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第一章
第5話 里帰りは気恥ずかしかった
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「リョカ中隊長、こんなところまで押しかけてしまい申し訳ございません。」
「いや、それは構わないのだが、まさかそちらのレディーは……。」
「リズ・サーティーでございます。」
「ご推察のとおりでございます。アッシュ帝国から奪還し、妻になってもらいました。」
「そうか。魔法兵としての君を失ったのは痛いが、よくぞ無事に戻ってくれた。」
「いえ。魔力は失っていません。それどころか、リズのおかげで強力な魔法を使えるようになりました。」
「どういう事なんだ。」
俺は中隊長に経緯を説明した。
「ふむ。それは興味深い考察だね。それに、森を奪還しただけでなく、山間部の部隊まで始末してくるとは。」
「ええ。威圧を使えば、他の戦線も制圧できます。要請があればどこでも行きますよ。」
「それなんだがな。おそらく、他の大隊どころか、うちの大隊内部でも要請はこないだろうよ。」
「何故ですか!おかしいですよ、それ!」
「考えてみろよ。他の隊に応援を要請するっていうのは、自分の部隊が弱くて無能でしたって宣伝するようなもんだ。」
「それは……。」
「だから今回の件も、戦姫部隊率いる地竜5体とサキュバスの出現報告しかさせてもらえなかった。」
「えっ?」
「うちからの応援要請は、第2大隊内部ですら取り上げてもらえなかった。正直、ここまで軍部が腐っているとは思わなかったよ。」
「……中隊長……。」
「それで、戦姫の部隊はどうなっているんだ?」
「僕がスリネ駐留の中隊を制圧した時点で、平原から一気に南へ移動していきました。今頃はサカラの湿地帯だと思います。」
「重量のある地竜に、足場の弱い湿地帯は不向きだろう。となるとカスラハン砂漠かコスタリ平原まで南下か。」
「あれっ、カスラハン砂漠って……。」
「ああ。あの砂漠から南は第1大隊のエリアだ。しかも、ノスタリ平原まで南下してれば、イエニスタ第2皇子が中隊長として駐留しているな。」
「そうなると第1大隊は……。」
「ああ。何としてもカスラハン砂漠で食い止めようとするだろうな。」
「でも、戦姫部隊は湿地には戻りたくない。」
「まあ、明日の会議で情報だけでも提供しておくか。」
地竜の動向が気になった俺は、翌朝一番で箱を飛ばして偵察に出かけた。
8mの地竜が5匹動き回っているのだ、状況は簡単に確認できた。
西にある川からサカラの湿地帯へは何本もの支流が入り込んでいる。
そのため、地竜は大きく東に回り込んで水の多いエリアを避け、南下を続けていた。
サカラ湿地帯を受け持つ第1大隊の部隊は、地竜が湿地に足をとられているにもかかわらず十分すぎる距離をとって戦闘を回避している。
せっかくの好機を逃していることに気づいていないのだろうか。
「俺の魔法が通用するか、試しておこうかな。」
「やめてください。あの子たちも道具にされただけの可愛そうな存在なんです。開放してあげれば、僻地で草を食べていますよ。」
リズがそういうのならそうなんだろう。
地竜を開放してやるチャンスはあるのだろうか。
「じゃあ、俺は砦に戻るけどお前はどうする?」
「注文している品があるのでもう少し王都に残ります。休暇の終わりには合流しますから。」
「引き続き魔法兵として配置して大丈夫なんだな。」
「はい。よろしくお願いします。」
お金はあるし、伴侶もできた。
領地に帰るって選択肢もあるのだが、力を得たからこそ、まだやる事が残っている。今帰るわけにはいかない。
とはいえ、嫁ができたので顔見せがてら一度帰宅する。
ジャルディア王国の北の外れにある領地は、王都から2000kmの距離にある。
馬車だと40日かかるのだが、飛行馬車なら1日かからない。
「領地って、どんなところなの?」
「作物は麦と芋と甜菜だな。そのほかに鉄と銅の鉱山があるから、それなりに活気のある場所だよ。」
「寒いの?」
「そうだな。確かに冬の寒さは厳しいよ。一番寒い朝は、家の中でも氷が張るくらいさ。」
「えっ、それって凍え死んじゃうんじゃないの?」
「いやいや、布団で寝るし、夜中でも暖炉で薪を燃やしているから死ぬことはないよ。」
「あっ、奴隷だった頃は、お布団なんて使ったことなかったからなぁ。」
「二人で布団にくるまっていれば寒くはないさ。」
「えーっ、ティーは寝相悪いから心配だなぁ。」
「寒いところじゃ、裸で寝る習慣はないから注意してくれよ。」
俺たちの飛行馬車はマッツ領に到着した。
「父さん、母さん、休暇をもらえたので帰ってきました。」
「おお、モッティー、元気そうでなによりだ。」
「おかえりなさい。そちらのお嬢さんは?」
「嫁に迎えました。勝手にすみません。リズです。」
「リズ・サーティーと申します。よろしくお願いいたします。」
「リズは貴族じゃないけど、父さんの許可をもらえれば、すぐにリズ・マッツを名乗らせます。」
「反対する理由などないぞ。おめでとう。素敵なお嬢さんではないか。」
「でも、お嫁さんということは、魔力は無くなったのね。」
「いや、リズのおかげで、魔力は残っているし、魔法も使い放題だよ。」
「まさか、そんな事が……。」
「いつか機会があったら話すよ。それよりも、領地の方はどうなんだい。」
「このところ税の負担が毎年増えている。」
「どれくらい?」
「今年は28%だよ。」
「それは厳しいな。」
「国税のほかに領地の税も負担してもらうから、領民にとっては限界に近いな。」
「リズ。父さんにあれを。」
「はい。」
父に持参した鞄を渡した。
「何だ?」
アッシュから徴収した武器と宝石類を売り払ったお金だ。
「金貨500枚あります。運営の足しにしてください。」
「金貨500枚だと!」
「まさか悪い事を……。」
「休みの時にアッシュ帝国の陣営を潰して稼いだ金だよ。横領とかじゃないから安心して。」
両親を説得するのに苦労したが、何とか受け取ってもらった。
俺たちは領地に一泊して、そのままアッシュ帝国の地方都市へ飛び、小麦を大量に買い付けた。
中央の都市部で買うよりも格段に安い。
アッシュの陣地から押収した金貨は、まだ大量に残っている。
小麦ならば、納税にも使えるし、領地が不作の時には救援にも使える。
なにしろ、リズの空間収納は時間経過が殆どないようだった。
王都で買った串焼きの肉が、数日経っても熱いままなのだ。
そして休暇30日目に砦に帰り、俺は家を借りた。
砦といっても、モヤには町が栄えている。
元々町があって、そこに砦の機能が追加された経緯があるのだ。
だから砦の中に商店やギルドが存在したし、当然だが住民もいて借家もある。
そして部隊の再編成が発表され、俺は小隊長に任命された。
18才という年齢を考えれば、異例の出世だった。
一帯の前線を押し返した俺たちは、元々の国境だったモーリス川の東に陣を張った。
モーリス川の幅は10mほどあり、アッシュ帝国が仮設の橋をかけていた。
中隊長以下の会議で、対岸に進出するか議論され、二つの小隊が先行して対岸に渡り、陣地を構える事に決まった。
当然、新人の俺は名乗りをあげた。
対岸の森は、あまり荒らされておらず、動物もそれなりの数が捕れた。
スリネの森とは大違いだ。
芋や葉物も採取できたので、生活には事欠かない。
先行して森に入った俺たち2小隊は、木を切って柵を巡らせ、250人の受け入れ態勢を整えていった。
そして柵が完成した時点で中隊全員を呼び込み、仮設砦作りは加速していった。
俺は毎日のように風魔法を旋盤状に操り、木を伐り枝を払う作業に没頭した。
砦の周囲には、いつの間にか他の小隊により堀が作られ、川の水が引き込まれている。
堀といっても流れがあり、下流で再び川と合流する。
宿舎ができてトイレも完成し、見張り台も設置された。
様々なことが順調に運んでいたはずだったが、突然イエニスタ第2皇子戦死の一報が舞い込んできた。
どうやら、地竜を抑えきれなかったらしい。
【あとがき】
すっかり忘れていた頃に地竜の一報が届く。
「いや、それは構わないのだが、まさかそちらのレディーは……。」
「リズ・サーティーでございます。」
「ご推察のとおりでございます。アッシュ帝国から奪還し、妻になってもらいました。」
「そうか。魔法兵としての君を失ったのは痛いが、よくぞ無事に戻ってくれた。」
「いえ。魔力は失っていません。それどころか、リズのおかげで強力な魔法を使えるようになりました。」
「どういう事なんだ。」
俺は中隊長に経緯を説明した。
「ふむ。それは興味深い考察だね。それに、森を奪還しただけでなく、山間部の部隊まで始末してくるとは。」
「ええ。威圧を使えば、他の戦線も制圧できます。要請があればどこでも行きますよ。」
「それなんだがな。おそらく、他の大隊どころか、うちの大隊内部でも要請はこないだろうよ。」
「何故ですか!おかしいですよ、それ!」
「考えてみろよ。他の隊に応援を要請するっていうのは、自分の部隊が弱くて無能でしたって宣伝するようなもんだ。」
「それは……。」
「だから今回の件も、戦姫部隊率いる地竜5体とサキュバスの出現報告しかさせてもらえなかった。」
「えっ?」
「うちからの応援要請は、第2大隊内部ですら取り上げてもらえなかった。正直、ここまで軍部が腐っているとは思わなかったよ。」
「……中隊長……。」
「それで、戦姫の部隊はどうなっているんだ?」
「僕がスリネ駐留の中隊を制圧した時点で、平原から一気に南へ移動していきました。今頃はサカラの湿地帯だと思います。」
「重量のある地竜に、足場の弱い湿地帯は不向きだろう。となるとカスラハン砂漠かコスタリ平原まで南下か。」
「あれっ、カスラハン砂漠って……。」
「ああ。あの砂漠から南は第1大隊のエリアだ。しかも、ノスタリ平原まで南下してれば、イエニスタ第2皇子が中隊長として駐留しているな。」
「そうなると第1大隊は……。」
「ああ。何としてもカスラハン砂漠で食い止めようとするだろうな。」
「でも、戦姫部隊は湿地には戻りたくない。」
「まあ、明日の会議で情報だけでも提供しておくか。」
地竜の動向が気になった俺は、翌朝一番で箱を飛ばして偵察に出かけた。
8mの地竜が5匹動き回っているのだ、状況は簡単に確認できた。
西にある川からサカラの湿地帯へは何本もの支流が入り込んでいる。
そのため、地竜は大きく東に回り込んで水の多いエリアを避け、南下を続けていた。
サカラ湿地帯を受け持つ第1大隊の部隊は、地竜が湿地に足をとられているにもかかわらず十分すぎる距離をとって戦闘を回避している。
せっかくの好機を逃していることに気づいていないのだろうか。
「俺の魔法が通用するか、試しておこうかな。」
「やめてください。あの子たちも道具にされただけの可愛そうな存在なんです。開放してあげれば、僻地で草を食べていますよ。」
リズがそういうのならそうなんだろう。
地竜を開放してやるチャンスはあるのだろうか。
「じゃあ、俺は砦に戻るけどお前はどうする?」
「注文している品があるのでもう少し王都に残ります。休暇の終わりには合流しますから。」
「引き続き魔法兵として配置して大丈夫なんだな。」
「はい。よろしくお願いします。」
お金はあるし、伴侶もできた。
領地に帰るって選択肢もあるのだが、力を得たからこそ、まだやる事が残っている。今帰るわけにはいかない。
とはいえ、嫁ができたので顔見せがてら一度帰宅する。
ジャルディア王国の北の外れにある領地は、王都から2000kmの距離にある。
馬車だと40日かかるのだが、飛行馬車なら1日かからない。
「領地って、どんなところなの?」
「作物は麦と芋と甜菜だな。そのほかに鉄と銅の鉱山があるから、それなりに活気のある場所だよ。」
「寒いの?」
「そうだな。確かに冬の寒さは厳しいよ。一番寒い朝は、家の中でも氷が張るくらいさ。」
「えっ、それって凍え死んじゃうんじゃないの?」
「いやいや、布団で寝るし、夜中でも暖炉で薪を燃やしているから死ぬことはないよ。」
「あっ、奴隷だった頃は、お布団なんて使ったことなかったからなぁ。」
「二人で布団にくるまっていれば寒くはないさ。」
「えーっ、ティーは寝相悪いから心配だなぁ。」
「寒いところじゃ、裸で寝る習慣はないから注意してくれよ。」
俺たちの飛行馬車はマッツ領に到着した。
「父さん、母さん、休暇をもらえたので帰ってきました。」
「おお、モッティー、元気そうでなによりだ。」
「おかえりなさい。そちらのお嬢さんは?」
「嫁に迎えました。勝手にすみません。リズです。」
「リズ・サーティーと申します。よろしくお願いいたします。」
「リズは貴族じゃないけど、父さんの許可をもらえれば、すぐにリズ・マッツを名乗らせます。」
「反対する理由などないぞ。おめでとう。素敵なお嬢さんではないか。」
「でも、お嫁さんということは、魔力は無くなったのね。」
「いや、リズのおかげで、魔力は残っているし、魔法も使い放題だよ。」
「まさか、そんな事が……。」
「いつか機会があったら話すよ。それよりも、領地の方はどうなんだい。」
「このところ税の負担が毎年増えている。」
「どれくらい?」
「今年は28%だよ。」
「それは厳しいな。」
「国税のほかに領地の税も負担してもらうから、領民にとっては限界に近いな。」
「リズ。父さんにあれを。」
「はい。」
父に持参した鞄を渡した。
「何だ?」
アッシュから徴収した武器と宝石類を売り払ったお金だ。
「金貨500枚あります。運営の足しにしてください。」
「金貨500枚だと!」
「まさか悪い事を……。」
「休みの時にアッシュ帝国の陣営を潰して稼いだ金だよ。横領とかじゃないから安心して。」
両親を説得するのに苦労したが、何とか受け取ってもらった。
俺たちは領地に一泊して、そのままアッシュ帝国の地方都市へ飛び、小麦を大量に買い付けた。
中央の都市部で買うよりも格段に安い。
アッシュの陣地から押収した金貨は、まだ大量に残っている。
小麦ならば、納税にも使えるし、領地が不作の時には救援にも使える。
なにしろ、リズの空間収納は時間経過が殆どないようだった。
王都で買った串焼きの肉が、数日経っても熱いままなのだ。
そして休暇30日目に砦に帰り、俺は家を借りた。
砦といっても、モヤには町が栄えている。
元々町があって、そこに砦の機能が追加された経緯があるのだ。
だから砦の中に商店やギルドが存在したし、当然だが住民もいて借家もある。
そして部隊の再編成が発表され、俺は小隊長に任命された。
18才という年齢を考えれば、異例の出世だった。
一帯の前線を押し返した俺たちは、元々の国境だったモーリス川の東に陣を張った。
モーリス川の幅は10mほどあり、アッシュ帝国が仮設の橋をかけていた。
中隊長以下の会議で、対岸に進出するか議論され、二つの小隊が先行して対岸に渡り、陣地を構える事に決まった。
当然、新人の俺は名乗りをあげた。
対岸の森は、あまり荒らされておらず、動物もそれなりの数が捕れた。
スリネの森とは大違いだ。
芋や葉物も採取できたので、生活には事欠かない。
先行して森に入った俺たち2小隊は、木を切って柵を巡らせ、250人の受け入れ態勢を整えていった。
そして柵が完成した時点で中隊全員を呼び込み、仮設砦作りは加速していった。
俺は毎日のように風魔法を旋盤状に操り、木を伐り枝を払う作業に没頭した。
砦の周囲には、いつの間にか他の小隊により堀が作られ、川の水が引き込まれている。
堀といっても流れがあり、下流で再び川と合流する。
宿舎ができてトイレも完成し、見張り台も設置された。
様々なことが順調に運んでいたはずだったが、突然イエニスタ第2皇子戦死の一報が舞い込んできた。
どうやら、地竜を抑えきれなかったらしい。
【あとがき】
すっかり忘れていた頃に地竜の一報が届く。
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