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第6章 魔王降臨編

地獄の77丁目 生還

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「あのー、キーチローさん! 大丈夫ですか!?」

 ゆっくりと目を開けると心配そうに俺の顔を覗き込むラファエラさんがぼんやりと見えてきた。どうやら滝行の後すぐにぶっ倒れてしまったらしい。

「ああ、よかった! 気が付かれましたね! 滝修行、クリアおめでとうございます!」

 ああ、そうか。そういう趣旨だった。途中からノリノリになったラファエラさんに中学の時の好きだった女の子の名前や会社への不満を叫ばされたり、滝に打たれながら腕立て伏せをさせられたり、今にして思えば何の意味があったのかさっぱりだ。

 だんだん意識がはっきりしてきた。あの発生や筋トレが無意味だったと知らされた時に何かの糸が切れたみたいで倒れてしまったんだ。

「ありが……とう? ございます」
「デボラさんには修行クリアの連絡が入っているようなので、もう間もなくいらっしゃると思いますよ! 着替えは更衣室に保管してありますね! さあ、もうひと頑張りです!」

 いや、あなたのせいで頑張らなくて良かったところを頑張りすぎてしまったんだが……。

「キーチローさんの魂は確実に強化されましたよ! トレーナーの私が言うのですから、間違いありません!」
「今までにそういう方はいたんですか?」
「いえ、初めてなんでよくわかりません!」

 適当過ぎる……。

「そうですか、お世話になりました」
「またいつか遊びに来てくださいね!」

 今度来るのはまた死んだ時だし、ラファエラさんに会うとするなら地獄に落ちた後だ。ちょっと冗談じゃない。……が、美人なんで一応愛想を振りまいておくことにした。

「ええ。よろしく!」

 手を振りながら更衣室に入り着替えを済ませると、入ってきたルートを辿って煉獄の入り口にやってきたがそこにはもう既にデボラが立って待っていた。

「早かったな! キーチロー」
「早かった!? 信じられない量の水を浴びて危うく死ぬとこだった!」
「もう死んでるがな。水の色は何色だった?」
「そ、それは……秘密……」
「どうせ、怠惰と色欲だろ。たぶんピンクの方が濃かったはずだ!」

 俺は断じて答えなかったが、もう態度から全てはお察しの様子だ。

「さあ、また地獄の瘴気にまみれる前に、復活の儀式を始めよう!」
「あれ? 許可は下りたの?」
「天界に保管されているはずのコキュートス最下層の鍵、それが無ければドラメレクの復活は無かったとゴリ押したら案外素直に非を認めてな。その辺はまだ調査中らしいが、とにかく死ぬ予定の無いものが死ぬのは天界にとっても都合が悪いらしい」
「なんにせよ、復活出来るなら良かった! さ、行こう!」

 俺はデボラの手を取り、既に用意してあった魔法陣の上に飛び乗った。


  ☆☆☆

「さて、キーチロー君の心臓はこんなものでいいでしょう。後は、生前の情報、なるべく多く……」

 キーチローさんに関する記憶を【転送ダウンロード】しに行ったベルさんは大丈夫でしょうか。もうすぐ儀式が始まる予定ですが……。

 うう……それにしても復活の儀式には聖水が必須とは……。予想はしてましたが、こんな縁起でもないものには近寄りたくないですね。

「遅くなりました! キャラウェイさん! ご両親と親戚と小中高大のご学友! なるべく多く駆けずり回ってきました! あまり存在感が強くない人なのか、少し手間取ってしまいました」

 気の毒に……キーチロー君。うっかりディスられているではないですか。

「一応、プライバシーに触れないように私へ直接ではなく、この魔導メモリーに収めてきましたが」
「わかりました、ではそれは魔法陣の中へ」

 キーチロー君の復活の儀式。それは魔法陣の中にキーチロー君の遺体を乗せた祭壇、それと彼の思い出の品、さらに魔術的素材(黒蜥蜴の丸焼きや聖水など)をちりばめ、魂と一緒にエイダン君の転生の炎でまとめて焼いてしまうという要領でしたね。後はキーチロー君の魂がくれば……。

「キーチロー! ただ今戻りました!」

 おや、なんと都合のいい。これで全て揃いましたね。おっと、ユグドラシルの葉も一枚備えておかなくては。

「お帰りなさい、キーチロー君。準備はできていますので、その魔法陣の中で待っていてもらえますか?」
「はい!」


  ☆☆☆

「アル! 魔法陣の所へエイダンを呼んでくれ!」

『畏まりました、デボラ様。少々お待ちください』

「キーチローは遺体と重なるように寝る!」
「えっ……はい……」

 よし、いいぞ……準備は完璧だ。古い書物をこれでもかと言うほどあさって確信を得た方法だ。まあ、メインは転生の炎でその他はサポートのようなものだがな。

「あ、ヘル・ガーディアンズのメンバーも全員集合だ。消費魔力が足りなければ支援を依頼するかもしれん」

『畏まりました。デボラ様』

 うむ、キーチローの言う通り少し面白味がなくなったかもしれん。元の軽い感じもいい気がするな。

「魔力を豊富に含んだ素材ばかりとはいえ、復活にどれほどのエネルギーを使うか分からんからな」

 よし。準備は整った。後はエイダンの転生の炎で全てを焼き尽くせば、灰の中からキーチローが復活するはずだ。

「では、始めてくれ! エイダン!」
「了解です! デボラ様!」

 エイダンが空中で二、三度大きく羽ばたくとエイダンの体は大きく燃え上がり、元の姿の10倍ほどの形をした炎が広がった。エイダンがさらに羽ばたくとその炎はエイダンの体を離れ、キーチローの元へとゆっくり下降していった。

「なんと壮大な光景よ」
「キレイですね……」

 大きな不死鳥の炎はキーチローの体を通り過ぎ、魔法陣の中へ溶け込むと、やがて魔法陣から巨大な火柱が上がった。少し、ほんの少しだけ不安がよぎる。もしも生還が叶わなかったら……。

「あの、デボラ様。マズイです」
「どうした!? エイダン!!」
「どういう訳かキーチローさんの魂が死んだ時より格段に成長してまして。このままだと肉体に収まりません」
「という事は……?」
「このままだと復活した瞬間に肉体が破裂します」

 なん……だと……!!

「何か方法はないか! 何か……!」
「そもそもですね。キーチローさん、体の中に人・魔・天の血が入り乱れてるんですよ。ちょっと人としての再生は難しいというか……」

 わ、我の血のせいか……!? 肉体の強化に耐えられそうな素材はなし……。ならばいっそ……!

「キーチローの肉体に我の血を追加する! なんとか保たせろ!」

 ともかく、生き返らせることだ! 失敗して肉体が無くなれば今度こそキーチローは亡者の仲間入りだ。その後の事はもう、我の命で償うしかない!

「デボラ様!」
「心配いらん! 傷はすぐに塞ぐ! キーチローは復活だ!」

 手の平から流れる血を魔方陣の中へ送り込む。頼む、なんとか助かってくれ!!


 ……しばらくして、火柱が収まり、魔方陣の中心に大量の灰が積もっていた。本来ならばこの中からキーチローが出てくるはずだが……。んっ? 今、灰が動いたような……。

「デボラ様……キーチローさんは……」
「大丈夫、きっとすぐ出てくる」
「とするとあの灰、どけなくては」

 流石キャラウェイ殿。いつでも冷静だ。

 全員で慎重且つ素早く灰を掘り起こしたところ、中心に反応があった。人間だ! 人間の肉体だ!

「う……ブヘッ! へっ……へっ……ヘックシン!!」

 生きておる!! キーチローは生きておるっ!!


 …………………ん?

 あーーーーーーーっ!!!!
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