DT卒業したら……

モモん

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第三章

第26話 11人の男を剥いて島流しにした できれば逞しく生きてほしい

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「課長さん、あそこの子供たちを呼んできてくれますか。」
「えっ、浮浪児ですよ。」
「……その原因を作ったのは、この国の大人ですよね。」
「……まあ。」
「でも、国は具体的な救済措置を講じなかった。だから私は200年前に孤児院を作ったんです。」
「……はあ。」
「子供たちに教育を施し、今のスーザンみたいに魔法を教えて育てたら、みんな素敵な大人に育ちましたよ。」
「その子供たちはどうなったんですか?」
「私の町を支えてくれていますよ。うちの商会のスタッフはほとんどが町の住民ですから。」
「私、子供たちを呼んできます。」

 スーザンは子供たちの方へ駆けていった。
 私は、兵士たちの鎧を脱がせていく。

「な、何を……。」
「武器屋に売ればお金になるでしょ。買い叩かれないように課長さんがついて行ってくださいね。」
「えっ、私が……?」
「子供たちだけでいかせたら、全部で銀貨5枚とかですよ。この貴族の服と剣だけでも金貨5枚はしますよね。」
「はあ……。」
「私とスーザンは買い物をしていますから。」
「ですが、この兵士たちはどうするんですか?」
「どうしましょうかね。貴族は島流し決定ですけど、まあ同罪ですかね。」
「島流し?」
「ええ、このゲートの向こうは無人島です。1時間で1周できるくらいのね。」
「まさか……。」
「身ぐるみ剥いで無人島に追放です。」

 スーザンが子供たちを連れてきたので、鎧を脱がせるのを手伝わせて、課長さんと一緒に武器屋に行ってもらいました。
 そして、半裸状態の貴族と兵士たちを、スーザンと一緒にゲートに投げ入れていきます。

「このゲートは、どこに通じているんですか?」
「心配なの?」
「いえ、火山の火口とか、サメの泳いでいる海とか……。」
「やーねー、そんな残酷な事はしないわよ。ちょっと覗いてみたら?」
「頭だけ突っ込めば向こうの様子が見られるから。」
「はい。……真っ暗で何も見えませんが、波の音が聞こえました。」
「暗いのは、向こうが夜だからよ。この星の反対側にある、南の無人島よ。」
「猛獣のいっぱいいる?」
「いないわよ。フルーツも豊富だし、周辺のサンゴ礁で魚もとれるわ。その外側にはサメがウヨウヨいるけどね。」
「やっぱり!」

 どうも、スーザンは私を誤解しているようだ。
 私はそんなに残酷な人間ではない。

「それにしても、こんなに生活レベルが下がっているとは思わなかったわ。」
「貴族街の向こうは別世界ですけどね。」
「あなたは貴族じゃないの?」
「こっちがわの商人の娘です。あっ、あそこが両親のお店なんですよ。」

 スーザンの実家は、小さな雑貨店を営んでいました。
 古そうですが、清潔感のあるお店です。

「父が職人で、父の作った食器なんかを売っているんですよ。」
「へえ、面白そうね。」

 店の中では、中年の女性が商品を整理しています。

「あら、スーザン。北に出張じゃなかったの?」
「うん、さっき帰ってきたところよ。こちら、今回お世話になっているリズ様。町を案内しているのよ。」
「リズ・ジャルディです。」
「ジャルディ……様って、王族!」
「違いますよ。この国を作ったオスカー・ジャルディの親族ですけど。」
「そうなの。あっ、申し遅れました、スーザンがお世話になっています。母親のジュリ・ラーズナーでございます。」
「ここのものは、ご主人が作られているんですか?」
「はい。4代続いているんですが、みな手先が器用なものですから。」
「木製・焼き物・金属。本当に何でも作れるんですね。」
「工房には大きな窯があって、私も7才までは土を捏ねて自分の食器を作ったりしていたんですよ。」
「そっか、7才になったら養成所で寮に入るから……。」
「あっ、養成所はすっごく楽しかったですよ。あそこで初めて勉強できたし、魔法も使えるようになって、友達も沢山できましたから。」

「でもね、親元から引き離すのはどうなんだろうって、結構悩んだのよ。」
「悩む事ではないですよ。そりゃあ、男の子と遊べなくなりましたけど、ちゃんと理由も教えられたし、魔力はなくしたくありませんでしたから。」
「間違いではなかったと、思っていいの?」
「当然ですよ。さっき教えてもらったのを考えると、今なら別の方法でできるんでしょうけど、何も情報のなかった頃に養成所を作られたんですからね。」
「そう、よかったわ。」
「あらっ、創成所を作られたのって、初代議長の娘さんでしょ。ご先祖様がお世話になった人だもの、お母さんだって知ってるわよ。」
「えっ、何かあったの?」
「あら、言ってなかったかしら。焼き物の技術とか、金属加工のやりかたは、シャルロットお嬢様から教わったらしいわよ。」
「シャルロット?リズ様じゃないの?」
「うふふっ、ごめんなさい。シャルロット・ジャルディもリズ・サーティーも、リズ・ジャルディも全部私の名前。ああ、今の正式な名前はリズ・マッツよ。」
「えっ?」
「200年も生きていると、色々とあるのよ。」

「言われてみれば、昔使っていた食器に似ているわ。懐かしいんだけど、器の肉が厚いわね。」
「父も気にしているんですが、これ以上薄くすると割れちゃうらしいんですよ。」
「それは、火力が足りないのと、十分に温度を下げてから窯を開けないからよ。ほら、釉薬が完全にガラス化してないわ。」
「ちょ、ちょっとお父さんの工房まで来てもらえませんか。」
「別に急ぐ用事もないからいいけど……課長さんはどうする?」
「あっ……。」

 通りで課長さんと合流し、課長さんは城に帰ってもらって工房へお邪魔します。

「お父さん、こちらリズ様。焼き物に詳しいのよ。」
「リズです。」
「オリバーだ。だがここは職人の工房だ。邪魔はしないでくれ。」
「まあまあ。んー、ろくろは使っているみたいですけど、手動だと肉の薄いものは難しいですよね。」
「知った風な口を聞くんじゃねえ。」
「えっと、あるかな……。」

 私がろくろを使っていたのは180年くらい前の事です。
 なので、アキが作ってくれたポシェット……というか、月の裏側にある時間凍結庫の中を探します。

「あっ、ありました。これこれ。あと土も。」
「ど、どこから出した。」
「えっ、このポシェットですよ。」
「物理的に入る訳ねえだろ。」
「女には、色々と隠せる場所があるんですよ?」
「そういう問題じゃねえ!」
「まあまあ。これが魔道ろくろ”クルリン”です。」
「なんだそのふざけた名前は!」
「スーザン、お父さん血圧高めなの?」
「普段は穏やかなんですけど……。」
「お前も、残念そうな表現をするんじゃねえ!」
「それは置いといて、クルリンはこのボタンで台が回転する、それだけの道具です。」
「ま、まあ、ろくろだからな。」
「こっちのボタン操作で、回転の速度を変えられます。」
「お、おう。」
「興味出てきました?」
「まあ、両手で土を成形できれば便利だからな……。」
「そういう事。素直でよろしい。」
「くそっ……。」

「じゃ、3人でやってみましょう。」

 私はポシェットからクルリンを2台取り出して、二人の前に置きました。

「じゃ、土をもらいますね。」
「何でお前の出した白い土を使わねえんだ。」
「こっちは、ガラス質を含んだ石を砕いて作った土です。真っ白な器ができますが、普通の土よりも高温で焼くので別にしないとダメなんです。」
「釉薬で白くすることはあるが……。」
「透明感が違うんですよ。」
 
 私たちは工房にあった土で整形を始めます。


【あとがき】
 11人を島流し。ナイフくらいは欲しいところです。
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