限界サラリーマン、戦隊ヒーローになり異世怪人との戦いを配信す。バズらなきゃ食っていけねぇ!!

白那 又太

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第18話 限界アイドル、松浦 カンナ④ 君の事忘れてないから

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「皆さん! フィールド反応です! シャドウサーバント展開します! レッド、行きましょう!」
「よし、後は任せろ!」

 俺達は、配信中にうっかり本名をポロリしないように、意識して呼び名を変えていた。しかし結局、周りに目があるところでは逆に色で呼ぶことが出来ないので、使い分けに苦労する日々だ。

「緊急配信です! 秋葉原駅付近にお出かけの皆さん! 慌てず落ち着いて避難してください!」

 ベアリーの緊急配信は、注意喚起の意味も込めて全部生配信になる。この配信を見た人の大半は逃げてくれる……のだが、逆に一目見ようと駆け付けてくる厄介な連中も増えていた。

“きちゃ”
“待ってました!”
“相変わらず不思議な画角だな。どうやって撮ってるんだろう”
“前回の配信見に行きました!”
“おいおい、ベアリーちゃんが来るなって言ってたよな”
“これだから厄介さんは”
“秋葉原だな、把握”

「本当に危険なんです! 来ないで下さい!」

“ベアリーちゃんはどこに居るの?”
“どうせゴブリンとかだろ?”
“ワンチャンお役に立てませんかね(^^♪”

 ベアリーの反応を見る限り場所を明かさない方がマシな気がしてきた。俺達が比較的簡単そうに倒すおかげでゴブリン辺りは雑魚だと勘違いされているようだが、本来、人間を見境なく殺しに来る残忍な生物だ。街中にヒグマが出てるようなもんなので甘く見ないで欲しい。

「段々人通りの多い場所も増えてきたな」

“レッドさんちぃーす”
“ベアリーちゃんに手出ししてないだろうな”
“今日は名乗りに間に合った”
“五人目は中々出てこないな”

「あそこか!」

 戦闘中はコメントを見る事が出来ないが、今どんなことを書かれているだろう。誹謗中傷だったら許さんからな。

 現場に辿り着いた俺達は慄然とした。人だかりが出来ているのだ。中心にいるのはアルミラージと女の子。腰が抜けたのだろうかその場にへたり込んでいる。そして、警察。周りの人間は何をしているのかというと中心に向けて写真を撮ったり、動画を撮ったり。記者や中継クルーもいる。今にも襲われそうな女の子を前に誰もが助け出すどころか好奇の目を向けている。警察はそんな民衆を抑えるのに手いっぱい。女の子の前に立ち塞がった警官は銃を向ける事も出来ず、ただ盾として存在するかの様。

 胸糞の悪い光景だ。

「あ、ゲンカイジャー!」
「マジかよ!」

 列の後方の人間が俺に気付き、指を差す。正直全員踏みつけて中に入りたいが配信中の為、冷静になる。前方には、ブルー、ピンク、左方にはイエローがすでに集結しつつある。一旦、女の子の近くのアルミラージを蹴っ飛ばして改めて名乗る。

「血反吐は吐いても弱音は吐くな! 回生の騎士、ゲンカイジャー! ギリギリレッドここに参上!!!」
「病は気から! 輝け命の力!! 回生の騎士、ゲンカイジャー! ギリギリブルーここに参上!!!」
「飴と鞭より愛の鞭!! 回生の騎士、ゲンカイジャー! ギリギリピンク!! ここに参上!!」
「カロリーハーフのニューハーフ!! 回生の騎士、ゲンカイジャー! ギリギリイエローここに参上!」

 俺は警察に対して協力的だとアピールする為、声を掛けた。

「警察の皆さん、申し訳ないが、避難誘導をお願いします」

“あ……れ? イエロー俺の思ってた人じゃなかったわ”
“ヒーローの正体詮索はご法度やで”
“アルミラージちゃん可愛いなぁ”
“今回の敵は楽勝やな”

「皆さん、見えますか? アルミラージという生き物はあの角が危険なんです。それに、集団行動が……あれ? 一匹……? あっ」

“あれ? ミュートになった?”
“ベアリーちゃん! 声が!”
“こっち向いてくれー”

『レッド、二点ほど報告が』

 通信機からベアリーの声がする。

「なんだ?」
『アルミラージが一匹で送り込まれるはずありません。奴らは数が揃わなければ大した脅威ではありませんから』
「嫌な予感がする」
『それと、その襲われている女性』

 帽子を目深にかぶった女の子だ。マスクをしていて表情は見えにくい。怯えているようだ。無理もないか。

『松浦カンナです』
「嘘だろ」
「あ、あの。助けて頂いてありがとうございました」

 突然の出会いに心の準備が出来ていない。東京という無数の人が行きかう都市でピンポイントに目的の人に出会うなんて奇跡としか言いようがない。いや、むしろ作為的でさえある。

「当然の事だ。さ、ここは危ない」

 クソッ! 配信中じゃ無ければ連絡先交換するのにぃぃぃぃ! あ、あ、行ってしまう! 配信はいきなり切ったら不自然だし、ああああああ!

「あの女の子について行ってくれないか?」
「え、ええ」

 咄嗟にベアリーに、預ける。

「きゃあああああっ」
「今度はなんだ!」

“あ、声が”
“復活ッッッ! 音声、復活ッッッ!!”

 カンナが立ち去ろうとしたその時、輪の外から悲鳴が上がった。恐れていたことが現実になった。

「か、囲まれてるぅぅぅぅっ!!」

“オイオイオイ 死ぬわアイツ”
“ヤバくね?”
“現場にいるんでさけど、助けくださいごめんなさい”
“現凸厨ざまぁwww”
“震えて文字打ててませんよwww”

 アルミラージの群れが俺達を囲う輪をさらに囲うように押し寄せている。尖った一本角が立ち並び、さながらファランクスの様だ。

「ゲンカイショット!!!」
「ゲンカイウィーーーップ!!!」
「下がりな、さい♡」
「うおおおおおおっ!!!」

 俺達は阿吽の呼吸で四方に散り、アルミラージを蹴散らした。一斉に飛び掛かってくるデカいウサギ。見た目は可愛い癖に、目には殺意が迸っている。

“興奮の映像やね”
“グロ注意と思ったらリアルタイムでモザイク!?”
“どういう技術なんだこれ”
“ウサたんが切断される様は何とも”
“子供連れて来てるアホおるやん”
“想像力とか無いんか?”

 俺の目には信じられないものが飛び込んできた。子連れの親子だ。男の子は引き攣っているが、親はこの期に及んでまだスマホを構えている。

「危ない! 逃げろ!!」
「レッドに話しかけられたよ! ほら、手ぇ振って!」

 一匹のアルミラージが抜けていく。いや、二匹。クソッ! 馬鹿親め!!

「え? あれ?」
「ままぁ!」

“ヒーローショーと違うねんぞ”
“あかんコレ”
“放送事故や”
“見てられん”

「リヴァイヴ!」

 人ごみを掻き分けて閃光が走る。グリーンのスーツが忽然と現れる。短く叫んだその声は、澄んだ迷いのない声だった。突然現れたように見えたのは、ベアリーの認識阻害の効果だろうか。親子に迫ったアルミラージを一閃、逆手に持った二刀の短刀で仕留め、颯爽と名乗った。

「忍んで耐えて芽吹く息吹!! 回生の騎士、ゲンカイジャー! ギリギリグリーン!! ここに参上!!」

“きちゃあああああああああああ”
“忍びスタイル!!”
“かっこよ!!!”
“どこにおったん”
“声でわかる。中の人は可愛い”
“生涯グリーン推し切り萌え”
“名乗りがイイ”

「さぁ、安全な場所へ」
「すみません、ありがとうございます!」
「ありがとう! グリーン!」

“グリーン推し爆誕の瞬間である”
“尊みのメガ盛”
“↑戦国武将のなり損ないみたい”
“惚れてまうやろ”

 グリーンが窮地を救ってくれた。速い動きだ。五人の中では最速かもしれない。

「片付けます」

 グリーンは短刀を握り直し、軽やかに駆け出した。風の様に軽やかに、敵の狭間を抜けたかと思うと、次の瞬間にはスライスされたアルミラージの姿。想像以上に速い。グリーンは舞うように、ステップを踏みつつUQを量産した。

「頼もしいです……ね!」
「ぬおおおおおおっ! 素敵すぎるぅぅぅぅぅ!!」

 ブルーとピンクは比較的、敵を抑えられている。イエローはこちらを振り向く余裕は無いようだ。グリーンの攻撃で一角が開けたので、避難する人はそこから警察と共に抜けていく。俺はイエローの救援に走った。

“五人体制が機能してるぅぅぅ”
“ゲンカイジャー! ゲンカイジャー! ゲンカイジャー!”
“ポリスメンもびっくりするぐらい協力的やな”
“収益目当ての奴らもしょっ引け”

「もう少しだ! みんな!」
「はい!」
「余裕だね!」
「レッドちゃん! 来てくれてありがとう♡」
「…………」

 グリーンは黙々と敵を倒している。やはりまだコミュニケーションには早いようだ。まずは目の前の敵に集中だな。

「これで最後!」

 そうして敵を狩り続ける事数分。最後の敵はグリーンが仕留めた。どうにか、今回の危機も乗り切ることが出来たようだ。
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