上 下
84 / 125
第6章 魔王降臨編

地獄の77丁目 生還

しおりを挟む
「あのー、キーチローさん! 大丈夫ですか!?」

 ゆっくりと目を開けると心配そうに俺の顔を覗き込むラファエラさんがぼんやりと見えてきた。どうやら滝行の後すぐにぶっ倒れてしまったらしい。

「ああ、よかった! 気が付かれましたね! 滝修行、クリアおめでとうございます!」

 ああ、そうか。そういう趣旨だった。途中からノリノリになったラファエラさんに中学の時の好きだった女の子の名前や会社への不満を叫ばされたり、滝に打たれながら腕立て伏せをさせられたり、今にして思えば何の意味があったのかさっぱりだ。

 だんだん意識がはっきりしてきた。あの発生や筋トレが無意味だったと知らされた時に何かの糸が切れたみたいで倒れてしまったんだ。

「ありが……とう? ございます」
「デボラさんには修行クリアの連絡が入っているようなので、もう間もなくいらっしゃると思いますよ! 着替えは更衣室に保管してありますね! さあ、もうひと頑張りです!」

 いや、あなたのせいで頑張らなくて良かったところを頑張りすぎてしまったんだが……。

「キーチローさんの魂は確実に強化されましたよ! トレーナーの私が言うのですから、間違いありません!」
「今までにそういう方はいたんですか?」
「いえ、初めてなんでよくわかりません!」

 適当過ぎる……。

「そうですか、お世話になりました」
「またいつか遊びに来てくださいね!」

 今度来るのはまた死んだ時だし、ラファエラさんに会うとするなら地獄に落ちた後だ。ちょっと冗談じゃない。……が、美人なんで一応愛想を振りまいておくことにした。

「ええ。よろしく!」

 手を振りながら更衣室に入り着替えを済ませると、入ってきたルートを辿って煉獄の入り口にやってきたがそこにはもう既にデボラが立って待っていた。

「早かったな! キーチロー」
「早かった!? 信じられない量の水を浴びて危うく死ぬとこだった!」
「もう死んでるがな。水の色は何色だった?」
「そ、それは……秘密……」
「どうせ、怠惰と色欲だろ。たぶんピンクの方が濃かったはずだ!」

 俺は断じて答えなかったが、もう態度から全てはお察しの様子だ。

「さあ、また地獄の瘴気にまみれる前に、復活の儀式を始めよう!」
「あれ? 許可は下りたの?」
「天界に保管されているはずのコキュートス最下層の鍵、それが無ければドラメレクの復活は無かったとゴリ押したら案外素直に非を認めてな。その辺はまだ調査中らしいが、とにかく死ぬ予定の無いものが死ぬのは天界にとっても都合が悪いらしい」
「なんにせよ、復活出来るなら良かった! さ、行こう!」

 俺はデボラの手を取り、既に用意してあった魔法陣の上に飛び乗った。


  ☆☆☆

「さて、キーチロー君の心臓はこんなものでいいでしょう。後は、生前の情報、なるべく多く……」

 キーチローさんに関する記憶を【転送ダウンロード】しに行ったベルさんは大丈夫でしょうか。もうすぐ儀式が始まる予定ですが……。

 うう……それにしても復活の儀式には聖水が必須とは……。予想はしてましたが、こんな縁起でもないものには近寄りたくないですね。

「遅くなりました! キャラウェイさん! ご両親と親戚と小中高大のご学友! なるべく多く駆けずり回ってきました! あまり存在感が強くない人なのか、少し手間取ってしまいました」

 気の毒に……キーチロー君。うっかりディスられているではないですか。

「一応、プライバシーに触れないように私へ直接ではなく、この魔導メモリーに収めてきましたが」
「わかりました、ではそれは魔法陣の中へ」

 キーチロー君の復活の儀式。それは魔法陣の中にキーチロー君の遺体を乗せた祭壇、それと彼の思い出の品、さらに魔術的素材(黒蜥蜴の丸焼きや聖水など)をちりばめ、魂と一緒にエイダン君の転生の炎でまとめて焼いてしまうという要領でしたね。後はキーチロー君の魂がくれば……。

「キーチロー! ただ今戻りました!」

 おや、なんと都合のいい。これで全て揃いましたね。おっと、ユグドラシルの葉も一枚備えておかなくては。

「お帰りなさい、キーチロー君。準備はできていますので、その魔法陣の中で待っていてもらえますか?」
「はい!」


  ☆☆☆

「アル! 魔法陣の所へエイダンを呼んでくれ!」

『畏まりました、デボラ様。少々お待ちください』

「キーチローは遺体と重なるように寝る!」
「えっ……はい……」

 よし、いいぞ……準備は完璧だ。古い書物をこれでもかと言うほどあさって確信を得た方法だ。まあ、メインは転生の炎でその他はサポートのようなものだがな。

「あ、ヘル・ガーディアンズのメンバーも全員集合だ。消費魔力が足りなければ支援を依頼するかもしれん」

『畏まりました。デボラ様』

 うむ、キーチローの言う通り少し面白味がなくなったかもしれん。元の軽い感じもいい気がするな。

「魔力を豊富に含んだ素材ばかりとはいえ、復活にどれほどのエネルギーを使うか分からんからな」

 よし。準備は整った。後はエイダンの転生の炎で全てを焼き尽くせば、灰の中からキーチローが復活するはずだ。

「では、始めてくれ! エイダン!」
「了解です! デボラ様!」

 エイダンが空中で二、三度大きく羽ばたくとエイダンの体は大きく燃え上がり、元の姿の10倍ほどの形をした炎が広がった。エイダンがさらに羽ばたくとその炎はエイダンの体を離れ、キーチローの元へとゆっくり下降していった。

「なんと壮大な光景よ」
「キレイですね……」

 大きな不死鳥の炎はキーチローの体を通り過ぎ、魔法陣の中へ溶け込むと、やがて魔法陣から巨大な火柱が上がった。少し、ほんの少しだけ不安がよぎる。もしも生還が叶わなかったら……。

「あの、デボラ様。マズイです」
「どうした!? エイダン!!」
「どういう訳かキーチローさんの魂が死んだ時より格段に成長してまして。このままだと肉体に収まりません」
「という事は……?」
「このままだと復活した瞬間に肉体が破裂します」

 なん……だと……!!

「何か方法はないか! 何か……!」
「そもそもですね。キーチローさん、体の中に人・魔・天の血が入り乱れてるんですよ。ちょっと人としての再生は難しいというか……」

 わ、我の血のせいか……!? 肉体の強化に耐えられそうな素材はなし……。ならばいっそ……!

「キーチローの肉体に我の血を追加する! なんとか保たせろ!」

 ともかく、生き返らせることだ! 失敗して肉体が無くなれば今度こそキーチローは亡者の仲間入りだ。その後の事はもう、我の命で償うしかない!

「デボラ様!」
「心配いらん! 傷はすぐに塞ぐ! キーチローは復活だ!」

 手の平から流れる血を魔方陣の中へ送り込む。頼む、なんとか助かってくれ!!


 ……しばらくして、火柱が収まり、魔方陣の中心に大量の灰が積もっていた。本来ならばこの中からキーチローが出てくるはずだが……。んっ? 今、灰が動いたような……。

「デボラ様……キーチローさんは……」
「大丈夫、きっとすぐ出てくる」
「とするとあの灰、どけなくては」

 流石キャラウェイ殿。いつでも冷静だ。

 全員で慎重且つ素早く灰を掘り起こしたところ、中心に反応があった。人間だ! 人間の肉体だ!

「う……ブヘッ! へっ……へっ……ヘックシン!!」

 生きておる!! キーチローは生きておるっ!!


 …………………ん?

 あーーーーーーーっ!!!!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。

黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...