箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太

文字の大きさ
上 下
18 / 125
第2章 魔犬ケルベロス編

地獄の18丁目 作戦会議をするぞ!

しおりを挟む
 あの夜以来、ローズは非常に真面目にヘルワームやケルベロスの世話をしている。そしてまたそんなローズの頑張りに感化されてか、ダママもまた少しずつ歩み寄りを見せている。

 例えばエサについて。今までは置かれていたものをローズがいなくなった後にのそのそと起きだして食べにくるのが普通の光景だったが、今ではローズが差し出したものをその場で食べ始めている。これまで魔王様がずっと担当していった散歩もローズがたまに変わってもらえるようになり、ダママもそれを割と黙って受け入れている。

 魔王様もこの変化には大変満足のようで(散歩の交代は少し渋っていたようだが)散歩から帰ってきた二人を出迎えたりしていた。

「ダン、マツ、マー! お帰り! ローズとの散歩は楽しかったか?」
「ローズ、思ったより足早いよ!」
「駆けっこで負けちゃった!」
「俺、寝てたからよくわかんない」
「そうかそうか! 何か面白い発見はあったか!?」
「んーとね……。あんまりなかった」
「そうか……」

 ダンの言い分も解る。俺も何度か散歩に出たが、この地獄の風景は代わり映えがない。おまけに生物も雑草の類を除いていないときているから遠くまで行く分には気分ぐらいは変わるかもしれないが、その辺をうろつくぐらいでは直ぐに飽きてしまう。

「差し出がましいようですがやはり生物が今は少ないようですわね。この辺は一回りすれば見慣れてしまいます」
「かといってあまり無作為に増やすとどんな弊害があるかわかりませんしね……。貧弱な俺が襲われたらひとたまりもないし」
「デボラ様の魔力の断片でも感じて襲ってくる生物はそうはいないはずです!」

 例外は付き物と言ったのはあなたなんですが……。

「ヘルワームたちは何か言っておるか?」
「彼らは相変わらずです。エサをやっていればそれほど動き回ることもありませんし」
「よし。各自、ここまでのアルカディア・ボックス運営に関して問題点・改善点を持って来い! 希望があればある程度検討してやる!」
「はっ!」
「はい!」
「は、はいっ!」

 さて困った。仕事みたいになってきたぞ。今はそれほど本業が忙しくないが、かといって忙しくない時期に忙しくなりたくない。かといって適当なことをすると魔王様、ベル辺りが黙っちゃなさそうだ。

 問題点か……。悪臭問題はクリアしてもらったし、生物達との意思の疎通も問題ない。むしろ普通のペットよりも密なぐらいだ。後は地獄の風景と、今後の生物の増やし方……てところか。

 そして、二日後。俺達四人はローズ邸の一室で会議を行うことになった。と言うかローズ邸に会議室が出現したというべきか。どこから持ってきたのか長机と10脚ほどの椅子(誰が参加する予定なんだ)、そしてホワイトボード。これはベルが人間界での使い勝手の良さに設置を熱望した物でもある。もちろん、マーカー、クリーナー完備だ。

 そして、最大の謎は全員眼鏡着用が義務付けられていることだ。魔王様曰く『真面目に見えるから』とのことだがいったい誰にそうみられるためのものなのか見当もつかない。

「全員揃ったな? では、第一回アルカディア・ボックス方針会議を行う。ベル、進行を」
「畏まりました。では、早速皆さんのご意見を伺いながらこの素晴らしきアルカディア・ボックスをどのように発展させていくかを検討いたしましょう。ローズさん、お願いします」
「はい、この三か月ほどヘルワーム、ケルベロスを直接世話しておりましたので、いくつか所見を述べさせていただきたいと思います」

 眼鏡の効果か、みんな口調が真面目になっている。見た目から入るというのも存外悪くないアイディアかもしれない。さすが魔王様。

「では、まず第一に。キーチローが居ない時には意思の疎通が途切れるという点です」

 ベルがホワイトボードにでかでかと<問題点> <要望> <展望>と書き出した。あの辺のお題に沿って話せばいいということだな。

「アルカディア・ボックスの魔力やスマホ(魔)の力でキーチローと繋がっている時は魔物たちの意思が表示されるのですが、キーチローがそれらに触れていない時は経験則で行動するしか無くなってしまいます。現状、不具合等は起きておりませんが数が増えたり、難しい性格の子が来たら対応が難しくなる可能性もあります」

「これは問題点と、要望にまたがる意見と言うことでよさそうですね。デボラ様、対応はいかがいたしましょう」
「ふーむ……。これはキーチローにしかない特殊な力に起因しておるからなぁ。基本的には経験則に基づく対応でいいだろう。キーチローの能力はあくまで補助的なものとして考えておくがよいかもしれん。緊急事態等には真価を発揮するだろう」
「とはいえ我々にも経験則が乏しいのは事実。これに関しては図鑑の作者追跡を進めるのがよかろう。秘策もあるので心して待て」

「なるほど。ローズはどう考えますか?」
「そうですね。デボラ様の仰る通り、病気やケガの場合には迷わずキーチローに連絡いたします。私も最近やっとダママ達と気持ちが通じ合ってきたようですので」
「では、この件に関しては図鑑の作者捜索を継続と言うことで。第二はありますか?」

「はい。第二は作業員の拡充についてです。今後飼育生物が増えるのは間違いないのでその際は増員対応していただけるのかと案じております」
「うむ。当然の疑問だな。答えはYESだ。地獄にも真面目な奴がいないでもないだろう。そいつらをひっ捕らえて世話係に任命しよう。これは地獄の最大の栄誉である!」

 さらりと強権を発揮する辺り、魔王様の魔王様たる所以だ。

「ありがとうございます。私からの要望は以上です」
「では、キーチローさん。何かありますか?」
「基本的にはローズさんと同意見です。四六時中スマホ(魔)に触れていられないのはご承知の通りですが、魔物たちも頼もしく成長してきたので、心配はしていません。今後についてですが、本業の方が4月を境に圧倒的に忙しくなります。そこについてはベルさんも同じような状況にならざるを得ませんので作業員の補充はその辺を目途にお願いしたいです」

 ダママはほっといても魔王様が喜んで相手してくれるけどな。

「今後の展望ですが、この前少し触れたようにダママ達の散策コースやヘルワームたちの住める森などを考えております。これに関しては実現はだいぶ先になるでしょうが、彼らの成長に合わせてなるべく早く実現してあげたいです」

「ふむ、最初の頃のキーチローと比べてなんと前向きな事よ。なあ、ベル」
「はい。このまま魔族に引き込むのも悪くないかもしれません」

 この手の話題に関してはたまに冗談に聞こえないから怖い。というか冗談のつもりもないかもしれない。俺は人間で居たい!

「このまま生きていけば地獄行きもあり得るかもしれませんね。と言うか多分そうでしょう」

 三人がこちらを見てニヤついている。モテる男は辛いぜ。

「では我からも一つ。先ほどの『秘策』についてだが、我はキーチローとダママと共に地獄へ行こうかと思う」
「え?」
「ケルベロスと言えば犬だ。犬と言えば追跡だ。追跡と言えば図鑑の作者だ!」
「はぁ」
「という訳で、キーチロー。ケルベロスの成長を待って地獄へ行こう! お前の仕事とやらも忙しいのはこれから2~3ヵ月の話だろう?」
「そ、そうですね」
「ダママもそのくらいあれば少しは大きくなるだろう。そこから地獄巡りの開始だ!」

 という訳で俺は死後を待つことなく、地獄行きが確定した。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...