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第6章 魔王降臨編

地獄の70丁目 再会魔王

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「取り合えず、ここまでくればよいだろう。改めて箱庭へ転移の準備をする。念のため結界を」
「畏まりました」
「ヴォルはそこでお座りだ。解るか? お・す・わ・り」

 ヴォルは何となく意味を察したのかその場に寝そべった。奴らに何かされたのか、疲れている様だ。少し寝かせてやろう。

 ふむ。周りに奴等の気配はない……か。だが神出鬼没な奴等だ。警戒しておくに越したことはない。しかしどういうことだ、あのコキュートスの洞窟の凄まじい破壊の後は。キーチローが単独で戦える訳もなし。

 それにあそこに流れていた大量の血。あれは人間のものだ。だとするとあれを流したのはキーチロー以外に考えられん。あの出血量でキーチローは無事なのか……?

 いやいや、大丈夫だ! キャラウェイ殿やダママも居なかったし彼等が負傷した様子もなかった。きっと、戦ったのは彼等で、キーチローを守り抜いてくれたのだ! そうにちがいない!

「デボラ様、結界は張りましたが転移の方は……?」
「ハッ!! すまん! 考え事をしておった! ベル達を急がせておいてこの体たらく……。早急に取りかかる!」
「キーチローのことが心配ですよね……デボラ様」
「何をバカな! 当然、全員の事を心配しているに決まっておろう! ……。いや、ローズにはバレバレなのだろうな」
「デボラ様ったら顔を真っ赤にして。こんなに可愛い方でしたかね?」
「デボラ様は美しく気高くそして、お茶目で破天荒で愛らしい……」
「はいはい。わかったわかった」

 ローズめ。全てお見通しのような顔をしおって。お仕置きしてやろうか。

「きっと、キーチローなら無事ですよ! カブトムシと間違えてヘルワーム育てちゃうような図太いポンコツがそう簡単に死にませんって!」

 ふむ、良いことを言うではないか! お仕置きはやめだ。何か褒美をやらねば。おお、そういえば、随分前の旅で貯めたキーチローの邪心があったな。色々あってわたしそびれていたが。

 …………。キーチローの邪心ってそんなに美味しいのだろうか。いや、全然、邪心とか興味ないけど。本当に全く興味が無いけど、褒美としておかしなものをくれてやる訳にはいかんし。味見は必要なんだろうな。いや、毒味が正しいか。惚れた男のハートだからといって部下への報酬に手をつけるなんてあり得ないからな。一口。一口だけだ。大丈夫。ベルやローズが居ない間に貯めた邪心はまだまだある。たっぷりあるのだ。全く問題はない。

「デボラ様! また手が止まってますよ!」
「おおっ!? そうであった! すまんすまん!」

 全く、ローズの奴め。報酬の件は無しだ!我を誰だと思っている! 地獄の魔王、デボラ=ディアボロスであるぞ! こうなったらキーチローのハートは独り占め……。

 ハートを独り占めって何か良い響きだな。あれ。いつの間に我は奴にこんなに執着しておるのだ。別に死んでいたら死んでいたで地獄こっちに来るのが早まるだけではないか。あれ? むしろ喜ばしいような? いやいや!奴にも人間としての生き方が……。

「デボラ様!?」
「デボラ様。先程から顔がおニヤケになられたり難しい顔をされたりこの私にさえ擁護出来ぬ程の集中力の欠如を感じます。キーチローさんのもとへさっさと帰りましょう!」
「いや、我は」

「「もういいですから!」」

「む、むう。わかった。早く帰るのが一番だな。すまなかった」

 二人揃って怒り出すとは。そんなにニヤケておったか。……。よし、準備出来た!

「よし、帰るぞ! アルカディア・ボックスへ! ヴォルも!」
「はい!」
「ええ!」
「ウォゥ!」

 眩い転移の光の後、目を開けるといつものアルカディア・ボックスが広がっているが、どうも様子がおかしい。一通り中の施設を回ってみることにした。

 ……なんだ、誰もおらんではないか。キャラウェイ殿やダママはともかく、セージやステビアもだと!? 一体何が起こっておるのだ……。妙な胸騒ぎがする。

「アル! おるか!?」

『はいはーい、おりますよー! デボラ様達、ちょうどいいところへ』

「なんだ、ちょうどいいところとは?」

『早くも、アグニ、ベスタ夫妻の卵にひびが入ってますよー』

 何っ!? 早すぎる!! 報告を受けてから三日と経っておらぬぞ! いったい全体どういうことだ!

『どうもキーチローさんのピンチに反応しているみたいですねー』

「キーチローがピンチ? いったいどういう事だ! 話せ! アル!」

『あれ? ご存じなかったですかー? キーチローさん死んじゃって今、地獄にいるんですよ?』

 なんだ? 今アルは何と言った? キーチローが死んだ? 何をふざけた事を。世迷言にもほどがある。全く、早とちりしおって。キーチローはキャラウェイ殿に連れられてここに帰って来ているはずだ。今頃ダママと散歩でもしておるのだろう。心配かけおって。また治療にマンドラゴラでも使って会い辛くなったか? 下手な嘘をつきおって。

「キャラウェイ殿はいずこに? キーチローと帰って来ているはずだが?」

『はーい。遺体を届けてくださりましたー。確かローズ城の中に保管されてましたよ?』

 信じぬ。この目でキーチローの遺体を見るまでは。キーチローが死んだなどと。

「デボラ様……」

 なんだ、あのベルの心配そうな顔は。大丈夫に決まっておるだろう。ローズも泣いている場合ではないぞ! あれ?

「デボラ様! しっかり!」
「ちょっと、立ち眩みがしただけだ! 問題ない! 行くぞ!」

 だいたい、キーチローがもし、万が一死んでいたとしてそれがどうしたというのだ。地獄に還ればいつでも会えるという事ではないか! 何と素晴らしい! 我の僕として可愛がってやらねばなるまい。ベルには悪いが業務など二の次だ!

「城のどこだ。アル」

『地下室ですよー。保存が効くからとおっしゃってました!』

「――ふむ、ここか。あの箱だな?」

 重い蓋だ。こんなもの、ドッキリを仕掛けても気づかれなかったら本当に死んでしまうぞ! 愚か者め。

 なんだその死に様は! 数多の死体を見てきたこの魔王をそんなしょうもない演技で騙そうというのか! ほれ、どうせ今に噴き出すに決まっておる。全く。

 ――早く起きんか! いつまでも寝たふりをするな! もうネタはバレておる……!

「……我はキーチローを守れなかったのか」
「デボラ様、我らがもっとしっかりしていれば……!」
「そうです! 我らの責任です!」

 ――すまぬ。我はそんなにもこいつらに心配されるような顔をしているのか。大丈夫、大丈夫だから泣くな。

「人間界への不干渉か……。我も焼きが回ったな。巻き込まれた一般人一人守れぬとは」
「デボラ様……!」

「アル! キーチローは今地獄におると言ったな?」

『はいー。キャラウェイさんやセージさんにステビアさんも一緒ですー』

「そうか。どうやってここに戻ったのか知らんが会いに行く必要が有るな」

『でしたら、裁判所で合流とかおっしゃってたので、すれ違いにならないようお気をつけてー』

「ありがとう、アル。行ってくる。ヴォルはここで待っておれ!」
「ウォフッ!」


  ☆☆☆

「こうしていてもがあきませんね。一旦、我々はアルカディア・ボックスに戻りましょう!」
「俺は……ボックスの中にいた方が良いんでしょうか」
「そうですね、ここにいるよりは……」

「キーチロー……!」
「デボラ!? 無事だったのか!? ベルにローズも!」
「キーチロー」

 ンぐっ!?

「お前、本当に死んでしまったんだな」
「なぜ、このタイミングで唇を奪われたんだ」

 とにかく、デボラ達が無事で良かった……。
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