上 下
25 / 125
第2章 魔犬ケルベロス編

(閑話)一方、その頃アルカディア・ボックスでは

しおりを挟む
 ベルとローズは途方に暮れていた。次から次へと送られてくる新種の魔物たち。いったいどれほどのペースで魔王様とキーチローは捕まえているのだろうか。そして、この先どれほど送られてくるのだろうか。一番のネックは、作戦会議でもローズが指摘していた、

『キーチローが居ないと会話が出来ない』

 という点である。

 あの時点では、魔王様の対応もみんなの反応も間違ってはいなかったのだろう。そう、


<ローズ視点>
「ううう……。デボラ様とキーチローが出発してまだ数時間だよねぇ……」
「正確には3時間と46分ですね」

「ナニこの魔物の転送ペースは……」
「それほどに今、地獄は末期的な状況という事でしょう」

「でも、最初に送られてきたのヘルアントだよ? こんなのうちの庭にもいるよぉ」
「デボラ様の崇高なお志を疑ってはいけません。何か深きお考えあってのことでしょう」

 ベルったら相変わらずデボラ様一筋なんだから。堅くて融通の利かない、おまけに羞恥心のあるサキュバスなんてベルぐらいのもんでしょ。

「ところで、このアリさん達なんか訴えてるみたいだけど、どうする?」
「キーチローさんがいない事には何とも……。とりあえずエサを与えておけば問題ないのでは?」

 えーと。ヘルアントのエサって言ったら虫の死体とかだよね。虫の死体……。いけない! 私ったら! カブタン達の事見ちゃった。危うく触手のツッコミが来るところでした。

「キーチローさんの冷蔵庫から魚肉ソーセージでも持ってきましょう。確か肉は食べられたはずです」
「じゃあ、私取ってきまーす!」

 急いでキーチローの部屋に行ってゆっくり戻ってこなくちゃ!


<ベル視点>
「……全く。世話から逃げましたね」
「ん? 6番フィールドが輝き始めたという事は新種の魔物!?」

 なんという早いペース。やはりデボラ様は真に地獄の行く末を考えておられる。私も側近としてデボラ様の所業を支えてゆかなくては。とりあえず、6番フィールドに行ってみましょう。

「これは……ヒクイドリですか。なんと美しい羽の色。やはり地獄には紅《くれない》がよく映える」

 おや? さっきまでの魔獣や魔植物と違って理性的というか……。今こちらに向かってお辞儀をしたような……?

「あなた方は納得済みでこちらに来たようですね。キーチローさんの能力《ちから》のおかげかしら?」

 ふむ。通じたのかどうか知りませんが、羽を広げて大層友好的ではないですか。

 しかし……この羽の色。デボラ様の御髪おぐしを思い出す、何とも綺麗な羽の色! こっそりデボちゃんって呼んじゃおうかな。いや、ディアちゃんの方がいいかな。

 …………何を考えているのだ私は! なんたる不敬! あるじの名前をあろうことか飼育生物に付けるとは! ああ、しかしあの私の心を射抜くような瞳……。
燃え盛る炎のような意志を感じてしまう……。ディアちゃんて呼んだらダメかな……。嗚呼、駄目駄目。絶対に駄目! いくらなんでも意図が透けすぎる!

「何をこんなところでうずくまってモゾモゾしてるの?」

「ひゃいっ!」

「ひゃいって……。はい、魚肉ソーセージとってきたわよ!」
「ん゛っ! ゴホンッ! ありがとう。ローズ」

「いやーん! 新しい魔物、すっごいキレイ! この羽は……モフモフ? モフモフって言っていいかしら! サワサワしていいかしら!!」

 ……どうにか怪しまれずに済んだみたいですね。

「ローズ、どうもあなたのテンションに少し引いているようです。ナデナデ程度に留めておいてください」

「それにしても増える速度大丈夫かしらね」
「後でデボラ様に連絡しましょう。地獄の生物が増えるのは一向に構いませんが、作業員は二人のままですからね」
「そうね。作業員も今回の旅でひっ捕らえて送ってもらいましょう! フィールド⑦はイケメン作業員でお願いします! って」

 ……。ここまで欲望に忠実なのはある意味うらやましい感性だわ。

「それは自分で送ってください。さ、作業を続けますよ!」
「はーい」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

ヘリオンの扉

ゆつみかける
ファンタジー
見知らぬ森で目覚める男。欠落した記憶。罪人と呼ばれる理由。目覚め始める得体のしれない力。縁もゆかりもない世界で、何を得て何を失っていくのか。チート・ハーレム・ざまあ無し。苦しみに向き合い、出会った人々との絆の中で強くなっていく、そんな普通の異世界冒険譚。 ・第12回ネット小説大賞 一次選考通過 ・NolaブックスGlanzの注目作品に選ばれました。 2024.12/06追記→読みやすくなるように改稿作業中です。現在43話まで終了、続きも随時進めていきます。(設定や展開の変更はありません、一度読んだ方が読み直す必要はございません) ⚠Unauthorized reproduction or AI learnin.

スウィートカース(Ⅷ):魔法少女・江藤詩鶴の死点必殺

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
眼球の魔法少女はそこに〝死〟を視る。 ひそかに闇市場で売買されるのは、一般人を魔法少女に変える夢の装置〝シャード〟だ。だが粗悪品のシャードから漏れた呪いを浴び、一般市民はつぎつぎと狂暴な怪物に変じる。 謎の売人の陰謀を阻止するため、シャードの足跡を追うのはこのふたり。 魔法少女の江藤詩鶴(えとうしづる)と久灯瑠璃絵(くとうるりえ)だ。 シャードを帯びた刺客と激闘を繰り広げ、最強のタッグは悪の巣窟である来楽島に潜入する。そこで彼女たちを待つ恐るべき結末とは…… 真夏の海を赤く染め抜くデッドエンド・ミステリー。 「あんたの命の線は斬った。ここが終点や」

フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀
SF
 大学を卒業した3月末に両親が事故で死亡。保険金目当ての伯母一家のせいで生活が無茶苦茶に。弁護士を入れてシャットアウトした後、私は生命維持装置付の最高級VR機器を購入し、腐った現実から逃げ出した。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...