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第二章
第22話 早馬に撥ねられた少女
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「近い感じなんだけど、何か違うな……。」
「どう……違うのでしょうか……。」
「あっ!浄化から変化させてみようか。その方が近いかもしれない。」
回復よりも、浄化から”傷の修復”に変化した方が分かりやすいかもしれないと考えた俺は、早速変更してみた。
「じゃ、浄化からいくよ。」
「はい。」
「ゆっくり行くからね。これを傷の修復に変化……っと。」
「あっ、確かに似た感じです。」
「そうそう。もうちょっとお尻を突き上げる感じで……。」
「こ、こうですか?」
「いや、実際にお尻は動かさなくていいから。」
「あっ、失礼しました。」
突然、戸が激しく叩かれた。
「や、弥七様、よろしいでしょうか!」
「サキさんだ、どうぞ入ってください。」
「あっ……。」
花織さんがお尻を突き上げた感じで俺の方に身体を預けた体勢だった。
入り口側から見ると、俺の顔に股間を押し当てるように見えるかもしれない。
「誤解しないでくださいね。変な事はしてないですから。」
「そ、それよりも大変なんです。今、屋敷の前で、うちの子供が早馬に撥ねられてしまって!」
「えっ、怪我は?」
「手と足が血だらけです。!」
「分かった。すぐ行きます。」
俺は手早く服を着て背嚢を持って部屋を飛び出した。
門を出たところに人が集まっている。
その人垣を掻き分けて少女の様子を確認する。
まだ死んではいないが、そうとう出血している。
「出血は右足のふくらはぎと、右手の肘。」
俺はふくらはぎの傷を手当しながら、背嚢から魔物の核の粉を取り出して右手に振りかけた。
傷口が消えたのを確認して痛みの緩和を施していく。
だが、少女の苦しそうな顔に変化はない。
よく確認すると、少女の腹に打撲のあとが残っている。
少女の帯を解いて腹を出すと、紫色に変色していた。
「くっ、腹の中で出血してるのか……。」
やった事はなかったが、傷を塞ぐのは同じだろう。
俺は少女の腹に手をあてて意識を集中した。
見えない傷を修復する……。
どうしたらいい……。
”弥七、心眼は使えない?”
「ああ、そうだね。」
目を閉じて、腹の中に意識を集中していく。
………………鮮明とまではいかないが、腹の中の様子が分かってきた。
ああ、ここから出血しているのか……。
更に集中して傷を修復し、痛みの緩和を施したうえで、浄化を使って中で出血した血を消していく。
ここまで来て、やっと少女の顔から苦痛の色が消えてきた。
花織さんは身体についた血を拭っている。
俺は水環様の力を使って傷口の血を洗い流していく。
「ふう。これで、多分大丈夫だと思う。家の中に運んで様子をみよう。」
「はい。」
ご主人は店の方に出かけているという事で、五月さんが女中さんに指示をして客間で少女を寝かせてくれた。
”弥七、相当血を流したから、補給できる食べ物を用意した方がいいわ。”
「どんなの?」
”赤身肉とか肝臓、ホウレンソウやヒジキね。アサリやシジミもいいわよ。”
俺は、水環様の言葉をそのまま口にした。
「血を流したので、血を補充する食べ物が必要みたいです。赤身肉とか肝臓、ホウレンソウやヒジキかアサリやシジミがいいそうです。」
「ここは仏教徒の多い町なので、肉関係は手に入りづらいんです。ヒジキとアサリなら手に入ると思います。」
「サキ、すぐに手配して頂戴。」
「承知いたしました。」
「じゃあ、俺は……、ここならイノシシか。ちょっと狩ってきます。」
「えっ?」
俺は花織さんの部屋に戻って木剣を手にして外に出た。
「流風様、イノシシを探してください。」
”了解だよ。”
イノシシはすぐに見つかった。
”弥七、人に見られないように注意しなさい。”
”そうだな。仏教徒は煩いからな。”
「何で?」
”血を穢れたものだと教えられているからな。”
「ああ、薬師如来様の言っていたやつか。」
”そう。宗教を人間が作った時に、なぜか血を穢れたものと考えるのだな。”
「でも、薬師如来様は、そんなの否定してたよね。」
”ああ。血を穢れたものなんて言ってたら、魔窟で修行などあり得んからな。”
”笑っちゃうわよね。女性の生理や、出産の出血も不浄なものとか言って否定してるんだもの。”
”狩りを否定したら、人間はとっくに滅びているぞ。”
「月音さんに見せてもらった過去の場面だと、肉以外には僅かな穀物と木の実くらいしかないもんね。」
俺はイノシシを倒して肝臓と肉を手に入れ、皮や他の内臓を埋めた。
「ただいま戻りました。」
「弥七君、どこに行ってたの?」
「ちょっと狩りにね。あの子の様子は?」
「まだ、寝ています。」
「じゃあ、調理場を借りて料理しちゃおうか。」
「調理場ですか?」
調理場ではサキさんが変わった料理を作っていた。
「それは?」
「ヒジキをふんだんに入れたガンモを揚げています。」
「揚げるって何?」
「多量の油で、煮る感じですね。」
「ガンモというのは?」
「豆腐をを崩して、ヒジキなどを混ぜて団子状にして揚げた料理です。せっかくですから夕食にお出ししますよ。」
「へえ、それは楽しみだ。じゃあ、俺は肝臓を塩ゆでにしてっと。」
「それは何ですか!」
「あっ、この家は、血や肉ってダメ?」
「いえ、そんな事はありませんが、周りの目もあって、肉はなかなか買い付けできないんですよ。」
「そうなんだ。じゃあ、肉も大量にあるから、夕食に焼いて食べようよ。」
「そ、そんなに大量のお肉をどこから……。」
「えっ、今、裏の山で狩ってきたんだけど。」
「買って……来たんですか?裏の山に肉屋さんなんてありませんけど。」
「いや、狩りだよ。」
「狩りって、その木刀ででしょうか?」
「うん。神様の力を使って硬くできるから、鉄の刀と比べても大差ないんだ。見ててよ。」
俺は木の短刀を取り出して硬化をかけ、肉を切り分けてみせた。
「も、もしかして、葉っぱとかを硬くしたら、包丁の代わりにできるって事ですか?」
「そうだよ。狩りに出た最初のころは、草の葉っぱで葦を斬って、それを矢みたいに投げて狩りをしてたんだ。」
「や、弥七様って……、異常だって言われませんか?」
「えっ、俺ってもしかして変なの?」
「嫁入り前のお嬢様を裸にして股間を凝視したかと思えば、神様をゾロゾロと引き連れていたり、馬車に轢かれて死にそうな女の子を治療してみせたり……。失礼ですが、人間とは思えませんんわ。」
「花織さんを裸にしたのは、仕方ないじゃないですか!治療の術を覚えてもらうためなんですから。」
「確かに治療の術を見させていただきましたが、とても人間の技とは思えませんでした。お嬢様が、あのような人間離れした存在になってしまったらと思うと……。」
「いや、普通に人間ですから!」
「いいえ!普通の人間は、木の枝で肉を切り分けたりしません!」
そこへ、女中のミツハさんが飛び込んできた。
「大変です。寺から使いが来て、治療を行った者を出せと。」
「それで?」
「ちょうど旦那様が戻られたところで、応接で対応されています。」
「じゃあ、俺が対応しましょう。」
俺は応接の入り口で声を掛けた。
「弥七です。失礼します。」
「ああ、弥七君、すまないね。俺も状況が理解できていなくて。」
「大丈夫ですよ。昼に少女を治療した、神代弥七ですが、何か御用ですか?」
「なにぃ!貴様のような小僧が治療の法力を使ったというのか?」
「それが何か?」
「総本山の許可なしに治療の法力を使うなど言語道断!すぐに本山に来て状況を説明するんだ。」
「何で?」
「お前は治療の法力を会得しておきながら、そんな事も知らんのか!」
【あとがき】
寺との接点が出来てしまった。
Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE
「どう……違うのでしょうか……。」
「あっ!浄化から変化させてみようか。その方が近いかもしれない。」
回復よりも、浄化から”傷の修復”に変化した方が分かりやすいかもしれないと考えた俺は、早速変更してみた。
「じゃ、浄化からいくよ。」
「はい。」
「ゆっくり行くからね。これを傷の修復に変化……っと。」
「あっ、確かに似た感じです。」
「そうそう。もうちょっとお尻を突き上げる感じで……。」
「こ、こうですか?」
「いや、実際にお尻は動かさなくていいから。」
「あっ、失礼しました。」
突然、戸が激しく叩かれた。
「や、弥七様、よろしいでしょうか!」
「サキさんだ、どうぞ入ってください。」
「あっ……。」
花織さんがお尻を突き上げた感じで俺の方に身体を預けた体勢だった。
入り口側から見ると、俺の顔に股間を押し当てるように見えるかもしれない。
「誤解しないでくださいね。変な事はしてないですから。」
「そ、それよりも大変なんです。今、屋敷の前で、うちの子供が早馬に撥ねられてしまって!」
「えっ、怪我は?」
「手と足が血だらけです。!」
「分かった。すぐ行きます。」
俺は手早く服を着て背嚢を持って部屋を飛び出した。
門を出たところに人が集まっている。
その人垣を掻き分けて少女の様子を確認する。
まだ死んではいないが、そうとう出血している。
「出血は右足のふくらはぎと、右手の肘。」
俺はふくらはぎの傷を手当しながら、背嚢から魔物の核の粉を取り出して右手に振りかけた。
傷口が消えたのを確認して痛みの緩和を施していく。
だが、少女の苦しそうな顔に変化はない。
よく確認すると、少女の腹に打撲のあとが残っている。
少女の帯を解いて腹を出すと、紫色に変色していた。
「くっ、腹の中で出血してるのか……。」
やった事はなかったが、傷を塞ぐのは同じだろう。
俺は少女の腹に手をあてて意識を集中した。
見えない傷を修復する……。
どうしたらいい……。
”弥七、心眼は使えない?”
「ああ、そうだね。」
目を閉じて、腹の中に意識を集中していく。
………………鮮明とまではいかないが、腹の中の様子が分かってきた。
ああ、ここから出血しているのか……。
更に集中して傷を修復し、痛みの緩和を施したうえで、浄化を使って中で出血した血を消していく。
ここまで来て、やっと少女の顔から苦痛の色が消えてきた。
花織さんは身体についた血を拭っている。
俺は水環様の力を使って傷口の血を洗い流していく。
「ふう。これで、多分大丈夫だと思う。家の中に運んで様子をみよう。」
「はい。」
ご主人は店の方に出かけているという事で、五月さんが女中さんに指示をして客間で少女を寝かせてくれた。
”弥七、相当血を流したから、補給できる食べ物を用意した方がいいわ。”
「どんなの?」
”赤身肉とか肝臓、ホウレンソウやヒジキね。アサリやシジミもいいわよ。”
俺は、水環様の言葉をそのまま口にした。
「血を流したので、血を補充する食べ物が必要みたいです。赤身肉とか肝臓、ホウレンソウやヒジキかアサリやシジミがいいそうです。」
「ここは仏教徒の多い町なので、肉関係は手に入りづらいんです。ヒジキとアサリなら手に入ると思います。」
「サキ、すぐに手配して頂戴。」
「承知いたしました。」
「じゃあ、俺は……、ここならイノシシか。ちょっと狩ってきます。」
「えっ?」
俺は花織さんの部屋に戻って木剣を手にして外に出た。
「流風様、イノシシを探してください。」
”了解だよ。”
イノシシはすぐに見つかった。
”弥七、人に見られないように注意しなさい。”
”そうだな。仏教徒は煩いからな。”
「何で?」
”血を穢れたものだと教えられているからな。”
「ああ、薬師如来様の言っていたやつか。」
”そう。宗教を人間が作った時に、なぜか血を穢れたものと考えるのだな。”
「でも、薬師如来様は、そんなの否定してたよね。」
”ああ。血を穢れたものなんて言ってたら、魔窟で修行などあり得んからな。”
”笑っちゃうわよね。女性の生理や、出産の出血も不浄なものとか言って否定してるんだもの。”
”狩りを否定したら、人間はとっくに滅びているぞ。”
「月音さんに見せてもらった過去の場面だと、肉以外には僅かな穀物と木の実くらいしかないもんね。」
俺はイノシシを倒して肝臓と肉を手に入れ、皮や他の内臓を埋めた。
「ただいま戻りました。」
「弥七君、どこに行ってたの?」
「ちょっと狩りにね。あの子の様子は?」
「まだ、寝ています。」
「じゃあ、調理場を借りて料理しちゃおうか。」
「調理場ですか?」
調理場ではサキさんが変わった料理を作っていた。
「それは?」
「ヒジキをふんだんに入れたガンモを揚げています。」
「揚げるって何?」
「多量の油で、煮る感じですね。」
「ガンモというのは?」
「豆腐をを崩して、ヒジキなどを混ぜて団子状にして揚げた料理です。せっかくですから夕食にお出ししますよ。」
「へえ、それは楽しみだ。じゃあ、俺は肝臓を塩ゆでにしてっと。」
「それは何ですか!」
「あっ、この家は、血や肉ってダメ?」
「いえ、そんな事はありませんが、周りの目もあって、肉はなかなか買い付けできないんですよ。」
「そうなんだ。じゃあ、肉も大量にあるから、夕食に焼いて食べようよ。」
「そ、そんなに大量のお肉をどこから……。」
「えっ、今、裏の山で狩ってきたんだけど。」
「買って……来たんですか?裏の山に肉屋さんなんてありませんけど。」
「いや、狩りだよ。」
「狩りって、その木刀ででしょうか?」
「うん。神様の力を使って硬くできるから、鉄の刀と比べても大差ないんだ。見ててよ。」
俺は木の短刀を取り出して硬化をかけ、肉を切り分けてみせた。
「も、もしかして、葉っぱとかを硬くしたら、包丁の代わりにできるって事ですか?」
「そうだよ。狩りに出た最初のころは、草の葉っぱで葦を斬って、それを矢みたいに投げて狩りをしてたんだ。」
「や、弥七様って……、異常だって言われませんか?」
「えっ、俺ってもしかして変なの?」
「嫁入り前のお嬢様を裸にして股間を凝視したかと思えば、神様をゾロゾロと引き連れていたり、馬車に轢かれて死にそうな女の子を治療してみせたり……。失礼ですが、人間とは思えませんんわ。」
「花織さんを裸にしたのは、仕方ないじゃないですか!治療の術を覚えてもらうためなんですから。」
「確かに治療の術を見させていただきましたが、とても人間の技とは思えませんでした。お嬢様が、あのような人間離れした存在になってしまったらと思うと……。」
「いや、普通に人間ですから!」
「いいえ!普通の人間は、木の枝で肉を切り分けたりしません!」
そこへ、女中のミツハさんが飛び込んできた。
「大変です。寺から使いが来て、治療を行った者を出せと。」
「それで?」
「ちょうど旦那様が戻られたところで、応接で対応されています。」
「じゃあ、俺が対応しましょう。」
俺は応接の入り口で声を掛けた。
「弥七です。失礼します。」
「ああ、弥七君、すまないね。俺も状況が理解できていなくて。」
「大丈夫ですよ。昼に少女を治療した、神代弥七ですが、何か御用ですか?」
「なにぃ!貴様のような小僧が治療の法力を使ったというのか?」
「それが何か?」
「総本山の許可なしに治療の法力を使うなど言語道断!すぐに本山に来て状況を説明するんだ。」
「何で?」
「お前は治療の法力を会得しておきながら、そんな事も知らんのか!」
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