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第2章 魔犬ケルベロス編

地獄の25丁目 コレがホントの生き地獄④

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 ヒクイドリ達をアルカディア・ボックスに送り込んでからしばらくして、現場のベルとローズから連絡が来た。

********************
グループ名【ヘルガーディアンズ】

ベ:デボラ様、地獄での捕獲任務、殊の外順調のところ恐縮ですが、キーチローさんと図鑑なき今、新種の受け入れに大変苦慮しております。我々の能力不足は重々承知の上でせめて会話が出来るようになると助かります。

ロ:作業員の増加もお願いします! 出来ればイケメン男子の。

デ:ふむ。会話は何とかキーチローの能力を繋げてみよう。アルカディア・ボックスも地獄の一部だしな。作業員もついでにアルカディア・ボックスに送るか! こちらで見つけたら優先して転送する。

ベ:ありがたき幸せ!
********************

「キーチロー! 作業が一つ増えたようだな!」
「作業員の増員ですね。まあ、ここまでポンポン新種を送り込むことになるとは想像していませんでした」

「新種もそこそこ控えめにせんとな。約束の作業員がまだ確保できておらん」
「俺達がさっさと戻るのも手ですよ!」

 魔王様がチラリとこちらを睨んだ。

「さて、ダママ! あの不心得者の頭を噛み砕いてみるか!」

 三つの頭が同時にこちらを見る。え、ちょっと。ダメよ。それは。

「さ、冗談はここまでにして先を急ごう。裁判所はすぐそこだ。その先は焦熱エリアが広がっておる」
「ちょっと気になってたんですけど裁判所って言うとあの有名な閻魔様の……?」
「そうだ。あちらに亡者の列が見えるだろ?」

 魔王様の指さした方にかすかに人の列が見える。不思議なことに人種の別なく行列が出来ている。並んでいる人間の顔は一様に絶望の色に染まっている。列を乱したり逃げ出そうとすると鬼に捕らえられ、それはそれはひどい目に合うようだ。

「奴らはあの裁判所内でいくつかのプロセスを経て、最終的に閻魔の審判を受けるのだ」
「今から閻魔様に会うのか……。出来れば生きてる間も死んでからも会いたくはないというか……」
「安心しろ、キーチロー。地獄の基本は因果応報だ! 燃やしたものは燃やされ、殺したものは殺され、永劫苦しむことになる。盗みや嘘などはまた別だがな」

 悪いことはするもんじゃないな。そして簡単に人を恨んだり妬んだりするもんでもない。阿久津と言えどもここに行けとはとてもじゃないが言えないな。俺は俺の生き方を貫こう。正しくとまでは言わないが、せめて人様に迷惑をかけないように。

 地獄ツアーは俺にアルカディア・ボックスの任務とは別に一つの心境の変化をもたらした。悟りを開くってのは案外こういう事かもしれん。

「おっと、その前にキーチロー。作業の②だ。お前の能力をアルカディア・ボックスに接続する。地獄同士だから恐らくそう難しいことではなかろう」

「そうでした。何考えてるか分からない新種の生き物の世話なんて考えるだけで恐ろしい! しかも最初に送られたのはヘルアントですしね」

「あのガラの悪いヤンキーみたいな夫婦とその家族か。まあ、アレは別に送らなくても良かったんだがな」

 ローズの悪態とベルのフォローは何となく想像がつく。大方、ローズがなんでヘルアントなのかとか言ってベルがそれを魔王様への忠誠心でいなしているような。

「さあ、接続出来たぞ! これで地獄にいる間はキーチローの能力がアルカディア・ボックスに流れ込む!」

********************
グループ名【ヘルガーディアンズ】

デ:喜ベ! 今、キーチローの能力をそちらへ繋いだ! これでいつも通りアルカディア・ボックスにキーチローが居るかのように作業できるぞ!

ロ:出ました! ヒクイドリの頭の上に考えてることが! 今身の上話を聞いて二人と二匹で泣いてます!

ベ:デボラ様……この二匹をお救い頂きありがとうございます! デボラ様の慈悲深き尊き行いに私は表すべき言葉が見つかりません!
********************

 ……これは地獄の魔王とその配下の会話だよな? 魔族としての自覚はあるのだろうか。

「キーチロー! お前がいて本当に良かった! 地獄はますます盛り上がるぞ!」

 言葉だけ聞くと本当に喜んでいいのかさっぱり見えてこないが、この場合のは天国への道が開かれているのか甚だ疑問だ。

 ……ぐぅぅぅぅ

 ん? 新しい魔物か?

 ……きゅるるる

「おやおや、これは可愛い魔物さんですね」

 ……んごごごご

「なにやらこの辺りには腹を空かせた魔物が三匹居るようだな」
「では、ここらでお昼ご飯にしましょうか。幸い広い平地ですし」

 俺は持参のブルーシートを広げ、ダママにはパン三斤と牛乳を、自分はコンビニ弁当を用意した。亡者の列が遠くに見えるが気にしないようにしよう。

「あれ? デボラ様は何も食べないので?」
「魔獣の肉を挟んだサンドイッチを早起きして作った!」

 そう言うと手のひらから手品のようにランチBOXを取り出した。内容はともかく家庭的なところがある魔王様である。

「ちょうどいい、ここらで一回セーブポイントとするか」
「あ、生きてたんですね。その設定。全然出てこないんでもう死に設定としてスルーしようかと……」
「何を言う! 冒険を舐めるなよ!」
「はひぃっ!」

 そうして腹を満たした俺達は一路裁判所を目指した。

「――裁判所に着きましたね」
「ああ、ではまずはスカウトと行こう。事務職の奴がいいな。実働部隊は気が荒そうだ」

「ともあれ、キーチロー。これを内部の掲示板につける作業を手伝え!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 地獄生物飼育員募集!

募集人数:出来るだけ多く

待遇:褒めてつかわす

業務内容:地獄生物の保護・飼育活動

勤務地:我の箱庭、アルカディア・ボックス

アットホームな職場です!

面接は我、魔王デボラ=ディアボロスが担当する

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ……なんだコレ。まさか求人広告のつもりか?

「魔王様……これは……」
「見ての通り人を募集するチラシだ!」

「待遇の褒めてつかわすと言うのは……?」
「魔王である我に褒められるなど望外の喜びであろう!」

 飼育員探しが難航している理由が今ハッキリとわかった。この人に任せていたら俺達は過労死する。

「地獄の求人とはいえこんなブラックな内容はさすがに見たことないですよ」

 魔王様は何が? と言わんばかりに首を大きく捻った。

「募集人数が多いところ、ブラック! 待遇、こんなもんでやってくるのはベルさんぐらい。ブラック! 業務内容、なんとなく過酷そう。ブラック! 勤務地、何のことやらさっぱり。ブラック! アットホームな……ブラック! 面接、魔王。ブラァァーーーック!! 俺にはこのチラシが墨で塗りつぶしたのと変わらないように見えますよ!」

 魔王様はキョトンとした顔でこちらを見ている。

「魔王様……なんか残念」
「魔王様……思ってたより残念」
「魔王様! 俺は手伝うぜ! 俺はやるぜ!」

 ダン、マツ、マーですらこの有様だ。もう可哀想なので魔王様には伝えないが。
そしてマー。仕事は君の世話だ。

「少なくともベルさんは置いといて、ローズさんにさえ報酬があるわけですから!」
「そ、そうか……現物支給は無いとな……」

「とりあえず、今日はスカウトだけにしてこのチラシの事は忘れてください!」
「う、うむ。そうしよう」

 こうして俺達はひとまず裁判所の人員に声をかけて回り、その内、若干名を採用することに成功するのだった。ほぼ俺のおかげで。
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