはないけど、多分無理だと思うな。」
「じゃあ、どうするつもりなんだい?」
「まあ、明日のお楽しみってところだね。」
「それで、国の名前は決まっているの?」
「ああ、この国の名前は”ヤマト”にする。」
ちなみに、ヤマトは日本と違って大きな島は本州と四国だけなのだ。
九州と北海道に相当する島はなく、代わりに小さな島が無数にあった。
「ここって、先住民とかいないのかな?」
「それも含めて調査していかないとな。ダンジョンとか魔物の分布とかな。」
「植物や動物の分布も調べたいから、確かにこのメガネは重宝しそうね。」
「基礎整備が終わったら住民を増やしていきたいし、エルフのみんなも呼ばなくっちゃな。」
食事をすませてイライザの家で眠り、翌朝考えていたものを掘り起こした。
結構大き目の木箱だ。
中から出てきたのは、プロレスラーのような頑強な肉体の男たちだ。
「何、それ?」
「ダイクさんだよ。厳密にいえば、人型汎用魔導具ゴーレムだな。」
「なんでそんなものを?」
「基礎的な整備をやってもらうんだ。チタン合金のボディーにシリコンの皮膚。破壊不能属性もあるし、魔法も使える。何よりゴーレム同士のネットワークで情報を共有できるし、新しい知識を増やしていく。それに自己判断も可能だから自律行動ができるんだ。」
「まさかとは思うが、それも魔法石で稼働する魔道具だと言い張るつもりか?」
「さっき確認したんだけど、魔道具の本にゴーレムの項が追加されてたな。材料さえあれば魔道具として誰でも作れる!」
「無理に決まっているだろう!」
「しかもだ。音声認識で発声機能もあるから、起動すれば誰でも指示できるぞ。今日はダイクさんが10人で、明日はノウカさん10人。仕事の種類毎に作っていくつもりなんだ。」
「もう、ここはススムの国なんだから、好きにすればいいさ。私は魔法の解析やら、魔道具の開発に専任するからな。ああ、わたし一人じゃどう考えても足りないぞ。」
「近いうちに人材を募集に行こうか。そうだ、人を運ぶための大きな乗り物も必要だな。」
一瞬、大型の宇宙船や銀河鉄道みたいなものが浮かんだが、まだそこまでは必要ないだろう。せいぜい、ゴーレム運転手付きの箱舟ってところか。
なんにしろ、先が楽しみである。
【あとがき】
第一章はここまでですね。明日からは第二章「ヤマト」編になります。
思い付きを具体的な形にするのは、楽しいことなのだが結構大変なのである。
「えっと、虹彩認証で、音声による制御を使って……。」
虹彩とは、目の色を決める部分で、そのパターンは指紋以上の個人特定に使われている。
翌朝、それを掘り出した俺は、二人にそれを差し出した。
「メガネ?」
「私、目は悪くないわよ。」
「まあまあ、とりあえず掛けてから”登録”って声に出してよ。」
「と、登録って……、えっ、チカチカ光って、登録完了って文字が出た。」
「これで、自分以外は使えなくなったんだ。」
「どういう仕組みなのか知らないけど、多分常識の範疇ね。」
「メインの機能は、情報の表示で、目の焦点をあわせて”鑑定”っていえばその情報が表示されるんだ。」
「えっと、焦点をあわせて”鑑定”……、わっ、出た!ススム・ホリスギ、年齢16才で迷い人、本籍地は……。これって……。」
「どれどれ、”鑑定”。えっと、木製フォークで、材質はオーク。作成者はノートン・ゴウリキ。制昨年は……。まあ、情報源は分からないけど、理解できるツールだわ。年齢の詐称や鉱物の真贋にも効果的ね。」
「ちょっと待ってよ。年齢が出ちゃうって……女性の敵よね!」
「誰かさんの詐欺被害対策にもなるわね。」
「それから、本からの情報を検索することもできるんだ。例えば”検索”ファイヤーボール射出の魔法式。っていえばその情報が表示されるよ。」
「大丈夫。まだ常識の範囲内よ。周りにある情報だもの。」
「それから、探査にも使えるんだ”サーチ”って言って、そのあとに材料なんかの名前をいえば、矢印が表示されてどの方向にそれがあるか示してくれる。」
「すごーい。便利な機能ね!」
「”サーチ:トリコリの実”……確かに矢印が出たけど、この情報はどこから来てるのよ!」
「それからね、”オート”って指示すると、焦点を合わせた名称が表示されて、そのまま集中すると詳細情報が出るんだ。煩わしかったら”オフ”っていえば消えるから。」
「便利よ。確かに便利だけど……。」
「そうそう、オートにしておくと、知らない言語でも翻訳して表示してくれるんだ。」
「こっちの言葉は伝わるの?」
「その機能はないんだ。」
「なーんだ。」
「なーんだ……じゃないわよ。これだって、悪用されたら大変なことになるわよ。」
「うん。だから個人の識別は厳重にしたんだ。」
「これが、いくつあるのよ。」
「今回は少なくしておいた。残り97個だよ。」
「ま、まあ許容範囲だわね。これで、エリクサーも作れそうな気が……。ダメよ!そんなものが出来たら、病気だって根絶されちゃうし……。」
「悪いことじゃないよね。」
「くっ、確かにそうだけど……。」
「これで、カレーのスパイスを集めることも可能だぜ。」
「何よそれ。」
「俺の世界の料理だよ。何十種類ものスパイスを混ぜて作るんだ。」
「まさか、その料理のために……。」
森を抜けて東に進むと大きな都市があった。
「町に寄らないの。ローラン王国って表示されているけど。」
「まあ、いつでも来られるからね。今日のところは先に目的地まで直行するよ。」
「了解。」
やがて広い平原を抜けて、海に出た。
「あっ、島よ。でも、少し小さいか。」
大き目の半島を超えて進んだ先に、本州らしい場所が見えてきた。
「この島だと思う。」
「島っていうより、国として通用しそうな大きさね。」
悩んだ末に、神奈川のあたりを拠点にすることにした。何より土地勘があったからだ。
富士山も存在しており、精神的に落ち着いた。
「あれ、綺麗な山だね。」
「ああ、富士山っていうんだ。」
「ススムはここを知っているのか?」
「知ってる……というか、俺の生まれ育った国と瓜二つだな。」
「厳密には、ススムの生まれ育った国じゃないってことね。」
「ああ。ここを新しい国にするんだから頑張らないとな。」
とりあえず、小田原付近に着陸してシェルターを展開した。
イライザの家と畑もバッグから出して馴染ませる。
「こんなことになるなら、家を買って持ってくればよかったね。」
「まあ、そんなものいくらでも作れるよ。」
「だって、大工さんとかいないよ。」
「いないなら作ればいいのさ。」
「ちょっと待った!いくらなんでも、大工さんは作れないわよ……ねぇ。」
「ああ、試したことはないけど、多分無理だと思うな。」
「じゃあ、どうするつもりなんだい?」
「まあ、明日のお楽しみってところだね。」
「それで、国の名前は決まっているの?」
「ああ、この国の名前は”ヤマト”にする。」
ちなみに、ヤマトは日本と違って大きな島は本州と四国だけなのだ。
九州と北海道に相当する島はなく、代わりに小さな島が無数にあった。
「ここって、先住民とかいないのかな?」
「それも含めて調査していかないとな。ダンジョンとか魔物の分布とかな。」
「植物や動物の分布も調べたいから、確かにこのメガネは重宝しそうね。」
「基礎整備が終わったら住民を増やしていきたいし、エルフのみんなも呼ばなくっちゃな。」
食事をすませてイライザの家で眠り、翌朝考えていたものを掘り起こした。
結構大き目の木箱だ。
中から出てきたのは、プロレスラーのような頑強な肉体の男たちだ。
「何、それ?」
「ダイクさんだよ。厳密にいえば、人型汎用魔導具ゴーレムだな。」
「なんでそんなものを?」
「基礎的な整備をやってもらうんだ。チタン合金のボディーにシリコンの皮膚。破壊不能属性もあるし、魔法も使える。何よりゴーレム同士のネットワークで情報を共有できるし、新しい知識を増やしていく。それに自己判断も可能だから自律行動ができるんだ。」
「まさかとは思うが、それも魔法石で稼働する魔道具だと言い張るつもりか?」
「さっき確認したんだけど、魔道具の本にゴーレムの項が追加されてたな。材料さえあれば魔道具として誰でも作れる!」
「無理に決まっているだろう!」
「しかもだ。音声認識で発声機能もあるから、起動すれば誰でも指示できるぞ。今日はダイクさんが10人で、明日はノウカさん10人。仕事の種類毎に作っていくつもりなんだ。」
「もう、ここはススムの国なんだから、好きにすればいいさ。私は魔法の解析やら、魔道具の開発に専任するからな。ああ、わたし一人じゃどう考えても足りないぞ。」
「近いうちに人材を募集に行こうか。そうだ、人を運ぶための大きな乗り物も必要だな。」
一瞬、大型の宇宙船や銀河鉄道みたいなものが浮かんだが、まだそこまでは必要ないだろう。せいぜい、ゴーレム運転手付きの箱舟ってところか。
なんにしろ、先が楽しみである。
【あとがき】
第一章はここまでですね。明日からは第二章「ヤマト」編になります。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる