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後日談

12 (ヘンリー視点)

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 ヘンリーが妻と共に、元ゴート領であるグリマード領を訪れると、その景色の変わり様に内心驚く。

 ヘンリーがこの地に足を運ぶ事は稀だったが、それでもこの近辺の領地で、植物が生い茂っている事は無く、どこの領地も皆、似たり寄ったりの土地だった筈だ。

(そう言えば、グリマード伯爵は、王都でも有名な植物学者だと噂されていたな。それにしても、たった三年でこれ程までの成果を出すとは……)

 この辺の領主は、過去に一度は必ず領地の土壌改良に手を出してはいるが、成果が出た土地はない。

 継続しているか諦めたかまでは、その土地の領主によって違うだろうが、どこも似たり寄ったりでしか無く、当然ヘンリーの領地でも、作物の育ちはそれ程良くない。

 そんな地方の領主に、植物学者が着任し、たった数年で成果を出しているのだ。

 しかも、平民から成り上がった者では無く、由緒有る侯爵家の子息だと言うから驚きだ。

 ネイルがここの領主に着任して直ぐの頃、夜会に不参加ばかりなネイル夫妻に対し、『植物学者と言うなら元は平民だろう?平民が伯爵位を貰っただけでも文不相応だと言うのに、夜会に出る事も無く、挨拶もしないとは』と、夜会で嘲っていた者が居たそうだが、それを聞いた王都の貴族に詳しい子爵子息と侯爵子息が、『グリマード伯爵は嫡男では無いものの、グリマード侯爵の子息で、あの・・エヴァンス侯爵子息と親しい間柄ですよ』『数年前の貴族名鑑だと、グリマード侯爵の欄に彼の名が載っている。侯爵子息を平民と勘違いした挙げ句、陛下の覚え目出度い植物学者を批判するなんて、馬鹿にも程が有る』と蔑み返していたらしい。

 ちゃんとした裏取りを取らないと、マディソン達のような目に遭う事も有る、と言った教訓を、三年前にこちらに来ていたジーンから学んだ筈なのに、浅はかな……とヘンリーは呆れるばかりだ。

 それに、喩えネイルが平民だったとしても、既に伯爵位を国王陛下から賜って居るのだから、伯爵に変わりは無い。

 因みに、この辺りの貴族の爵位の殆どは伯爵位以下だ。

 詰まり、植物学者としてネイルに仕事を依頼しても、その仕事を受諾するかはネイルの心持ち次第。

 断られたから権力で、と言う訳にはいかない。

 そんなグリマード家からすればヘンリーの家は、友人の妻になった女性を蔑ろにした挙げ句、家から追い出そうとした元婚約者の実家でしか無く、マイナスなイメージしか持てない事だろう。

(この地方に植物学者が来てくれたのは嬉しいが、経緯が経緯だから純粋に喜べないのが辛い所だな。アシュリー嬢……今では夫人だが、彼女には改めて愚弟のやらかした事に対する謝罪の言葉と祝福の言葉、誠意としての賠償金を含めた慰謝料を受け取って貰い、和解と言う名の赦しを貰わなくては)

 ヘンリーは馬車の中、隣で静かに寄り添う妻の手を、ソッと握った。
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