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第1章 魔虫ヘルワーム編
地獄の5丁目 ヘルワーム生態調査②
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「ところで魔王様、2匹以上の場合、マーキングはどうなるので?」
「あ……」
「もしや、考えておられ……ない?」
「よし、わかった。ヘルワームたちには申し訳ないが、繁殖施設を作ろう。この図鑑、『地獄生物大全』によるとだな。ヘルワームは成虫になっても飛行はできないようだ。ならば、囲いを作ってやるだけでよいな。ほれ」
魔王様が片手をクンッすると地面からヘルワームを通さない程度の金網が生え、3メートル程成長したところで返しがついて囲いが完成した。テニスコート程の広さがありそうだ。側近のベルちゃんが玄関を直すのに、魔法陣と詠唱を併用して30分と言っていたから、今起きていることの異常さがはっきりと理解わかる。
「触手がありますからよじ登るかもしれません」
「ならばヘルワームの嫌う香りでも出しておこう。ええと、なるほど。ジグの葉の香りか。それ」
この人が真面目にやれば地獄でもなんでもやりたい放題なんじゃ……。俺、必要なのか?
「キーチロー、困ったことがあれば何でも言え! お前の寿命と引き換えになんでも叶えてやる」
「え!? これ俺の寿命使ってるの!? やめてやめてストーーップ!」
「冗談だ。箱庭が完成する前にお前が死んでしまう」
今ので寿命縮んだんじゃない?
「キーチロー。どうも、このヘルワームの成長ぶりから察するに、お前は地獄の生物と自然に心を通わすことが出来るようだ。もしそれが事実だったら、ヘルワームよりも断然レアな生き物という事になる」
「俺は人間の女の子と心を通わせたいのですが」
「ハハハ、それはお前が頑張れ。では、ベル。」
「はっ」
ここまで軽く、そして早く流されたのは配属の時の自己紹介以来だ。俺は心のレベルが1アップした。(※本作ではレベルの概念はありません)
「早速、キーチロー様の冷蔵庫から入手した鶏肉を与えてみましょう」
「ヘルワームは腐肉を好むというが……」
「そこに関してはご心配なく! 男の一人暮らしでは食材は常に消費期限と隣り合わせなのです!」
「おお、うまそうに噛り付いておる! でかしたぞ! キーチロ……ん?」
「ん?」
「あっ!」
まずい! 二匹のヘルワームが食料を巡って争い始めた! 触手を鞭のように振り回している!
「いかん! 両方ともオスであったか!?」
「オスメスを区別する方法は図鑑に載ってなかったんですか!?」
「成虫はオスが立派な角一本、メスが小ぶりな角二本と書いてあるが、幼虫は特に記述が無い!」
「比較しようにもここにはオスもしくはメスが二匹のようですし……」
「お二人とも! まずは二匹の争いを止めませぬと!」
俺は二匹を引きはがし、それぞれに鶏肉を与えた。どうやら興奮状態は収まったようだ。
「むう……。これはいかんな。放置すると争った末に死んでしまいそうだ」
「区画を作ってやらないといけませんね」
……なんてことだ。せっかく広大な大地を得たというのにこんな小さな虫二匹争った挙句、虫かご同然の住処に逆戻りとは。
「仕方ない。繁殖が軌道に乗るまではこうするしかないのだ」
「カブタン……」
「さて、キーチロー。今日だけでも色々発見があったな!」
「ええ。ただ、このままだと目が離せないというかなんというか……」
「よし、キーチロー。お前、すまほは持っておるな?」
「はぁ、まぁ……」
「我に少し貸せ」
「壊さないでくださいよ?」
「ふむ……ほうほう……なるほど……」
魔王様は俺のスマホを手に取り、あちこち触っている。ほんとに壊されると困るんだが。
「解析できた!」
「えっ」
「ほれ!」
魔王様の手がいつものように光るとその手には、なんというかすこぶる趣味の悪い中二感のあるデザインのスマホが現れていた。
「巣魔ほだ!」
「巣魔ほだ! と言われましても……。ヤンキーの落書きじゃあるまいし」
「巣の魔物をいつでも見られるでほい! 略して巣魔ほだ!」
どう考えてもほい!は後付けだ。
「こいつを操作することで我らが捕えた餌をその場におらずとも与えたり、現在の様子を見たりすることが出来るのである! 我ながら素晴らしい! これを貴様らにくれてやろう!」
こういうところは素直にすごいと思う。もはや青い猫型ロボットと変わらん。ベルは当然目をキラキラさせている。これなら心酔するのも無理はない。
「素晴らしい道具にございます! デボラ様! なんという発想! 技術!」
「ともかく、これで本当に心配事がある程度片付きました。一旦、家に戻りましょう」
「我は直接地獄に戻る。こう見えても忙しい身でな。おまけに有能な側近まで貸し与えてしまった。わはは」
「デボラ様……」
「何かあったらベルを通すがよい! さらばだ!」
「行ってしまわれた……」
俺とベルはともかく家に帰り、現世でできることをまとめることにした。巣魔ほがあれば何か起きても気付けるだろう。ただしこれを人前でいじるには多少の勇気を必要とするが。なんだこの角は。
「これからどうしましょうね」
「とりあえず私は玄関を直してきます。その後は地獄からの引っ越しですかね」
「そうか! 手伝いましょうか?」
「必要ありません。必要なのは陣と詠唱ですので」
「あ、はい」
その後、ベルは我が家の玄関を完璧に復元し、隣家へと去っていった。
「では、これから宜しくお願い致します。キーチローさん」
さりげなく魔王様の前以外では“様”から“さん”へ降格したようだ。いや、これは距離が縮まったと考えるべきか。去り際の言葉一つとってもまだつかみどころがない。
とにかく、いろんな事が過ぎた一日だった。俺の一生は今日を境に劇的に変化したのだろう。これが俺の待ち望んだ“イベント”なんだろうか。俺は出来ることなら可愛い女子とイチャイチャしたかった。いや、魔王様もベルも可愛いんだが。
さて、妄想も程ほどにして、カブタンの様子を見たら資料作成を片付けるか。大きく伸びをすると巣魔ほを手に取り、電源らしきものを入れた。俺の持っているスマホ同様、いくつかアイコンが並んでいる。
この目みたいなアイコンが監視映像かな?ポチっと。うむ。カブタンともう一匹が元気に歩き回っている。“もう一匹”じゃ愛想がないので名前をつけてやろう。よし、決めた。お前はカブ吉だ。我ながら素晴らしいネーミングセンスだ。
カブタン、カブ吉。これからも宜しくな!
「あ……」
「もしや、考えておられ……ない?」
「よし、わかった。ヘルワームたちには申し訳ないが、繁殖施設を作ろう。この図鑑、『地獄生物大全』によるとだな。ヘルワームは成虫になっても飛行はできないようだ。ならば、囲いを作ってやるだけでよいな。ほれ」
魔王様が片手をクンッすると地面からヘルワームを通さない程度の金網が生え、3メートル程成長したところで返しがついて囲いが完成した。テニスコート程の広さがありそうだ。側近のベルちゃんが玄関を直すのに、魔法陣と詠唱を併用して30分と言っていたから、今起きていることの異常さがはっきりと理解わかる。
「触手がありますからよじ登るかもしれません」
「ならばヘルワームの嫌う香りでも出しておこう。ええと、なるほど。ジグの葉の香りか。それ」
この人が真面目にやれば地獄でもなんでもやりたい放題なんじゃ……。俺、必要なのか?
「キーチロー、困ったことがあれば何でも言え! お前の寿命と引き換えになんでも叶えてやる」
「え!? これ俺の寿命使ってるの!? やめてやめてストーーップ!」
「冗談だ。箱庭が完成する前にお前が死んでしまう」
今ので寿命縮んだんじゃない?
「キーチロー。どうも、このヘルワームの成長ぶりから察するに、お前は地獄の生物と自然に心を通わすことが出来るようだ。もしそれが事実だったら、ヘルワームよりも断然レアな生き物という事になる」
「俺は人間の女の子と心を通わせたいのですが」
「ハハハ、それはお前が頑張れ。では、ベル。」
「はっ」
ここまで軽く、そして早く流されたのは配属の時の自己紹介以来だ。俺は心のレベルが1アップした。(※本作ではレベルの概念はありません)
「早速、キーチロー様の冷蔵庫から入手した鶏肉を与えてみましょう」
「ヘルワームは腐肉を好むというが……」
「そこに関してはご心配なく! 男の一人暮らしでは食材は常に消費期限と隣り合わせなのです!」
「おお、うまそうに噛り付いておる! でかしたぞ! キーチロ……ん?」
「ん?」
「あっ!」
まずい! 二匹のヘルワームが食料を巡って争い始めた! 触手を鞭のように振り回している!
「いかん! 両方ともオスであったか!?」
「オスメスを区別する方法は図鑑に載ってなかったんですか!?」
「成虫はオスが立派な角一本、メスが小ぶりな角二本と書いてあるが、幼虫は特に記述が無い!」
「比較しようにもここにはオスもしくはメスが二匹のようですし……」
「お二人とも! まずは二匹の争いを止めませぬと!」
俺は二匹を引きはがし、それぞれに鶏肉を与えた。どうやら興奮状態は収まったようだ。
「むう……。これはいかんな。放置すると争った末に死んでしまいそうだ」
「区画を作ってやらないといけませんね」
……なんてことだ。せっかく広大な大地を得たというのにこんな小さな虫二匹争った挙句、虫かご同然の住処に逆戻りとは。
「仕方ない。繁殖が軌道に乗るまではこうするしかないのだ」
「カブタン……」
「さて、キーチロー。今日だけでも色々発見があったな!」
「ええ。ただ、このままだと目が離せないというかなんというか……」
「よし、キーチロー。お前、すまほは持っておるな?」
「はぁ、まぁ……」
「我に少し貸せ」
「壊さないでくださいよ?」
「ふむ……ほうほう……なるほど……」
魔王様は俺のスマホを手に取り、あちこち触っている。ほんとに壊されると困るんだが。
「解析できた!」
「えっ」
「ほれ!」
魔王様の手がいつものように光るとその手には、なんというかすこぶる趣味の悪い中二感のあるデザインのスマホが現れていた。
「巣魔ほだ!」
「巣魔ほだ! と言われましても……。ヤンキーの落書きじゃあるまいし」
「巣の魔物をいつでも見られるでほい! 略して巣魔ほだ!」
どう考えてもほい!は後付けだ。
「こいつを操作することで我らが捕えた餌をその場におらずとも与えたり、現在の様子を見たりすることが出来るのである! 我ながら素晴らしい! これを貴様らにくれてやろう!」
こういうところは素直にすごいと思う。もはや青い猫型ロボットと変わらん。ベルは当然目をキラキラさせている。これなら心酔するのも無理はない。
「素晴らしい道具にございます! デボラ様! なんという発想! 技術!」
「ともかく、これで本当に心配事がある程度片付きました。一旦、家に戻りましょう」
「我は直接地獄に戻る。こう見えても忙しい身でな。おまけに有能な側近まで貸し与えてしまった。わはは」
「デボラ様……」
「何かあったらベルを通すがよい! さらばだ!」
「行ってしまわれた……」
俺とベルはともかく家に帰り、現世でできることをまとめることにした。巣魔ほがあれば何か起きても気付けるだろう。ただしこれを人前でいじるには多少の勇気を必要とするが。なんだこの角は。
「これからどうしましょうね」
「とりあえず私は玄関を直してきます。その後は地獄からの引っ越しですかね」
「そうか! 手伝いましょうか?」
「必要ありません。必要なのは陣と詠唱ですので」
「あ、はい」
その後、ベルは我が家の玄関を完璧に復元し、隣家へと去っていった。
「では、これから宜しくお願い致します。キーチローさん」
さりげなく魔王様の前以外では“様”から“さん”へ降格したようだ。いや、これは距離が縮まったと考えるべきか。去り際の言葉一つとってもまだつかみどころがない。
とにかく、いろんな事が過ぎた一日だった。俺の一生は今日を境に劇的に変化したのだろう。これが俺の待ち望んだ“イベント”なんだろうか。俺は出来ることなら可愛い女子とイチャイチャしたかった。いや、魔王様もベルも可愛いんだが。
さて、妄想も程ほどにして、カブタンの様子を見たら資料作成を片付けるか。大きく伸びをすると巣魔ほを手に取り、電源らしきものを入れた。俺の持っているスマホ同様、いくつかアイコンが並んでいる。
この目みたいなアイコンが監視映像かな?ポチっと。うむ。カブタンともう一匹が元気に歩き回っている。“もう一匹”じゃ愛想がないので名前をつけてやろう。よし、決めた。お前はカブ吉だ。我ながら素晴らしいネーミングセンスだ。
カブタン、カブ吉。これからも宜しくな!
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