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第1話 魔王様、生まれ変わります!
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思えばある意味、すでに満ち足りた人生だったのかもしれない。人間族を蹂躙し、数多の魔族を従え、この世界を征服するまであと一歩、そう、本当にあと一歩のところまで迫っていたのだから。
――あの、勇者を名乗るパーティーが現れるまでは。
たった一組のパーティーだったが、どうしてもその進攻を止めることが出来なかった。小さな農村に生まれたというその女が、成長するまで、成長してから。ワシの野望が果たされるやもという瞬間は確かに存在した。しかし、神の采配ともいうべき偶然が幾度となく重なり、奴を守った。
そして、今。奴の剣は、魔法は、ワシの体を討ち滅ぼし、ついにはこの世界をワシから奪い去ることに成功したのだ。
崩れゆく自分の肉体。屈強で鳴らした自慢のこの肉体も持って後数秒というところだろう。だが、ワシは理解している。今回は確かにワシの負けだ。だが、この世から負の感情、闇のエネルギーが消えない限り、ワシのような存在はまたいつか復活するだろう。そしてまたその時代、その時代の勇者と呼ばれる存在と戦いを繰り広げる。そんな確かな予感。だからこそ、ワシは勇者にこう告げた。
「フハハハハ!! 見事だ勇者よ!! だが、これで終わったと思うな!! この世に光ある限りまた必ずそこに闇も生まれるのだ!! ワシが倒れてもまだ必ず第二、第三の魔王が現れ、貴様やこの世界を恐怖の底に陥れるだろう!! それまで束の間の平和を貪るがいい!! さら……ばだ…………!! グハッ…………!」
うむ、我ながら気の利いたセリフが出てきたものだ。ワシの物語を締めくくるに相応しい台詞よ。
こうして、ワシは魔王としての人生を終えた。
☆☆☆
「英雄、優子、いままで有難う」
「お父さん!」
「後、三か月頑張ればひ孫の顔も見れたかもなぁ……」
「お爺ちゃん!」
「希美、もうすぐそっち行くからな」
体中につながれた管、心電図の音、集う親族。ワシは、自分の二度目の死を冷静に見つめていた。思えば満ち足りた人生だった。22歳で生涯を共にする伴侶を得て、25歳で子宝に恵まれ、55歳でついにおじいちゃんと呼ばれるに至った。90歳を迎えてついにワシにも寿命がやってきた。心残りはもうすぐ生まれるひ孫の顔を見られなかった事。
初めは人族に転生したというだけで驚いたし、魔法も使えない有様にひどく打ちひしがれたものだが、このニホンという国は最高だ。確かに、この国にも負の感情は渦巻いているし、理不尽な死も訪れる。だが、それでも暮らしてみれば、あの荒廃した世界より全然素敵だ。まぁ、荒廃させてたのワシなんですけど!
この世界の人間共は――あ、いや、説明用に敢えて人間共とか言うけど――技術の進展速度が異常だ。元の世界で魔法と呼ばれていた技術に近しいことはほとんど代用品で事足りる。なので魔法が使えないからと言って特に不自由することは無かったがそれでも、この世界では魔法や異世界の存在は憧れの的らしく、よくゲームや小説で題材にされていた。そんな思ってるほどいいもんじゃないぞと教えてやりたい。
「みんなに囲まれて逝けるなんてワシは幸せもんだ」
徐々に弱まりゆく心音。死闘の果てではなく、こんなに安らかに死を迎えられるとは。大魔王と呼ばれたワシには過ぎた終わりだ。前世ではあんなに疎ましく思えた脆弱な人間の体も90年苦楽を共にしたら随分馴染んだものだ。前の体は200年一緒だったが。
さあ、旅立とう。願わくばまたこのニホンに生まれ変わりたいものだ。
☆☆☆
「なあ、フォルテナ。予備の剣を貸してくれないか」
「構わないが、一体何に使うんだ?」
「墓標……かな」
「墓標……?」
「ああ、ミルドは紛れもなく強敵だった。人間を憎んではいたが、その感情が生まれる経緯に一定の理解が無いでもない。その強敵、大魔王ミルドに敬意を表して」
「だったらなぜ、予備の剣を?」
「いや、ドルチェ。このエクスカリバーはさすがに持ち帰って国宝にしないと」
「ああ……はい……」
えーと、この声は?
「では、この名刀ドラゴンキラーを」
「ああ、丁度良いぐらいの名刀だ」
丁度いいってそれお前ラストダンジョン(我が城)ちょい前で普通に売ってる剣だよね?
「さらばだ、ミルド。肉体はここに無くとも貴様との激戦の証はここに置いていこう」
あの、なぜか肉体あるんですけど。てゆーかそのドランゴンキラー、一ミリも俺の体に触れてないよね。
「さぁ、フォルテナ、ドルチェ、リベラ。帰ろう、私たちの国へ」
「おう!」
「はい」
「うん!」
えー……、これって90年前に俺が倒された直後って事?
勇者たちの足音が去っていく。俺の肉体はどうやら勇者アリアによって建てられた墓標とやらの真下にあるらしい。らしいというのは、空間が極めて限定的で体を動かすのに十分なスペースが無く、音や触感を頼りにするしかないからだ。
うむ。これは、あれだ。
ニホンの暮らしを基準に考えると異世界転生、というやつになるのだろう。なるのか?
俺は90年前の記憶を必死に手繰り寄せる。
えーと……、確か……、闇は滅びない的な捨て台詞を吐いて……。うわ。当時は気の利いたセリフだと思ったけど、今にして思えばテンプレ過ぎて恥ずかしくなってきちゃう。THE 大魔王じゃん。
そして……、今に至る……、と。
何が今に至るだよ! 勇者たちの様子からして一日と経ってないじゃん! もしかしてこれ、この世に蔓延する負の感情の賜物!? だとしたらこの世界やばくない!? さっき大魔王死んだとこだよ!? えっ、この世界の闇エネルギー、溜まりすぎ!?
その死んだはずの大魔王なんですけど、肉体的には全盛期っぽいんですけど! 肉体が瑞々しすぎて一人称や話し方まで若返ってますけど! ニホンで安らかな死を迎えた後にくる世界がここってどういうこと!? しかも百年や二百年後じゃなくて俺を倒した勇者様現役バリバリの世界ってDOUIUKOTO!?
ひとしきりツッコミ終わった後で、急に虚しくなりいったん冷静になる。
ここは俺が死んだ直後の世界で、俺の肉体は最高の仕上がり。今ならボクシングだろうがプロレスだろうが総合格闘技だろうとも世界を狙える。決定的に足りないのは、あの当時の野心と邪心。世界を狙える肉体になろうとも世界を征服しようなんて気持ちはもうこれっぽっちもない。
どちらかというと気になるのはむしろ勇者パーティー。
ニホンでの暮らしを経たせいか、人間が恋しくて恋しくてたまらない。はっきり思い出せないが、勇者パーティーは人間の感覚からいうとかなりの美人揃いだったはずだ。奴らの手に掛かって倒れたのなら今の俺なら本望だ。蘇った今はむしろ是非ともお付き合いしたい所存。
よし、決めた。いくら全盛期の肉体とはいえ、今地上に這い出してもこんな心構えじゃエクスカリバーの錆になるのがオチだし、ここは一旦(物理的に)地下に潜って色々出番を探ろう。人間たちにはしばらく平和な世界を楽しんでもらって俺は俺で色々楽しむとしよう。
墓の下から始まる第三の(いや元の世界に戻ってきてるから第一か?)人生を!
――あの、勇者を名乗るパーティーが現れるまでは。
たった一組のパーティーだったが、どうしてもその進攻を止めることが出来なかった。小さな農村に生まれたというその女が、成長するまで、成長してから。ワシの野望が果たされるやもという瞬間は確かに存在した。しかし、神の采配ともいうべき偶然が幾度となく重なり、奴を守った。
そして、今。奴の剣は、魔法は、ワシの体を討ち滅ぼし、ついにはこの世界をワシから奪い去ることに成功したのだ。
崩れゆく自分の肉体。屈強で鳴らした自慢のこの肉体も持って後数秒というところだろう。だが、ワシは理解している。今回は確かにワシの負けだ。だが、この世から負の感情、闇のエネルギーが消えない限り、ワシのような存在はまたいつか復活するだろう。そしてまたその時代、その時代の勇者と呼ばれる存在と戦いを繰り広げる。そんな確かな予感。だからこそ、ワシは勇者にこう告げた。
「フハハハハ!! 見事だ勇者よ!! だが、これで終わったと思うな!! この世に光ある限りまた必ずそこに闇も生まれるのだ!! ワシが倒れてもまだ必ず第二、第三の魔王が現れ、貴様やこの世界を恐怖の底に陥れるだろう!! それまで束の間の平和を貪るがいい!! さら……ばだ…………!! グハッ…………!」
うむ、我ながら気の利いたセリフが出てきたものだ。ワシの物語を締めくくるに相応しい台詞よ。
こうして、ワシは魔王としての人生を終えた。
☆☆☆
「英雄、優子、いままで有難う」
「お父さん!」
「後、三か月頑張ればひ孫の顔も見れたかもなぁ……」
「お爺ちゃん!」
「希美、もうすぐそっち行くからな」
体中につながれた管、心電図の音、集う親族。ワシは、自分の二度目の死を冷静に見つめていた。思えば満ち足りた人生だった。22歳で生涯を共にする伴侶を得て、25歳で子宝に恵まれ、55歳でついにおじいちゃんと呼ばれるに至った。90歳を迎えてついにワシにも寿命がやってきた。心残りはもうすぐ生まれるひ孫の顔を見られなかった事。
初めは人族に転生したというだけで驚いたし、魔法も使えない有様にひどく打ちひしがれたものだが、このニホンという国は最高だ。確かに、この国にも負の感情は渦巻いているし、理不尽な死も訪れる。だが、それでも暮らしてみれば、あの荒廃した世界より全然素敵だ。まぁ、荒廃させてたのワシなんですけど!
この世界の人間共は――あ、いや、説明用に敢えて人間共とか言うけど――技術の進展速度が異常だ。元の世界で魔法と呼ばれていた技術に近しいことはほとんど代用品で事足りる。なので魔法が使えないからと言って特に不自由することは無かったがそれでも、この世界では魔法や異世界の存在は憧れの的らしく、よくゲームや小説で題材にされていた。そんな思ってるほどいいもんじゃないぞと教えてやりたい。
「みんなに囲まれて逝けるなんてワシは幸せもんだ」
徐々に弱まりゆく心音。死闘の果てではなく、こんなに安らかに死を迎えられるとは。大魔王と呼ばれたワシには過ぎた終わりだ。前世ではあんなに疎ましく思えた脆弱な人間の体も90年苦楽を共にしたら随分馴染んだものだ。前の体は200年一緒だったが。
さあ、旅立とう。願わくばまたこのニホンに生まれ変わりたいものだ。
☆☆☆
「なあ、フォルテナ。予備の剣を貸してくれないか」
「構わないが、一体何に使うんだ?」
「墓標……かな」
「墓標……?」
「ああ、ミルドは紛れもなく強敵だった。人間を憎んではいたが、その感情が生まれる経緯に一定の理解が無いでもない。その強敵、大魔王ミルドに敬意を表して」
「だったらなぜ、予備の剣を?」
「いや、ドルチェ。このエクスカリバーはさすがに持ち帰って国宝にしないと」
「ああ……はい……」
えーと、この声は?
「では、この名刀ドラゴンキラーを」
「ああ、丁度良いぐらいの名刀だ」
丁度いいってそれお前ラストダンジョン(我が城)ちょい前で普通に売ってる剣だよね?
「さらばだ、ミルド。肉体はここに無くとも貴様との激戦の証はここに置いていこう」
あの、なぜか肉体あるんですけど。てゆーかそのドランゴンキラー、一ミリも俺の体に触れてないよね。
「さぁ、フォルテナ、ドルチェ、リベラ。帰ろう、私たちの国へ」
「おう!」
「はい」
「うん!」
えー……、これって90年前に俺が倒された直後って事?
勇者たちの足音が去っていく。俺の肉体はどうやら勇者アリアによって建てられた墓標とやらの真下にあるらしい。らしいというのは、空間が極めて限定的で体を動かすのに十分なスペースが無く、音や触感を頼りにするしかないからだ。
うむ。これは、あれだ。
ニホンの暮らしを基準に考えると異世界転生、というやつになるのだろう。なるのか?
俺は90年前の記憶を必死に手繰り寄せる。
えーと……、確か……、闇は滅びない的な捨て台詞を吐いて……。うわ。当時は気の利いたセリフだと思ったけど、今にして思えばテンプレ過ぎて恥ずかしくなってきちゃう。THE 大魔王じゃん。
そして……、今に至る……、と。
何が今に至るだよ! 勇者たちの様子からして一日と経ってないじゃん! もしかしてこれ、この世に蔓延する負の感情の賜物!? だとしたらこの世界やばくない!? さっき大魔王死んだとこだよ!? えっ、この世界の闇エネルギー、溜まりすぎ!?
その死んだはずの大魔王なんですけど、肉体的には全盛期っぽいんですけど! 肉体が瑞々しすぎて一人称や話し方まで若返ってますけど! ニホンで安らかな死を迎えた後にくる世界がここってどういうこと!? しかも百年や二百年後じゃなくて俺を倒した勇者様現役バリバリの世界ってDOUIUKOTO!?
ひとしきりツッコミ終わった後で、急に虚しくなりいったん冷静になる。
ここは俺が死んだ直後の世界で、俺の肉体は最高の仕上がり。今ならボクシングだろうがプロレスだろうが総合格闘技だろうとも世界を狙える。決定的に足りないのは、あの当時の野心と邪心。世界を狙える肉体になろうとも世界を征服しようなんて気持ちはもうこれっぽっちもない。
どちらかというと気になるのはむしろ勇者パーティー。
ニホンでの暮らしを経たせいか、人間が恋しくて恋しくてたまらない。はっきり思い出せないが、勇者パーティーは人間の感覚からいうとかなりの美人揃いだったはずだ。奴らの手に掛かって倒れたのなら今の俺なら本望だ。蘇った今はむしろ是非ともお付き合いしたい所存。
よし、決めた。いくら全盛期の肉体とはいえ、今地上に這い出してもこんな心構えじゃエクスカリバーの錆になるのがオチだし、ここは一旦(物理的に)地下に潜って色々出番を探ろう。人間たちにはしばらく平和な世界を楽しんでもらって俺は俺で色々楽しむとしよう。
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