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後日談

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 ローレン邸に着き、応接間へと案内された侯爵は、冷たい眼差しを向けるローレン侯爵の横で、ルークスがにっこり愛想の良い笑顔で声を掛ける。


「お久し振りです、ミルド侯爵。こうしてお話するのは初めてですね。どうぞ、そちらにお座り下さい」

「ルークス殿?!何故こちらに……」


 ルークスの、いいから座れと笑顔による無言の圧力により、ミルド侯爵は示された席へと座る。


「何故も何も、ローレン侯爵は私の叔父ですし、私はミリアムを実の妹のように可愛がって居ますから、休みの日にはローレン邸にも度々足を運んで居ますよ。何故と言うなら、ミルド侯爵こそ、何故ローレン家をお訪ねに?確か、貴方の子息が公衆の面前で、ミリアムに暴言を吐いた上で、ミリアムに婚約破棄を言い渡した筈です。その所為でミリアムは周囲に蔑まれ、酷く心を痛めたと言うのに、未だに慰謝料を含む賠償金を支払わずに、元凶の親で有る貴方が婚約を継続したいと、図々しくも叔父に願い出ているようですね。それも、ミリアムに次の婚約者が現れる可能性は低いからと」


 ルークスは笑顔で居るが、当然その瞳に笑みは無く、殺気に近い怒気が宿っている。

 そんなルークスの威圧に当てられ、ミルド侯爵は土気色をした顔で震えて居るが、ルークスは更にドス黒い笑顔を深めて宣う。


「ですが、どうぞご安心下さい。貴方の息子より、とても相応しい者が、ミリアムの婚約者に立候補してくれましたから。身分は平民でも、クルルフォーン家とローズウッド家の二大公爵家、更には、代々国の中枢を担うエヴァンス家と、国の守護家で有るセイル家の二大侯爵家とも縁の有る逸材ですよ」

「……は?セイル、家?」


 この国の国民で、セイル家の名を知らない貴族は居ないだろう。


「クルルフォーン公爵のエドワルド様から聞いた話ですが、ミリアムの次の婚約者と私の婚約者は、エヴァンス領に滞在していたセイル家の先代先々代に、孫子のように可愛がられてるそうです。そんな者の想い人に横槍を入れていると知れば、すっ飛んで来るだろうと仰られていましたよ。私の婚約者は、私と同格以上と言える程に強いです。そんな女性を溺愛しているので有れば、強いからと婚約を破棄する者に同情するような事は無いでしょう。寧ろ、そのような者に対して、嫌悪感を抱くのでは?」


 ルークスの言葉でジワジワと、崖っぷちに追い込まれて行くような心境を体感するミルド侯爵。

 だが、ルークスの追い込みは容赦無く続く。


「その上ミリアムの次の婚約者と私の婚約者は、陛下夫妻とも面識が有り、恩人との認識だと直属の上司で有る陛下から直に聞き及んでいます。噂を耳にした陛下に、事の次第を質問されましたので、嘘偽り無く詳細をご報告する事になりました。陛下はミルド侯爵の出方に不快感を抱かれたようで、こんな誓約書を作成して下さいました。どうぞ、お目通しを」


 そこには、ミルド侯爵がローレン家に支払う婚約破棄の慰謝料や名誉毀損等を含む賠償金の金額や支払い命令に加え、ローレン侯爵家やミリアムへの接近禁止令と、その詳細を記した書類に、違反した場合の追加罰金額や、刑罰等が書かれて有る。

 当然国王で有るアレクシスの直筆署名も。

『尚、不服が有れば、直接申し立てよ。多忙な私の時間を割く程の正当性や、真面な議論が出来る内容で有れば、だが。それ以外の理由なら、更なる懲罰が加わる事を知れ』

 書面の最後、両当事者の署名欄の下に、アレクシスの手書きの忠告に、ミルド侯爵は、崖は崖でも、奈落の底へと続く崖だと思い知らされた。
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