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第13話 限界力士、肥川 聖志③

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「今日はよりによって街中かよ」

 駆けつけた俺は焦った。今までは、病院の一件を除いて比較的目立たない場所で魔物を処理出来ていた。だが、今回はまだ逃げていない人がいる。

 通報も早かった。現場には既に警察官が駆け付けていて、制圧行動に出ようとしていた。問題が目白押しだ。

 たぶん、俺達は警察組織に良く思われてはいない。相次ぐ通報に対して、現場に駆け付けたらもう騒ぎは静まっていたという事が頻発している。おまけにたちの悪い動画まで出回っていて、動画投稿者の自作自演であるという説が有力だからだ。

「う、うごくなぁっ!」
「手を上げて膝をつけ!」

 二人組の警察官が3メートル近い石の塊の化け物に向かって叫んでいる。ベアリーにも確認したがゴーレムという呼び方で合ってるらしい。

「さて、どうしたもんか」

 場所が場所だけにすぐには発砲できないのだろう。警察官はまだ拳銃も構えていない。だが、手を出せば恐らく手痛い反撃を食らうだろう。やはりここはどう思われても俺が行くしか無い。

「血反吐は吐いても弱音は吐くな! 回生の騎士、ゲンカイジャー! ギリギリレッドここに参上!!!」

 いつもの名乗りをキメた。何度かの戦闘を経て、UQを消化したが、武器の取得以外にもスーツ自体の能力が向上しているようだ。身体が軽い。

「な、何だ君は! 下がってなさい!!」
「お前は!? 例の動画の奴か! コイツも貴様の仲間か!?」

 警察官の一人が、俺に警戒を向ける。

「違う! 俺はそいつと戦う者だ!」
「信用出来るか! お前らアレだろ! 迷惑系NewTuberとかいう奴だろ!」

 警察官がこちらににじり寄ったその時、ゴーレムが右手を振り上げた。

「あ、危ない!」

 警察官を押しのけて、どうにか攻撃を防ぐ。

「つ、突き飛ばしたな!? 公務執行妨害の現行犯だ!」
「そんな事言ってる場合かよ! 早く逃げてくれ!」
「ふ、ふざけ――」

 ゴーレムが再び拳を振り下ろすと、コンクリートの地面に大穴が空いた。ゴブリンどころかオークと比べてもその力の差は歴然だ。人間がくらったらひとたまりもない。あっという間にミンチだ。

「今までと比べて格段に危険な奴だ」

 俺は騒ぐ警察官を無視して、ゲンカイソードを取り出した。

「じゅ、銃刀法違反!!!?」
「喰らえっ!!」

 俺は騒ぐ警察官を無視して、ゲンカイソードをゴーレムに振り下ろした。だが、返ってきたのは鐘を突いたような衝撃。全身を波打つように響き渡る。

「か、硬っ!! 魔素発生装置より硬い!」

 ジンとした痛みを感じながら体勢を立て直す。一体何で出来てるんだあの硬さは。

「病は気から! 輝け命の力!! 回生の騎士、ゲンカイジャー! ギリギリブルーここに参上!!!」
「飴と鞭より愛の鞭!! 回生の騎士!! ゲンカイジャー!! ギリギリピンク!! ここに参上!!」

 そうこうしている内にブルーとピンクが到着した。ピンクの名乗りはそれでいいのかと思ったが意外にも本人は気に入っているようなので気にしないことにした。

「レッド! 魔素の発生装置は破壊してきた!」
「後は奴を倒すだけだよ!」
「き、き、き、貴様ら! こんなところで撮影を! 迷惑も顧みず! カメラはドコだ! そこのお前か!」

 警察官の一人はまだ状況が飲み込めていないようで、ただ俺達のことを撮影している一般市民に対して怒鳴り散らしている。

「ブルー! 奴にゲンカイショットは効きそうか!?」

 ゲンカイショットとは、ゴウの新しく取得した力、武器だ。ハルカの助言を素直に聞き入れたらしい。大袈裟な銃の形をしているが、弾体は謎のエネルギーで、体内の魔素から発する魔力とゲンカイパワーを練り混ぜたものらしい。

「やってみる! ゲンカイショット!!」

 放たれたエネルギー弾はゴーレムの体に当たると乾いた音を立てて弾け飛んだ。どうやらダメージは無いらしい。

「ダメか……、ゲンカイウィップは……無理だろうし」
「やってみないと分からないじゃない! いけ! ボクのゲンカイウィーーーップ!!」

 鞭の乱打がゴーレムの全身を烈しく打ち付けるが、特に効いている様子は無い。ならばと、ピンクは鞭を使ってゴーレムを拘束する。

「いいザマじゃん! さぁ! 抵抗してみな!」

 駄目だぁ。この子、やっぱり変身前と後で性格が変わってしまう。

「しかし、決め手が無いな。人通りが多いから魔素切れを待つのも危険だ」

 どうする。拘束も長くは保たないだろう。何か、何か手は……。

「アタシが必要ってわけね、レッドちゃん」

 ドコからともなく声が響く。

「カロリーハーフのニューハーフ!! 回生の騎士、ゲンカイジャー! ギリギリイエローここに参上……よ♡」

 見上げると、小高いビルの屋上に人影。避難も兼ねてベアリーと移動したのだろう。名乗りを終えたイエローは、まるでジャングルジムから飛び降りるかのような気軽さでヒョイと屋上から飛び降りた。

 恐ろしい速度で巨大な物体が降ってくる。ゴーレムの一撃よりも凄まじい轟音と共に地面が抉れる。落下の衝撃を意に介さず、堂々たる佇まいで歩を進めるイエロー。

「さ、行くわよ♡」

 イエローは深く腰を落とすと、立合いのような体勢になり、そして、猛スピードでゴーレムにタックル。車同士が衝突したかのような激しい音が鳴り響く。

「あら、硬いのね♡ ウフフ……」

 色んな意味で恐ろしい。イエロー初見のブルーもピンクもその圧倒的な存在感に気圧されて、一歩下がる。

「グオォォォォ!!」

 ゴーレムは鞭による拘束を解き、イエローとがっぷり組み合った。メキメキと音を立ててがっちり押し合いをする様に不思議と胸が熱くなる。

 ついには観衆から歓声が上がり出し、さながら大相撲の様相を呈してきた。

「頑張れー!!」
「負けるなーー!!」

「こ、コラ! 応援をやめろ! 本部! 応援はまだか!」

 まだいたのかあの警察官。そろそろ落ち着いて状況を整理してほしい。

「フフフ、燃えるわね!」
「ゴァァァァッ!!」

 イエローがゴーレムを上手投げで転がすが、これは相撲では無い。背が付いたところで当然決着ではないのだ。敵はまた起き上がろうともがいている。

「くらいなさい!」

 そんなゴーレムの顔面に張り手をブチかますイエロー。並の敵なら頭蓋骨ごとひしゃげていただろう。だがゴーレムの顔面は少しヒビが入っただけ。

「ゴファァァァァァッ!!」

 なおも、抵抗するゴーレム。

「あら、じゃあアタシの武器、何が出るかしら」

 熊のような生物の意匠に手をかざすと、イエローの胸が光輝き、その手には篭手がハマっていた。

「ゲンカイガントレットってとこね。さ、トドメよ♡」

 イエローは優しく囁くと、馬乗りの状態から先程の張り手を両手で連続して繰り出した。もはや軌跡を追うことすら困難なほど凄まじい連打。

「ゴ、ゴ、ゴァ、ァ、ァ、ァッ、ァッ、ァッ、ア、………………ァ………………」


「…………ッッッ! ………!! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」

 イエローがその連打を終えた時、ゴーレムの頭は粉々に砕け散っていた。
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