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18 (クリス視点 1)
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建物の中を、金髪の男の後へと付いて行く。
「あの男は、彼女に何を言ったんだ?」
ケイドファンと名乗った地霊族とこの男がこれ程怒るのだ。ろくなことではないと思うが知っておいた方がいいだろう。
そもそも私はこの街に地霊族がいることも、人間に仕事を与えていることも知らなかった。
私の風の力が殆どと言っていい程封じられているから、加護の強い地だとは思っていたがまさかこれ程まで近くに地霊族がいたとは思ってもいなかった。
地霊族は人間贔屓ではあるが、人間の前に姿を現すのは稀だと聞いていたからだ。
「あの、クリス……知らなくていいよ?」
そういう訳にはいかない。金髪の男に教えろとの意思を込めた視線を送る。
「メリットがなければコーディーなんて相手にしないそうだよ」
その言葉に思わず目を細める。
「ほぉう」
「僕から言わせてもらうなら何様?って感じだけどね」
顔は笑っているが、碧眼色の瞳は笑っていない。
「どうぞ、入って」
数ある中の一つの扉を開け、その中へと促す男。
コーディーと共に素直に中へ入ると男が内側から扉を閉め、鍵を掛ける音がする。
「邪魔されるのはごめんだからね。それと、自己紹介がまだだったよね。僕はルーフェンス。ルーフェンス=クオーツ。コーディーの父方の親戚〈おじ〉で、コーディーと同じく金です。金について質問があるなら後でコーディーに聞いてくれるかな?」
頷きこちらも名乗ろうとするが、手で待ったを掛けるルーフェンス。
「この部屋の会話は外部に洩れることはないけれど、ケイド様……先程の地霊族が作った部屋だから、彼にも聞こえてることをお忘れなく。といっても、この街の中でなら聞こうと思えば彼なら聞けるだろうけどね。元々この街全域が、ケイド様の懐〈ふところ〉みたいなものだから。
それと僕はここ、配達人の中でもトップなためか、そのケイド様に良いように扱われてるから、そこのところよろしく」
所謂〈いわゆる〉パシり?だよね。と笑顔で宣〈のたま〉うルーフェンス。
本人に聞こえているのを理解した上で言うのか、こいつは。とんだ食わせ者だな。ここまで豪胆な人間はそうはいないだろう。だからこそ、先程の地霊族に信頼されているのかも知れんが。
「クリス。クリス=アズラル。私は地上で人間に紛れて暮らす同族を訪ねに天空から降りて来た。とはいえ、人間に関わるのが嫌で猫の姿をしていたが、天空に帰る途中に魔物と思い込んだ人間にいきなり襲われ怪我を負い、動けなくなった所をコーディーに助けられた」
そういえばあの時、私は彼女〈コーディー〉に怪我を負わせた。
私が喋れると知った後も彼女はそれに触れず、ずっと謝罪する機会を逃していたが。
「コーディー、あの時は済まなかった」
「え?」
キョトンと首を傾げる彼女は、幼く見えるがその分とても愛らしい。
コーディーの左手を取り、手袋越しに引っ掻いた掌へと口付ける。
「ちょっ……クッ、クリス?!」
彼女の顔が朱に染まる。
少しは異性として意識してもらえているのだろうか?そうならどれ程喜ばしいことか。
人間なんて、誰であろうと信用できない。あの時はそう思っていたが。
「お前のこの手を傷付けたこと、私は深く後悔している」
「やっ、あの……僕だってクリスを叩いちゃったんだからおあいこだよ!ってかむしろ、酷い怪我してたクリスに手を上げて、僕の方こそごめんなさい!」
「お前が謝る必要はない。あれは私が悪かったのだから」
「あの男は、彼女に何を言ったんだ?」
ケイドファンと名乗った地霊族とこの男がこれ程怒るのだ。ろくなことではないと思うが知っておいた方がいいだろう。
そもそも私はこの街に地霊族がいることも、人間に仕事を与えていることも知らなかった。
私の風の力が殆どと言っていい程封じられているから、加護の強い地だとは思っていたがまさかこれ程まで近くに地霊族がいたとは思ってもいなかった。
地霊族は人間贔屓ではあるが、人間の前に姿を現すのは稀だと聞いていたからだ。
「あの、クリス……知らなくていいよ?」
そういう訳にはいかない。金髪の男に教えろとの意思を込めた視線を送る。
「メリットがなければコーディーなんて相手にしないそうだよ」
その言葉に思わず目を細める。
「ほぉう」
「僕から言わせてもらうなら何様?って感じだけどね」
顔は笑っているが、碧眼色の瞳は笑っていない。
「どうぞ、入って」
数ある中の一つの扉を開け、その中へと促す男。
コーディーと共に素直に中へ入ると男が内側から扉を閉め、鍵を掛ける音がする。
「邪魔されるのはごめんだからね。それと、自己紹介がまだだったよね。僕はルーフェンス。ルーフェンス=クオーツ。コーディーの父方の親戚〈おじ〉で、コーディーと同じく金です。金について質問があるなら後でコーディーに聞いてくれるかな?」
頷きこちらも名乗ろうとするが、手で待ったを掛けるルーフェンス。
「この部屋の会話は外部に洩れることはないけれど、ケイド様……先程の地霊族が作った部屋だから、彼にも聞こえてることをお忘れなく。といっても、この街の中でなら聞こうと思えば彼なら聞けるだろうけどね。元々この街全域が、ケイド様の懐〈ふところ〉みたいなものだから。
それと僕はここ、配達人の中でもトップなためか、そのケイド様に良いように扱われてるから、そこのところよろしく」
所謂〈いわゆる〉パシり?だよね。と笑顔で宣〈のたま〉うルーフェンス。
本人に聞こえているのを理解した上で言うのか、こいつは。とんだ食わせ者だな。ここまで豪胆な人間はそうはいないだろう。だからこそ、先程の地霊族に信頼されているのかも知れんが。
「クリス。クリス=アズラル。私は地上で人間に紛れて暮らす同族を訪ねに天空から降りて来た。とはいえ、人間に関わるのが嫌で猫の姿をしていたが、天空に帰る途中に魔物と思い込んだ人間にいきなり襲われ怪我を負い、動けなくなった所をコーディーに助けられた」
そういえばあの時、私は彼女〈コーディー〉に怪我を負わせた。
私が喋れると知った後も彼女はそれに触れず、ずっと謝罪する機会を逃していたが。
「コーディー、あの時は済まなかった」
「え?」
キョトンと首を傾げる彼女は、幼く見えるがその分とても愛らしい。
コーディーの左手を取り、手袋越しに引っ掻いた掌へと口付ける。
「ちょっ……クッ、クリス?!」
彼女の顔が朱に染まる。
少しは異性として意識してもらえているのだろうか?そうならどれ程喜ばしいことか。
人間なんて、誰であろうと信用できない。あの時はそう思っていたが。
「お前のこの手を傷付けたこと、私は深く後悔している」
「やっ、あの……僕だってクリスを叩いちゃったんだからおあいこだよ!ってかむしろ、酷い怪我してたクリスに手を上げて、僕の方こそごめんなさい!」
「お前が謝る必要はない。あれは私が悪かったのだから」
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