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第1章 魔虫ヘルワーム編
地獄の3丁目 GO TO HELL
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「ところで、魔王様。具体的にどうやって育てていきましょう。肉の調達だって金がかかるし。自分の食料でこっちはいっぱいいっぱいなんですが」
俺は至極真っ当な意見を言ったつもりだった。ところが、二人は訳が分からんとでも言いたげな顔でこちらを見ている。
「お前が取ってくれば良いではないか」
え?
「地獄の基本ですわ!」
「ここは日本で、食料の調達は購入という方法なんです」
二人はやれやれといったリアクションを取っている。顔を見合わせてヘラヘラ笑うのはよせ。指をさすな。ヒソヒソ話すんじゃない!
「では、貧弱な人間どもに代わって我々が何とかしよう。地獄で狩りだ!」
それをやったから地獄は今危機なんじゃないのか……
「む、なんだその不満そうな顔は」
「おお! そうかそうか! 我としたことが! 大事な事だったな! ほれ」
魔王がおもむろに俺の頭を掴んだ。何か頭が熱い。何をする気だ!
「な、なにを!?」
「よし、我の魔力をほんの少し分けてやった。これで地獄でもお前は普通に生存できるぞ!」
「ちょっと待って、ほんの少しと今言ったよな。なんだこの俺から立ち上るヤバそうな黒いオーラは」
「デボラ様の魔力のほんの一部の魔力でも分けていただければそれは上級魔族の魔力と言って差し支えない力でございます」
側近ちゃんはなぜか誇らしげに答えた。俺が聞きたいのはそういう事ではないのだが。
「これ……具体的にどうなるんですか?」
「お前は魔族ではないから魔法の類は一つも使えん。ただ地獄でも生きられる、というだけだ。安心しろ。通常の人間にはオーラなど見えん」
「そうですかならよかっ……」
「あ! 人間の血は赤いんだったか!? まずかったか……?」
「どういう事です!?」
「魔力は血に宿るからな。結論から言うとお前の血は少し黒ずむ」
会社の健康診断大丈夫かな。血液検査あるんだよな。
………………いかんいかん!あまりにいろんなことが立て続けに起こって現実逃避をしてしまったようだ。話を戻さないと!
「狩りについてはお任せするとしても連絡がつかないと色々不都合があると思うのですが……」
「それではこのベルガモット=ベネットを置いていこう。隣の部屋が空いておったな?」
側近ちゃん、いやべルガモットちゃんは驚愕の顔で魔王デボラを見ている。
「で、デボラ様! 私はデボラ様のお側に……!」
「ベルガモット。これは魔王の大事な職務だ。お前以外には任せられん。やってくれるな?」
「デボラ様……」
ベルガモットちゃんは頬を赤く染めて魔王を見つめている。心なしか涙ぐんでいるようだ。
「畏まりました。ご拝命、ありがたく」
「うむ、任せたぞ! キーチローと二人三脚で上手くやってくれ」
二人の世界に俺の意見を差し挟む余地はなさそうだ。だが、敢えて勇気を出してベルガモットちゃんに歩み寄ってみた。
「ベルガモットって長いんでベルって呼んでいいですか?」
ベルはこちらにゆっくりと視線を移すと何かを呟き始めた。まずい。手に光が集中していく。まず間違いなく攻撃的な魔法の類いだ。
「ベル! 可愛くてよいではないか! 我も今日からそう呼んで良いか?」
ベルは感動のあまりか再び魔王の前に跪いた。
「デボラ様! 如何様にもお呼びください! 私は本日ただいまからベルです!」
どうやら俺は魔王に命を救われたらしい。奇妙な話だが。
「さて、用は済んだし……」
「いやいや、大事な事が残ってます!」
「ん? 何かあったか?」
「箱庭の説明! 使い方とか! 飼育についてもまだまだ聞きたいことが!」
「おお! 何やら前向きな感じになってきたな! では地獄の瘴気にも耐えられるようになったことであるし、ヘルワームも連れて早速実地研修と行くか! ベル! 解説!」
「御意!」
~箱庭の使用方法~
箱庭に手を添え、『中へ』と念じるだけで転送されます。そもそも詠唱もなしに転送などという高位魔法を使用できるのもひとえに魔王デボラ様の尋常ならざる……
「次へ進んでください」
「チッ」
箱庭の中は地獄の瘴気で満たされており、地獄の生物にとっては過ごしやすい環境と言えるでしょう。また、地獄の生物は魔力を感じる器官を等しく持っており、今のキーチロー様の魔力を感じて襲ってくるものはほぼいないと思われます。
「ほぼ?」
「地獄は広く深うございます。何事にも例外はつきものです」
「除菌のCMみたいなもんかね」
帰還時は同じく『自宅へ』と念じていただくだけでございます。手軽で安心安全! このような箱庭、システムだけもってしても何人の魔族が魔力を込めれば……
「説明は終わりでいいかな?」
ベルは無言でこちらを睨んでいる。
~箱庭の説明終了~
「以上です。何かご質問は?」
「いや、分かりました。これ以上ないくらいシンプルでそれでいて恐ろしい性能だあというのはベルさんの説明でよーく理解しました」
「あら、そこにお気付きになるとは見かけによらず利発な方でしたのね」
そこはかとないベルからの敵意を感じながら俺は続ける。
「では実際にこの箱庭にヘルワームを放ってみましょう」
「うむ! 初回は私も着いて行ってやろう。箱庭の出来も確認したいしな!」
「デボラ様の為さることに完全以外の言葉は当てはまりません」
「では、念じます」
俺は箱庭へ手をかけ、『中へ』と念じた。すると、自分が圧縮されていくような感覚を覚え、やがてポンと音を立てて視界が閉じた。
再び視界が開けるとそこは地獄だった。血に染まったかのような紅い空。荒廃した大地。うっすらと鼻を衝くのは死臭だろうか。今すぐ魔物がかっ飛んできても不思議ではない雰囲気を醸し出している。
「うむ、やはり地獄はこうでなくてはな!」
「ほ、ほんとに魔物とか現れないんでしょうね!」
「一応念のために危険な種族が住む地域は外したつもりだ。初めの設定で生物は除外したがな。地獄そのものとは切り離されているので後から侵入してくることもない」
「そもそも何ですが、イメージと違うというか……」
「貴様、デボラ様の所業によもや不平不満などあるまいな?」
「あ、いやこれって日本人の感覚から言うと魔界に近いっていうか……。血の池地獄や針の山なんかを想像してました」
「それも言葉の違いだけで大した意味はありはせん。お前の言うような地獄もあるし、悪魔や鬼が住まう地獄もある。魔の住処という意味では魔界というのも正しいかもしれんな。私は地獄という響きが好きなので地獄の魔王と名乗っておる」
そんないい加減なものなのかと思ったが名前なんて人間が勝手につけたものだしな。それよりも俺のカブタンがこちらに来てから生き生きとしているのは喜ばしい限りだ。もはやカブトムシではないと解り切っているのだが。
「では、ヘルワームの生態を調査していこう!」
魔王は楽しげにメモまで用意している。
こうして、前途多難な俺の育成稼業が幕を開けたのだった。
俺は至極真っ当な意見を言ったつもりだった。ところが、二人は訳が分からんとでも言いたげな顔でこちらを見ている。
「お前が取ってくれば良いではないか」
え?
「地獄の基本ですわ!」
「ここは日本で、食料の調達は購入という方法なんです」
二人はやれやれといったリアクションを取っている。顔を見合わせてヘラヘラ笑うのはよせ。指をさすな。ヒソヒソ話すんじゃない!
「では、貧弱な人間どもに代わって我々が何とかしよう。地獄で狩りだ!」
それをやったから地獄は今危機なんじゃないのか……
「む、なんだその不満そうな顔は」
「おお! そうかそうか! 我としたことが! 大事な事だったな! ほれ」
魔王がおもむろに俺の頭を掴んだ。何か頭が熱い。何をする気だ!
「な、なにを!?」
「よし、我の魔力をほんの少し分けてやった。これで地獄でもお前は普通に生存できるぞ!」
「ちょっと待って、ほんの少しと今言ったよな。なんだこの俺から立ち上るヤバそうな黒いオーラは」
「デボラ様の魔力のほんの一部の魔力でも分けていただければそれは上級魔族の魔力と言って差し支えない力でございます」
側近ちゃんはなぜか誇らしげに答えた。俺が聞きたいのはそういう事ではないのだが。
「これ……具体的にどうなるんですか?」
「お前は魔族ではないから魔法の類は一つも使えん。ただ地獄でも生きられる、というだけだ。安心しろ。通常の人間にはオーラなど見えん」
「そうですかならよかっ……」
「あ! 人間の血は赤いんだったか!? まずかったか……?」
「どういう事です!?」
「魔力は血に宿るからな。結論から言うとお前の血は少し黒ずむ」
会社の健康診断大丈夫かな。血液検査あるんだよな。
………………いかんいかん!あまりにいろんなことが立て続けに起こって現実逃避をしてしまったようだ。話を戻さないと!
「狩りについてはお任せするとしても連絡がつかないと色々不都合があると思うのですが……」
「それではこのベルガモット=ベネットを置いていこう。隣の部屋が空いておったな?」
側近ちゃん、いやべルガモットちゃんは驚愕の顔で魔王デボラを見ている。
「で、デボラ様! 私はデボラ様のお側に……!」
「ベルガモット。これは魔王の大事な職務だ。お前以外には任せられん。やってくれるな?」
「デボラ様……」
ベルガモットちゃんは頬を赤く染めて魔王を見つめている。心なしか涙ぐんでいるようだ。
「畏まりました。ご拝命、ありがたく」
「うむ、任せたぞ! キーチローと二人三脚で上手くやってくれ」
二人の世界に俺の意見を差し挟む余地はなさそうだ。だが、敢えて勇気を出してベルガモットちゃんに歩み寄ってみた。
「ベルガモットって長いんでベルって呼んでいいですか?」
ベルはこちらにゆっくりと視線を移すと何かを呟き始めた。まずい。手に光が集中していく。まず間違いなく攻撃的な魔法の類いだ。
「ベル! 可愛くてよいではないか! 我も今日からそう呼んで良いか?」
ベルは感動のあまりか再び魔王の前に跪いた。
「デボラ様! 如何様にもお呼びください! 私は本日ただいまからベルです!」
どうやら俺は魔王に命を救われたらしい。奇妙な話だが。
「さて、用は済んだし……」
「いやいや、大事な事が残ってます!」
「ん? 何かあったか?」
「箱庭の説明! 使い方とか! 飼育についてもまだまだ聞きたいことが!」
「おお! 何やら前向きな感じになってきたな! では地獄の瘴気にも耐えられるようになったことであるし、ヘルワームも連れて早速実地研修と行くか! ベル! 解説!」
「御意!」
~箱庭の使用方法~
箱庭に手を添え、『中へ』と念じるだけで転送されます。そもそも詠唱もなしに転送などという高位魔法を使用できるのもひとえに魔王デボラ様の尋常ならざる……
「次へ進んでください」
「チッ」
箱庭の中は地獄の瘴気で満たされており、地獄の生物にとっては過ごしやすい環境と言えるでしょう。また、地獄の生物は魔力を感じる器官を等しく持っており、今のキーチロー様の魔力を感じて襲ってくるものはほぼいないと思われます。
「ほぼ?」
「地獄は広く深うございます。何事にも例外はつきものです」
「除菌のCMみたいなもんかね」
帰還時は同じく『自宅へ』と念じていただくだけでございます。手軽で安心安全! このような箱庭、システムだけもってしても何人の魔族が魔力を込めれば……
「説明は終わりでいいかな?」
ベルは無言でこちらを睨んでいる。
~箱庭の説明終了~
「以上です。何かご質問は?」
「いや、分かりました。これ以上ないくらいシンプルでそれでいて恐ろしい性能だあというのはベルさんの説明でよーく理解しました」
「あら、そこにお気付きになるとは見かけによらず利発な方でしたのね」
そこはかとないベルからの敵意を感じながら俺は続ける。
「では実際にこの箱庭にヘルワームを放ってみましょう」
「うむ! 初回は私も着いて行ってやろう。箱庭の出来も確認したいしな!」
「デボラ様の為さることに完全以外の言葉は当てはまりません」
「では、念じます」
俺は箱庭へ手をかけ、『中へ』と念じた。すると、自分が圧縮されていくような感覚を覚え、やがてポンと音を立てて視界が閉じた。
再び視界が開けるとそこは地獄だった。血に染まったかのような紅い空。荒廃した大地。うっすらと鼻を衝くのは死臭だろうか。今すぐ魔物がかっ飛んできても不思議ではない雰囲気を醸し出している。
「うむ、やはり地獄はこうでなくてはな!」
「ほ、ほんとに魔物とか現れないんでしょうね!」
「一応念のために危険な種族が住む地域は外したつもりだ。初めの設定で生物は除外したがな。地獄そのものとは切り離されているので後から侵入してくることもない」
「そもそも何ですが、イメージと違うというか……」
「貴様、デボラ様の所業によもや不平不満などあるまいな?」
「あ、いやこれって日本人の感覚から言うと魔界に近いっていうか……。血の池地獄や針の山なんかを想像してました」
「それも言葉の違いだけで大した意味はありはせん。お前の言うような地獄もあるし、悪魔や鬼が住まう地獄もある。魔の住処という意味では魔界というのも正しいかもしれんな。私は地獄という響きが好きなので地獄の魔王と名乗っておる」
そんないい加減なものなのかと思ったが名前なんて人間が勝手につけたものだしな。それよりも俺のカブタンがこちらに来てから生き生きとしているのは喜ばしい限りだ。もはやカブトムシではないと解り切っているのだが。
「では、ヘルワームの生態を調査していこう!」
魔王は楽しげにメモまで用意している。
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