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第6章 魔王降臨編
地獄の73丁目 炸裂! ゴツゴウシュギ
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――俺達が箱庭に駆け付けたまさにその瞬間のことだった。ベスタのお腹の下で温められていた卵がカタカタと音を立て、そして割れた。しかしどうもおかしい。ヒクイドリの卵が割れる瞬間にこんなにも光が漏れるものなのだろうか。確かにヒクイドリは美しい姿をしているが、実際に光輝くってことは無いと思う。どんな赤ちゃんが生まれてくるのかと思いワクワクしていると、卵からあり得ない勢いで何かが飛び出した。
いやいや、なんで生まれたての赤ちゃんがいきなり空へと飛び出すの。おかしいでしょ。何より、アグニとベスタが驚いて声を失っている。様子がおかしい。二匹にとっても予想外の出来事らしく、飛び出したものを俺達と同じようにポカンと眺めている。
「あれ? ヒクイドリって生まれた瞬間から飛ぶの?」
「いや……あり得ない」
「ウチの子どうしちゃったの!?」
キャラウェイさんは華目羅を構えたまま失神する勢いで、舞い上がった雛らしきものを見つめている。
「ピィィィィィッ!!」
鳴いた。
「鳴いた……な」
「キーチローさん、なんて言ったか分かります?」
「いや……。イマイチ」
何だろう、何か言ったというよりは歓喜の雄たけびというか喜びの感情だったような。まあ、生まれた喜びを表現するのは分かるけど生まれたてだぞ?
「あ」
「えっ?」
「ちょっとちょっと何アレ!?」
生まれたてで飛び上がっただけでも驚きなのだが、燃えだした。これにはヒクイドリ夫妻も心底驚いている。そりゃそうだ。我が子がいきなり燃え出したら発狂したっておかしくない。だが、思ったほど立ち会った全員に取り乱す様子はない。
俺も含めて。
「あれって多分そういうことだよね?」
「ああ、実物は初めて見るが」
「私も初めて見ましたよ!」
キャラウェイさんも初めて……か。
「美しい……ヒクイドリも美しいですがあの燃え盛る炎もまたなんと……」
「キャンプに居たら便利そうね」
ま、ここの反応はある程度予想していた。
「アグニ、ベスタ! あの生物について心当たりはあるか?」
「あれは……恐らく……フェニックス……なんでしょうな」
上空を自在に飛び回っている炎に包まれた我が子を見て、アグニは答える。
「フェニックス……地獄の鳥類の中から稀に発生するといいますが、ヒクイドリはその可能性が少しだけ高いみたいですね。普段から地獄の炎を食べているからかも知れません」
ベスタの回答に驚いた。俺はてっきりフェニックスという種類でフェニックスの子がフェニックスなんだと思っていたからだ。
「加えて、アルカディア・ボックス内で魔力を高めていたから……という線もあるな」
「なるほど。確かに名前を頂いてからは一族にはない魔力の高まりを感じていましたからね」
しかしまぁ、なんというご都合主義。俺が死んだタイミングでフェニックスが生まれるなんて。
『みなさん、すいません。私、フェニックスを中に宿した? ことで物凄いレベルアップしたと思うんですけど。というかですね。中にいる皆さんが順調に育ってましてね。私のレベルアップと共に成長限界が伸びてるようなんですよ』
突然アルの声が響き渡り、とっさに空を見上げてしまった。そこには何もないのに。
「成長限界の突破だと!? どういうことだ! アル!」
『そのままです! 生物によって鍛えたりご飯食べたりしても成長する限界があるんですけどその上限が少し上がったと言いますか。そしてなんと、この度皆さんにも少し影響が出ちゃってるみたいなんです!』
アルの話し方が少し真面目になっている。俺はそんな無駄なことに思考を回すほど、今起きていることに置き去りにされ始めていた。伸ばし棒が無いだけでこんなにキャラが変わって聞こえるなんて。レベルアップの効果だろうか。
「魔王として限界を感じていた我にもその壁が一枚取り払われたという事か」
「私はデボラ様をお慕いする気持ちがレベルアップしました!」
「私は色気が増したような気がする!!」
「そういえばなんとなく先ほどから視力がよくなった様な……」
「僕は単純に魔力が高まったように感じます!」
「いつもより……早く本の……内容が入ってくる」
まるで、学習教材の宣伝だ。
「あの、成長限界が伸びたって事なんで効果が出るのはまだ先ですよ?」
空気を読まない俺の発言にみんな少しがっかりしたようだが、そもそも限界まで鍛えたという自覚があるのが凄いな。特にローズ。色気はまぁ確かに認めるところだが。ベルはまあ、いつも通り無視でいいだろう。
「それより、上空のあの生物」
俺はフェニックスを指さしたが、なんと不思議なことにその指目掛けてフェニックスが降りてきた。
「え、いや、熱っ……くない?」
成鳥は大きいヒクイドリだが、卵のサイズは鶏の卵の2倍強と言ったところだろうか。そんな卵から産まれてきたので、まだ手のひらに乗せられるサイズだ。ちょこんと手のひらに飛び乗り、羽根をバタつかせる姿は愛嬌たっぷりで実にいい。
「あなたが私を呼んでいたのですね。キーチローぴよ。いやぴよってなんだぴよ、あ、あれ?」
なんだこれ。可愛い。雌かな?
「まだ生まれたてで上手く話せないようですぴよ」
「話せるだけでもすごいよ。さっき生まれたとこなのに」
「もちろん、私にも名前はつけてくれるんでぴよ? あなたを甦らせるにはまだ魔力が全然足りんぴよ」
「甦らせるって……こっちの事情知ってんの!?」
「何故か生まれてくる前から聞こえていましたぴよ。フェニックスだからですかね。ピピピ」
今のは……笑ったのか?
「とにかく、キーチローさんの件はしばらく先ですピ。わかりましたか?」
「あ、はい……」
ふと、デボラの方を見ると、両拳を握りしめて感動している。
「いつか、キーチローは甦ることが出来るのか!?」
よかった。デボラも元気になったようだ。
「ハイですぴ」
「そうか……! 良かった! 本当に良かった!」
みんなも集まり、祝福してくれる。まだ生き返ると決まったわけではないが道筋はついたわけだしな。それにしてもヘルワーム一匹から始まった箱庭についにフェニックスか。本当にとんでもない箱庭になってきた。このまま伝説の生物を集めていくのも楽しそうだな。
「よし、ならしばらくはこの箱庭で我慢だ!キーチロー! 我もここに住むことにするぞ!」
地獄の業務はどーするんだ……。後、ドラメレク一派。地獄は地獄で問題が山積みだった……。
いやいや、なんで生まれたての赤ちゃんがいきなり空へと飛び出すの。おかしいでしょ。何より、アグニとベスタが驚いて声を失っている。様子がおかしい。二匹にとっても予想外の出来事らしく、飛び出したものを俺達と同じようにポカンと眺めている。
「あれ? ヒクイドリって生まれた瞬間から飛ぶの?」
「いや……あり得ない」
「ウチの子どうしちゃったの!?」
キャラウェイさんは華目羅を構えたまま失神する勢いで、舞い上がった雛らしきものを見つめている。
「ピィィィィィッ!!」
鳴いた。
「鳴いた……な」
「キーチローさん、なんて言ったか分かります?」
「いや……。イマイチ」
何だろう、何か言ったというよりは歓喜の雄たけびというか喜びの感情だったような。まあ、生まれた喜びを表現するのは分かるけど生まれたてだぞ?
「あ」
「えっ?」
「ちょっとちょっと何アレ!?」
生まれたてで飛び上がっただけでも驚きなのだが、燃えだした。これにはヒクイドリ夫妻も心底驚いている。そりゃそうだ。我が子がいきなり燃え出したら発狂したっておかしくない。だが、思ったほど立ち会った全員に取り乱す様子はない。
俺も含めて。
「あれって多分そういうことだよね?」
「ああ、実物は初めて見るが」
「私も初めて見ましたよ!」
キャラウェイさんも初めて……か。
「美しい……ヒクイドリも美しいですがあの燃え盛る炎もまたなんと……」
「キャンプに居たら便利そうね」
ま、ここの反応はある程度予想していた。
「アグニ、ベスタ! あの生物について心当たりはあるか?」
「あれは……恐らく……フェニックス……なんでしょうな」
上空を自在に飛び回っている炎に包まれた我が子を見て、アグニは答える。
「フェニックス……地獄の鳥類の中から稀に発生するといいますが、ヒクイドリはその可能性が少しだけ高いみたいですね。普段から地獄の炎を食べているからかも知れません」
ベスタの回答に驚いた。俺はてっきりフェニックスという種類でフェニックスの子がフェニックスなんだと思っていたからだ。
「加えて、アルカディア・ボックス内で魔力を高めていたから……という線もあるな」
「なるほど。確かに名前を頂いてからは一族にはない魔力の高まりを感じていましたからね」
しかしまぁ、なんというご都合主義。俺が死んだタイミングでフェニックスが生まれるなんて。
『みなさん、すいません。私、フェニックスを中に宿した? ことで物凄いレベルアップしたと思うんですけど。というかですね。中にいる皆さんが順調に育ってましてね。私のレベルアップと共に成長限界が伸びてるようなんですよ』
突然アルの声が響き渡り、とっさに空を見上げてしまった。そこには何もないのに。
「成長限界の突破だと!? どういうことだ! アル!」
『そのままです! 生物によって鍛えたりご飯食べたりしても成長する限界があるんですけどその上限が少し上がったと言いますか。そしてなんと、この度皆さんにも少し影響が出ちゃってるみたいなんです!』
アルの話し方が少し真面目になっている。俺はそんな無駄なことに思考を回すほど、今起きていることに置き去りにされ始めていた。伸ばし棒が無いだけでこんなにキャラが変わって聞こえるなんて。レベルアップの効果だろうか。
「魔王として限界を感じていた我にもその壁が一枚取り払われたという事か」
「私はデボラ様をお慕いする気持ちがレベルアップしました!」
「私は色気が増したような気がする!!」
「そういえばなんとなく先ほどから視力がよくなった様な……」
「僕は単純に魔力が高まったように感じます!」
「いつもより……早く本の……内容が入ってくる」
まるで、学習教材の宣伝だ。
「あの、成長限界が伸びたって事なんで効果が出るのはまだ先ですよ?」
空気を読まない俺の発言にみんな少しがっかりしたようだが、そもそも限界まで鍛えたという自覚があるのが凄いな。特にローズ。色気はまぁ確かに認めるところだが。ベルはまあ、いつも通り無視でいいだろう。
「それより、上空のあの生物」
俺はフェニックスを指さしたが、なんと不思議なことにその指目掛けてフェニックスが降りてきた。
「え、いや、熱っ……くない?」
成鳥は大きいヒクイドリだが、卵のサイズは鶏の卵の2倍強と言ったところだろうか。そんな卵から産まれてきたので、まだ手のひらに乗せられるサイズだ。ちょこんと手のひらに飛び乗り、羽根をバタつかせる姿は愛嬌たっぷりで実にいい。
「あなたが私を呼んでいたのですね。キーチローぴよ。いやぴよってなんだぴよ、あ、あれ?」
なんだこれ。可愛い。雌かな?
「まだ生まれたてで上手く話せないようですぴよ」
「話せるだけでもすごいよ。さっき生まれたとこなのに」
「もちろん、私にも名前はつけてくれるんでぴよ? あなたを甦らせるにはまだ魔力が全然足りんぴよ」
「甦らせるって……こっちの事情知ってんの!?」
「何故か生まれてくる前から聞こえていましたぴよ。フェニックスだからですかね。ピピピ」
今のは……笑ったのか?
「とにかく、キーチローさんの件はしばらく先ですピ。わかりましたか?」
「あ、はい……」
ふと、デボラの方を見ると、両拳を握りしめて感動している。
「いつか、キーチローは甦ることが出来るのか!?」
よかった。デボラも元気になったようだ。
「ハイですぴ」
「そうか……! 良かった! 本当に良かった!」
みんなも集まり、祝福してくれる。まだ生き返ると決まったわけではないが道筋はついたわけだしな。それにしてもヘルワーム一匹から始まった箱庭についにフェニックスか。本当にとんでもない箱庭になってきた。このまま伝説の生物を集めていくのも楽しそうだな。
「よし、ならしばらくはこの箱庭で我慢だ!キーチロー! 我もここに住むことにするぞ!」
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