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王女という名の暴君
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猫クッキーの投稿をした翌朝、レオノーラは一歳年上の従妹、シータ王女に呼び出されていた。
「よく来てくれたわね、エレナ」
朝から学園内に設けられた王族専用ルームの無駄に豪華なソファにゆったりと身体を預ける従妹姫に内心で辟易しながらも、それをおくびにも出さず、完璧な微笑みを浮かべ勧められるままに腰を下ろす。
「おはようございます、殿下。それでどういった御用でしょうか」
「やあね。非公式プライベートなんだからシータ呼び捨てでいいわよ」
「いえ、そういう訳にもいきません。殿下はいずれサイ国の王妃となられるお方ですから」
シータ王女は学園卒業後、ムツコロウ王国の西に位置するサイ国の王太子に輿入れすることが決まっている。
実の所、レオノーラは年の近いこの従妹が昔から苦手だった。人の注目を集めることを好み、派手好きで、我が儘で、他人を顎で使い王女の地位を使うことを躊躇わない彼女とは単純に性格が合わないと感じている。
そのくせ見た目が妙に儚い系の美女ときたものだから、レオノーラに言わせればとんだ見た目詐欺なのだ!
だから内心では、そのシータ王女を自身の外遊中に見初め、熱烈な縁談を申し込んできたと噂のサイ国の王太子とも気が合わないだろうなぁ、と思っているし、その二人がいずれ国を背負うというのなら、サイ国の未来はそう明るくないかもなぁ、とも思っている。
だからといって、いずれ他国の王妃になるシータ王女を蔑ろにする訳にはいかない。
シータ王女は如何にも親しげにレオノーラをエレナと愛称呼びしてくるが、それに騙されてこちらが名前を呼び捨てにしようものなら、どんなケチをつけられるか分かったものではないのだ。
「エレナを呼んだのは、ちょっと頼みたいことがあるからなのよ」
「……ちょっと頼みたいこと、ですか?」
そうそう。軽い調子で頷きながら、クッキーを齧るシータ王女の姿は如何にも優雅だ。
(きたわね……。シータの野郎の『ちょっと』は全然ちょっとじゃないのよ!今度は一体何をさせよう、っていうの?)
しかし既に内心ではとっくに尊称をつけるのを止めているどころか野郎呼びのレオノーラである。
「ラメールから大使と一緒に皇子がやってきているのは知っているかしら?」
「ええ、確か一昨日の昼にご到着されたと父から聞いております。皇子殿下は私たちと同年代だとか」
レオノーラの父は現国王のシータの父とは異母兄弟で、クロス公爵家に婿入りする前は第七王子だった。王子時代から騎士団長を始めとする脳筋連中に可愛がられていた父は、そこそこの剣の腕と王子時代に鍛えた実務処理能力を買われ、現在は騎士団で参謀を勤めている。
ラメールからの賓客を迎えるにあたり多忙を極めていた父から、大使にくっついて皇子がひとりやってきたことを聞かされたのは一昨日の夕食時だ。
事前に何の打診もない皇子の訪問は完全に予定外の出来事で、急遽客室の準備や警備計画も総て見直しする羽目になり、現場は大混乱だったという。相手は大国とはいえ、随分勝手なことをする、と珍しく父が愚痴っていた。
「そうなのよ~。私と同じ十七歳だから、エレナのひとつ年上ね。その皇子が、どうやら滞在を伸ばして暫く学園に通ってみたいとか言ってるみたいなのよねぇ。王国で魔法学を学びたいとか言ってるみたいだけど、はっきり言って大迷惑よ。土地が広いだけの新興国の皇子風情が。どうせロクに魔力も無いくせに」
「それは、また……」
シータの言葉は紛れもない暴言だ。だが幸い此処は学園の中でも特に警備の厳しい王族専用ルーム。万が一にもラメール側に漏れることは無いと言い切れるものの、極力平和に生きていきたいレオノーラは曖昧な表情を浮かべるに留めた。
しかし、事前連絡も無く訪問しておいて、謝罪するでも無くそのような我が儘を言うとは……。
レオノーラの父が思わず愚痴を言いたくなる気持ちもわかる。
「陛下はお認めになったのですか?」
「まさか。ラメールとは今後も友好関係を築いていくつもりでも、流石に其処までの無礼は許されないでしょ」
その判断は当然だ。現状、ラメールは大陸で最も勢いのある大国ではあるものの、未だ建国百年に満たない新興国で、歴史という点では圧倒的に他国より劣る。我が国を含めた周辺国からは独立国という形態を維持できなくなった小国の寄せ集めと認識されているため、土地が広いだけ、というシータ王女の言い分も分からなくはない。
それにしても、王族を始めとする、所謂高貴な血の流れる人々のあからさまに見下した様子はどうかと個人的には思うが……。
「でね、妥協案として三日間だけ視察の名目で学園の生徒として授業を見学することになったの」
うわ。思わず声を出さなかった自分を褒めてやりたい。
レオノーラの五感が逃げろ、と全力で告げている。
しかし現実は無常なり。従姉妹とはいえ、自国の王女を前に一方的に逃亡することは叶わない。
「当然案内役が必要じゃない?この学園で今一番身分が高いのは私でしょ。お父様からはこれも公務だと思って世話してやりなさい、って頼まれてしまったの。でもぉ~……私にはレオン様がいるでしょ?サイ国の未来の王妃である私が、たかだか三日とはいえ、他国の皇子と行動を取って、万が一にも変な噂がたったりすると困るじゃない?」
「畏れながら、王族の噂話を軽々しく口にする不敬な輩はいくら学生とはいえ、この学園にいないと思いますが……」
「でもいないとは言い切れないでしょ?不安なの。レオン様に誤解されたらと考えるだけで」
眉を僅かに寄せ小首を傾げるシータ王女は可憐で、何も知らなければ――特に男性なら――すべてを肯定し、彼女の望むことを叶えてあげたくなる姿だ。……が、生憎彼女が一ミリも不安など感じていないであろうことは、付き合いの長いレオノーラにはよく分かっている。
そして、この後シータ王女が口にするのは、間違いなく自分にとって良い事ではない予感、否、確信がひしひしと……。
「だから手伝って欲しいのよ、エレナにも」
(ほら、来たー!)
「私には到底及ばないけど、貴方も一応公爵家の令嬢だし、色々と手伝って欲しいわ。たった一人の王女って忙しいのよ?もうやることが山積みなんだから!」
(わかります。そうしていつの間にか手伝いでしかない筈の私にすべて押し付ける気なのですね――。)
シータ王女の発言に、レオノーラは思わず遠い目をした。
レオノーラには見える。
何だかんだと理由を付け、ラメール皇子に関する面倒事はすべてレオノーラへ。失敗や不都合があればレオノーラのせい、逆に功績となればそれがすべてシータ王女のものとなる未来が。
「それにエレナは私と違って婚約者がいないから、ちょうどいいでしょ?」
マウントである。これは明らかなマウントである。思わず拳で解決したくなる。些か脳筋気味の父親を持つレオノーラもまた、意外と脳筋気味なのである。
唸る右手を抑え、なんとか淑女の微笑を維持出来た自分を褒めたい。
そもそも、十六歳になるレオノーラに未だ婚約者がいないのは王家の意向によるものだ。
現国王には五人の子供がいるが、未婚の王女はシータただ一人。
おまけに兄四人とは少しばかり年の離れた末っ子ときたら、それはもう旗からみても目に入れても痛くない程の可愛がりぶりだ。
本来であれば王女として政略の駒のひとつとして使われるのが常だが、シータ王女を溺愛する国王はそれを良しとしなかった。曰く、シータ王女には自由にさせてあげたい、と。
結果として、サイ国の王太子に嫁ぐことで国に利益をもたらすであろう婚姻を結ぶことになったシータ王女だが、それとて求婚してきたレオンハルト王太子殿下をシータ王女が拒絶すれば、国として受け入れないつもりであったと聞く。
王家にただひとりの王女は政略の駒にしたくない。
しかし、いざという時のために政略に仕える駒も確保しておきたい。
――そんな訳で、そんな王女への溺愛のとばっちりを盛大に受けたのが従妹であるレオノーラである。
直系のシータ王女より薄いとはいえ、王族の血が流れており、この国では王女に次ぎ身分の高いレオノーラはそのいざという時のための駒とされているのである。
レオノーラと顔を合わせる時は、気のいい伯父なのだが……所詮、年の離れた異母弟の子。どちらを優先すべきかなど、比べるまでもない。
だから、何もレオノーラに問題があるとか、残念なくらいにモテないから婚約者がいないのではない。
全くもっていい迷惑である。
それだけではなく、シータ王女には歳が近いのを良いことにこれまで様々な厄介事を押し付けられ、その度に尻拭いに奔走してきた。
特にレオノーラが学園に入学してからというものその傾向は顕著になる一方で、外部の人の目に触れにくい学園内では度々シータ王女の仕事を押し付けられてきた。
おまけにその功績は総てシータ王女のものにされてしまうのだからレオノーラとしては堪らない。
勿論王族であるシータ王女は決して一人きりにはならないので、彼女付きの護衛や侍女は実状を理解しているが、見てみぬふりだ。学園の生徒たちの中には、シータ王女の猫被りを見抜いていて同情的な視線を向けてくる生徒もいるが、シータの悋気を買う可能性を考えれば、レオノーラに手を差し伸べる気になどならないのだろう。
それにどうも、シータ王女の父親である国王もそれを分かっていて認めているフシがある。
今回のことも、シータ王女が面倒な大部分をレオノーラに押し付けることを見越して世話役にシータ王女を指名したとしか思えない。国王に可愛がられてきたシータ王女は、兄王子四人が優秀なこともあり是迄殆ど公務らしい公務をしてきていない。
学園卒業後間を置かずサイ国に嫁ぐことにことが決定しているシータ王女の箔付、実績を作りたい思惑が透けて見える。
(はぁ。本当やめてほしいわ……。大体ロクに公務もしてないくせに、忙しい?やることが山積み?毎日のように商人を呼びつけて買い物しているだけなのに、どこが忙しいっていうのよ!)
などと、心で悪態をついてみても現状は変わらない。
なんとか迂遠な物言いで断ろうとしたレオノーラの努力も虚しく、結局、シータ王女と共にラメール皇子への世話役をすることになってしまったのである。
「よく来てくれたわね、エレナ」
朝から学園内に設けられた王族専用ルームの無駄に豪華なソファにゆったりと身体を預ける従妹姫に内心で辟易しながらも、それをおくびにも出さず、完璧な微笑みを浮かべ勧められるままに腰を下ろす。
「おはようございます、殿下。それでどういった御用でしょうか」
「やあね。非公式プライベートなんだからシータ呼び捨てでいいわよ」
「いえ、そういう訳にもいきません。殿下はいずれサイ国の王妃となられるお方ですから」
シータ王女は学園卒業後、ムツコロウ王国の西に位置するサイ国の王太子に輿入れすることが決まっている。
実の所、レオノーラは年の近いこの従妹が昔から苦手だった。人の注目を集めることを好み、派手好きで、我が儘で、他人を顎で使い王女の地位を使うことを躊躇わない彼女とは単純に性格が合わないと感じている。
そのくせ見た目が妙に儚い系の美女ときたものだから、レオノーラに言わせればとんだ見た目詐欺なのだ!
だから内心では、そのシータ王女を自身の外遊中に見初め、熱烈な縁談を申し込んできたと噂のサイ国の王太子とも気が合わないだろうなぁ、と思っているし、その二人がいずれ国を背負うというのなら、サイ国の未来はそう明るくないかもなぁ、とも思っている。
だからといって、いずれ他国の王妃になるシータ王女を蔑ろにする訳にはいかない。
シータ王女は如何にも親しげにレオノーラをエレナと愛称呼びしてくるが、それに騙されてこちらが名前を呼び捨てにしようものなら、どんなケチをつけられるか分かったものではないのだ。
「エレナを呼んだのは、ちょっと頼みたいことがあるからなのよ」
「……ちょっと頼みたいこと、ですか?」
そうそう。軽い調子で頷きながら、クッキーを齧るシータ王女の姿は如何にも優雅だ。
(きたわね……。シータの野郎の『ちょっと』は全然ちょっとじゃないのよ!今度は一体何をさせよう、っていうの?)
しかし既に内心ではとっくに尊称をつけるのを止めているどころか野郎呼びのレオノーラである。
「ラメールから大使と一緒に皇子がやってきているのは知っているかしら?」
「ええ、確か一昨日の昼にご到着されたと父から聞いております。皇子殿下は私たちと同年代だとか」
レオノーラの父は現国王のシータの父とは異母兄弟で、クロス公爵家に婿入りする前は第七王子だった。王子時代から騎士団長を始めとする脳筋連中に可愛がられていた父は、そこそこの剣の腕と王子時代に鍛えた実務処理能力を買われ、現在は騎士団で参謀を勤めている。
ラメールからの賓客を迎えるにあたり多忙を極めていた父から、大使にくっついて皇子がひとりやってきたことを聞かされたのは一昨日の夕食時だ。
事前に何の打診もない皇子の訪問は完全に予定外の出来事で、急遽客室の準備や警備計画も総て見直しする羽目になり、現場は大混乱だったという。相手は大国とはいえ、随分勝手なことをする、と珍しく父が愚痴っていた。
「そうなのよ~。私と同じ十七歳だから、エレナのひとつ年上ね。その皇子が、どうやら滞在を伸ばして暫く学園に通ってみたいとか言ってるみたいなのよねぇ。王国で魔法学を学びたいとか言ってるみたいだけど、はっきり言って大迷惑よ。土地が広いだけの新興国の皇子風情が。どうせロクに魔力も無いくせに」
「それは、また……」
シータの言葉は紛れもない暴言だ。だが幸い此処は学園の中でも特に警備の厳しい王族専用ルーム。万が一にもラメール側に漏れることは無いと言い切れるものの、極力平和に生きていきたいレオノーラは曖昧な表情を浮かべるに留めた。
しかし、事前連絡も無く訪問しておいて、謝罪するでも無くそのような我が儘を言うとは……。
レオノーラの父が思わず愚痴を言いたくなる気持ちもわかる。
「陛下はお認めになったのですか?」
「まさか。ラメールとは今後も友好関係を築いていくつもりでも、流石に其処までの無礼は許されないでしょ」
その判断は当然だ。現状、ラメールは大陸で最も勢いのある大国ではあるものの、未だ建国百年に満たない新興国で、歴史という点では圧倒的に他国より劣る。我が国を含めた周辺国からは独立国という形態を維持できなくなった小国の寄せ集めと認識されているため、土地が広いだけ、というシータ王女の言い分も分からなくはない。
それにしても、王族を始めとする、所謂高貴な血の流れる人々のあからさまに見下した様子はどうかと個人的には思うが……。
「でね、妥協案として三日間だけ視察の名目で学園の生徒として授業を見学することになったの」
うわ。思わず声を出さなかった自分を褒めてやりたい。
レオノーラの五感が逃げろ、と全力で告げている。
しかし現実は無常なり。従姉妹とはいえ、自国の王女を前に一方的に逃亡することは叶わない。
「当然案内役が必要じゃない?この学園で今一番身分が高いのは私でしょ。お父様からはこれも公務だと思って世話してやりなさい、って頼まれてしまったの。でもぉ~……私にはレオン様がいるでしょ?サイ国の未来の王妃である私が、たかだか三日とはいえ、他国の皇子と行動を取って、万が一にも変な噂がたったりすると困るじゃない?」
「畏れながら、王族の噂話を軽々しく口にする不敬な輩はいくら学生とはいえ、この学園にいないと思いますが……」
「でもいないとは言い切れないでしょ?不安なの。レオン様に誤解されたらと考えるだけで」
眉を僅かに寄せ小首を傾げるシータ王女は可憐で、何も知らなければ――特に男性なら――すべてを肯定し、彼女の望むことを叶えてあげたくなる姿だ。……が、生憎彼女が一ミリも不安など感じていないであろうことは、付き合いの長いレオノーラにはよく分かっている。
そして、この後シータ王女が口にするのは、間違いなく自分にとって良い事ではない予感、否、確信がひしひしと……。
「だから手伝って欲しいのよ、エレナにも」
(ほら、来たー!)
「私には到底及ばないけど、貴方も一応公爵家の令嬢だし、色々と手伝って欲しいわ。たった一人の王女って忙しいのよ?もうやることが山積みなんだから!」
(わかります。そうしていつの間にか手伝いでしかない筈の私にすべて押し付ける気なのですね――。)
シータ王女の発言に、レオノーラは思わず遠い目をした。
レオノーラには見える。
何だかんだと理由を付け、ラメール皇子に関する面倒事はすべてレオノーラへ。失敗や不都合があればレオノーラのせい、逆に功績となればそれがすべてシータ王女のものとなる未来が。
「それにエレナは私と違って婚約者がいないから、ちょうどいいでしょ?」
マウントである。これは明らかなマウントである。思わず拳で解決したくなる。些か脳筋気味の父親を持つレオノーラもまた、意外と脳筋気味なのである。
唸る右手を抑え、なんとか淑女の微笑を維持出来た自分を褒めたい。
そもそも、十六歳になるレオノーラに未だ婚約者がいないのは王家の意向によるものだ。
現国王には五人の子供がいるが、未婚の王女はシータただ一人。
おまけに兄四人とは少しばかり年の離れた末っ子ときたら、それはもう旗からみても目に入れても痛くない程の可愛がりぶりだ。
本来であれば王女として政略の駒のひとつとして使われるのが常だが、シータ王女を溺愛する国王はそれを良しとしなかった。曰く、シータ王女には自由にさせてあげたい、と。
結果として、サイ国の王太子に嫁ぐことで国に利益をもたらすであろう婚姻を結ぶことになったシータ王女だが、それとて求婚してきたレオンハルト王太子殿下をシータ王女が拒絶すれば、国として受け入れないつもりであったと聞く。
王家にただひとりの王女は政略の駒にしたくない。
しかし、いざという時のために政略に仕える駒も確保しておきたい。
――そんな訳で、そんな王女への溺愛のとばっちりを盛大に受けたのが従妹であるレオノーラである。
直系のシータ王女より薄いとはいえ、王族の血が流れており、この国では王女に次ぎ身分の高いレオノーラはそのいざという時のための駒とされているのである。
レオノーラと顔を合わせる時は、気のいい伯父なのだが……所詮、年の離れた異母弟の子。どちらを優先すべきかなど、比べるまでもない。
だから、何もレオノーラに問題があるとか、残念なくらいにモテないから婚約者がいないのではない。
全くもっていい迷惑である。
それだけではなく、シータ王女には歳が近いのを良いことにこれまで様々な厄介事を押し付けられ、その度に尻拭いに奔走してきた。
特にレオノーラが学園に入学してからというものその傾向は顕著になる一方で、外部の人の目に触れにくい学園内では度々シータ王女の仕事を押し付けられてきた。
おまけにその功績は総てシータ王女のものにされてしまうのだからレオノーラとしては堪らない。
勿論王族であるシータ王女は決して一人きりにはならないので、彼女付きの護衛や侍女は実状を理解しているが、見てみぬふりだ。学園の生徒たちの中には、シータ王女の猫被りを見抜いていて同情的な視線を向けてくる生徒もいるが、シータの悋気を買う可能性を考えれば、レオノーラに手を差し伸べる気になどならないのだろう。
それにどうも、シータ王女の父親である国王もそれを分かっていて認めているフシがある。
今回のことも、シータ王女が面倒な大部分をレオノーラに押し付けることを見越して世話役にシータ王女を指名したとしか思えない。国王に可愛がられてきたシータ王女は、兄王子四人が優秀なこともあり是迄殆ど公務らしい公務をしてきていない。
学園卒業後間を置かずサイ国に嫁ぐことにことが決定しているシータ王女の箔付、実績を作りたい思惑が透けて見える。
(はぁ。本当やめてほしいわ……。大体ロクに公務もしてないくせに、忙しい?やることが山積み?毎日のように商人を呼びつけて買い物しているだけなのに、どこが忙しいっていうのよ!)
などと、心で悪態をついてみても現状は変わらない。
なんとか迂遠な物言いで断ろうとしたレオノーラの努力も虚しく、結局、シータ王女と共にラメール皇子への世話役をすることになってしまったのである。
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