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第一章

智代梨

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ゼンマイもうまくいかなかった。
ちょっとしたくぼみで方向が変わってしまったり、車輪が空転してしまうのだ。

結局、小型化」して、投石器で投げることになった。

「はあ、私たちって役に立たないのね」

「いや、小型とはいえ爆弾は役に立つと思うぞ」

「それよりも、私たちの特別な力って何なのかしら」

「これだけやって何も見つからないんだ……
俺たちにはないんじゃないにか」

「そうですよね。
もしかしたら、恭介君だけが召喚される予定で、私たちはおまけとか……」

「それ、ありそうよね」

「そうだとしても、恭介だけに押し付ける訳にはいかねえよ」

「そうね。お茶くみでもなんでもやるわよ……
あれっ?」

「どうしたの?」

「さっき、指を切っちゃって、なめてたらどっかいっちゃった……」

「お前は犬か!」

「えーっ、普通なめるよね」

「うーん、ツバはつけるけど、なめないかな」

「おれも、ツバはつける」

「えーっ、変だな……」



数日後、訓練中に転んで、わき腹をザクっと抉ってしまった。

「グッ、ちょっとやばいかな……」

「私、治せそうな気がする……」

「いや、医者を呼んでくれ……」

「いいから」

智代梨は俺のシャツをまくり上げ、傷口をタオルでふき取った後、傷口に唇をつけた。

「う、うひゃ……っう」

数分後、智代梨が唇を離した時には、傷が消えていた。

「うそ……だろ」

「ホントに治った」

「どう、ケガした時には舐めるが正解だってわかったでしょ」

「あっ、ああ、ありがとな」

「どうだった仁君」

「なんていうか、気持ちよかった……」

「へ、変態……」

「じ、仁君……勃起してる……」

俺はあわてて股間を抑えた、

「ご、ごめん……」

「仁君もオオカミに変わっちゃうのかな……」

「オオカミ?」

「だって、男の人って急に狂暴になる時が……」

「マテ、お前たちはオオカミを誤解してるぞ」

「えっ、そっち?」

「オオカミってのはな、社会生活を営む崇高な生き物なんだぞ」

「エっ、だってオオカミちゃんには騙されないとか、人狼ゲームとか……」

「そうよ、三匹の子豚とか、赤ずきんとか、オオカミは悪者じゃないの」

「それは、間違った認識だ。
ホワイトクリスマスのオオカミを見ろ」

「なにそれ?」

「男の子が死んじゃうやつ?」

「そうだ。
もののけ姫とかもオオカミに育てられただろ」

「だって、あれはアニメだから……」

「数十年前までは、オオカミに育てられた子供って、実在してたんだぞ。それも結構な例があるんだ」
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