上 下
8 / 41
第一章

第8話 伝説

しおりを挟む
「に、逃げようよ!」
「ダメだ、……あいつが呼んでいる。」
「なに言ってるのよ!出現したら、国が滅ぶっていわれている伝説のドラゴンなのよ!」
「そういう存在じゃないんだ……。」
 ソードドラゴンは俺たちの前を通り過ぎて先に進んでいった。
「た、助かったの?」
「いや、俺たちが戦える場所に向かっているんだ……。」
「そんなの……。ダメ、勝てっこないでしょ!」
「……やらなきゃ……いけない気がするんだ。」

 ソードドラゴン、もしくはシルバードラゴンと呼ばれる存在が人類の前に姿を現したのは2回と記録されている。
 その体表は、矢や槍どころか魔法も受け付けず、傷を負わせた記録は残っていない。
 また。具体的な被害の記録がないため、無敵の存在として伝わっているものの。それ以外は一切の情報がないのだ。

 ソードドラゴンの後についていくと、下に降りる坂道があった。
「今のフロアが最下層ではなかったのか。」
「そんなはずないわ。私だって何度か来ているけど、地下8階なんて見たことがない。」
 地下8階はドーム球場ほどもある広大な空間であり、光で満たされていた。
「まるで、闘技場みたいに整地されてやがる……。こいつ専用の空間みたいだな。」
「何のために?」
「さあな。戦ってみりゃあわかるんじゃねえか。」
 俺はマジックバッグをライラに預けて体をほぐした。
「武器はどうするの?」
「自動小銃やスコップで戦える相手じゃないよ。まあ、素人の体技でどうこうできるわけもないんだけど。じゃあ、いってくる。」
 ソードドラゴンは俺の準備を待っていてくれた。
 死への恐怖は感じないが、圧倒的な存在感に押しつぶされそうになる。
「なんで俺なんかを選んだんだよ……。有難迷惑だっつうの。」
 俺は力いっぱい地面を蹴った。強化された体は、少なくともAクラスの魔物は凌駕していたはずだ。
 だが、俺の放った蹴りは空をきった。
「くそっ、スピードでも敵わないのかよ……。あれっ、縮んでるのか……。」
 いつのまにか、俺と同じくらいの身長になっていた。
 これなら、パンチも放てる。
 だが、甘かった。触れることすらできないのだ。フェイントを入れたパンチも、頭突きも肘うちもかわされてしまう。
「どうすりゃあいい……。」
 そしてカウンター気味のパンチをもらう。
 物理障壁を無視したような衝撃が襲ってくる。
 奴の爪が頬をかすり、尻尾の一撃が腹に食い込んでライラの足元まで吹っ飛ばされる。
「ライラ!シールドのアクセサリーをもう一つくれ!」
「えっ、重ね掛けできるの?」
「わかんねえけど、手も足も出ねえんだ。」
 ライラから受け取ったアクセを首にかける。
 違いはわからなかったが、地を蹴った瞬間に理解できた。
 5倍の5倍で25倍。スピードもあがったおかげで、俺の右ストレートが初めて奴の顔にヒットした。
 だが、代償は少なくない。血管だか筋肉だかがブチブチと切れていく感じがする。
 その瞬間、奴がニッと笑った気がした。
 次に放った左のフックは、スウェーでかわされた。
「まだ、上のスピードがあるのかよ……。」

 どれくらいの時間戦ったのだろうか、パンチが宙をきった反動で俺は転倒した。
「まいった、もう動けない……降参だ……。」
 だが、地面に転がった俺の頭を奴は踏みつけにきた。
 俺は地面を転がってそれをかわした。
「くそっ、動く場所がある限り戦えってことかよ……。」
 
 さらに少しして、今度こそ俺は動けなくなった。
「だ、大丈夫?」
 ライラが駆け寄ってきたが、返事を返すこともできない。
 ということは、奴は去ったのだろう。
 そのまま、どれほどの時間が経過したのだろうか。
 何とか喋れるようになった俺は、ライラの手を借りてマジックバッグからシェルターを展開してその中で寝た。
 だが、全身が熱を持っていて熱い。当分動けそうにない。この状態を解消するには……、俺はあるものを思いついた。
 ライラに時間を確認し、午前0時を過ぎたのを確認してライラに支えてもらって外に出る。
「これが、新しい品物を生み出す俺のチカラだよ。」
 地中から出現した木箱に驚いていたライラだった。
「私なんかにバラしてよかったんですか?」
「問題ないよ。ソードドラゴンにも言われたけど、この世界の土から生まれたものは、世界に必要だから生まれるんだって。」
「確かに、それは理に適っていますね。」
「それをどこまで広めるかは、俺が判断すればいいんだって。」
「あのドラゴンは、いったいどういう存在なんですか?」
「世界の理、神に近い存在なんだと思う。」
「それで、この木箱の中には、何が入っているんですか?」
 俺は木箱をマジックバッグに取り込んだ。
「それは、見てのお楽しみ。」

「人体修復シートって……。」
 俺がイメージしたのは、発熱の時におでこに貼り付ける冷却シートだ。
 少し大判で、30cm四方のものである。木箱にはそれが一万枚収容されている。
「文字通り、破損した体を修復するシートだよ。事故で手足を失った人にも使えるだろうし、単純なケガの治療にも効果的だと思うよ。」
 俺はライラに着ているものを脱がせてもらい、全身にシートを貼り付けてもらった。
「子種をもらうには最適のタイミングなんですけど……。」
「悪いけど、今の俺にそんな余力はないよ。」
「冗談ですよ。」

 人体修復シートは、一晩ですべての炎症を癒してくれた。そして、身体強化25倍の負荷に対応した肉体は圧倒的な力を有していた。
「自動小銃の効果は確認できたので、帰りは素手で討伐していくよ。」
 アークドラゴンやサイクロプスなどは、足止めにもならない。現れた魔物に高速で近づき、必要最低限の力で屠り格納していく。
 帰りは半日で地上へ到達することができた。
 そして、車でレアルの町に戻って、冒険者ギルドを訪れた。
「討伐部位のチェックと素材の買取・解体をお願いします。」
「承知いたしました。」
「ここへ出していいですか?」
「どうぞ。」
「じゃあ、まずはゴブリンからですね。」
 カウンターの上に大きな布袋を出した。
「えっ?こんなに……今どこから出したんですか?」
 簡単にレアアイテムであるマジックバッグを説明した。
「すると、オークなども……。」
「ええ、ここに出していいですか?」
「あっ、やっぱり裏の買取倉庫でお願いします。」
 俺とライラは受付のお姉さんに連れられて買取倉庫に移動した。
「じゃあこれ、ゴブリンの耳です。」
「は、はい。数えさせますのでお待ちくださいね。」
「あとは、ホーンラビットからアークドラゴンやアトラスまでありますけど、何から出しますか?」
「アークドラゴンはAランクの常設依頼になりますので、ライラさんの実績にされた方がよろしいかと……。」
「ああ、じゃあそれでお願いします。50くらいあると思いますが、全部出してもいいですか?」
「いやあ、うちで同時に処理できるのは6体が限度だな。」
 ゲンさんという解体専門の職人さんが応じてくれた。
「じゃあ、6体出しますね。」
「おう。全部買取させてもらえるのかい。」
「肉の半分は持ち帰りでお願いします。ほかの部位は買取で。」
「おう、こりゃあ状態がいいな。血抜きはしてないがまだ硬直してねえじゃねえか。これなら高値で買い取らせてもらうぜ。」
 査定の結果が明日の昼頃と言われたので、俺たちは食事して宿をとった。

「ライラさん。」
 宿で、俺はライラさんを前にして話を始めた。
「どうしたんですか、あらたまって。」
「これ、使ってください。」
 俺が差し出したのは、オレンジのマジックバッグだ。
「な、なんでそんな大切なものを……。」


【あとがき】
 最初は、スローライフ系の軽いストーリーだったのですが……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【現代異類婚姻譚】約束の花嫁 ~イケメン社長と千年の恋~

敷島 梓乃
恋愛
転職してベンチャー企業の超絶イケメン社長の秘書になった百合。とんとん拍子に社内恋愛、結婚へと話が進むものの、社長には何か重大な秘密があるようで……? ちょっと季節外れですが、節分ネタです。現代の異類婚姻譚。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...