倭国の針神様

モモん

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第二章

第18話 ”傷口の修復と痛みの緩和”を伝授してくれと頼まれた。

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「俺は、神様に言われて、毎日鍛練している。身体も、神様の能力を使わせていただく事もだ。」
「何故!神の力を使えるなら、それ以上何を望むというの!」
「神様の力は、別に俺の力じゃねえよ。俺が使わせてもらっているだけだ。俺の力じゃねえ。」
「それでもでしょ。どれだけ鍛練を積んでも、神の力にはかなわないでしょ。つまり、あなたの努力なんて何の役にもたたないの。」
「いや、俺が努力すれば、それだけ強い力が使えるし、この前みてえに、仏教の神様から新しい術を教えてもらえたりするだろう。」
「他所の神の教えを乞うなんて、ホントにあなたの神は怒らないの?」
「何で怒る必要があるんだ?どっちかって言えば、神様が頼んでくれたぞ。」

「あなたの神はプライドをもっていないの?」
「プライドって何だ?」
「神としての誇りよ。」
「誇り?」
「己が最高なんだという自尊心よ。」
「何でそんなモンが必要なんだ?」
「神であれば、己が唯一無二の存在だと主張するべきでしょ!」
「自然の神様は代わりのいない存在だぞ。」
「えっ?」
「水の神様である瀬織津姫様。大地の神様は此花咲夜姫様だし、時の女神は月詠さまだ。お前も倭国の住民なら名前くらい聞いたことがあるだろう。」
「そ、それは知っているけど、まさかその3神がお前の神だっていうの?」
「全部の力を使わせてもらえる訳じゃねえよ。」
「当然でしょ!その中の一人だけでも最強といえる神様じゃないの!」
「面白えんだぞ、その神様の力を借りて、新しい術を編み出せるんだ。」
「ば、馬鹿じゃないの!何で力を合わせる必要があるのよ!」

「何でって、状況に応じて使える技が一つでも多いほうがいいだろ。別に戦う事が目的じゃねえんだ。」
「じゃあ、何が目的だっていうのよ?」
「お前こそ、神様を何だと思ってんだよ。」
「な、何って……。」
「力が本質じゃないだろ。神様の本質は祝福だ。だからこそ、仏教の神様は俺に、回復と浄化の術を教えてくれた。」
「そこよ!あなたの治療術を見てきたわ。なんで、大天使にも使えないような技を、あなたのような子供が使えるの!」
「なぜって、自分の編み出した技を、人の役に立てて欲しいって仏教の神様が言ってたぞ。」
「その仏教神というのは、なぜ仏教徒でもないあなたに、その術を教えたの。仏教にとっては、何のメリットもないでしょ。」

「やっぱり、救世教の考えって変だよな。」
「なにが!」
「なんで、神様が見返りを求めるんだ?」
「それは……、信者が増える事によって、救われる者が増えるからでしょ。」
「何から救われるんだ?」
「最後の選択により、神の国に行ける者と業火に焼かれる者との区別よ。誰だって、焼かれたくはないでしょ。」
「正しい者と穢れた者とかいう2択だよな。それ、変だと思わないのか?」
「何がよ!」
「穢れた者って何ンだよ?」
「神の教えに背いた者に決まっている。」

「立川佳乃。お前たちの神は残酷だと思わないか?」
「なにがよ?」
「自分の作った人間だから、自分の意に沿わなければ殺してもいい。」
「当然でしょ。」
「その考えで、4000年くらい前に、この星を水没させて、ノラの一家だけを救った。」
「そうよ。」
「まあ、そんな水没なんて無かった事は、俺の神様が証明してくれたんだけど、何でわざわざ水没なんて言う手段を選んだんだ?」
「それは主の意思によるものよ。」
「全能なんだから、生き残るモノ以外は消滅させればいいだろ。なんで、わざわざ苦しめる水攻めなんて方法を選んだんだ?」
「私には答えようがないわ。」
「じゃあ、教えてやろう。それは、人間が考えたからだ。」
「ふざけないで!私の神様を侮辱するつもりなの!」

「考えてみろよ。お前らの神の発想は、人間のそれだよ。気に入らないから殺す?それって、暴君そのものだろ。」
「そ、それは……。」
「まあ、神様が暴れた時に人間を巻き込む事はあるらしいけど、それは人間を殺そうとして起きる訳じゃない。」
「どういう事?」
「台風は、破壊を目的としている訳じゃない。水をもたらし、淀んだ空気を循環させる。根底にあるのは再生なんだよ。」
「それなら、神の起こした洪水だって再生じゃないの!」
「馬鹿だな。星全部が水に包まれたんなら、その水は海水だろ。」
「あっ……。」
「三崎で育ったんなら、塩害は知ってるよな。」
「それは……。」
「海水に侵された陸地に動物を放ったとして、草や木はどれくらい経ったら生えてくるんだよ。その間に、動物は餓死するぞ。」
「まさか……。」
「争いの続く砂漠地帯で、平和を願った人々が経典を書き上げ、それに基づいて神が生まれた。そして、経典に従わない者には罰が下される。まあ、略奪が当たり前の砂漠の民に、倫理観を持たせるには必要だったんだろうな。」
「じゃあ、この国には……。」
「和と共生を尊ぶ倭国には、そんな倫理観は当たり前の事だって、お前だって知ってるよな。」
「それは……」
「まあ、そういう倫理観を必要とするやつらも、少しは居るんじゃねえの。」
「少し……考えさせて……。」

 魔物の核が傷薬になる事が分かったので、俺は鎌倉の魔窟に向かった。
 また、竹竿を切り出して、右岸と左岸を行き来しながら走っていく。

「こんにちは、薬師如来様!」
「おお、先日の少年か。どうした、今日は。」
「青鬼から採れる核が、傷薬になる事が分かったので、時々採りに来たいんですが、いいでしょうか?」
「ああ、鬼の討伐など好きにすればいい。」
「それから、先日教わった”回復と浄化”の術なんですが、少し神力を変化させて”傷口の修復と痛みの緩和”に成功しました。」
「ほう。どう変化させたのだ?」

 俺は薬師如来様に”傷口の修復と痛みの緩和”を覚えてもらった。
 神様へ教えるなど、畏れ多いとは思ったのだが、薬師如来様は喜んでくれた。

「私は未だ修行中の身だ。新しい知識ならいくらでも受け入れるぞ。」
「よかったです。怒られるんじゃないかって、怖かったですよ。」
「少年よ、名前は何という?」
「神代弥七です。」
「鎌倉の法力を持つものに教える事があるのだが、早い者でも会得するのに3年要している。」
「そんなにですか!」
「これも同時に覚えるなら、5年はかかりそうだな。」
「それは、大変そうですね。」
「しかも、法力が弱いから、術を使うのはどんどん大袈裟になってきおってな。」
「それって……。」
「術は門外不出となって、恩恵を受けるのは寺と権力者だけになっておる。」
「うちの神社に来るのは、貧乏な村人だけですよ。」
「ああ。そうであって欲しいのだが、やつらは関係者以外には法外な対価を求めおってな。」
「お礼として届くのは、野菜とか穀物ばかりですよ。」

「うふふ……。ところでな。」
「はい。」
「半年ほど前にやってきた娘がおってな。」
「はい。」
「そいつは、ここに来れば私に会えると何かで聞いたらしく、護衛に守られながら10日程通って回復と浄化を覚えよった。」
「へえ、優秀なんですね。」
「5分で覚えたお前が言うかよ。」
「俺には水環様って、水の神様がついていますからね。」
「まあよい。その娘、藤原花織に今の技を教えてやってくれぬか?」
「いいですけど、どこに住んでいるんですか?」

 俺はその足で、藤原花織が住むという亀岡八幡宮の東側を訪ねた。
 道を聞くと、簡単に家が分かった。
 家というよりも屋敷か……。
 門だけでも相当大きい。
 敷地は、神社の境内くらい広い。
 門には門番がいたので、藤原花織に会いたい旨を伝えたが、用件を聞かれた。

「修行中の神様から、藤原花織に会うように言われた。」
「神?お嬢様はそれを知っているのか?」
「いや、会うのは初めてだから知らねえよ。」
「そのような者を当家に入れる訳にはいかん。」
「別にいいけどさ。本人に伝えないでいいのか?薬師如来様の使いだと言えば、絶対に会うと思うぞ。」
「神ではなく仏様か、……ちっ、少し待っていろ。」

 門で待っていると、母ちゃんより少し若いくらいだろうか。
 女性が一人、走ってやってきた。

「も、申し訳ございません。薬師如来様のお使いの方をお待たせしてしまって。」
「別にいいけどよ。早く終わらせないと暗くなっちまうからな。じゃ、始めようか。」


【あとがき】
 ノアの洪水伝説って、残酷な話しですよね。
 自分の作った生物だから、殺すのは自分の自由だというのがユダヤ人の価値観だとしたら、とんでもない事だと思います。
 傲慢な神というのが私の感想です。

Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE
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