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第一章
第1話 魔法円
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ウィッチクラフト「ジュオン」は、魔道具店の立ちならぶ魔法街の一番奥……、の店の更に裏にあった。
その店の裏はもう城壁になっており、文字通り町の外れという立地である。
そんな店を訪れる客がいた。
カラン……。ドアベルが鳴ると同時に店内が明りに包まれた。
「いらっしゃい。」
出迎えたのは紺の作務衣に身を包んだ20代後半と見える女性だ。
背中まで届く栗色の髪を無造作に束ね、化粧っ気のない顔であったが色白で整った顔だちをしている。
店に入ってきた男は、見るからに冒険者といったいで立ちで20才くらい。油ののっている年代だろう。
男は店内の商品には興味がないようで、まっすぐにカウンターに進んだ。
「この剣に火魔法を付与してもらいたい。」
「火魔法を付与した剣なら、そこに展示してある方がお得だけど。」
「いや、このレイピアでお願いしたい。」
「わかった。で、具体的な希望は?」
「刃に炎をまとわせるだけでいい。」
「炎なの?熱じゃなくて。」
「可能なら両方がいいな。」
「温度はどうする?」
「その辺はよくわからないから任せる。」
「オッケー。刀身の強化はどうするの?」
「可能なら付与してくれ。」
「魔法円の位置は?」
「刀身の根元に入れてくれ。」
「シャキ、こんなところでいいかな?」
「うん、できたよ。」
奥にいた少女から返事が返り、木刀を手にしてカウンターにやってきた。6才くらいだろうか、今風に言えばボブ……おかっぱの黒髪が微かに揺れている。目もぱっちりとして人形のような少女だ。
「あんたの希望通りに作ったサンプルだよ。外で発動を確認しておくれ。気に入らなければ変更は可能だからね。」
冒険者は木刀を持って外に出ていき、少しして戻ってきた。
「これで頼む。」
「分かった。一時間ほどかかるから、適当に時間をつぶしておくれ。」
「店の中を見させてもらっていいかい?」
「ああ、好きにしてくれ。シャキ、説明してやんな。」
黒髪の少女が客に問いかける。
「何か、気になる武器はございますか?」
「ここは武器だけなのかい?」
「防具もできますけど、サイズとかあってご要望によってお作りいたしますので作り置きはしないんですよ。」
「例えば、城に展示されている勇者装備みたいなものもできるのかい?」
一瞬だが少女の顔が曇った。客に気づいた様子はない。
「可能ですが、少しお時間をいただくことになります。」
数か月前、一組の勇者パーティーが魔王を倒した。
だが、魔王の命と引き換えに、勇者パーティーも全滅している。
その時のパーティーの装備が回収され城に展示されているのだ。
魔王は自分の最後を悟った時、残りの魔力で時をさかのぼり、幼児化したパーティーを屠ったと目撃者が伝えている。
そして、魔力の尽きた魔王もその場で消滅したそうだ。
勇者パーティーの武器と防具には精緻な魔法円が書き込まれており、それを記したのはパーティーメンバーであったマギ・デザイナーで稀代の天才と詠われた通称プロフェッサー。本名は誰も知らない。
「君の書く魔法円は、プロフェッサーのものとそっくりだと言われているが、何か関係があるのかい?」
「さあ。私の魔法円はオリジナルですので、偶然じゃないでしょうか。」
「確かに……、プロフェッサーのは一般的な二重円構造だけど、君は唯一三重円構造を使っているもんね。」
「はい。」
「三重円にする意味って?」
「それは企業秘密です。」
「企業ってなに?」
そう。この世界には企業など存在しない。
存在しないはずの単語を発するこの少女は何者なのであろうか……。
【あとがき】
新作です。魔法円を操るマギ・デザイナー。よく魔法陣という単語を使いますが、正確には魔法円のようです。
不定期更新です。
その店の裏はもう城壁になっており、文字通り町の外れという立地である。
そんな店を訪れる客がいた。
カラン……。ドアベルが鳴ると同時に店内が明りに包まれた。
「いらっしゃい。」
出迎えたのは紺の作務衣に身を包んだ20代後半と見える女性だ。
背中まで届く栗色の髪を無造作に束ね、化粧っ気のない顔であったが色白で整った顔だちをしている。
店に入ってきた男は、見るからに冒険者といったいで立ちで20才くらい。油ののっている年代だろう。
男は店内の商品には興味がないようで、まっすぐにカウンターに進んだ。
「この剣に火魔法を付与してもらいたい。」
「火魔法を付与した剣なら、そこに展示してある方がお得だけど。」
「いや、このレイピアでお願いしたい。」
「わかった。で、具体的な希望は?」
「刃に炎をまとわせるだけでいい。」
「炎なの?熱じゃなくて。」
「可能なら両方がいいな。」
「温度はどうする?」
「その辺はよくわからないから任せる。」
「オッケー。刀身の強化はどうするの?」
「可能なら付与してくれ。」
「魔法円の位置は?」
「刀身の根元に入れてくれ。」
「シャキ、こんなところでいいかな?」
「うん、できたよ。」
奥にいた少女から返事が返り、木刀を手にしてカウンターにやってきた。6才くらいだろうか、今風に言えばボブ……おかっぱの黒髪が微かに揺れている。目もぱっちりとして人形のような少女だ。
「あんたの希望通りに作ったサンプルだよ。外で発動を確認しておくれ。気に入らなければ変更は可能だからね。」
冒険者は木刀を持って外に出ていき、少しして戻ってきた。
「これで頼む。」
「分かった。一時間ほどかかるから、適当に時間をつぶしておくれ。」
「店の中を見させてもらっていいかい?」
「ああ、好きにしてくれ。シャキ、説明してやんな。」
黒髪の少女が客に問いかける。
「何か、気になる武器はございますか?」
「ここは武器だけなのかい?」
「防具もできますけど、サイズとかあってご要望によってお作りいたしますので作り置きはしないんですよ。」
「例えば、城に展示されている勇者装備みたいなものもできるのかい?」
一瞬だが少女の顔が曇った。客に気づいた様子はない。
「可能ですが、少しお時間をいただくことになります。」
数か月前、一組の勇者パーティーが魔王を倒した。
だが、魔王の命と引き換えに、勇者パーティーも全滅している。
その時のパーティーの装備が回収され城に展示されているのだ。
魔王は自分の最後を悟った時、残りの魔力で時をさかのぼり、幼児化したパーティーを屠ったと目撃者が伝えている。
そして、魔力の尽きた魔王もその場で消滅したそうだ。
勇者パーティーの武器と防具には精緻な魔法円が書き込まれており、それを記したのはパーティーメンバーであったマギ・デザイナーで稀代の天才と詠われた通称プロフェッサー。本名は誰も知らない。
「君の書く魔法円は、プロフェッサーのものとそっくりだと言われているが、何か関係があるのかい?」
「さあ。私の魔法円はオリジナルですので、偶然じゃないでしょうか。」
「確かに……、プロフェッサーのは一般的な二重円構造だけど、君は唯一三重円構造を使っているもんね。」
「はい。」
「三重円にする意味って?」
「それは企業秘密です。」
「企業ってなに?」
そう。この世界には企業など存在しない。
存在しないはずの単語を発するこの少女は何者なのであろうか……。
【あとがき】
新作です。魔法円を操るマギ・デザイナー。よく魔法陣という単語を使いますが、正確には魔法円のようです。
不定期更新です。
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