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第5章

アルバイト

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モンスターを食材として研究するのは、これまでにも取り組まれており、市販品の”極上エビ味せんべい”などが有名である。

そして、その殆どは肉に関する研究だった。
極上エビ味せんべいがモンスターを素材としているらしいと噂されるが、虫系の外殻である情報は製造元で秘匿されている。

私たちは入手可能なあらゆる部位の有効性についてまとめ上げ、年間の研究成果として養成所とMRSに報告した。
その経過として、食料への転用だけでなく、毒性・薬効なども可能な限り調べ上げたのだが、もちろん私たちだけで出来ることではない。
国の研究機関に分析をお願いしたり、治療院へ持ち込んで相談したりするうちに、それなりのパイプができてきた。

ミカンをリーダーとして、調理担当が私で、分析とヒーラーをイシュタルが担当したのだが、ミカンの政治的手腕と統率力には目を見張るものがある。
年間の到達目標を設定し、スケジューリングしていく。
自分たちの手に余る課題に対しては、外部機関の協力も取り付けてくる。
治療機関との連携が可能になったのもミカンの手腕と言っていい。

「すごいです。
院長の講義に参加できたんですが、再生のプロセスを知ったことで、治癒魔法の効果が数倍にあがりました。
次回は、カウンセリングの講義なんですよ」

冒険者コースにありながら、ショコラの希望であった治療系も学ばせてしまう。
手に余る迷宮ならば、ほかのパーティーを巻き込んで探索する。
私の料理人としてのスキルをアップさせるため、バイト先も探してくる。

「ルー、食後にソフトクリームお願い。
あっ、お勘定はルーのバイト代から……」

私の手元にお給料が残ることはなかった……
徹底的に計算されつくした戦略だ……恐るべしミカン。

「ルーは明日から、仕立て屋さんの奉公だからね。
モンスター由来の素材とか仕上げ方を教わってきてちょうだい。
お給料は私たちの服を仕立ててもらう事で話はついているからよろしく。
あっ、それから来週の日曜からハウスクリーニングのバイトを入れたからね。
しっかり学んできてちょうだい」

「りょ……了解です」

なんか、私には家事全般の教育が回ってきている……ような気がする。
おかげで、余計なことを考えている暇はなくなって、スキルも充実してくるからうれしいけど。
なにより、体を動かすことが好きな私は毎日充実した満足感を得ている。

「ショコラは教会の奉仕活動も追加していくからね。
いずれは、住民の相談に乗る窓口なんかもやらせて貰えることになっているから」

「コミュニケーションの能力を磨いていくんですね。
承知いたしました。
できれば、今使っている魅惑(チャーム)の応用も考えていきたいんですけど、何か良い方法はないですかね」

「魅惑ねぇ……アイドル系でも狙ってみる?
それとも、モデル系で女豹のポーズとかで悩殺するとか。」

「女豹……って、なにやらせるつもりですか!」

「男を悩殺して、余計なスキルなしで手玉にとれるようになれば完璧だと思うけどな……」

「私は淑女路線で行くんですから、余計なスキルは要りません!」

「あらっ、ショコラだってスタイル良いんだから、昼間と夜で別の顔を持てばいいじゃない。
そうね……意外と……鞭を片手に女王様なんて合うんじゃない。
大丈夫。仮面をつけるだけで人格なんて変えられるんだから」

「ねえミカン、アマゾン迷宮はまだ許可出ないの?」

「申請は出したけど、あそこは無理っぽいわね。
食材の宝庫みたいだから行きたいんだけどね」

「エビ味せんべいの素材は、どうもあそこみたいなんだよね。
私たちに買えるレベルじゃないから、自分で作るしかないんだけど……」

「いつかチャンスは来るわよ。
それよりも、月末はMRSの上級迷宮だからね。」

「養成所に在学中のMRSメンバー全員参加ってやつよね。
今年は何人くらい集まるのかな」

「去年と同じように30人くらいでしょ。
10人パーティーは変わらないらしいわよ」

「これによって来年の就職先とか決まっちゃうんでしょ。
頑張らないとね」

「私はフリーの冒険者になりたいんだけど……許してくれないよね」

MRSは、農場から鉱山・商店に至るまで基本的に国営である。
養成所を卒業すると、今度は国の研修が待っているから、国外で自由に活動できるのは養成所時代だけとなる。
もちろん、フリーの冒険者なんていう選択肢はない。

人間世界に慣れるための1年間と、養成所の2年間。この3年間がどれだけ自由なのか、このころの私は理解していなかった。
そして、ミカンという友人がいなかったら、この自由な3年という貴重な時期にどれだけ無駄な時間を過ごしたか……
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