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第7話 魔王様、失礼仕ります!
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「この城を人間が破壊する前に確かめておきたいことがいくつかある」
「……実は私もまだソコへは足を踏み入れていないのです」
エレナも察しているらしい。腹は満たされたが、それでもなお。
自分の殺害現場に足を踏み入れるというのは、少しばかり勇気がいる。
そもそも、断片的な情報ばかりで、本当にここがエンドヴァルドかどうか、ということすら未確定だ。よく似た世界で、自分そっくりの魔王が君臨している可能性だってまだある。そんなところで呑気に飯を食っていた自分もどうかしているが。
「というか、生物の気配がせんのですよ。この城。気ままにクッキングを楽しめちゃうほどに」
「何者かの罠という可能性もある。異世界(?)転生に浮足立っていたが、我々の立ち位置をさらに明確なものにしておかなくては」
「ええ、では」
「うむ。行こう」
俺達は、食堂を出て勇者用に施した様々な仕掛けを解きながら二時間かけて玉座がある部屋の前までたどり着いた。
「ミルド様」
「ああ」
エレナは、緊張の面持ちで扉に手を掛けるが、俺はそっとそれを払った。そして、音と衝撃を遮蔽する結界を張り静かに深呼吸をした。
「ちょっといいか」
「え? あ、はい」
俺は深呼吸の要領で大きく息を吸い込み、そして叫んだ。
「仕掛け多すぎじゃボケぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「み、ミルド様! 落ち着いてください!」
「なんで自分ちの食堂から玉座に移動するまでこんな時間かかるんじゃあああああ!!」
「し、しかし勇者達を撃退するかそれが成らなくとも疲弊、損耗させることが目的で……」
「疲弊してるの俺達だよねぇ!? なんなら俺達もう、肝心の勇者達に一回殺されちゃってるもんねぇ!? 間取り考えたの誰!? ちゃんと生活空間と仕掛けは分けとかないと!! どうやって暮らしてたんだっけ!?」
「すいません、恐れながらこの城の設計全般はミルド様が一手に引き受けられておられたかと思います」
「そうだったねぇぇぇぇぇ!!! 仕掛け解除するボタンの場所忘れちゃってゴメンねぇぇぇぇ!!! 少し見通しが甘かったよぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
肩で息をしつつ、腹いせに結界をぶん殴ったが、結界はビクともしない。さすがは俺が張った結界だ。
「……すまん。取り乱した。さあ、行こう」
「正直私もツッコもうか迷ったぐらいですので、気にせんといて下さい。」
今になって思い出してきたが、確かに当時はノリノリで仕掛けを施していた気がする。しかし、あの量の仕掛けを乗り越えながら、数多の魔兵士、魔獣を屠り去り、挙句四天王のみならず俺をも打ち滅ぼすとはやはり勇者一行、只者では無い。
「では、改めて」
エレナが扉を開くとそこには誰の姿もなかった。ただ、凄絶な戦闘の爪痕が生々しく残っていた。この光景、確かに見覚えがある。
ああ、あの壁の穴は勇者アリアの放った光魔法が貫いた跡だ。玉座の焦げはリベラの放った火魔法の矢。玉座に続く階段が割れているのはフォルテナが力任せに振りぬいた剣によるもの。入り口近くにある魔方陣はドルチェの守護陣。
「間違いない。微かに残る記憶の中、俺はあいつらとここで戦い、そして敗れた」
「ええ、私の記憶もそう言っております」
確かに敗れた。そして、確かに我が肉体は滅した。だが、俺とエレナは再びここに戻ってきた。わからん。誰が何のためにこの肉体を用意したのか。奇跡などという安易な言葉で誤魔化すべきでないのは明白だ。
「いやぁ、何とも言えない感情だなコレは」
「そうですね……」
「自分がついさっき死んだであろう場所なのに懐かしいやら恐ろしいやら……」
「一つ言えるのは、この城が事故物件になった、ということくらいですかね」
「食堂から玉座まで体感二時間ぐらいかかってる時点で相当な事故物件だと思うが」
事故物件を集めたサイトに載るわけでもなし。人間たちがリフォームするとでも言うのか。
「うん、よし。ここはもういい。次行ってみよう」
「……!! 志村、後ろ!!」
「誰が志村だ! ん?」
「どおおおおおおりゃああああああ!!!!」
叫び声と共に一人の青年が大剣を振り下ろしてくる。俺はとっさに腕に防御魔法を発動し、その青年の身の丈はあろうかという剣を受け止めた。
「お、お前! 魔剣の!」
「おお! バルバロムではないですか!!」
「誰だ! 貴様らは! 知らんぞ! 俺は!!」
忠実なる四天王が一人、“闘神”魔剣のバルバロム。魔族随一の剣の使い手だ。燃え盛る炎の様な赤い髪と血のように怪しく輝く瞳。フォルテナとは因縁浅からぬ仲で、最後は剣技による一対一の死闘の末、敗北した。魔族でありながら姑息な手段を良しとせず、常に正面から戦いを挑む男……だったはずだが。
「不意打ちとはどうした心境の変化だ。バルバロム」
「何者だ! 俺の名を知っているお前らは!」
「俺だ、ミルドだ!」
「ヘルヘレナです!」
バルバロムは剣を俺の腕に押し込んだまま、何かを思い出すようにしばし沈黙した。
「あの、いくら防御魔法で防いだとはいえ、剣がグイグイ来てるんだが? 顔に迫ってきてるんだが? 考え事なら一回武器置いてからにしない? あの、ちょっと、ねぇっ!」
「ミルド様のこと忘れたんか!? バルバロム!!」
バルバロムは俺の顔をじっくり見つめ、そして何かに納得したように剣に込める力を緩めた。そして、その巨大な剣を背中に納めると突然回れ右をして俺達が入ってきた扉から出て行った。
「な、なんだったんだ……?」
「さあ……?」
俺達の困惑をよそに勢いよく扉が開く。
「大魔王ミルド様!! ご無事か!?」
「は?」
「おお!!! ミルド様!!! 俺はてっきり……、あの勇者一行に……」
「なんやて?」
ますます混乱する俺達。
「俺だ! 不肖、バルバロム! 曲折を経て蘇った!!」
「ちょっと待て。お前、まさかそれで乗り切る気じゃないだろうな?」
「何の事だか! 分かりかねる!」
「あんた……、さっき斬りかかった事……」
「いや待て! 本当にお前は! 誰だ!」
俺達は、事態の収拾を着ける為にいったん斬りかかってきた事は忘れて、臨時幹部会議を開くのであった。
「……実は私もまだソコへは足を踏み入れていないのです」
エレナも察しているらしい。腹は満たされたが、それでもなお。
自分の殺害現場に足を踏み入れるというのは、少しばかり勇気がいる。
そもそも、断片的な情報ばかりで、本当にここがエンドヴァルドかどうか、ということすら未確定だ。よく似た世界で、自分そっくりの魔王が君臨している可能性だってまだある。そんなところで呑気に飯を食っていた自分もどうかしているが。
「というか、生物の気配がせんのですよ。この城。気ままにクッキングを楽しめちゃうほどに」
「何者かの罠という可能性もある。異世界(?)転生に浮足立っていたが、我々の立ち位置をさらに明確なものにしておかなくては」
「ええ、では」
「うむ。行こう」
俺達は、食堂を出て勇者用に施した様々な仕掛けを解きながら二時間かけて玉座がある部屋の前までたどり着いた。
「ミルド様」
「ああ」
エレナは、緊張の面持ちで扉に手を掛けるが、俺はそっとそれを払った。そして、音と衝撃を遮蔽する結界を張り静かに深呼吸をした。
「ちょっといいか」
「え? あ、はい」
俺は深呼吸の要領で大きく息を吸い込み、そして叫んだ。
「仕掛け多すぎじゃボケぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「み、ミルド様! 落ち着いてください!」
「なんで自分ちの食堂から玉座に移動するまでこんな時間かかるんじゃあああああ!!」
「し、しかし勇者達を撃退するかそれが成らなくとも疲弊、損耗させることが目的で……」
「疲弊してるの俺達だよねぇ!? なんなら俺達もう、肝心の勇者達に一回殺されちゃってるもんねぇ!? 間取り考えたの誰!? ちゃんと生活空間と仕掛けは分けとかないと!! どうやって暮らしてたんだっけ!?」
「すいません、恐れながらこの城の設計全般はミルド様が一手に引き受けられておられたかと思います」
「そうだったねぇぇぇぇぇ!!! 仕掛け解除するボタンの場所忘れちゃってゴメンねぇぇぇぇ!!! 少し見通しが甘かったよぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
肩で息をしつつ、腹いせに結界をぶん殴ったが、結界はビクともしない。さすがは俺が張った結界だ。
「……すまん。取り乱した。さあ、行こう」
「正直私もツッコもうか迷ったぐらいですので、気にせんといて下さい。」
今になって思い出してきたが、確かに当時はノリノリで仕掛けを施していた気がする。しかし、あの量の仕掛けを乗り越えながら、数多の魔兵士、魔獣を屠り去り、挙句四天王のみならず俺をも打ち滅ぼすとはやはり勇者一行、只者では無い。
「では、改めて」
エレナが扉を開くとそこには誰の姿もなかった。ただ、凄絶な戦闘の爪痕が生々しく残っていた。この光景、確かに見覚えがある。
ああ、あの壁の穴は勇者アリアの放った光魔法が貫いた跡だ。玉座の焦げはリベラの放った火魔法の矢。玉座に続く階段が割れているのはフォルテナが力任せに振りぬいた剣によるもの。入り口近くにある魔方陣はドルチェの守護陣。
「間違いない。微かに残る記憶の中、俺はあいつらとここで戦い、そして敗れた」
「ええ、私の記憶もそう言っております」
確かに敗れた。そして、確かに我が肉体は滅した。だが、俺とエレナは再びここに戻ってきた。わからん。誰が何のためにこの肉体を用意したのか。奇跡などという安易な言葉で誤魔化すべきでないのは明白だ。
「いやぁ、何とも言えない感情だなコレは」
「そうですね……」
「自分がついさっき死んだであろう場所なのに懐かしいやら恐ろしいやら……」
「一つ言えるのは、この城が事故物件になった、ということくらいですかね」
「食堂から玉座まで体感二時間ぐらいかかってる時点で相当な事故物件だと思うが」
事故物件を集めたサイトに載るわけでもなし。人間たちがリフォームするとでも言うのか。
「うん、よし。ここはもういい。次行ってみよう」
「……!! 志村、後ろ!!」
「誰が志村だ! ん?」
「どおおおおおおりゃああああああ!!!!」
叫び声と共に一人の青年が大剣を振り下ろしてくる。俺はとっさに腕に防御魔法を発動し、その青年の身の丈はあろうかという剣を受け止めた。
「お、お前! 魔剣の!」
「おお! バルバロムではないですか!!」
「誰だ! 貴様らは! 知らんぞ! 俺は!!」
忠実なる四天王が一人、“闘神”魔剣のバルバロム。魔族随一の剣の使い手だ。燃え盛る炎の様な赤い髪と血のように怪しく輝く瞳。フォルテナとは因縁浅からぬ仲で、最後は剣技による一対一の死闘の末、敗北した。魔族でありながら姑息な手段を良しとせず、常に正面から戦いを挑む男……だったはずだが。
「不意打ちとはどうした心境の変化だ。バルバロム」
「何者だ! 俺の名を知っているお前らは!」
「俺だ、ミルドだ!」
「ヘルヘレナです!」
バルバロムは剣を俺の腕に押し込んだまま、何かを思い出すようにしばし沈黙した。
「あの、いくら防御魔法で防いだとはいえ、剣がグイグイ来てるんだが? 顔に迫ってきてるんだが? 考え事なら一回武器置いてからにしない? あの、ちょっと、ねぇっ!」
「ミルド様のこと忘れたんか!? バルバロム!!」
バルバロムは俺の顔をじっくり見つめ、そして何かに納得したように剣に込める力を緩めた。そして、その巨大な剣を背中に納めると突然回れ右をして俺達が入ってきた扉から出て行った。
「な、なんだったんだ……?」
「さあ……?」
俺達の困惑をよそに勢いよく扉が開く。
「大魔王ミルド様!! ご無事か!?」
「は?」
「おお!!! ミルド様!!! 俺はてっきり……、あの勇者一行に……」
「なんやて?」
ますます混乱する俺達。
「俺だ! 不肖、バルバロム! 曲折を経て蘇った!!」
「ちょっと待て。お前、まさかそれで乗り切る気じゃないだろうな?」
「何の事だか! 分かりかねる!」
「あんた……、さっき斬りかかった事……」
「いや待て! 本当にお前は! 誰だ!」
俺達は、事態の収拾を着ける為にいったん斬りかかってきた事は忘れて、臨時幹部会議を開くのであった。
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