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第1章 魔虫ヘルワーム編
地獄の10丁目 虫の知らせ
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クリスマス・イブの悪夢から一夜明けて12月25日。この日ばかりはさすがに街になど出てられないと魔王様もベルもローズも地獄と箱庭に引っ込んだ。俺はというと昨日の後始末と上司が居ない分の穴埋めでそれなりに忙しいクリスマスを過ごしていた。
まず、昨日の後始末。ローズが抜け出た広瀬さんはしばらく目を覚ます気配がなかったので、ローズが入力した俺との痛いチャット履歴を削除し、その間の適当な記憶を埋めてもらった。やはり魔王様は万能だ。当日の記録、記憶を全て抹消するのは大変なので、酔いつぶれた広瀬さんを介抱しに来たというぼんやりした記憶になった。
「これで、よかろう」
「お世話になりました。これでまだ社会人として生きて行けそうです」
「お前、こいつに惚れているのだったら今のうちにこいつもお前に惚れている記憶でも入れておくか?」
俺は、先程わずかな邪心をベルに食われていなければ危うく誘いに乗っていたかもしれない。それほどに危険な誘惑だった。この悪魔どもめ……。
「そ、それは辞めときます。人一人の人生、俺の都合で変えられません」
「フッ、地獄の生き物を世話しているとは思えんな。ベル、しばらく邪心を食うのをやめてみるか?」
「それもまた一興」
一興なものか。また二人でニヤニヤこっちを見て笑ってやがる。ローズはというとこの先の生活を案じているのだろうか、不安そうに成り行きを見守っている。
「あ、あの……。私はこの後、具体的に何をすれば……」
「そうだな。とりあえず我の作った箱庭でも見てもらおうか」
「そ、そうですね。どんなところに住むか拝見させていただきます」
「では参るぞ」
「その前に広瀬さんをベッドへ戻さないと!」
「おお、そうか。それでは」
魔王様が手をかざすと広瀬さんの体はフワリと宙に浮き、ベッドへとおさまった。
「さぁ、もうよいな? ではいくぞ!」
再び魔王様が手をかざすと次の瞬間にはみんなまとめて俺の部屋へと辿り着いていた。
「相変わらずデボラ様の魔法はすさまじい……」
もはや見慣れた光景だが、ローズにとってはやはり驚異的に映るらしい。まあ、確かに何でも有りすぎてそんじょそこらの悪魔では到底太刀打ちできないだろう。
「さあ! 刮目せよ! これが我の作り上げし地獄の箱庭である!」
「おお、これが……」
「この中には5万バアルの地獄が封じ込めてある!」
「ご、5万バアル!? 国でも造る気ですか!?」
「地獄の生物を自由に生活させてやりたいのだ! いずれは無限に広がる地獄へと還してやりたいがな!」
魔王様は少女のような無邪気な笑顔でローズに語った。
「ま、まぁヘルワームと言わず様々な生き物が増えれば地獄界の食事事情も色々マシにはなるかもしれませんが……」
「そうであろう! これは地獄を救うプロジェクトなのだ! 任命されたことを誇りに思え! ローズウッド=ロールズ!」
ローズは改めて魔王様に跪き、宣言した。
「ローズウッド=ロールズ、必ずや魔王デボラ様のご期待に沿うよう身命賭して任務を全ういたします!」
「そうだ! ローズ! この部屋はキーチローの部屋につながっておるが、くれぐれもつまみ食いは止めておくことだな」
「……は、はい!」
「あとこれが巣魔ほと言ってな……」
もろもろの引継ぎを魔王様に任せて俺は一旦、ヘルワームの様子を見に行った。いやあ、しかし、魔王やベルと出会った頃に比べるとカブタンは格段にでかくなったなぁ。40cmぐらいはありそうだ。
「――――――――――。」
「ん? 何か聞こえたか?」
「――――――――――!」
気のせいか?
「ギギギィ」
「ん? なんだ? 今のお前の鳴き声か?」
「ギィギィ」
「恐ろしい顔してる割には面白い声で鳴くんだな」
さて、そろそろ部屋に戻って仕事の整理でもしますか。年明けは忙しくなりそうだし。年末年始の録画の為にレコーダーの容量も空けなきゃいけない。全く。大変な一年だった。主に後半。
「じゃ、俺は部屋に戻ります。ローズさん、これからよろしくお願いします!」
「うん、よろしくね!」
……うっ。さっきまで難しい顔をしてたがなんだこの笑顔は。まさに小悪魔。惚れてまうやろ!
――そして時間は今朝の出社時刻に戻るのだが、朝から広瀬さんが話しかけてきてくれた。
「安楽君! 昨日はごめんね! 私、酔っぱらってボーっとしててまさか安楽君に水買ってきてなんてお願いしてるなんて! 私こんなに酔っぱらうタイプじゃなかったんだけど……」
「いや、こちらこそすみません! ご丁寧に地図までついていたので。昨日は誓って変なことはしてませんし家の場所も忘れます!」
「えー……、今度新年会で酔いつぶれたら安楽君に送ってもらおうかな」
そう言って意地悪な笑顔で広瀬さんは俺をからかった。この瞬間だけは、魔王との出会いに感謝したい。そう思った。
さて、仕事の方はというと師走ということもあり、年末年始の休みに向けて業務がグッと圧縮されて襲い掛かってきており、伝票の漏れはないか、支払いの漏れはないかなど、新卒の俺には別の形でハラハラドキドキが止まらなかった。
「今年の業務も後数日です。気を引き締めて頑張りましょう」
俺のテンパり具合を見て皆川課長が声をかけてくれた。いつも紳士的で落ち着いていて、この人の下に配属されて本当に良かったと思う。問題はその下だったわけだが。
「はい、ホントに忙しいのは年明けですからね!」
我が来都カンパニーは3月に決算を迎えるが、それまでに3ヵ月に一回四半期決算をはさむ。やることはほとんど本決算と変わらないが、年末年始をはさむ年明けは忙しくなりやすいというのが滝沢パイセンの教えだ。今はそんなことは無いが最盛期には会社で寝泊まりする人もいたらしい。
ともかく、このタイミングでローズが来てくれたのは真に喜ばしい。お世話につききりというのは相当厳しいだろう。そんな折、初めてローズがスマホ(魔)にメッセージを送ってきた。
********************
グループ名【ヘルガーディアンズ】
ロ:カブ吉? ですか? そっちがエサを食べていないみたいです。
デ:サラマンダーの死骸は気に食わなかったか。
ロ:カブタン? はおいしそうに食べています。
ベ:私も様子を見に行きます。図鑑をお借りします。
デ:分かった。持っていくがいい。
喜:俺も仕事終わりで駆け付けます。
デ:頼む。
*********************
気がかりだな。何事もないといいが……。
まず、昨日の後始末。ローズが抜け出た広瀬さんはしばらく目を覚ます気配がなかったので、ローズが入力した俺との痛いチャット履歴を削除し、その間の適当な記憶を埋めてもらった。やはり魔王様は万能だ。当日の記録、記憶を全て抹消するのは大変なので、酔いつぶれた広瀬さんを介抱しに来たというぼんやりした記憶になった。
「これで、よかろう」
「お世話になりました。これでまだ社会人として生きて行けそうです」
「お前、こいつに惚れているのだったら今のうちにこいつもお前に惚れている記憶でも入れておくか?」
俺は、先程わずかな邪心をベルに食われていなければ危うく誘いに乗っていたかもしれない。それほどに危険な誘惑だった。この悪魔どもめ……。
「そ、それは辞めときます。人一人の人生、俺の都合で変えられません」
「フッ、地獄の生き物を世話しているとは思えんな。ベル、しばらく邪心を食うのをやめてみるか?」
「それもまた一興」
一興なものか。また二人でニヤニヤこっちを見て笑ってやがる。ローズはというとこの先の生活を案じているのだろうか、不安そうに成り行きを見守っている。
「あ、あの……。私はこの後、具体的に何をすれば……」
「そうだな。とりあえず我の作った箱庭でも見てもらおうか」
「そ、そうですね。どんなところに住むか拝見させていただきます」
「では参るぞ」
「その前に広瀬さんをベッドへ戻さないと!」
「おお、そうか。それでは」
魔王様が手をかざすと広瀬さんの体はフワリと宙に浮き、ベッドへとおさまった。
「さぁ、もうよいな? ではいくぞ!」
再び魔王様が手をかざすと次の瞬間にはみんなまとめて俺の部屋へと辿り着いていた。
「相変わらずデボラ様の魔法はすさまじい……」
もはや見慣れた光景だが、ローズにとってはやはり驚異的に映るらしい。まあ、確かに何でも有りすぎてそんじょそこらの悪魔では到底太刀打ちできないだろう。
「さあ! 刮目せよ! これが我の作り上げし地獄の箱庭である!」
「おお、これが……」
「この中には5万バアルの地獄が封じ込めてある!」
「ご、5万バアル!? 国でも造る気ですか!?」
「地獄の生物を自由に生活させてやりたいのだ! いずれは無限に広がる地獄へと還してやりたいがな!」
魔王様は少女のような無邪気な笑顔でローズに語った。
「ま、まぁヘルワームと言わず様々な生き物が増えれば地獄界の食事事情も色々マシにはなるかもしれませんが……」
「そうであろう! これは地獄を救うプロジェクトなのだ! 任命されたことを誇りに思え! ローズウッド=ロールズ!」
ローズは改めて魔王様に跪き、宣言した。
「ローズウッド=ロールズ、必ずや魔王デボラ様のご期待に沿うよう身命賭して任務を全ういたします!」
「そうだ! ローズ! この部屋はキーチローの部屋につながっておるが、くれぐれもつまみ食いは止めておくことだな」
「……は、はい!」
「あとこれが巣魔ほと言ってな……」
もろもろの引継ぎを魔王様に任せて俺は一旦、ヘルワームの様子を見に行った。いやあ、しかし、魔王やベルと出会った頃に比べるとカブタンは格段にでかくなったなぁ。40cmぐらいはありそうだ。
「――――――――――。」
「ん? 何か聞こえたか?」
「――――――――――!」
気のせいか?
「ギギギィ」
「ん? なんだ? 今のお前の鳴き声か?」
「ギィギィ」
「恐ろしい顔してる割には面白い声で鳴くんだな」
さて、そろそろ部屋に戻って仕事の整理でもしますか。年明けは忙しくなりそうだし。年末年始の録画の為にレコーダーの容量も空けなきゃいけない。全く。大変な一年だった。主に後半。
「じゃ、俺は部屋に戻ります。ローズさん、これからよろしくお願いします!」
「うん、よろしくね!」
……うっ。さっきまで難しい顔をしてたがなんだこの笑顔は。まさに小悪魔。惚れてまうやろ!
――そして時間は今朝の出社時刻に戻るのだが、朝から広瀬さんが話しかけてきてくれた。
「安楽君! 昨日はごめんね! 私、酔っぱらってボーっとしててまさか安楽君に水買ってきてなんてお願いしてるなんて! 私こんなに酔っぱらうタイプじゃなかったんだけど……」
「いや、こちらこそすみません! ご丁寧に地図までついていたので。昨日は誓って変なことはしてませんし家の場所も忘れます!」
「えー……、今度新年会で酔いつぶれたら安楽君に送ってもらおうかな」
そう言って意地悪な笑顔で広瀬さんは俺をからかった。この瞬間だけは、魔王との出会いに感謝したい。そう思った。
さて、仕事の方はというと師走ということもあり、年末年始の休みに向けて業務がグッと圧縮されて襲い掛かってきており、伝票の漏れはないか、支払いの漏れはないかなど、新卒の俺には別の形でハラハラドキドキが止まらなかった。
「今年の業務も後数日です。気を引き締めて頑張りましょう」
俺のテンパり具合を見て皆川課長が声をかけてくれた。いつも紳士的で落ち着いていて、この人の下に配属されて本当に良かったと思う。問題はその下だったわけだが。
「はい、ホントに忙しいのは年明けですからね!」
我が来都カンパニーは3月に決算を迎えるが、それまでに3ヵ月に一回四半期決算をはさむ。やることはほとんど本決算と変わらないが、年末年始をはさむ年明けは忙しくなりやすいというのが滝沢パイセンの教えだ。今はそんなことは無いが最盛期には会社で寝泊まりする人もいたらしい。
ともかく、このタイミングでローズが来てくれたのは真に喜ばしい。お世話につききりというのは相当厳しいだろう。そんな折、初めてローズがスマホ(魔)にメッセージを送ってきた。
********************
グループ名【ヘルガーディアンズ】
ロ:カブ吉? ですか? そっちがエサを食べていないみたいです。
デ:サラマンダーの死骸は気に食わなかったか。
ロ:カブタン? はおいしそうに食べています。
ベ:私も様子を見に行きます。図鑑をお借りします。
デ:分かった。持っていくがいい。
喜:俺も仕事終わりで駆け付けます。
デ:頼む。
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気がかりだな。何事もないといいが……。
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