747 / 805
後日談
15
しおりを挟む
ジーンの纏う空気に気圧されたヘンリーは、沈黙を貫く。
暫くすると、サロンの扉がノックされ、執事がヘンリーの母親を連れて入って来る。
ヘンリーの母親は実家が裕福な侯爵家の出で、男兄弟は居たが、蝶よ花よと育てられた一人娘な所為か、溺愛されて育った所為か、かなり我が儘で、何か有ると未だに実家の金と権力で解決させるような、お姫様気取りの令嬢気分が抜け切らない女性だった。
そして、貴族の力関係をきちんと把握している訳でも無い。
きっと、相手は高位貴族と言えど、まだ爵位を継いでないし、元侯爵令嬢と侯爵子息、伯爵と伯爵で立場は互角とでも思っているのだろう。
勿論ジーンは王宮の政務官の中でも高い役職に就いているし、いつでも家名を継ぐ事が出来る状態な上、家格も同じ侯爵家と言えど、片や国から独立出来る程の資金を持つ大金持ち、片や地方の裕福な大金持ち程度と、とんでもない差が有る為、勘違いも甚だしいのだが、知らないからこそ侮る事が出来るのだ。
「お初にお目に掛かりますわ、エヴァンス侯爵子息様。そして、お久し振りですわね、アシュリーさん」
高圧的な態度で話し掛けてくる前伯爵夫人。その態度はまるでお姫様で、今も伯爵夫人の地位に居座るかのような振る舞いだ。
そんな彼女に、ジーンは冷めた眼差しと言葉を向ける。
「さすがは教養の行き届かない辺境の地に住む夫人ですね。貴族の礼儀やマナーを忘れてしまうとは。ああ、それだと他の貴族女性全員が当て嵌まってしまうな。アーシュやヘンリー殿の奥方にそのような振る舞いは無かったのだから、これは個人の教養に依る物か。元から貴族の礼儀やマナーを身に付ける気が無い能無しなのだろう。ここで生まれ育ったアーシュには、王都でだろうと通用する、きちんとした礼儀やマナーが身に付いているのだから」
「なっ?!」
母親の鬼の形相に、ヘンリーが母親を諌めようと口を開くが、ジーンが威圧でヘンリーを黙らせ、嫌味な言葉を口にする。
「貴族女性なら、初対面の貴族の男を相手にする時は、喩え相手の貴族位が低かろうと、先に声を掛けてはならないと言うのが常識でしょう?私にしろネイルにしろ、貴女に声を掛けてはいないし、喋っても良いと許可を出した覚えも無い。それに、誰の許可を得て私の妻の名を呼んでいる?面識が有ろうとも、血縁でも無ければ親しくも無い、縁の切れた相手に、気安く私の妻の名を呼ばないで頂きたい」
ジーンの絶対零度の猛吹雪を浴び、夫人は思わずガタガタと震えたが、ジーンの、縁の切れたと言う言葉に、ここへ乗り込んで来た本来の目的を思い出す。
(相手は、まだ爵位を継いでない若造よ!お父様は面倒事を嫌ってか、この小娘には関わるなって言っていたけれど、お父様にとっては可愛い孫の事だし、どうせ最後には、仕方が無いとばかりにわたくしの味方をしてくれる筈だわ!!)
「そんな些細な事、今はどうでもいいわ!わたくしの用が有るのは貴方では無く、アシュリーさんよ!!無関係な貴方は引っ込んでいなさいな!アシュリーさん、あの子は騙されただけよ!あの子には何の罪も無いわ!元はと言えば、貴女のお家の方に問題が有るんじゃない!!だからあの子を返して!貴族に戻れるように掛け合いなさい!ウォール家の男共は、役に立ちそうも無いんだから、せめて貴女が助けなさいな!」
サロンの体感温度が、こちらで言う『真冬の北極圏』並みに下がったのは、言うまでもない。
暫くすると、サロンの扉がノックされ、執事がヘンリーの母親を連れて入って来る。
ヘンリーの母親は実家が裕福な侯爵家の出で、男兄弟は居たが、蝶よ花よと育てられた一人娘な所為か、溺愛されて育った所為か、かなり我が儘で、何か有ると未だに実家の金と権力で解決させるような、お姫様気取りの令嬢気分が抜け切らない女性だった。
そして、貴族の力関係をきちんと把握している訳でも無い。
きっと、相手は高位貴族と言えど、まだ爵位を継いでないし、元侯爵令嬢と侯爵子息、伯爵と伯爵で立場は互角とでも思っているのだろう。
勿論ジーンは王宮の政務官の中でも高い役職に就いているし、いつでも家名を継ぐ事が出来る状態な上、家格も同じ侯爵家と言えど、片や国から独立出来る程の資金を持つ大金持ち、片や地方の裕福な大金持ち程度と、とんでもない差が有る為、勘違いも甚だしいのだが、知らないからこそ侮る事が出来るのだ。
「お初にお目に掛かりますわ、エヴァンス侯爵子息様。そして、お久し振りですわね、アシュリーさん」
高圧的な態度で話し掛けてくる前伯爵夫人。その態度はまるでお姫様で、今も伯爵夫人の地位に居座るかのような振る舞いだ。
そんな彼女に、ジーンは冷めた眼差しと言葉を向ける。
「さすがは教養の行き届かない辺境の地に住む夫人ですね。貴族の礼儀やマナーを忘れてしまうとは。ああ、それだと他の貴族女性全員が当て嵌まってしまうな。アーシュやヘンリー殿の奥方にそのような振る舞いは無かったのだから、これは個人の教養に依る物か。元から貴族の礼儀やマナーを身に付ける気が無い能無しなのだろう。ここで生まれ育ったアーシュには、王都でだろうと通用する、きちんとした礼儀やマナーが身に付いているのだから」
「なっ?!」
母親の鬼の形相に、ヘンリーが母親を諌めようと口を開くが、ジーンが威圧でヘンリーを黙らせ、嫌味な言葉を口にする。
「貴族女性なら、初対面の貴族の男を相手にする時は、喩え相手の貴族位が低かろうと、先に声を掛けてはならないと言うのが常識でしょう?私にしろネイルにしろ、貴女に声を掛けてはいないし、喋っても良いと許可を出した覚えも無い。それに、誰の許可を得て私の妻の名を呼んでいる?面識が有ろうとも、血縁でも無ければ親しくも無い、縁の切れた相手に、気安く私の妻の名を呼ばないで頂きたい」
ジーンの絶対零度の猛吹雪を浴び、夫人は思わずガタガタと震えたが、ジーンの、縁の切れたと言う言葉に、ここへ乗り込んで来た本来の目的を思い出す。
(相手は、まだ爵位を継いでない若造よ!お父様は面倒事を嫌ってか、この小娘には関わるなって言っていたけれど、お父様にとっては可愛い孫の事だし、どうせ最後には、仕方が無いとばかりにわたくしの味方をしてくれる筈だわ!!)
「そんな些細な事、今はどうでもいいわ!わたくしの用が有るのは貴方では無く、アシュリーさんよ!!無関係な貴方は引っ込んでいなさいな!アシュリーさん、あの子は騙されただけよ!あの子には何の罪も無いわ!元はと言えば、貴女のお家の方に問題が有るんじゃない!!だからあの子を返して!貴族に戻れるように掛け合いなさい!ウォール家の男共は、役に立ちそうも無いんだから、せめて貴女が助けなさいな!」
サロンの体感温度が、こちらで言う『真冬の北極圏』並みに下がったのは、言うまでもない。
21
お気に入りに追加
9,275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる