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後日談
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アレクシス夫妻が長蛇の列に挨拶へと向かい、暫く経った頃、一組の貴族がエドワルドの用意した特別席の方へと近付いて来る。
「ジルギリス殿、ジーン殿、お久し振りです。挨拶が遅れて申し訳ありません」
「ネイル君、久し振りだね。忙しい時期なのに、態々会いに来てくれて有難う」
「いえ、こちらも一度は挨拶をして置きたかったので、有り難かったです」
見た目は優男と言っても良い、アシュリーの元婚約者よりも格好良いと言える男性で、過去にそんな突拍子も無い事をしたようには見えないし、学者と言うにはかなり若い。
アシュリーが内心首を傾げていると、その男性とバッチリと目が合ってしまい、向こうから話し掛けて来た。
「君が噂のジーン殿の花嫁だね?初めまして、私はネイル=グリマードと申します。以後お見知り置きを」
「初めまして、わたくしアシュリー=セイルと申します。こちらこそ、以後お見知り置きをお願い致します」
アシュリーはネイルと名乗った男性の名前に、何か引っ掛かりを覚えた。
(……?ネイル=グリマード、ネイル=グリマード……?どこかで見た、よ、うな……)
頭の中で思考を巡らせていると、ふと、エヴァンス家の図書室が思い浮かび、その中に置かれていた本を思い出した。
「『肥沃な土壌で無くても育つ食物』と言う題の本を、エヴァンス家の図書室で見た事が有ります。その著者が、ネイル=グリマードと言う方でした。わたくし、ゴート領にいた時にこの本と出会っていたならば、その食物となる植物を取り寄せて、試してみたかったと思った事が有ります。ゴート領は植物の育ちが悪い土地でしたので、もう少し収穫量が増えれば、領民達も豊かになるのにと、歴代ゴート家の血を継ぐ当主が気に掛けていた事なのです」
エヴァンス家の図書室でその本を見付けた時、アシュリーは故郷に思いを馳せはしたが、もうあの地に戻れない事は、アシュリー自身が充分理解していた。
アシュリーはもう、ゴート家の娘では無い。
あの地に役立つ本を見付けたとしても、どうしようもない事だった。
だから、手に取りはしたが、本を開く事は出来ずにそのまま元の場所に戻したのだ。
(まさか、あの時の本の著者に会えるだなんて……)
アシュリーは心の中で自嘲した時、ジーンがアシュリーに優しげな笑顔で伝える。
「だからこそ彼が適任だと思い、ゴート領だった領地の後任領主を彼にして欲しいと陛下に頼んだんだよ。彼は侯爵の次男だけど、植物の品種改良や土壌改良に力を入れていて、数々の功績を残してるから、伯爵位を授与される事になっているけれど、領地がまだ未定状態だったから、丁度良いなと思っていたんだ。彼も肥沃な土地よりも痩せた土地の方が研究のし甲斐が有ると言っていたし、彼となら元々交流が有るから、彼の領地に遊びに行く事も出来るしね。それに、継承する事や、住む事は出来ないけれど、アーシュにとっての故郷である事に変わりは無いし、そんな大切な場所を、どうでもいい相手に任せる事は出来ない。何より、アーシュの憂いを少しでも取り除くのは、他の誰でも無い、私の役目だと思っているからね」
ジーンの言葉が、アシュリーの心に強く響く。
「っっ!!……ジーン様っ!」
アシュリーは泣きそうになるのを必死で堪えながら、ジーンに選ばれて良かったと、心の奥底から思ったのだった。
「ジルギリス殿、ジーン殿、お久し振りです。挨拶が遅れて申し訳ありません」
「ネイル君、久し振りだね。忙しい時期なのに、態々会いに来てくれて有難う」
「いえ、こちらも一度は挨拶をして置きたかったので、有り難かったです」
見た目は優男と言っても良い、アシュリーの元婚約者よりも格好良いと言える男性で、過去にそんな突拍子も無い事をしたようには見えないし、学者と言うにはかなり若い。
アシュリーが内心首を傾げていると、その男性とバッチリと目が合ってしまい、向こうから話し掛けて来た。
「君が噂のジーン殿の花嫁だね?初めまして、私はネイル=グリマードと申します。以後お見知り置きを」
「初めまして、わたくしアシュリー=セイルと申します。こちらこそ、以後お見知り置きをお願い致します」
アシュリーはネイルと名乗った男性の名前に、何か引っ掛かりを覚えた。
(……?ネイル=グリマード、ネイル=グリマード……?どこかで見た、よ、うな……)
頭の中で思考を巡らせていると、ふと、エヴァンス家の図書室が思い浮かび、その中に置かれていた本を思い出した。
「『肥沃な土壌で無くても育つ食物』と言う題の本を、エヴァンス家の図書室で見た事が有ります。その著者が、ネイル=グリマードと言う方でした。わたくし、ゴート領にいた時にこの本と出会っていたならば、その食物となる植物を取り寄せて、試してみたかったと思った事が有ります。ゴート領は植物の育ちが悪い土地でしたので、もう少し収穫量が増えれば、領民達も豊かになるのにと、歴代ゴート家の血を継ぐ当主が気に掛けていた事なのです」
エヴァンス家の図書室でその本を見付けた時、アシュリーは故郷に思いを馳せはしたが、もうあの地に戻れない事は、アシュリー自身が充分理解していた。
アシュリーはもう、ゴート家の娘では無い。
あの地に役立つ本を見付けたとしても、どうしようもない事だった。
だから、手に取りはしたが、本を開く事は出来ずにそのまま元の場所に戻したのだ。
(まさか、あの時の本の著者に会えるだなんて……)
アシュリーは心の中で自嘲した時、ジーンがアシュリーに優しげな笑顔で伝える。
「だからこそ彼が適任だと思い、ゴート領だった領地の後任領主を彼にして欲しいと陛下に頼んだんだよ。彼は侯爵の次男だけど、植物の品種改良や土壌改良に力を入れていて、数々の功績を残してるから、伯爵位を授与される事になっているけれど、領地がまだ未定状態だったから、丁度良いなと思っていたんだ。彼も肥沃な土地よりも痩せた土地の方が研究のし甲斐が有ると言っていたし、彼となら元々交流が有るから、彼の領地に遊びに行く事も出来るしね。それに、継承する事や、住む事は出来ないけれど、アーシュにとっての故郷である事に変わりは無いし、そんな大切な場所を、どうでもいい相手に任せる事は出来ない。何より、アーシュの憂いを少しでも取り除くのは、他の誰でも無い、私の役目だと思っているからね」
ジーンの言葉が、アシュリーの心に強く響く。
「っっ!!……ジーン様っ!」
アシュリーは泣きそうになるのを必死で堪えながら、ジーンに選ばれて良かったと、心の奥底から思ったのだった。
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