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第7章 地獄の魔王決定戦編
地獄の83丁目 竜王への謁見
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せっかく地獄に来たので俺はいつか会ってみたいと思っていた竜王への謁見をデボラに申し出た。日頃からカブタン達がお世話になっているのでお礼を言わないといけないた思っていたところなのだ。魔力の高まりと共に度胸がついたのも大きい。デボラはすぐにオッケーをくれたので、喜び勇んで魔方陣に飛び乗った。
だが、俺は初めて会う竜王の余りの巨大さに声を失った。魔法陣を使って転移した後すぐ、目の前に大きな黒い壁が現れたので、不用意にその壁をペチペチしてしまった。速攻でデボラに頭をはたかれたので何事かと思い空を見上げると、そこには赤い目と鋭い牙をもつ竜の頭があった。
「いきなりペチペチしてくるとはなかなかいい度胸だのう、人間。いや、悪魔か? ん? 天使? なんだコイツは。デボラ」
声は出しているが口の動きと合っていない。魔法で意思疎通しているようだ。
「こいつは、我の未来の夫だ!」
「おっと、それは時期尚早」
「この間、話しておった奴か。いつの間にそんなに話が進んだのだ」
「色々あってな! 未来と言えば、こやつは将来、魔王になるかもしれん男だぞ!」
「……長くなりそうだが、詳しく聞かせろ」
俺とデボラはとりあえずこの数日間の間に起きたことを説明した。そして俺が、箱庭の生物たちにエサを提供してくれている件でお礼が言いたいことも。
「なるほど、なかなか面白いことになっておるが、力の使い方には注意しろ。力に溺れた結果、身を持ち崩した魔王は何人も知っておる」
そうだよな、俺にしたって強い力への憧れはあった。それこそ、漫画やアニメのヒーローだったり、権力だったり。誰もが一度は罹るはしかのような病だ。俺の場合、代償は大きかったが、今更悔やんでもしょうがない。どう使うにしても周りに迷惑だけはかけないようにしないと。
「尻尾の件は別に気にするな。体の一部がエサになっていると聞くとあまり気分のいいものではないがまあ、すぐに生えてくるからな」
「この間もらった血は無事に大吟醸に生まれ変わったぞ!」
「酒蔵に言っておけ、次に『龍殺し』などというふざけた名前を付けたら全て灰にするとな」
酒蔵も思い切った名前付けるな。わざわざ血を分けてもらってるってのに。
「あ、ああ。伝えておこう。次はシャレじゃ済まんとな」
「さて、こちらからも相談があるんだが聞いてくれるか?」
突然目の前の壁がググッとせりあがった。どうやら竜王は寝そべっていた様だ。今度は上体を起こし、さらなる高みから俺達を見下ろしてきた。
「おお、すまん。礼儀のつもりで立ち上がったが見下ろしてしまっておるな。許せよ」
「気にするな。声は魔力で通じておる」
「さて、相談なんだが儂の孫夫妻が新居を探しておってな。というのもどうやらひ孫を授かったようなのだ」
「それはおめでとうございます」
「うむ。だがな、魔王がアイツでは地獄で安心して出産と子育てが出来んと」
「言われてみれば確かに」
本来、俺がドラメレクをぶっ飛ばせば済む話なのだが、俺が奴の命を奪えるかと言うと自信は無い。力量の問題ではなく、覚悟の問題で。俺が殴って奴が改心するならいいのだがそれも望み薄だ。心を折ることも出来るかどうか分からない。もう一度封印が現実的な手段だな。その用意が整うまでは地獄に真の安息は訪れないかもしれない。
「じゃあ、アルカディア・ボックスに来るか?」
「うむ、それを頼もうかと思っておってな」
だが待って欲しい。副作用は大丈夫だろうか。あそこで生まれたフェニックスの例もある。ドラゴンがファンタジー進化を遂げたらどんなことになるか想像もつかないが……。
「デボラ、魔力の高まりの件については?」
「ふむ、そこが問題だな」
「アルに魔力の制御が出来れば良いんだけど」
「一度聞いてみるか。竜王よ、取り合えず話は分かった。一旦持ち帰らせてもらう」
「ああ、頼むよ」
俺とデボラは最後に一礼をすると、魔法陣を発動させ、俺の部屋へと戻った。
☆☆☆
『魔力の強弱やオンオフですか……。エアコンじゃあるまいし私にそんな芸当が………………………………できました。褒めてください』
「何でもありだな、もう」
『フェニックスやフェンリル、ケルベロスなどの成長の影響力が大きいですね。あの辺は元から種族としての魔力が高いですし、そんな生物を身の内に宿している私もすごいのです』
「解るような解らんような」
「すごいぞ! アル! 褒めてつかわす! 魔力の影響力は『弱』で頼む!」
『畏まりました。デボラ様』
「これで、ドラゴンを迎え入れても問題ないな。カブタン達に注意しておかないと。直接尻尾にかじりついたら消し炭にされるぞ! とな」
「確かに。さて、後の問題は、このチラシの件だけか」
「我も参加するぞ! 直接対決はキーチローに譲るつもりだがさりとて相手はドラメレク。どんな手段を使ってくるかわからんからな」
「俺も実戦経験はないわけだしぶっつけ本番は怖いな。ちょっとキャラウェイさんに組手でもお願いしようかな」
俺は頭の中に浮かんでくるイメージをもとに構えてみた。
「ほう、やはり【転送】のおかげか様になっておる。人間の頃に格闘経験はないのだろ?」
「うん、全く。どこにでもいるひ弱な一般人」
「では、我やキャラウェイ殿の格闘術一般が予備知識として取り込まれているのだな」
「魔法ってすごいね。竜王さんの言ってた通り、力に溺れたら大変なことになっちゃうよ。自分で律していかないと、【転送】一つ取ったっていくらでも危険な使い方はあるし」
デボラは静かに頷き、手のひらに光の玉を作った。
「キーチロー、この玉は癒しの光だと思うか? それとも破壊の光だと思うか?」
「えっ、綺麗な印象を受けたから癒しじゃないの?」
「残念、この玉でこの辺半径300メートルは吹き飛ばせる」
言い終わるとデボラは光の玉を消した。
「むむぅ。まだまだ勉強不足の様だ」
「違う、アレはな、我の意識一つでどちらにでもなるのだ」
「じゃあ、答え聞いてから変えたって事? インチキだー!」
「ああ、インチキだ。力の使い方は覚えたか?」
ニヤリと笑うデボラを見て俺はハッと気付いた。どちらにでもなる……か。これは駆け引きでもあり、また、力の危険さを教える授業でもあったのだ。全ては己の意思一つ。魔王様に学ぶことはまだまだ多い。そんなことを痛感した。
だが、俺は初めて会う竜王の余りの巨大さに声を失った。魔法陣を使って転移した後すぐ、目の前に大きな黒い壁が現れたので、不用意にその壁をペチペチしてしまった。速攻でデボラに頭をはたかれたので何事かと思い空を見上げると、そこには赤い目と鋭い牙をもつ竜の頭があった。
「いきなりペチペチしてくるとはなかなかいい度胸だのう、人間。いや、悪魔か? ん? 天使? なんだコイツは。デボラ」
声は出しているが口の動きと合っていない。魔法で意思疎通しているようだ。
「こいつは、我の未来の夫だ!」
「おっと、それは時期尚早」
「この間、話しておった奴か。いつの間にそんなに話が進んだのだ」
「色々あってな! 未来と言えば、こやつは将来、魔王になるかもしれん男だぞ!」
「……長くなりそうだが、詳しく聞かせろ」
俺とデボラはとりあえずこの数日間の間に起きたことを説明した。そして俺が、箱庭の生物たちにエサを提供してくれている件でお礼が言いたいことも。
「なるほど、なかなか面白いことになっておるが、力の使い方には注意しろ。力に溺れた結果、身を持ち崩した魔王は何人も知っておる」
そうだよな、俺にしたって強い力への憧れはあった。それこそ、漫画やアニメのヒーローだったり、権力だったり。誰もが一度は罹るはしかのような病だ。俺の場合、代償は大きかったが、今更悔やんでもしょうがない。どう使うにしても周りに迷惑だけはかけないようにしないと。
「尻尾の件は別に気にするな。体の一部がエサになっていると聞くとあまり気分のいいものではないがまあ、すぐに生えてくるからな」
「この間もらった血は無事に大吟醸に生まれ変わったぞ!」
「酒蔵に言っておけ、次に『龍殺し』などというふざけた名前を付けたら全て灰にするとな」
酒蔵も思い切った名前付けるな。わざわざ血を分けてもらってるってのに。
「あ、ああ。伝えておこう。次はシャレじゃ済まんとな」
「さて、こちらからも相談があるんだが聞いてくれるか?」
突然目の前の壁がググッとせりあがった。どうやら竜王は寝そべっていた様だ。今度は上体を起こし、さらなる高みから俺達を見下ろしてきた。
「おお、すまん。礼儀のつもりで立ち上がったが見下ろしてしまっておるな。許せよ」
「気にするな。声は魔力で通じておる」
「さて、相談なんだが儂の孫夫妻が新居を探しておってな。というのもどうやらひ孫を授かったようなのだ」
「それはおめでとうございます」
「うむ。だがな、魔王がアイツでは地獄で安心して出産と子育てが出来んと」
「言われてみれば確かに」
本来、俺がドラメレクをぶっ飛ばせば済む話なのだが、俺が奴の命を奪えるかと言うと自信は無い。力量の問題ではなく、覚悟の問題で。俺が殴って奴が改心するならいいのだがそれも望み薄だ。心を折ることも出来るかどうか分からない。もう一度封印が現実的な手段だな。その用意が整うまでは地獄に真の安息は訪れないかもしれない。
「じゃあ、アルカディア・ボックスに来るか?」
「うむ、それを頼もうかと思っておってな」
だが待って欲しい。副作用は大丈夫だろうか。あそこで生まれたフェニックスの例もある。ドラゴンがファンタジー進化を遂げたらどんなことになるか想像もつかないが……。
「デボラ、魔力の高まりの件については?」
「ふむ、そこが問題だな」
「アルに魔力の制御が出来れば良いんだけど」
「一度聞いてみるか。竜王よ、取り合えず話は分かった。一旦持ち帰らせてもらう」
「ああ、頼むよ」
俺とデボラは最後に一礼をすると、魔法陣を発動させ、俺の部屋へと戻った。
☆☆☆
『魔力の強弱やオンオフですか……。エアコンじゃあるまいし私にそんな芸当が………………………………できました。褒めてください』
「何でもありだな、もう」
『フェニックスやフェンリル、ケルベロスなどの成長の影響力が大きいですね。あの辺は元から種族としての魔力が高いですし、そんな生物を身の内に宿している私もすごいのです』
「解るような解らんような」
「すごいぞ! アル! 褒めてつかわす! 魔力の影響力は『弱』で頼む!」
『畏まりました。デボラ様』
「これで、ドラゴンを迎え入れても問題ないな。カブタン達に注意しておかないと。直接尻尾にかじりついたら消し炭にされるぞ! とな」
「確かに。さて、後の問題は、このチラシの件だけか」
「我も参加するぞ! 直接対決はキーチローに譲るつもりだがさりとて相手はドラメレク。どんな手段を使ってくるかわからんからな」
「俺も実戦経験はないわけだしぶっつけ本番は怖いな。ちょっとキャラウェイさんに組手でもお願いしようかな」
俺は頭の中に浮かんでくるイメージをもとに構えてみた。
「ほう、やはり【転送】のおかげか様になっておる。人間の頃に格闘経験はないのだろ?」
「うん、全く。どこにでもいるひ弱な一般人」
「では、我やキャラウェイ殿の格闘術一般が予備知識として取り込まれているのだな」
「魔法ってすごいね。竜王さんの言ってた通り、力に溺れたら大変なことになっちゃうよ。自分で律していかないと、【転送】一つ取ったっていくらでも危険な使い方はあるし」
デボラは静かに頷き、手のひらに光の玉を作った。
「キーチロー、この玉は癒しの光だと思うか? それとも破壊の光だと思うか?」
「えっ、綺麗な印象を受けたから癒しじゃないの?」
「残念、この玉でこの辺半径300メートルは吹き飛ばせる」
言い終わるとデボラは光の玉を消した。
「むむぅ。まだまだ勉強不足の様だ」
「違う、アレはな、我の意識一つでどちらにでもなるのだ」
「じゃあ、答え聞いてから変えたって事? インチキだー!」
「ああ、インチキだ。力の使い方は覚えたか?」
ニヤリと笑うデボラを見て俺はハッと気付いた。どちらにでもなる……か。これは駆け引きでもあり、また、力の危険さを教える授業でもあったのだ。全ては己の意思一つ。魔王様に学ぶことはまだまだ多い。そんなことを痛感した。
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