倭国の針神様

モモん

文字の大きさ
上 下
4 / 22
第一章

第4話 長の娘がどうしてもワンピースを譲ってくれと脅してきた

しおりを挟む
 翌朝は、カラッと晴れあがってくれた。

”キュュ”
「うん、分かっているよ。今日は遠出しないようにする。」

 朝一番の恒例で、葦を切ったいたら上空から流風様の声が聞こえた。

「おはよう。いい天気だね。」
”キュキュ”
「えっ、今日も一緒に来てくれるんだ。ありがとう!」

 最近の神様たちは、自分で野良の神様を見つけて吸収してくれている。
 時には地上で見つけた神様を流風様を呼んで合体してもらってりしている。
 特にお釜様は、面倒見がいいみたいだ。

 そんな日々を送りながら、俺も10才になった。

「弥七も10才になったか。背もだいぶ伸びてきたね。」
「うん、力も強くなってきたし、だいぶ遠くまで行けるようになってきたんだぜ。」
「頼もしいね。」

 そういって母ちゃんは俺に布団を作ってくれた。
 確かに、二人で一つの布団では狭くなっている。

「もう。母ちゃんのオッパイがなくても、一人で寝られるよね。」
「な、何を言ってんだよ。俺は狩人として認められたし、立派な大人だろ!」

 そう。安定した狩りをしてきた実績が認められ、部落で狩人と認められたのだ。
 狩人になれば、正式に肉を買い取ってもらえる。
 相場が上がっているそうで、ウサギとキツネは一匹300円。
 イノシシやシカなら、最低600円からだった。
 俺は毎日、ウサギとキツネをあわせて5匹納品している。
 1日1500円を稼ぐ、優秀な狩人になっていた。

 何で肉の値段が上がったかといえば、血を流す職業は益々嫌われていき、村で狩人を続ける人間がいなくなってしまったからだ。
 そのくせ、肉の食事が増えてきたために、慢性的な肉不足になっているらしい。
 だから、外で肉の買取を持ちかけられても断るように言われている。
 ただし、近隣の村の肉屋とは協定が結ばれているため、肉屋への持ち込みは大丈夫で、村に入っても大丈夫な手形を渡されている。

 俺は西の村の肉屋へよく出入りしている。
 裏口にまわり、引き戸を開けて中に入る。

「おっちゃん、ウサギ4匹持ってきた。」
「おっ、弥七か。いつもありがとうな。」
「イノシシの肉もあるけど、買ってくれるか。」

 俺は笹の葉で包んだ肉を背嚢から取り出した。

「もちろん買うぞ。お前の肉は丁寧に処理してあるから、人気なんだ。うん、この大きさならウサギとあわせて2000円だな。いいか?」
「ホントかよ!ありがてえ。母ちゃんに布をいっぱい買ってやれるよ。」

 俺は肉屋を出て、生地屋の裏口の戸を叩いた。
 
「ん、ボウか。久しぶりだね。」
「お金が入ったので、また生地を譲ってもらえますか。」
「いいよ。どんな生地がいいんだい。」
「母ちゃんの服を作れるような生地が欲しいんだけど。」
「身長は?」
「俺より5cm高いくらい。」
「だったら、たまには服を買ってやったらどうだい。」
「2000円しかないんだけど、これで買えるのか?」
「2000円あれば3着買えるさ。ちょうど、外国から入ってきたワンピースって服を作っててさ、数を作って練習したいからまけとくよ。」

 俺は黄色地にオレンジの花柄と、紺地に白の姫緋扇菖蒲柄。それと無地の桃色のワンピースを買った。
 おまけで生地もつけてくれた。

 ワンピースの包みを開けた時の母ちゃんは、目の玉が飛び出るくらい驚いて、次の瞬間大声で泣き出した。

「な、泣くなよ。そりゃあ、勝手に服なんか買って悪かったけど、偶にはいいじゃないか。」
「バカッ!30にもなって、こんな派手なの……、どう見たって嫁入り前の娘が着る柄だろ。」
「母ちゃんだって、ちゃんと化粧すりゃ、嫁入り前に見えるんじゃね?」
「バカッ!そういう時は、嫁入り前に見えるって、言い切るもんだろ。」
「バカバカ言うなよ。これって、外国で流行りのワンプースとかいう服らしいぞ。」
「バカ!ワンピースつうんだ。部落長の娘が、さんざん自慢してたから知ってんだ。」
「生地屋の女将さんがいうには、この紺色の柄が一番流行っているって言ってたぞ。」
「ああ。変わった菖蒲の柄だけど、落ち着いた色合いだね。」
「母ちゃん、怒ってねえのか?」
「バカだね。こんな可愛い服を買ってもらって、何で怒るんだい。」
「だって、泣きながらバカッて……。」
「女は、嬉しい時に泣くモンなんだよ。覚えときな。」

 とりあえず、喜んでもらえたようだが、一通り袖を通したっきり着て出かけるのを見た事はない。
 まあ、俺が狩りに出ている間に着ているのだろう。

 それからは、時々、母ちゃんのものを買って帰る事にした。
 口にさす紅とか、下着とか装飾を施した櫛だ。
 だけど、母ちゃんはそれらをタンスにしまいこんで、あまり使ってくれない。
 喜んでいるみたいだけど、何でだろう。

 そんな中で、秋祭りの時に、化粧して紺のワンピースを着て髪を束ねた母ちゃんと一緒に歩いた事がある。
 流風様の起こすそよ風がワンピースの裾をくすぐり、かすかに微笑む母ちゃんは奇麗だった。
 すれ違う部落の男が全員振り返るのを見て、俺の胸にはムカムカしたものが溢れている。
 うん、母ちゃんは着飾って出歩かない方がいいと思う。

 神様たちも、母ちゃんの奇麗な姿に刺激されたのか、”キュキュッ”っと声をあげながら母ちゃんの周りを飛び回っている。
 なんだか嬉しそうだった。

 祭りの数日後、俺が狩りから戻ると部落の長が来ていた。

「なあ、千代さん頼むよ。」
「お断りしますわ。」
「どうしたんだ母ちゃん。」
「長がね、ワンピースを譲ってくれってきかないのよ。」
「何で?西の村へ行って買ってくればいいじゃん。」
「何でも、布屋さんのワンピースが人気になっちゃって、手に入らないんだって。」
「注文したいのだが、うちの部落の注文なんて一番後回しにされちまうんだよ。」
「変だな。一昨日行ったけど、女将さんはそんなこと言ってなかったぞ。」
「い、いや、うちの若いモンは、断られたと……。」
「だったら、サクラに自分で行かせればいいだろ。毎日プラプラしてんだから。」
「馬鹿をいうな!サクラにそんなみじめな思いをさせられるか!」
「そんなら諦めろよ。」
「弥七、お前が狩人として稼げるのは、俺が認めてやったからだ。いつでも取り消しできるんだぞ。」
「長!本気で言ってるんですか!」
「い、いや……。」
「しょうがねえな。母ちゃん、桃色か黄色のやつを譲ってやんなよ。俺がまた譲ってもらうからさ。」
「だって、あたしのだよ。」
「た、頼む。1着2000円だって聞いてるから、3000円出す。できれば、2着とも買わせてくれ。」

 女将さん、本当に格安にしてくれてたんだな。
 何だか嬉しくなってきた。
 女将さんには、今度ウサギでも持って行ってやろう。
 血を流すのはダメみたいだから、肉にして差し入れすればいいだろう。

 母ちゃんは、結局渋々ながらワンピースを譲る事を承諾した。
 6000円の臨時収入はありがたい事だ。

「なあ、母ちゃん。」
「なんだい?」
「この先、帰ってこない日があるかもしんない。」
「どうして?」
「行った先の村で、頼みごとをされる事があるんだ。」
「……まあ、暗くなって帰ってくるよりは、村のどっかで寝てきた方が安心か。」
「うん。」

 嘘ではない。
 西の村の肉屋さんを通じて、村長から収穫祭の肉を頼まれているのだ。
 依頼はイノシシ5匹。
 荷車も貸してくれると言われている。
 明日は、その依頼を果たすつもりなのだ。


【あとがき】
 千代さん、人気みたいです。
Youtube動画
https://www.youtube.com/watch?v=xtoZYlZEOHE
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天と地と空間と海

モモん
ファンタジー
 この世界とは違う、もう一つの世界。  そこでは、人間の体内に魔力が存在し、魔法が使われていた。  そんな世界に生まれた真藤 仁は、魔法学校初等部に通う13才。  魔法と科学が混在する世界は、まだ日本列島も統一されておらず、ヤマトにトサが併合され、更にエゾとヒゴとの交渉が進められていた。  そこに干渉するシベリアとコークリをも巻き込んだ、混乱の舞台が幕をあける。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

処理中です...