氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

後日談

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　ジルギリスとリリーが家に到着して数日後に、セイル家の先代当主と現当主が、エヴァンス邸にやって来た。

　ただし、予定の時間よりも相当早くにだが。

　そして、アシュリーはセイル侯爵家の先代デュランと、現当主デューク夫妻、詰まりは義父と義兄夫妻が来ると聞き、朝からずっとソワソワし通しだった。

    セイル侯爵家は、海そとからの侵入を阻むディーランの守護家としても有名で、数々の伝記と共に、セイル家がモデルの戦記や冒険物といった本が多数出版されている為、その手の本が好きだった祖父の影響で、アシュリーもよく読んでいたのだ。

　アシュリーの本好きは祖父の影響だが、アシュリーが購入した本は殆ど無く、ゴート家に昔から有った物か、祖父の物が多く、アシュリーの実母が亡くなってからは、本を購入した事が無い。

　サラが本に興味を示さなかったので、本を取り上げられる事は無かったが、新しい本が欲しいと言っても、本は贅沢品だと聞き入れて貰えなかった。

　それ所か、邪魔になるから本を売れと言われる始末だったので、それ以降、本が欲しいと言わなくなったのだ。

(まさか、あの本のモデルとなったセイル家の養女になるなんて、全く思いもよりませんでした。お祖父様が知ったら、吃驚していた事でしょう)

　アシュリーはエヴァンス家に来てから、今まで見た事の無い本の量と、たっぷりとした時間が与えられ、知らない本を好きなだけ、沢山読める事がとても嬉しかった。

　実家に居た頃は、家の本を読み尽くし、同じ本を何度も読んでいたぐらいだ。

　その中で、セイル家がモデルとなった本は、アシュリーのお気に入りだったのだ。

　ジーンの両親との対面も緊張したが、セイル家の養父達との対面も緊張しない訳が無いのだ。

　そんな中、予定の時間よりも早くに来たセイル家の養父達に、アシュリーは少し、パニック状態だ。

(ななななっ、何を喋りましょうか?!セイル家がモデルとなった本の事？それとも、お祖父様がその本を愛読していた事かしら？そそそそ、それよりも先ずはご挨拶が先です!!第一印象が大事です！)


「あのっ、初めまして、わたくしアシュリーとーー」

「この子が私の娘になるアシュリーちゃんか!!でかしたジーン！ジーンの嫁なら、エヴァンス領でも会えるし、遠慮無く可愛がれるぞ！勿論セイル領にも案内してあげよう!!」


　デュランが抱き付きそうな勢いだった為、ジーンはアシュリーとの距離を離すために、間へと入るが、気にならなかったのか食い付き気味に捲し立てるデュランの後ろで、溜め息を吐きながらも、デュークが父親の肩を押さえて仲裁に入る。


「父上、人の挨拶の途中に言葉を被せるのは如何な物かと……。本当に済まないな。私はデューク＝セイルで現セイル家の当主だ。こちらは父のデュランで、君に会える事をとても楽しみにしていたので、大目に見てやってくれ。おめでとうジーン、アシュリー嬢。義妹になるのだから、嬢は要らないか？」

「はっ、はい。わたくしの事は、アーシュとお呼び下さい」


　セイル家は寡黙な人柄が多いと本で読んでいたので、多少戸惑いながらも、アシュリーはジーンの肩越しで返事をした。