746 / 805
後日談
14
しおりを挟む
ヘンリーは父親に、エヴァンス侯爵子息の嫁に嫁いだアシュリーが、こちらに来る事を教え、更には今日の会談に関しては、釘をさしていた。
「私達が謝罪をしに行くから、絶対に母上を来させないで下さいね。エヴァンス侯爵子息が面会を許可したのは、爵位を継いだ私達夫婦のみです。もし母上がエヴァンス侯爵子息夫人と会えば、マディソンの事を助けろだの何だのと言うに決まってます。これ以上家の恥を晒さないように、父上は母上を部屋に閉じ込めた上で、きちんと見張っていて下さい」
そんな事を言ってウォール邸を出たヘンリーの耳に『母親が来ている』と言われたら、普段あまり表情を出さない貴族でも、苦虫を噛み潰したような顔にもなるだろう。
「……何をやっているんだ?父上は……」
思わず父親に対して、恨み言を口にするのも仕方の無い事だ。
因みにそんな父親は今頃、閉じ込めていた筈の妻と、ウォール家所有の馬車が姿を消している事に漸く気付き、顔を青ざめさせていたりする。
「大変申し訳有りませんが、大至急ウォール邸に居る前当主に連絡を入れて、迎えに来させたいので、少々時間を頂けないでしょうか?勿論、母の理不尽な要求は、無視して下さって結構です。弟が罪人になった事がショックで病んだ憐れな病人なので、病人の戯言と聞き流して頂けると有り難いのですが」
ヘンリーは母親を咄嗟に精神異常の病人に仕立て上げたが、代々国の中枢を担う事でも有名な上位貴族に、田舎の領地経営に四苦八苦するような辺境の貴族が楯突こうとしてる時点で、頭がイカれているのではないかと疑われても仕方が無いだろう。
「ああ、それはさぞ大変でしょうね。連絡はこちらの方で……と言いたい所ですが、ここはネイルの邸だから、連絡はネイルに任せましょう。ただ、前伯爵夫人は私の妻に会わせろと押し掛けて来ているそうだから、騒がれたままでは迷惑になるし、話ぐらいは聞こうと思います。ネイル、夫人をこの部屋に連れてきてくれないか?」
「その方が良いだろうな。勿論夫人との話し合いには私も立ち会わせて貰う」
ネイルは対応待ちの執事に前ウォール伯爵夫人をここに連れて来るように言い、ジーンはアシュリーに声を掛ける。
「私が対応するから、アーシュは席を外していても構わないよ?」
「いいえ、わたくしもこちらに居ますわ。元はと言えばゴート家とウォール家の問題なのに、ジーン様に丸投げするのは間違っていますもの」
決意を秘めた瞳でジーンを見返すアシュリーに、ジーンは優しい笑みを浮かべる。
「私としては、丸投げされても構わないのだけどね。まぁ、何を言って来ようが、相手は病人なのだから、耳を貸さなくても良いよ。アーシュは被害者だし、悪いのはあんな息子に育てた親にも責任が有るから。謝罪に来ただけなら赦せるけど、そうでは無いのなら、早目にお帰り頂こう」
ジーンの笑顔での有無を言わせぬ威圧に、ヘンリーは格の違いを見せ付けられたような気になった。
「私達が謝罪をしに行くから、絶対に母上を来させないで下さいね。エヴァンス侯爵子息が面会を許可したのは、爵位を継いだ私達夫婦のみです。もし母上がエヴァンス侯爵子息夫人と会えば、マディソンの事を助けろだの何だのと言うに決まってます。これ以上家の恥を晒さないように、父上は母上を部屋に閉じ込めた上で、きちんと見張っていて下さい」
そんな事を言ってウォール邸を出たヘンリーの耳に『母親が来ている』と言われたら、普段あまり表情を出さない貴族でも、苦虫を噛み潰したような顔にもなるだろう。
「……何をやっているんだ?父上は……」
思わず父親に対して、恨み言を口にするのも仕方の無い事だ。
因みにそんな父親は今頃、閉じ込めていた筈の妻と、ウォール家所有の馬車が姿を消している事に漸く気付き、顔を青ざめさせていたりする。
「大変申し訳有りませんが、大至急ウォール邸に居る前当主に連絡を入れて、迎えに来させたいので、少々時間を頂けないでしょうか?勿論、母の理不尽な要求は、無視して下さって結構です。弟が罪人になった事がショックで病んだ憐れな病人なので、病人の戯言と聞き流して頂けると有り難いのですが」
ヘンリーは母親を咄嗟に精神異常の病人に仕立て上げたが、代々国の中枢を担う事でも有名な上位貴族に、田舎の領地経営に四苦八苦するような辺境の貴族が楯突こうとしてる時点で、頭がイカれているのではないかと疑われても仕方が無いだろう。
「ああ、それはさぞ大変でしょうね。連絡はこちらの方で……と言いたい所ですが、ここはネイルの邸だから、連絡はネイルに任せましょう。ただ、前伯爵夫人は私の妻に会わせろと押し掛けて来ているそうだから、騒がれたままでは迷惑になるし、話ぐらいは聞こうと思います。ネイル、夫人をこの部屋に連れてきてくれないか?」
「その方が良いだろうな。勿論夫人との話し合いには私も立ち会わせて貰う」
ネイルは対応待ちの執事に前ウォール伯爵夫人をここに連れて来るように言い、ジーンはアシュリーに声を掛ける。
「私が対応するから、アーシュは席を外していても構わないよ?」
「いいえ、わたくしもこちらに居ますわ。元はと言えばゴート家とウォール家の問題なのに、ジーン様に丸投げするのは間違っていますもの」
決意を秘めた瞳でジーンを見返すアシュリーに、ジーンは優しい笑みを浮かべる。
「私としては、丸投げされても構わないのだけどね。まぁ、何を言って来ようが、相手は病人なのだから、耳を貸さなくても良いよ。アーシュは被害者だし、悪いのはあんな息子に育てた親にも責任が有るから。謝罪に来ただけなら赦せるけど、そうでは無いのなら、早目にお帰り頂こう」
ジーンの笑顔での有無を言わせぬ威圧に、ヘンリーは格の違いを見せ付けられたような気になった。
1
お気に入りに追加
9,266
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
継母の品格 〜 行き遅れ令嬢は、辺境伯と愛娘に溺愛される 〜
出口もぐら
恋愛
【短編】巷で流行りの婚約破棄。
令嬢リリーも例外ではなかった。家柄、剣と共に生きる彼女は「女性らしさ」に欠けるという理由から、婚約破棄を突き付けられる。
彼女の手は研鑽の証でもある、肉刺や擦り傷がある。それを隠すため、いつもレースの手袋をしている。別にそれを恥じたこともなければ、婚約破棄を悲しむほど脆弱ではない。
「行き遅れた令嬢」こればかりはどうしようもない、と諦めていた。
しかし、そこへ辺境伯から婚約の申し出が――。その辺境伯には娘がいた。
「分かりましたわ!これは契約結婚!この小さなお姫様を私にお守りするようにと仰せですのね」
少しばかり天然、快活令嬢の継母ライフ。
■この作品は「小説家になろう」にも投稿しています。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる