上 下
632 / 805
後日談

34

しおりを挟む
 声を掛けるのはゴート家当主で有る自分の方が、侯爵子息の無礼にはならないだろうと、サラの父親が言い出し、ジーンがアシュリーを連れて広間の中央へと向かっている時に、急いでジーンに声を掛ける。


「初めましてエヴァンス侯爵子息殿。私はゴート家当主、ダミアン=ゴートと言います。まさか、家出した娘が貴方のような高位貴族にご迷惑をお掛けしているとは知らず、とんだご無礼を致しました」

「アシュリー嬢に迷惑を掛けられた覚えは無い。それに、彼女はもう、貴方の娘では無い筈だが?」


 ジーンの冷ややかな対応に若干ビビりながらも、自身を奮い立たせる。


「実の娘で有る事に変わり有りません。昔からその娘は令嬢らしく無く、本ばかりを相手にしていたので、茶会も夜会も出たがらない娘でして……。侯爵夫人になんてなれるような娘では有りませんので、どうぞお考え直し下さい」


 実は、地雷を踏み抜いてると言う事に、ダミアンはこれっぽっちも気付いていない。

 何せその言葉は、ジーンの最愛の妹で有る、リラにも当て嵌まるのだから。


「私の実の妹も本が好きで、茶会や夜会には必要最低限しか出ていませんが、今では公爵夫人としてちゃんと暮らしていますよ。貴方の言い分では、私の妹も公爵夫人として全く相応しく無いと言っている事になりますが?」


 絶対零度の底冷えする眼差しで、ジーンはダミアンを見詰め、問い返す。


「いっ、いえっ!そのような事は!!この娘は、男の仕事をしたがったり、しゃしゃり出てくるので、エヴァンス侯爵子息殿の妹とは大いに違いますよ!」


 墓穴を掘り続けるダミアンに、ジーンの冷気は増すばかり。


「私の妹も、私の仕事を手伝ってくれたりしていましたよ。そもそも女性だからと、仕事が出来るのにさせないなんて、宝の持ち腐れでは?ああ、貴方の場合は違いましたね。昔からアシュリー嬢や亡き奥方に、仕事の殆どを任せてられたのですから」

「だっ……誰がそのような事を?!」


 顔を青くしていたダミアンだが、今度は怒りで徐々に顔を赤く染め上げ、アシュリーを睨み付けるので、ジーンがアシュリーを然り気無く背に隠し、お前もかと言う顔と態度でアシュリーの父親で有るダミアンを見下げる。


「誰も何も、王都に届いていた過去の書類を見れば、その筆跡が貴方の物で無い事も判りますよ。本来当主が書くべき書類なのに、女性の筆跡で書かれていれば、当主では無いと気付くのが当然でしょう。それとも当主の貴方が書かれていたと仰るのですか?それならそれで、筆跡を鑑定しても構いませんよ。ちゃんと王宮から貸し出し許可を取り、持ってきていますから。因みに、ここ数年はずっとアシュリー嬢の筆跡だと、アシュリー嬢には無許可で確認させて頂きました。先に知れば、貴方のような愚かな父親でも、アシュリー嬢は庇い兼ねませんからね」


 ジーンの言葉の数々に、マディソンの脳内は到底処理が追い付かず、アシュリーに謝る所か、話し掛ける事すら出来ない状況に陥ったのだった。
しおりを挟む
感想 2,440

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

私、女王にならなくてもいいの?

gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

「きみは強いからひとりでも平気だよね」と婚約破棄された令嬢、本当に強かったのでモンスターを倒して生きています

猫屋ちゃき
恋愛
 侯爵令嬢イリメルは、ある日婚約者であるエーリクに「きみは強いからひとりでも平気だよね?」と婚約破棄される。彼は、平民のレーナとの真実の愛に目覚めてしまったのだという。  ショックを受けたイリメルは、強さとは何かについて考えた。そして悩んだ末、己の強さを確かめるためにモンスター討伐の旅に出ることにした。  旅の最中、イリメルはディータという剣士の青年と出会う。  彼の助けによってピンチを脱したことで、共に冒険をすることになるのだが、強さを求めるためのイリメルの旅は、やがて国家の、世界の存亡を賭けた問題へと直結していくのだった。  婚約破棄から始まる(?)パワー系令嬢の冒険と恋の物語。

処理中です...