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後日談

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 一月半程掛けて、ゆっくりと移動し、元ゴート領へと入るアシュリー達。

 最初アシュリーは、そこが元ゴート領だとは気付かなかった。

 アシュリーの知る景色とは違い、あちこちで緑が生い茂っていたからだ。

 だが、よくよく見れば、山の形や道沿いから少し離れた場所に有る家、川に架かる橋には見覚えが有る。


「ここは……」

「どこだと思う?」


 アシュリーの呟きに、ジーンが優しい眼差しと顔で聞いて来るので、アシュリーは戸惑いと期待を浮かべた、泣きそうな表情で答える。


「ゴート領……元、ゴート領、ですか?」

「正解。さすが、自領を愛していたアーシュだな。緑が増えて、景色が変わっている筈なのに、街や邸に着く前に気付いてしまうのだから」


 ジーンのその言葉に、やっぱりと言う気持ちと、懐かしさが込み上げ、瞳が潤む。


「アーシュの故郷に植物が根付いている所を、アーシュ自身に見せたかったんだ。ネイルも、この土地に植物がちゃんと育っている所を、アーシュに見せたいと言っていたしね。試験的に植えた幾つかの作物から、既に収穫も出来たと報告が入っているよ」

「こんなにも植物が……」


 アシュリーの知るゴート領は、作物を植えても育たない事が多く、育ったとしても収穫量は少ない。

 畜産も、餌になる草がそれ程生えていない為、多くを育てる事は出来ない。

 大昔は鉱物資源が有ったが、今はもう尽きていて、殆ど取れない。

 因みに、アシュリーの家に代々受け継いでいた家宝のブローチは、鉱物資源が盛んだった頃の物で、当時の国王陛下が初代ゴート家当主に、領地と共に贈った大粒の極上品だ。

 領地を賜りこの地を統べるも、その当時から、資源には限りが有るからと、歴代当主達が様々な対策をし、財政難に陥る事無く済んだが、あの父娘、特にサラがドレスや宝石を欲しがり買い漁り、破綻させていったのだ。

 せめて作物が安定的に取れればと、歴代ゴート家当主達が、少ない税収の中から、各地の苗や種を取り寄せたり、良いと言われる肥料を買い入れたりもしたが、成果は殆ど出なかった。

 あの父親は当然そんな事に興味は無く、そのお金すら私欲に使い、アシュリーが出来る事は、お金を使わずに出来る対策を考え続ける事ぐらいだった。

 それなのに今、馬車で横切るアシュリーの目の前には、所々に生い茂る緑が有る。

 歴代ゴート家当主達が、ずっと切望し、実現したがっていた光景が。

 ポロポロと、静かに涙を流すアシュリーの肩を、ジーンは優しく抱き寄せる。


「このまま街には寄らず、元ゴート邸へと向かうよ。今日から暫くは、元ゴート邸に泊めて貰える事になっているから、久々の再会を喜んでくれると嬉しいな」


 ネイルに再会したら、心の底から感謝を述べよう。

 アシュリーは涙を流しながらそう思っていたのだが、ジーンの言う再会に、ネイル夫妻以外の者達が含まれている事を、アシュリーはまだ知らなかった。
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