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第6話 魔王様、満腹です!

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「ところで、蘇った場所はどこだった?」

 俺は思い切ってヘルヘレナに尋ねてみた。生き返った場所から何らかの傾向がつかめるかもしれん。それに、他にも同じような境遇がいるかもしれない。かつて四天王と呼ばれたあいつらなら、可能性は高い。

「普通に墓場でしたわ。土の中からそれはもうもっさりと。てっきりアンデッド族として再生してしまったかと思い、悲嘆に暮れておりましたが、どうも体が腐っている様子は無いし、何ならむしろかつての瑞々しい体を取り戻したかのように体は軽く、それでいて魔力はかつての蛇神だった頃と大差なく。夢でも見ているのかと」

「なるほど、俺もだ。お前たちを従えていたころは肉体の衰えは激しかったものの、知識量、魔力量では最高の値だった。それが、どうだ。今や若き肉体にそれと遜色ない魔力が宿っている」

 なるほど、状況はよく似ているようだ。しかし、四天王たちは俺の目の前で倒されている。当然そのあと俺も襲われたので、墓など作って弔う暇はなかったはずだ。

「墓……。それはお前たちのモノか?」
「いえ、我々幹部の間で作っていた共同墓地のようなものです。勇者一行に葬られた者たちを祀っておりました。とはいえ、我々の肉体は滅びると魔素に還るので遺体を回収できたものはおりませんが」

 そうか。そういえばそうだった。俺も滅びる時は粉々に砕け散ったはずだ。どおりで城に死体が無いはずだ。

「お前の周りに棺のようなものはあったか?」
「ええ、それと土を腐食させてどうにか脱出しましたが」

 いよいよ本格的に謎は深まるばかりだ。もしかするとその共同墓地とやらから他の者も蘇ってくるのか? ニホンでの生活を経て? だとすると三人寄ればなんとやらではないが、ニホンの暮らしの再現が非常に楽になる。いや、もうこのエンドヴァルドをニホンと呼んで暮らすことすら夢ではない。

 ……いや、なんでニホン限定なんだ。アメリア合衆国にも最先端の技術はある。チキュウの人間ならほとんどの国の者は大歓迎だ。チキュウでは言語が障壁になっていたがそれこそこちらの世界では言語理解は原初の魔法の一つで、今ではほとんど魔力消費すらせずにどこの国の者だろうと会話できる。

「うむ。何が起こっているのかさっぱりわからんが、同志がいることは心強いこと極まりない。これからこの世界を生きていくにあたり、最大限協力していこうではないか!」
「もちろんでございます! ああ、また以前のようにミルド様にお仕えできるなんて光栄の至り……!」

 これは力強い仲間を得たぞ。まぁ、ストーキングに関しては黙っておこう。勇者一味に対してまだ恨みの感情があるかもしれんしな。

「そういえば、ニホンではどのような暮らしを? そもそも共通認識のつもりでいたが俺達のニホンは確かに同じニホンなのか?」
「そうですね。その辺は気になっておりました。まず、私が生まれたのはショウワで天寿を全うしたのはレイワでした」
「なんと! それではほとんど同じ時代を生きているではないか! どこ住みよ!? 俺はトウキョウに暮らしていたが生まれはサイタマだ」
「あ、私は……その……実はキョウト生まれでして……」
「何!? ということは本当はカンサイ弁なのか!?」
「そうですね。意識せんかったらカンサイ弁になってしまいますね」

 おお! 方言女子! エルフの外見にカンサイ弁を搭載するとは中々思い切った采配! この状況を作り出した者、なかなかの策士ではないか。

「いやぁ、カンサイ弁もえぇですけど、なかなか敬語では使われへんのです」
「ハハハ、もうすっかりカンサイ人に見えてきたぞ! なるほど、西京焼きや味噌汁が旨いわけだ!」
「漬物も漬けたいんですけど、もうちょっと試行錯誤せんとあかんみたいです。こっちにはお米もありませんからね」

 いやぁ、ともあれお茶漬けの夢は意外と早く叶いそうだ。

「うむ、情報の引き出しについては俺の方でも研究してみよう。クックポッドにつながることができたら食材さえあればどんな料理も思うがままよ!」
「この世界に蘇った時はどうしようかと思いましたが、ミルド様と再び相まみえることが出来て、私は幸せ者です……」

 何これ! 第三の人生最高かよ! ちょっと上手くいきすぎてない!? ラノベの読みすぎじゃない!?

「ヘルヘレナ。お前は再度魔族として人間界に進攻したいという気持ちはあるか?」
「ミルド様……。お叱りを受けることを承知で申し上げます。ニホンでの暮らしを経て、私にはもう……、人間を敵と思うことは出来ません……。叶うなら、ただのハーフエルフ、エレナとして生きとうございます」
「ヘルヘレナよ。いや、エレナ。安心しろ。俺もだ。俺ももうこの肉体とは裏腹に人間を憎むことは出来ん。よくぞ言ってくれた。これで俺達は同じ志を持ってこの世界を生きていくことが出来る」

 だがしかし、懸念はある。疑問もある。何よりこの城はこのままでは危険にさらされる。ここは一度場所を移した方が良さそうだな。

「エレナ。勇者が魔王を倒した今、この城及びエンドヴァルドには多数の兵が派遣されてくるだろう。統率を失った魔族、魔獣、魔物を狩るために」
「そう……、そうですね。生き残った魔族に見つかるのも厄介です。どこかでそれらを凌ぐことができれば……」
「フフフ、案ずるなエレナよ。実は私が蘇った墓の下に我が城Ver.2を建設中だ」

 エレナの目はこれまで以上に輝きを帯びている。

「ミルド様! なんと聡明で抜かりなく利発なお方!」
「来るか?」
「お断りする理由が何一つ見当たりません!」

 見方によっては安いナンパのようにも見えるがまあいいだろう。

「では、ヘルヘレナ改めエレナよ。久しぶりのニホン食、真に美味であった。ご馳走様!」
「お粗末様でした」

 こうして、仲間を得た俺は我が城Ver.2に帰還するのだが、その前に今のうちにどうしても確かめなければいけないことが二つほどあった。
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