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第3章 魔草マンドラゴラ編

地獄の38丁目 職員交流(薄口/濃い口)

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「ベルさん、ローズさん、良かったら一緒に回ってもらえませんか? よく考えたらこちら側の自己紹介を忘れてましたし」

「そういえばそうですね、失礼しました」
「えー、私の悩殺バディに興味ない男子と本好き女子でしょお?」

 ベルがローズの脇腹を肘でどつく。

「ムグッ……! なーんちゃって! 私はローズウッド=ロールズ。ローズって呼んでね! 一応ここの管理人みたいなものをやってるわ。常駐だからこの二人よりも細かい部分で力になれると思う! よろしくね!」

 テーマパークの着ぐるみみたいな動きで二人を歓迎する気持ちを表したようだが、効果は薄いようだ。まさか、ローズのセクシー路線を悉く外すとは。逆にヒットしすぎても困るが。

「あ……、先ほどは失礼しました。動物の事となるとついカッとなっちゃって……。宜しくお願いします」

 ステビアは茶色のおさげ髪を深々と下げた。この子のスイッチにはなるべく触らないようにしよう。俺は決意を胸に刻んだ。

「さっきのはビックリしたけど、普段はホントにおとなしいのねぇ」
「あ……いえ……あの……」

「僕も女性が苦手というのは失言でしたね。あまり興味を持てないだけで、個人としての付き合いは特段問題ないと自負しております」
「それは……カミングアウト的な……?」
「特に隠してるつもりはないです。そもそも魔族ですからね。人間界みたいな区分けは意味無いですし」
「まあ、言われてみればそうかもね。よろしくね、セージ!」
「はい、宜しくお願いします!」

 魔族の事は良くわからんが、そもそも性別の区分けだってない種族もいるだろうし確かにそういうものなのかもしれん。セージは面接の時から、一貫してプロジェクトに好感触だったからな。頼もしい限りだ。

「私はベルガモット=ベネット。ベルと呼んでください。一笑千金、仙姿玉質、博学多才、聡明叡智の大魔王、デボラ=ディアボロス様の第一の側近をお任せいただいております」

 褒める四字熟語を羅列して、それを自己紹介中に他人の紹介文で使用するあたり、やっぱりベルはおかしい。分かったのはベルの事より魔王様と魔王様への敬意だけじゃねーか。

「ベルさん……宜しくお願いします」
「僕も! 宜しくお願いします」
「宜しくお願いします。では早速……」
「せっかくですし、キーチローさんもお願いします! 面接の時もそれほど自身についてはお話しされてませんよね?」

 ヘルワームの下へ向かおうとしたベルを遮ってセージが話題を振ってきた。俺も自己紹介、か……。

「俺は安楽 喜一郎。みんなキーチローって呼ぶのでお二人も良ければそう呼んでください! 特技は魔物とお話が出来ることです! 宜しくお願いします!」

 中学校のクラス替えの時、こんな自己紹介してる奴いたな。飼育小屋のウサギに向かって一人でブツブツ喋ってたっけ。クラスの半分以上からアイタタタタ……と思われていたはずだが、よもや自分がそうなろうとは。

「魔物とお話しできるなんて……うらやましすぎます……」
「僕も仕事柄、病気やケガで動けなくなった魔物はよく見ましたがそのたび声が聞けければと思いましたよ……」

 地獄の住人の方はというとあっさり受け入れたどころか尊敬の眼差しさえ送ってくる。セージの黒い髪が、澄んだ瞳が、男性にしては少し長いまつ毛が、

 …………近い!!

「セージ君、ごめんちょっと近いな」

 セージの身長はやや低く、そのせいか上目遣いが俺の両目に突き刺さってくる。男性としてはやや中性的で、フワフワとした髪が特徴的な好青年だ。どちらかと言えば可愛いタイプの男に分類されるが、俺にはその気はない。

「角とか牙とか無いんだね」
「尻尾ならありますよ! 見ます!?」
「いや、いい。いつの間にか組んだこの腕を離してくれ」
「おっと! これはすいません!」
「モテモテじゃない! キーチロー!」

 ローズがニヤニヤ笑いながらからかってきた。

「俺がモテたいのはなんだよなぁ」
「さあ、明日も仕事がありますしさっさと回りましょう!」

 一応、コレは助け船なのか? 何にせよ先に進めてよかった。

「さあ、皆さん。これが俺が最初に出会った魔物、ヘルワームのカブタンです!」
「おう、また世話人が増えたんかい。宜しゅう頼むで!」
「な、なるほど……会話ってこんな風にするんですね! 声が聴けないのは少し残念ですがそれでもすごいですね!」
「あ……、私と同じ訛り……」
「なんや、ねーちゃん訛ってるんか? どこの田舎モンや! わはははは」

 もとになった魂が関西人だったのだろうか。という事はつまり悪魔も元は人間……? ダメだ。よくわからん。

「ちょっと、またカブタンそんな口きいて! みんなそんな感じやと思われるやん!」
「そやそや! ヘルワーム全体が下品やと思われるからやめてぇ!」
「こっちの角二本がオスのカブ吉でこっちの角一本がカブ子です」

 それぞれの房から聞こえる声を無視してテキパキと進行していく。

「房の外にある小屋に寝ているのがケルベロスのダママです! 向かって左側からダン、マツ、マー。ここに来た時より格段に大きくなりました。牙の毒に注意してください」

「うん? キーチロー?」
「あ、面接の時の!」
「俺はちゃんと会場の外で待ってたぜ! えらいぜ!」

「か、可愛い……」
「あの、地獄の番犬ケルベロスもここで飼育されているんですか……!」
「はい、時間も押してきましたので少々、割愛させていただきまーす。皆さんはローズさんと共に常駐組になりますので個別の触れ合いは後ほどゆっくりとお願いします」

 俺達は次に暫定フィールドに向かった。キャラウェイさんと同じ定番コースだ。

「こちらは魔王様の時間の都合上、まだ区画の整備が進んでおりません。皆さんの面接の前後でこちらに来てもらった魔物、魔植物です」
「こ、このアルミラージ……も、モフモふぅ……」
「……? これはただの木じゃないのですか?」
「ん? 何だい? 俺に用かい?」
「あ! トレントか!」
「そう、トレントのウッディーだ! 宜しくな!」

 それぞれ動物園の触れ合い広場に来た子供たちの様に、はしゃぎながら各フィールドを回っている。この人たちを選んでよかった! 他に選択肢がなかったわけだが。

「キーチローさん!」
「は、はい! 何でしょう」

 ステビアがこちらに物凄い勢いで駆け寄ってきた。

「あなたのおかげで私の夢が一つ叶いました!!!」
「と言いますと?」
「動物たちに囲まれてお話をしながら戯れるんです! ファンタジーな書物を読みながら空想していた光景が今、目の前に!」
「俺からすると地獄なんてものがすでにファンタジー……ってちょぉい」

 突如、ステビアが俺を抱きしめてきた。控えめとは言え男にはない感触の物体が俺の前面に響き渡る。

「私をここに誘ってくださって本当にありがとうございます! 私、この子達、一生懸命育てます!」
「は、はい……宜しくお願いいたしますぅ」

「見て、キーチロー鼻の下伸ばしてる。ぷぷぷ」
「なんてふしだらな顔!! これだから男は……!」

 俺は今日一日の大変な出来事による疲れが一気に吹っ飛んだ。
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